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『利用規約の作り方』で押さえる、ウェブサービス利用規約作成のツボ
ウェブサービス関係者の間で長年必携とされてきた『良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方』が、このたび【改訂新版】として大幅に加筆・改訂されました。
民法や個人情報保護法改正、CtoCサービス特有の問題への言及など、近年問題となる点を取り上げたうえで、利用規約を作成する上で必要となる知識を簡潔にわかりやすく、かつ網羅的に解説してくれる良書です。
利用規約作成時の留意点については、これまで当事務所ブログでも何度か取り上げていますが、今回は『良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方【改訂新版】』(以下単に【改訂新版】)が言及する利用規約作成のポイントを、当事務所ブログの過去記事とあわせて確認します。
本記事をご覧いただくことで「ウェブサービス利用規約作成のツボ」を掴む一助としていただけたら幸いです。
【12月6日(金)開催】民法改正に伴うウェブサービス利用規約作成&改訂のポイント ~2020年4月1日までにウェブサービス事業者が行うべき対策を3時間で解説~
Contents
ウェブサービスにおいてなぜ利用規約の作成が必須なのか
利用規約とは、サービス事業者とユーザー間における「サービス利用に関するルールブック」のこと。
ウェブサービスにおいて利用規約を定めなければ、以下のような不利益が起こりかねません。
▼事業者が負う損害賠償責任の上限額が青天井となるため、事業者は軽過失に基づくミスでも一撃で倒産するリスクを抱える
▼ユーザーが投稿したコンテンツを、事業者は全く利用することができない
▼ユーザーの不適切な投稿を、事業者の判断で削除することも困難
▼ユーザーが不適切な行動をした場合でも(有料アカウントを複数人で流用するなど)、利用停止や強制退会とすることも困難
【改訂新版】では利用規約の作成が必要となる理由のひとつとして「法律で定められたデフォルトルールが不利に働かないようにするため(P17)」と挙げています。
利用規約を定めなかった場合、法律の定めがユーザーとの関係にそのまま適用されます。たとえば民法では、債務不履行における損害賠償の範囲は原則として「通常生ずべき損害」とされていますが(民法416条1項)、「通常生ずべき範囲」に含まれる限り事業者が負う損害賠償額は無限定となります。
このように民法がそのまま適用されると事業者側としてはリスクが高すぎる場合があります。そこで「事業者に軽過失しかなかった場合、損害額は事業者がユーザーから受領したサービス料金額を限度とする」等と利用規約に定めることで、法律の定めを修正することができるわけです。
他社の利用規約をそのまま流用するのはリスクが大きい
「かといって自社で利用規約をいちから作成するのはハードルが高い」「だったら先行する類似サービスの利用規約をそのまま流用すればよいのでは」と考える方も多いかもしれません。
しかし個々のウェブサービスによってその内容やビジネスモデルは千差万別である以上、他社の利用規約をそのまま丸パクリできるケースは極めて限られるはずです。
他社の利用規約を丸パクリできるケースとは、他社のビジネスモデルと自社ビジネスモデルが全く同じという意味。
既に先行している他社のサービス(場合によっては自社より巨大な資金力を有する他社)と比べて、後発の自社が全く同じサービスを提供したところで果たして勝ち目があるのか、先行する他社よりも自社サービスが選ばれる理由があるのかを、まずは疑問に思うべきです。
なお他社の利用規約をほぼそのまま流用したケースで、当該利用規約の著作権侵害になるとした裁判例もあります(東京地裁平成26年7月30日・裁判所ウェブサイト)。
他社の利用規約をそのまま流用するのは、ビジネス的にも法律的にもリスクが高い行為であると言わざるを得ません。
「攻めすぎた利用規約」で炎上するパターンとは
このように、自社サービスを守るために利用規約の作成は必須ですが、かと言ってその内容を攻めすぎると、かえって炎上を招きます。
利用規約を攻めすぎて炎上するパターンは、大きく分けて
1 消費者契約法等の強行法規に反した場合
2 法律違反ではないが、事業者に有利な内容すぎて、ユーザーの反発を招いた場合
のいずれかです。
【改訂新版】は炎上の原因になる典型例として
・UGCの著作権の帰属
・個人情報の利用目的及び第三者提供
・損害賠償責任の免責
を挙げています。
利用規約の炎上の原因になるパターンは概ね決まっており、UGCの著作権の帰属、個人情報の利用目的及び第三者提供、損害賠償責任の免責といった規定の条件の定め方には特に注意が必要です。ー【改訂新版】P165
UGCの著作権の帰属
ユーザーが生成し投稿したコンテンツ(UGC=User Generated Contents)の著作権が原因で炎上した例としては、ユニクロがTシャツ作成サービス「UTme!(ユーティーミー)」において、ユーザーの投稿したTシャツデザインデータの著作権はすべて同社に譲渡するものとした件や、テレビ局の動画投稿サイトにおいて、ユーザーによりテレビ局に使用許諾された投稿データによりテレビ局が損害を負った場合はユーザーはその損害を賠償する等と定めていた件などがあり、いずれも当事務所の過去記事で取り上げています。
(過去記事)ウェブ利用規約のせいで起きる炎上を防ぐためにこれだけは知っておこう(1)
(過去記事)ウェブ利用規約のせいで起きる炎上を防ぐためにこれだけは知っておこう(2)
損害賠償責任の免責
自社が損害賠償責任を負う場合に、その条件(故意または重過失があった場合のみ等)や上限額を定める「免責規定」の重要性については、これまで当事務所の過去記事でも指摘してきたとおりです。
また「利用者に生じた損害について、事業者は一切責任を負わない」など、自社に過度に有利な免責規定を定めた場合は、消費者契約法等に違反し、無効になる可能性もあります。この点も当事務所過去記事において何度か触れてきました。
(過去記事)コインチェックの「当社は賠償責任を一切負わない」と定める利用規約は有効なのか
(過去記事)Zaifが70億円をハッキングされる前日に行っていた利用規約の変更は有効なのか
(過去記事)ファーストサーバ社のレンタルサーバ「Zenlogic」で大規模障害。利用者は返金や損害賠償を請求できるのか
CtoCサービスにおける資金決済法の罠
ユーザー間で取引を行うCtoCサービスにおいては、売買代金の支払いスキームが為替取引に該当すれば、資金決済法上の資金移動業者として厳格な規制に服することになります。
またポイントサービスを導入する場合、ポイントが資金決済法上の前払式支払手段に該当すれば、供託義務や届出義務等が生じる可能性があるため、こちらも慎重な設計が必要となります。
【改訂新版】でも2章を割いて解説がなされています(ポイントの有効活用~資金決済法の前払式支払手段の規制~(P119)、CtoCサービスにおけるプラットフォーム運営の落とし穴(P124))。
近年のCtoCサービスでは、メルカリなどのフリマアプリ、Showroomなどのライブ配信アプリ、ユーザー生成コンテンツ(UGC)に対する投げ銭アプリが目立つようになっていますが、いずれも資金決済法上の手当てを慎重に行ったうえでビジネスモデルと支払いスキームを構築する必要があります(以下の過去記事ご参照)。
(過去記事)SHOWROOMに学ぶ、資金決済法に抵触しない投げ銭サービスの作り方
(過去記事)メルカリ事例で学ぶ、CtoCサービスにおける資金決済法の罠
成年年齢の引き下げ(20歳→18歳)にも要注意
現在は20歳と定められている成年年齢が、民法改正により、2022年4月1日以降は18歳へと引き下げられます。サービスの利用対象者に未成年者を含む場合、未成年者取消リスク(法定代理人の同意がない場合、未成年者は取引を取り消すことができる)があるため、サービス事業者側は年齢確認スキームや課金上限額を設ける等の対策が必要になってきます。
利用規約で「20歳未満の未成年者」と年齢を直接記載しているパターンの場合、改正法の施行後は本文自体を「20歳→18歳」と改訂する必要があるため、注意を要します。
この対策として【改訂新版】は「年齢を記載せずに『未成年者』とだけ規定する方法が有効でしょう」(P138)と提案しています。
これを更に進めて、利用規約における未成年者ユーザーの定義について「2022年3月31日までは20歳未満の方、2022年4月1日以降は18歳未満の方」とまで明記すると、ユーザーは自身が未成年者に該当するかどうかをより判断し易くなるといえそうです。
「読みやすい」「分かりやすい」利用規約のリスク
利用規約はウェブサービスのルールブックである以上、法的な要件・効果を意識して作成する必要があります。法的な正確性を重視すればどうしても難解な用語を一部用いざるを得ず「分かりにくい」規約となる一方で、平易な用語で構成された「分かりやすい」規約とした場合、法的解釈の余地が生まれ、ルールブックとしての役割が不十分となるリスクがある点を【改訂新版】は指摘します(P165)。
法的な正確性が担保されており、かつ読みやすさも両立させる利用規約を作成するのは、相当なセンスと日本語スキルを要する作業となります。そこで利用規約とは別にFAQ等を設け、分かりやすさはFAQ等に任せて利用規約は法的正確性に徹するのが、利用規約作成の定石となっています。とはいえ作成担当者としては、法的正確性と分かりやすさのいずれも両立する利用規約を目指す意識は忘れないようにしたいものです。
法律専門家、サービス事業者双方にとって有益な良書
本書を一読すれば、利用規約作成時に押さえるべきポイントをひととおり押さえられるので、弁護士等の専門家のみならず、サービス事業者も手にとっておくべき良書といえます。
サービス事業者は、サービス本体の構築に専念するために、利用規約等の作成はすべて弁護士等に依頼する場合も少なくありません。
しかしながら、作成された利用規約が真に自社サービスに適合しているかどうかは、結局のところ、サービス事業者自身が判断することになります。
作成された利用規約が自社に適切な内容かを判断する「目を養う」意味でも、サービス事業者にとって本書の通読は有益なものと考えます(弁護士杉浦健二)
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【12月6日(金)開催】民法改正に伴うウェブサービス利用規約作成&改訂のポイント ~2020年4月1日までにウェブサービス事業者が行うべき対策を3時間で解説~