コンテンツを無料で適法に利用できる3つのパターン(2)著作権法の例外規定
前回に引き続き、ビジネスのヒントになる「コンテンツを無料で適法に利用できる3つのパターン」について紹介をしていきたいと思います。
「コンテンツを無料で適法に利用できる3つのパターン」とは以下の3つでした。
- CCライセンスを使いこなす
- 著作権法の例外規定を使う
- 保護期間が満了しているコンテンツを利用する
前回の記事では「1 CCライセンスを使いこなす」を紹介しましたので、今回は「2 著作権法の例外規定を使う」です。
著作権法には「著作権の制限」(30条~50条)という部分がありまして、「こういう使い方であれば著作権者の了解なく使うことができますよ」という著作権制度の例外規定が定められています。
ここですべて紹介すると、おそらく(私も含め)全員が脱落すると思うので、ビジネスでよく使われるパターンに限定して紹介しましょう。
具体的には
- 「私的使用のための複製」(30条)
- 「引用」(32条)
です。
Contents
■ 「私的使用のための複製」(30条)
私的利用目的であれば著作物は自由に使ってよい、というのはおそらくほとんどの人が知っていると思います。
これを利用したビジネスモデルが、「個々のユーザー単位で見れば私的利用目的の複製行為を、事業者がサポートするサービス」です。
▼ ドロップボックス、グーグルドライブはセーフ
たとえば、ロッカー型クラウドサービスです。
これは、クラウド上のサーバー(「ロッカー」)に保存されるコンテンツを,利用者が自らの様々な携帯端末等においてダウンロード又はストリーミングできるようにするサービスのことで、ドロップボックス、グーグルドライブなどが該当します。
このロッカー型クラウドサービスについては、文化審議会著作権分科会の「著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会」でその適法性が検討されていますが、以下の4つのパターンに分類できると言われています。
この4つのパターンは2つの切り口で分類されていまして、左側の視点1は,「1人の利用者のみがそのコンテンツにアクセス可能か(プライベート型)、多数の利用者がコンテンツにアクセス可能か(共有型)」です。
上側の視点2は、「コンテンツを事業者自らが用意するか(配信型)、コンテンツを利用者が用意するか(ユーザーアップロード型)」です。
この4つのパターンのうち「パターン2(プライベート型×ユーザーアップロード型」については、権利者の承諾なく自由に事業者が提供できるということになっています(逆に言うとパターン1,3,4はいずれも権利者の承諾(=権利者と事業者の契約)がなければ違法になります)。
この「パターン2」は、先ほどの図には「マイキャビ」などがあげられていますが、たとえばドロップボックスやグーグルドライブといったものもこれに該当します。
で、結論的にはこの「パターン2」、言い換えると「自分がアップロードしたコンテンツに自分だけがアクセスできるようにする」クラウドサービスは適法だということをまず押さえてください。
▼ 自炊代行ビジネスはアウト
逆に、たとえば自炊代行ビジネスについてはアウトとされています。
これは、一人暮らしの学生さん向けに自炊を代わりにやってくれるサービス、ではなく、自分が持っている書籍や雑誌をスキャナーなどでデジタルデータ化する行為(「自炊」)を代わりにやってくれるサービスのことです。
事業者が関与せず、個人が、自分の便宜のために自分の持っている本を自らスキャンして電子データ化する自炊行為は、問題なく私的使用目的の複製として適法です。
であれば、そのユーザーの行為をサポートするようなサービスも当然適法なのではないか、というのがこのビジネスの出発点です。
適法な行為をユーザーの手足としてサポートするだけだから、当然当該サポート行為も適法でしょう、ということです。
で、実際に自炊代行ビジネスは一時期非常に流行ったのですが、作家や出版社側からは、「実質的には業者が複製主体であって違法である」という声が根強くありました。
そこで、東野圭吾さん、浅田次郎さん、弘兼憲史さんら著名作家・漫画家が2012年11月27日に、スキャン代行業者7社を東京地方裁判所に提訴し、2013年9月30日「自炊」代行は違法であるとの判決が下りました。
業者側は控訴しましたが、2014年10月22日に知的財産高等裁判所は「業者側が事業主体として複製行為を行っており私的複製と解釈することはできない」として控訴を棄却しています(判決全文はこちら)。
▼ 両者を分けたポイントは「利用(複製)主体が誰か」
「ドロップボックスやグーグルドライブはセーフ」で「自炊代行ビジネスはアウト」と結論が分かれているのはなぜなのでしょうか。
どちらも「個人がやったら私的利用目的でセーフな行為を事業者が手助けしている」という点では共通のはずですよね。
結論が分かれるポイントは、「当該サービスにおいて利用(複製)主体が誰か」ということです。
・ 著作物の利用(複製)主体がユーザー→利用行為は「私的使用目的の範囲内」であり適法
・ 著作物の利用(複製)主体が事業者→利用行為は「私的使用目的の範囲外」であり違法
ということなのです。
そして、著作権法上、複製の主体は一律に定められるものではなく、複製の対象、複製の方法、複製の関与の程度といった様々な事情をもとに判断されることになっています。
・ ドロップボックスやグーグルドライブはいわばワイヤレスのHDDのようなもので事業者は積極的な行為を行っていない
→著作物の利用(複製)主体がユーザーと評価できるので適法
・ 自炊代行ビジネスは「裁断した書籍をスキャナーで読み込み電子化する」行為を事業者自身が行っている
→著作物の利用(複製)主体が事業者と評価できるので違法
ということです。
このように、個々のユーザ-の行為が私的複製として適法だとしても、事業者の関与度合いによっては違法なサービスとなってしまう可能性があるので、その点は十分注意をする必要があります。
ちなみに、先ほどの文化審議会著作権分科会の「著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会」では、ロッカー型クラウドサービス以外の以下のようなクラウドサービスについても検討の対象となっています。
しかし、結論的にはいずれのサービスも、「著作権者の許諾が必要、つまり事業者が著作権者の許諾なしに行った場合は違法」という見解が示されています(この見解には批判もかなりあるところですが)。
■ 「引用」(32条)
次に「引用」(32条)です。
著作権法の規定の中で、誤解されているケースがかなり多いのがこの「引用」です。
たとえば「引用する場合にも、必ず著作権者の許可がいる」も「『参考文献』とだけ書いておけば自由に引用できる」も、いずれも間違いです。
「著作権法上の引用の要件を満たせば、著作権者の許可なく著作物を利用することができる」
というのが正解です。
今は下火になりましたが、一時期話題になったのがバイラルメディアです。
「パクリだ」「いや、パクリじゃない」と論争になりましたが、要は著作権法上の「引用」に該当するかどうかだけです。
これまでの判例などを総合して考えると,公表されている著作物について,おおよそ以下の要件を満たしたものは「引用」としてセーフと思われます。
1 引用先と引用元の明瞭区分
2 引用元(自分の記事)がメインで,引用先がサブ(主従関係)
3 引用の必然性がある
4 改変しない
5 出典を明記する
▼ 引用先と引用元の明瞭区分
当たり前ですね。
どこまでが引用先で,どこからが引用元なのかはっきりしないとダメです。
方法としては,たとえばカッコでくくるとか,フォントを変えるとか,いろいろな方法がありますが,要は区別がつけばよいです。
▼ 引用元(自分の記事)がメインで,引用先がサブ(主従関係)
たとえば,自社記事が全くなく,引用先の記事だけを掲載している場合はダメです。
裁判例で問題になったのは,「中田英寿事件」です。
これは,当時イタリアのプロサッカーリーグのセリエ Aに所属するチームで活躍している中田英寿選手について、その出生からワールドカップ・フランス大会の本大会出場直前までの半生をまとめた本が問題になった事件です。
この本の製作については,中田氏に対する取材や確認は一切行われていません。
引用が問題になったのは何かと言いますと,この本では中田氏の中学時代の詩を丸ごとコピーしていたのですよね。
で,中田氏側はこの行為は著作権侵害だ,と訴えたわけです(この裁判の争点はここだけではありませんが)。
出版社側は「これは「引用」だから侵害ではない」と反論したのですが,裁判所は「引用」の成立を認めませんでした。
というのは,この本では,中田氏の中学時代の詩を丸ごとコピーしたものの下に「中学の文集で中田が書いた詩。強い信念を感じさせる。」とコメントしたにすぎなかったのです。
これは,どう考えても引用先(中田氏の詩)がメインで,引用元(コメント)が従です。つまり主従関係を満たしませんよね。バイラルメディアの中には,そもそも自分の記事が全くないものがありますが、そのような記事は、この「主従関係」を満たさないことになります。
▼ 引用の必然性がある
あくまで「引用」という以上,引用先記事に対する賛意でも批判でもいいのですが,自分の言いたいことが何かなければいけない,ということです。
それが何もなく,単に「面白いネタ見つけました~」と言って記事を丸ごとコピーするのはダメです。
▼ 改変しない
引用に際しては,引用先の文章を改変してはいけません。正確に引用する必要があります。
▼ 出典を明記する
最後に,出典を明記することが必要です。
具体的には「利用する著作物に接着して,わかりやすく」表示することが必要とされています。
したがって,一部のバイラルメディアのように,記事の末尾に,ちぃさーく引用元URLを記載するという方法では,この出所明示義務を果たしているとは言えない,ということになります。
▼ まとめ
このような「引用」のルールをきちんと守りさえすれば、ビジネスにおいても他人の著作物を利用してもかまわないということになります。
そのため、特にメディア系のビジネスにおいては、この「引用」をきちんと使いこなせるかどうかが、違法・炎上サービスになるか、魅力的なサービスになるかの分かれ目になるのように思います。
■ まとめ
・ 「ユーザーの私的利用」をサポートするサービスの場合、権利者の許諾なしに事業化できる可能性があるが、慎重な判断が必要。
・ 著作権法上の「引用」をきちんと使いこなすことで、権利者の許諾なしに魅力的なサービスを構築できる可能性がある。