利用規約における免責規定は会社を救う
WEB系ベンチャーであれば必ず定めているのが「利用規約」。
利用規約の中には通常「ユーザーに損害が生じた場合でも当社は責任を負いません」という免責規定が定められています。
この免責規定は、万が一の時に会社を救う効果を発揮する頼りになる奴なのですが、その一方で、規定の仕方によっては無効になってしまうことがあります。
免責規定の重要性と脆さの両方を知っておくことはとても大事なことです。
今回は
・ 免責規定が会社を救った実例を知る
・ 免責規定が無効になる場合があることを知る
・ 免責規定は具体的にどのように定めればよいのかを知る
をお送りします。
Contents
■ 免責規定が会社を救ったファーストサーバー事件
2012年6月にレンタルサーバ事業者であるファーストサーバが運営するサービスで大規模な障害が発生し、データが消失するという事故が発生しました。
障害が生じたサービスの利用者は5000件以上に及ぶとされています。
【参考記事】
ファーストサーバ障害、深刻化する大規模「データ消失」
この事件によってデータが消失し、多大な損害を被ったユーザーも多数いたのですが、結局裁判でファーストサーバが多額の賠償を命じられたという話は全く聞きません。
むしろファーストサーバの免責規定が有効に機能したので賠償額は非常に低額に抑えられたようでして、現にファーストサーバは今も倒産することなくサービス提供を継続しています。
ファーストサーバを救ったのは、利用規約中の免責規定でした。
具体的にはこのような規定です。
第35条(免責)
(略)
6 当社は、本サービスに関連して生じた契約者及び第三者の結果的損害、付随的損害、逸失利益等の間接損害について、それらの予見または予見可能性の有無にかかわらず一切の責任を負いません。
(略)
8 本条第2項から6項の規定は、当社に故意または重過失が損する場合または契約者が消費者契約法上の消費者に該当する場合には適用しません。
第36条(損害賠償額の制限)
本サービスの利用に関し当社が損害賠償責任を負う場合、契約者が当社に本サービスの対価として支払った総額を限度額として賠償責任を負うものとします。
この免責規定がなければ、ファーストサーバの負う損害賠償責任は莫大なものとなり、場合によっては同社は倒産したかもしれません。
このように、免責規定の重要性は、強調してもしきれないほどですが、その一方で、実は「免責規定は規定の仕方によっては無効になることもある」ということをご存じでしょうか。
■ 免責規定が無効になることがある
視点としては
1 どのような場合に(故意・重過失・軽過失)
2 どのような責任を負うか
です。
ややこしいので、図で把握したほうがよいと思います。
まず、免責規定がない場合、サービス提供事業者はユーザーに対してどのような責任を負うかを図示してみます。
これです。
赤の部分が事業者が責任を負う範囲です。
まず、もちろん「過失なし」の場合は何の責任を負いません。
しかし「過失あり」(軽過失・重過失)と「故意あり」の場合は法律どおりの責任、つまり「債務不履行と因果関係のあるすべての損害」について賠償する責任を負うことになります。
そこで、事業者としては責任を軽減するために利用規約において免責規定を設けるわけです。
たとえば、「軽過失の場合には一切の責任を負わない」とする規定。
あるいは、「過失あり」(軽過失・重過失)「故意あり」どちらも責任を負うが、責任の範囲を一定限度に制限する(たとえば月額使用料1か月分に制限する)とする規定。
あるいは、どんな場合でも何の責任も負わない(完全免責規定)、とする規定を設けるかもしれません。
▼ 完全免責規定は無効
このうち「どんな場合でも何の責任も負わない、とする規定はいくらなんでもやりすぎではないか」と思う方が多いでしょう。
その感覚は大事で、「どんな場合でも何の責任も負わない、とする規定」(完全免責規定)は、BtoBだろうがBtoCだろうが無効とされています。
▼ BtoBの場合
次に、BtoBの場合。
この場合は、まず「軽過失の場合は全部免責する」という規定は有効とする裁判例が複数あります。ですので、一応それはOK。
次に「故意重過失ある場合」に責任を一部免責し、たとえば「月額使用料1か月分に制限する」と定める規定が有効かどうか。
これについては裁判例も分かれておりグレーです(たとえば東京地裁平成26年1月23日判決は、重過失がある場合には責任は限定されないとしています)。
ただし、この点については決着がついていないことから責任限定規定を置いているサービスもかなりあります。
先ほどのファーストサーバの免責規定も「故意重過失ある場合には責任を負うが、ユーザーが本サービスの対価として支払った額を限度とする」としており、このパターンですね。
▼ BtoCの場合
BtoCの場合は消費者契約法が適用され、以下の2点が明確に同法で規定されています。
1 事業者の損害賠償責任の全部を免除する規定は無効(消費者契約法8条1項1号・3号)。
2 事業者に故意・重過失がある場合には、責任の一部限定規定も無効(同法8条1項2号・4号)
1 事業者の損害賠償責任の全部を免除する規定は無効(消費者契約法8条1項1号・3号)。
これは軽過失の場合であっても、全部を免責するという規定はダメということです。
2 事業者に故意・重過失がある場合には、責任の一部限定規定も無効(同法8条1項2号・4号)
これは文字通りでして、故意・重過失ある場合は免責規定は無効になり、法律どおりの責任を負うということですね。
したがって、必然的にこのように「軽過失の場合のみ責任を一部制限する」という範囲でしか免責できません。
■ 免責規定は具体的にどのように定めればよいのかを知る
以上を踏まえて、具体的な条項例を見ていきましょう。
さきほどのファーストサーバの免責規定です。
第35条(免責)
(略)
6 当社は、本サービスに関連して生じた契約者及び第三者の結果的損害、付随的損害、逸失利益等の間接損害について、それらの予見または予見可能性の有無にかかわらず一切の責任を負いません。
(略)
8 本条第2項から6項の規定は、当社に故意または重過失が存する場合または契約者が消費者契約法上の消費者に該当する場合には適用しません。
第36条(損害賠償額の制限)
本サービスの利用に関し当社が損害賠償責任を負う場合、契約者が当社に本サービスの対価として支払った総額を限度額として賠償責任を負うものとします。
まず35条6項で事業者が責任を一切負わないことを原則としています。
ただ、先ほど言ったように、「故意・重過失がある場合」「消費者契約法が適用される場合」には、完全免責は認められませんので、そのような場合は35条8項で責任を負うことにしています。
そして36条で、仮に責任を負うとしてもその責任を限定する、ということを定めています。
この条項がBtoBの取引に適用された場合は、図で示すとこういうことになります。
故意重過失の場合に責任を限定している部分(オレンジの部分)は先ほども言ったように裁判例も分かれているので、ファーストサーバの条項では事業者有利に定めているということですね。
一方、BtoCの取引(消費者契約法が適用される場合)にこの条項が適用された場合はこちら。
BtoCの場合(消費者契約法が適用される場合)は、故意重過失の場合に事業者の責任を限定している部分(オレンジの部分)は、消費者契約法8条1項2号・4号に該当して無効となるため「グレー」というよりも「ブラック」です。
もっとも、実際には、このように免責規定を定めることにより、あきらめてしまうユーザーも多いかもしれません。
ここは企業の考え方が分かれるところですが、ファーストサーバとしてはこのような条項の方がユーザーのクレームを捌きやすいと思ったのかもしれませんね。
■ まとめ
▼ 免責規定は会社を救うこともあるが定め方を間違うと無効になることもある。
▼ どんな場合でも完全免責規定は確実に無効になる。
▼ BtoCとBtoBとで免責規定の定め方が違うので十分に注意する。
(弁護士柿沼太一)