トピックス/ TOPICS

  1. ホーム
  2. トピックス
  3. 「著作物でないもの」を押さえればビジネスチャンスを生み出せる|知的財産・IT・人工知能・ベンチャービ…
  • 法律顧問契約
  • ベンチャー企業法務
  • コンテンツビジネス法務(知的財産権、著作権)

「著作物でないもの」を押さえればビジネスチャンスを生み出せる

Opportunity Change Chance Choice Development Concept

Opportunity Change Chance Choice Development Concept

ベンチャー必読!15分でわかる著作権の基礎でも書きましたが、「著作物と著作物でないもの」の境界線を知っておくことは、新しいビジネスアイデアを思いつく際に極めて有益です。
著作権法では、著作物について「思想または感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と定義しています(2条1項2号)。
この定義からわかるように「思想または感情でないもの」「創作的でないもの」「表現されていないもの」「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属さないもの」はいずれも著作物ではありません。
著作物ではないもののうち、特にビジネスで活用されているのは「事実」「データ」「実用品のデザイン」「アイデア」「企画」です。


■著作物でないもの1「事実」

たとえば「平成27年3月、神戸市にSTORIA法律事務所が設立された」「1467年に応仁の乱が発生した」などという事実は著作物ではありません。
事実は著作権の定義にいう「思想または表現」にあたらないからですが、まあこれは当たり前ですね。事実に著作権があるとなれば,その事実について著作者の許諾無くして誰も利用できなくなってしまうからです。
ある事実を世界で初めて発見した人がいて、その事実にいかに希少価値があろうとも、事実そのものには著作権は認められません。
たとえば始祖鳥に羽毛があったかどうかはまだ確定的な見解がないようですが、ある探検家が、羽毛の保存状態が極めて良好な始祖鳥の化石を発見して、その結果「始祖鳥は鮮やかな羽毛で覆われていた」という新事実が判明したとします。この場合でも探検家は「始祖鳥は鮮やかな羽毛で覆われていた」という事実について「自分の許諾を得なければ小説化や映像化をしてはならない」とは言えないのです。

事実を具体的に表現したものなら著作物となる

もっとも事実そのものと、事実を具体的に表現したものとは異なります。たとえば探検家が「始祖鳥は僕、僕は始祖鳥」という題名のノンフィクションを出版したとします。
そのノンフィクションでは、幼い頃に恐竜図鑑を見て始祖鳥にあこがれたことや、生物学を志して大学進学を試みたが失敗したこと、そこから探検家に転じてついに始祖鳥の化石を発見して一躍時の人になったこと、その後の栄光と転落なんかが書いてあるでしょう。
そのようなノンフィクションであれば事実を超えて表現になっていますので、もちろん著作物にあたりますし著作権法で保護されるのです。

実際にノンフィクション作品を巡って事実と表現の境界線が争われた裁判例がいくつかあります。たとえば「ライブドア裁判傍聴記事件」(知財高裁平成20年7月17日 判時2011号137頁・判タ1274号246頁)では、裁判法廷の傍聴記について、事実を格別の評価、意見を入れることなくそのまま叙述する場合は、記述者の「思想又は感情」を表現したことにならないとしています。


■著作物でないもの2「データ」

単なるデータについても「思想または感情」ではない以上、著作物にはあたりません。よって他人が収集したデータを利用する場合にも、許諾を得ることは不要となります。
ただし、注意して欲しいことが2点あります。
ひとつは、データそのものは著作物ではありませんが、データを分析や統計処理して一定の表現を加えたもの(たとえばグラフや表、説明文章など)は著作物になることです。
もうひとつはデータを集積したいわゆる「データベース」は著作物であることです。
「データベース」とは「論文、数値、図形その他の情報の集合物であつて、それらの情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したもの」をいいます(著作権法2条1項10号の3)。もっとも世の中にある全てのデータベースが著作物であるというわけではなく、データベースのうち「その素材の選択又は配列によつて創作性を有するもの」でなければ著作物ではありません。
データベースの著作物性については住宅ローン金利の比較表が著作物にあたるかが争われた裁判例の解説ページをご覧ください。

「額に汗をかいた人」は保護すべき?

データそのものは著作物ではないとしても、データ収集や管理のために多額の費用や人手をかけていた場合、データが一切保護されない、誰がデータを使っても自由、というのは違和感があるかもしれません。
要するに「額に汗をかいてデータを集めた人」については保護すべきでないか、という問題意識です。
この点についても自動車データベース事件(東京地裁中間判決平成13年5月25日・判例タイムズ1081号267頁)という有名な裁判例があり別ページで紹介しています。


■著作物でないもの3「アイデア・企画」

アイデアや企画は著作物でしょうか。
たとえばテレビ番組制作会社が,他社の高視聴率番組を参考にして番組制作をしたいと思ったとします。他社の企画を参考にするだけで,出演者や撮影場所などは全てオリジナルのものにした場合、著作権法上なにか問題はあるでしょうか。

(1)「アイデア」と「表現」の違い

まずこの問題については著作権法においては「表現」は保護されるが「アイデア」は保護されないという大原則を押さえておく必要があります。著作権に関する大事な原則なので是非覚えてください。
詳しくはベンチャー必読!15分でわかる著作権の基礎をご覧頂きたいのですが、著作権法2条1号では著作物の定義を「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」としています。

つまり単なる「思想又は感情」(アイデア)ではなくそれが「創作的に表現」された場合に限って著作権法の保護の対象となるとされているのです。

(2)料理のレシピで考えてみる

料理のレシピで考えてみましょう。たとえばカツ丼。そもそもカツ丼はとても独創的なレシピだと思うのですが,このコンセプトを言葉で表すとすれば「トンカツとタマネギを甘辛いタレで煮立て,卵でとじてご飯の上に載せたもの。トンカツから美味しい油がしみ出た甘辛いたれを,とろとろの卵が包み込み,それをご飯がしっかり受け止めて,お腹がすいているときに思い出すといても立ってもいられなくなる」となります。
カツ丼を最初に思いついた人は間違いなく大偉人ですが、カツ丼のレシピ自体はあくまで「アイデア」であり「表現」ではありません。
さらにカツ丼の「アイデア」をもとにして無限のバリエーションが生まれてきますが(たとえばソースカツ丼)、これも「カツ丼」の複製権や翻案権を侵害したことにはなりません。
これに対して料理のレシピ本における具体的表現は「アイデア」をもとにした「表現」ですから、その表現を「そのまま複製」した場合には著作権侵害になります。
ただあくまで表現を「そのまま複製」した場合のみ問題になるのであって、たとえば手順が若干違うとか、使っている材料が少し違う、手順や材料は全く一緒でも表現の仕方が違う場合には著作権侵害とは言えません。
これもレシピは「アイデア」であって「表現」ではないからです。
ちなみに以前に私が見た例では、あるイタリアンシェフの本に載っていた「イタリア鍋」というレシピが、「鍋無双」(仮名)という鍋料理ばかりを集めたレシピ本に一言一句同じ表現で載っていました(写真まで同じでした)。
これは許諾をとっていなければ間違いなく著作権侵害になりますが、このように一言一句同じという極端なケースでなければ、著作権侵害とは言えないでしょう。

(3)番組の企画自体をマネしても著作権侵害とはならない

番組の企画で言えば、企画そのものは「アイデア」です。

たとえば「どっきりカメラ」という企画は「ターゲットに対して意図的に仕組まれたハプニングを起こし,慌てふためくターゲットの反応を楽しんだ上、最後にどっきりであることをばらしてその反応も見れて二度おいしい」というものです。この企画自体は「アイデア」ですから、企画をマネした「びっくりカメラ」「ズギュンとカメラ」のような企画で同じような番組を制作しても著作権侵害にはなりません。

したがって、テレビ制作会社が他社の企画自体を真似したとしても,原則として著作権侵害とはならないのです。
(4)著作物の境界線を押さえてビジネスチャンスを生む
以上のように、事実そのものやデータ、他人のアイデアや企画については著作物にはあたらず、そのまま使用したりマネしたりしても著作権侵害にはなりません(ただし場合により不正競争防止法などは問題になりえます)。著作物の境界線を知ることによって、新たなビジネスチャンスを生み出せる可能性は、まだまだ眠っていると言えるでしょう。