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【スタートアップ資本政策連載・第8回】はじめての資金調達とJ-KISS

アバター画像 田代 祐子

*本記事は「【連載】ストーリーを通じて学ぶスタートアップのための資本政策と資金調達手法」の第8回目の記事です。

ティープテックのスタートアップは、研究開発資金が他のスタートアップよりも必要であることが多く、比較的初期段階に外部からの資金調達が必要になります。この場合に、会社のバリュエーションを先延ばしでき、新株予約権を使ったシンプルなエクイティ投資であるJ-KISS(ジェイキス)型新株予約権による資金調達について解説します。

会社内部での会話
▼ 会話
大山:「この前、ピッチに登壇してプレゼンしたところ、シード専門のベンチャーキャピタル(VC)から出資を検討してくれるって声をかけられよ。」

川崎:「確かに、アプリケーション開発の新しい技術者の人件費や、少しまとまった研究開発資金が必要になってきて、うちの会社も外部からの資金調達を検討してもいい時期かもしれないね。」

大山:「確かに、設立時の僕たちの出資金やエンジェル投資家からの資金だけでは開発費用が足りなくなっててるよね。スタートアップの本やサイトによると、VCとかの外部投資家からの資金調達は優先株式がいいらしいよ。」

佐々木:「でも、外部投資家からの資金調達を行う場合にはバリュエーション(企業価値評価)が必要になったり、難しく複雑な契約を締結する必要があると聞くし、今のEmoTechの会社の人員では対応できそうもないよ。そもそもAIを取り巻く目まぐるしく変わる環境のもとで、僕たちのようなシード期のスタートアップ企業は企業価値を正しく評価してもらえるのかなぁ・・・」

大山:「ちょっと、先輩起業家の藤本さんに、シード期の資金調達をどうやっていたのかとか、相談してみるよ。」

後日、先輩起業家の藤本さんのオフィスにて

▼ 会話
大山: 「藤本さん、お久しぶりです。僕たちもそろそろ外部からの資金調達を検討しようかという話になって、今日はシード期の資金調達について経験談をお伺いできたらと思って来ました。外部投資家からの資金調達は優先株式がいいと聞いたりしているんですけど、今のEmoTechはまだスタートしたばかりでバリュエーションとか複雑な契約書の読み込みや、まして交渉とか、なかなか難しい状況で・・」
藤本:「うちの会社の頃は、シード期の資金調達を普通株式で行っていたものだけど、普通株式での資金調達には本来キチンとしたバリュエーションが必要だし、開発が進んでいなくてまだまだ企業価値が高くないシード期に外部投資家に安い株価で沢山の普通株式を発行してしまうと、その外部投資家の持株比率が高すぎることになったりして、その後の資本政策も難しくなる等の問題も多いんだよ。僕も今ならJ-KISSの新株予約権を使うなぁ。」「J-KISSなら、バリュエーションも先送りできるし、契約書も比較的シンプルで分かりやすいよ。」

大山:「J-KISS?新株予約権??なんですか、それ?」

【解説】
「J-KISS」とは、日本版KISSのことです。KISSというのは” Keep It Simple Security”の略で、シード期向けのシンプルで安全な資金調達方法としてアメリカのシリコンバレーで発展した新株予約権による資金調達のことです。これを日本の投資家、弁護士及び会計士等の協力のもとで日本のスタートアップ向けに設計、開発された新株予約権による資金調達方法のことを「J-KISS型新株予約権」と呼んでいます。以下のURLに投資契約等の必要書類が公開されています。

J-KISS:誰もが自由に使えるシード投資のための投資契約書


以下、スタートアップの資金調達で使われる優先株式とJ-KISS型新株予約権について解説します。

1. 外部投資家からの資金調達で使われるエクイティである優先株式の複雑性

資金調達には、デッドとエクイティがあり、それぞれに特徴があること、スタートアップ企業での資金調達はエクイティ、すなわち新株発行による資金調達が一般的であることも、この連載の第1回で述べたとおりです。VCから投資を受ける場合には、普通株式ではなく、種類株式の中の優先株式による資金調達となることが多いです。しかし、優先株式による出資を受けるためには、本来、厳密な企業価値評価を受ける必要があり、投資契約において定めるべき事項も多岐に渡り、複雑化しています。また優先株主と普通株主の権利関係を明確にするために、優先株主と経営株主(創業者であり取締役として経営に責任を有する株主)を含む全普通株主との間で株主間契約を締結する必要があります。

2. J-KISS型新株予約権の特徴

J-KISS型新株予約権は、有償(新株予約権を取得する際に新株予約権そのものの対価を支払う必要があるもの。これに対して新株予約権の取得の対価の支払いが不要なものは無償新株予約権という)の新株予約権で、一定期間経過後に行われる一定以上の規模の資金調達(次回ラウンド)が実行されることを条件に、次回ラウンドに発行される株式(多くの場合はA種優先株式。但し、予め定めた期間内に次回ラウンドが実行されない場合には普通株式に転換できます)に転換できるとするスキームです。

新株予約権の内容として、次回ラウンドで発行されるA種優先株式を何株引受けることができるかの計算式だけを定めるので、J-KISSの新株予約権の発行時には厳密な企業価値のバリュエーションを回避することができます。そして、同じ新株予約権でも新株予約権付社債(コンバーチブル・ボンド)の場合には、株式に転換するまでは社債=すなわち負債(借金)と認識されるので、貸借対照表にも影響が出てしまいますし、社債の満期には元本の返済義務が生じてしまいますが、J-KISS型新株予約権であれば投資を受けた金額の返済をしなければならなくなるようなことはありません。

次に、新株予約権は株式そのものではないので、新株予約権を取得する者は株主ではなく、議決権も保有しないし、配当受領権もありません。そのため株主間契約を締結する必要もありません。特に議決権がなく外部株主から強くコントロールされることがない点もメリットと言えるでしょう。

それでは、J-KISS投資契約書について実際の条文を見ながら解説していきましょう。

3. J-KISS型新株予約権投資契約の具体的条項について

別ファイルのJ-KISS型新株予約権投資契約の条項に適宜解説を入れています。こちらを参照してください〜

4. J-KISS型新株予約権の発行手続の概略

J-KISS型新株予約権の発行手続の概略は以下のとおりです。

(1) 投資契約の内容の投資家との合意
(2) 新株予約権の発行にかかる株主総会決議
(3) 投資契約の締結
(4) 投資金額の払込を受ける=新株予約権発行
(5) 新株予約権原簿への記載
(6) 新株予約権の発行から2週間以内に登記申請

このように、J-KISS型新株予約権は発行手続きに関しても、優先株式等の他のエクイティ投資と比較してシンプルといえます。

先輩起業家の藤本さんのオフィスにて
▼ 会話
藤本:「そうそう、J-KISS でもVCとの交渉に臨むには、事業計画書と資本政策表が重要になってくるけど、準備はしてあるかい?」

大山:「え、まだ準備していなかったです。どうしてそんな重要なんですか?」

【解説】

5. 事業計画書と資金政策表について

(1) 事業計画書
事業計画書とは、事業をどのように展開し、成功させるのか、商品やサービスの概要、ターゲットや市場性、資金計画等をまとめ、分かりやく説明するための事業全体の「見取り図」のようなものです。事業計画書を作ることによって、創業者にとっては、思考が深まり、実現可能性を推し量ることができて説得的な収益性を導くことができるようになり、また役員や従業員にとっては事業の方向性を共有できるというメリットがあります。事業計画書で投資家に対して事業の目的や内容を正確に伝えることによって、解決すべき課題や改善策等が明確化され、事業の将来性の説得力が高まります。このように、事業に将来性があると判断してもらう(=すなわち必要な資金を出資してもらう)ために、事業計画書は重要なのです。

具体的内容としては、以下のような事項を記載します

・会社の概要
・外部環境(市場規模や構造、競争優位性など)
・事業の戦略
(想定顧客、提供価値、ニーズ検証、ビジネスモデル、マーケティングや販売戦略)
・数値計画
(事業の戦略を損益に落とし込んだ収益計画、資金計画)

(2) 資本政策表
資本政策表とは、事業計画を実現するための資金調達と適正な株主構成の計画をいいます。事業計画を立てると、いつ、どのくらいの資金が必要なのかが明らかになります。その事業に必要な資金の調達と創業経営陣による議決権の維持のバランスをとりながら、スタートアップ企業に出資する各フェーズの株主の適切なキャピタルゲイン、役員・従業員へのインセンティブ(ストック・オプション)、出口(Exit)戦略(M&AなのかIPOを目指すのか)を考慮して資本政策を立てます。以前の連載でもお伝えしたとおり、エクイティでのファイナンスは後戻りができません。エクイティは原則相手方の合意なく買い戻すことはできませんし、そもそもスタートアップ企業には配当可能利益がなく、現実的にも自己株式の取得はできないことから、一度発行した株式を取り戻すことはできないのです。したがって、この意味でも、しっかりと資本政策を立てておくことは重要です。

 先輩起業家の藤本さんのオフィスにて
▼会話
藤本:「大山くんたちはVCからの出資を受けることを検討しているけれど、CVCからの出資も考えているの?」

大山:「CVC?VCとどう違うんですか???」

【解説】

6. CVCについて

 CVCとは 「Corporate Venture Capital」の頭文字を取った言葉で、「コーポレート・ベンチャーキャピタル」のことです。製造業等の事業会社が社外のベンチャーに対して行う投資活動のことであり、事業会社とベンチャーの連携方法のひとつと言われています。CVCでは、母体となっている事業会社の既存事業を拡大・進化させるための事業シナジーを追求することや、新規事業立ち上げに寄与する技術・アイデア、ノウハウなどを早期に獲得すること等を目的としています。
 したがって、VCと比べると、投資対象となる未上場企業が将来的にIPOやM&A等のExitで株式を売却して投資資金の回収(キャピタルゲインを獲得すること)がCVCには最優先ではないと言えます。
 スタートアップ企業にとっては、早期のIPOを強く言われたり、事業の早期黒字化を志向するために事業化する製品やサービスの選択などで投資家と意見が対立して本来の研究開発が後回しになったりというようなリスクは低いというメリットがあると言えます。しかし一方で、CVCからの投資を受けた場合には、母体となる事業会社の競業相手との取引が制限されたり、経営や事業方針に深く関与してくる場合もあります。
 さらに、CVCの母体である事業会社の新規事業に関する方針変更等の思わぬ影響を受ける等のデメリットもあります。VCにしてもCVCにしても、外部から投資を受ける場合には投資家を慎重に見極める必要があると言えます。
 いずれにしても特にシード期の投資家を選ぶ際には、長く良い関係性を築くことができるかどうかの観点から判断することが重要になると考えます。