IT企業法務 コンテンツビジネス法務(知的財産権、著作権) インターネット
SHOWROOMに学ぶ、資金決済法に抵触しない投げ銭サービスの作り方
SHOWROOM(https://www.showroom-live.com)や17Live(イチナナライブ)(https://17media.jp)など、スマホ等でライブ配信できるサービスがますます盛んとなっています。
SHOWROOMでは、視聴者はライブ配信者に対して花束や東京タワーなどの「ギフト」と呼ばれるデジタルコンテンツを贈ることができ(ギフティング)、ライブ配信者は視聴者が贈ってくれたギフトに応じて報酬を得られる仕組みになっており、いわば視聴者が配信者に投げ銭ができるようなサービスです。
米アプリ調査会社アップアニーによると、日本国内における2017年上半期の動画配信アプリの「収益」第1位はSHOWROOMだったとのこと(なお「利用者数」の第1位はYoutube)。
SHOWROOMが動画アプリの収益部門でネットフリックスをおさえ国内No. 1!次は、世界だ。https://t.co/xWPse9ZRkO pic.twitter.com/d3pwSwWY9n
— 前田 裕二 / Yuji Maeda (@UGMD) 2017年9月13日
サブスクリプション全盛の時代において、無料でも制限なく全部視聴でき、アイテム購入毎に課金という「サブスクの対極」にあるようなSHOWROOMの「投げ銭ビジネスモデル」。
ただ日本の法律では、投げ銭サービスを資金移動業の登録をせずに行うと資金決済法に反する可能性が生じます。SHOWROOMではいかなる仕組みで、資金決済法に抵触しない投げ銭サービスを実現しているのでしょうか。
Contents
ストレートな投げ銭サービスを行うためには資金移動業の登録が必要になる
いわゆる投げ銭サービスとは、ウェブ上でコンテンツを公開している人などに対してお金を送金できるサービスのことを指し、これは「為替取引」にあたる可能性があります。
為替取引(顧客から依頼を受けて資金を移動する振込送金のようなサービス)は、従来は銀行等でなければ行えませんでしたが、2010年に施行された資金決済法により1回あたりの送金額が100万円以下であれば「資金移動業者」に限って行えるようになりました。これは過去記事「メルカリ事例で学ぶ、CtoCサービスにおける資金決済法の罠」でも記載したとおりです。
銀行以外の一般事業者が投げ銭サービスを行おうとする場合、資金移動業の登録をする必要があります。しかし資金移動業者として登録が認められるためには、送金サービスで受領した金額の100%以上の額の供託義務や(資金決済法43条2項3項)、本人確認義務を要するため(犯罪収益移転防止法4条)、そのハードルは高いものとなっています。実際に資金移動業者の登録をしている法人は、現時点でLINE Pay株式会社やヤフー株式会社など63社しかありません(※平成30年10月31日時点。外部リンク参照)。
このように資金移動業登録のハードルが高いことに加えて、「ライブ感」「その場の勢い」が重要となる投げ銭サービスにおいては、本人確認など迂遠な手続きが求められる現在の資金移動業のスキームをそのまま導入するのはなじみづらい面が否定できません。
そこで資金移動業=ストレートな送金サービスではなく、各社とも様々なアイデアで投げ銭「類似」のサービスを展開していることになります。具体的には①現金の代わりにポイント(前払式支払手段)を送るサービスや②収納代行スキームを用いたサービスなどです。各サービスの具体例を紹介します。
現金の代わりにポイント(前払式支払手段)を送る投げ銭類似サービス
現金をそのまま送金するサービスだと資金移動業に該当してしまうため、現金の代わりにポイントを送るようにしたサービスです。ユーザーはサービス事業者からポイントを購入し、購入したポイントを相手に送る仕組みとなります。この種のサービスをいくつか紹介します。
Kyash
プリペイド式の決済手段で、Kyashアプリに現金やクレジットカードからチャージしておけば、ネットでの支払い等に使えます。ただし一旦チャージ(購入)した金額を、その後に現金化することはできません。
→Kyash
はてなポイント
はてな内のサービスで使えるポイントです。
はてなポイントを他のユーザーに送信できる機能(はてなポイント送信機能)だったのですが、2018年11月28日付でポイント送信機能の提供は終了したとのことです。
→はてなポイント
Osushi
購入した「お寿司」(バーチャルコンテンツ)を送信できるサービスです。
もらった「お寿司」は本マグロ(本物)やウニ(本物)と交換できるとのこと。
→Osushi
※2018年初頭のローンチ時は送ってもらったお寿司を現金化できるとの触れ込みでしたが、現在は修正されています(参考:投げ銭サービス「Osushi」が再始動 お寿司の“現金化”は不可能に)。
これらのサービスに共通するのは
- まずポイント(バーチャルコンテンツ)を有償で購入すること
- 現金ではなく、あくまでポイント(バーチャルコンテンツ)を送っていること
- ポイント(バーチャルコンテンツ)の現金化はできないこと(購入者も受領者もできない)
です。
受領したポイントを換金できるならば、結局現金を送っているのと同じ(=為替取引)であり、資金移動業と評価されるため、換金できないポイント(バーチャルコンテンツ)を送る仕組みにすることで資金移動業への該当を回避していることになります。
上記のポイント(バーチャルコンテンツ)のような、対価を得て発行され、物を買ったりサービスを受けるために使用できるポイントのことを「前払式支払手段」といい(資金決済法第3条1項)、資金決済法は一定の規制をかけています(発行保証金の供託義務や届出、有効期限の表示義務など。ただし有効期限が発行日から6ヶ月未満の場合は資金決済法は適用されません)。
収納代行スキームとする投げ銭類似のサービス
収納代行スキームとは、何らかの商品やサービスの対価を支払う際に、サービス事業者が買主から売主に代わって代金を受領するスキームのことで、公共料金のコンビニ払いなどもこれにあたります。収納代行スキームは、本記事作成時点(2018年11月時点)では資金決済法が規制する資金移動業にあたらないとされています。過去記事もご参照下さい。収納代行スキームを用いた送金サービスを実現しているのが「Paymo」です。
割り勘アプリPaymo
食事代などを代表して(立て替えて)支払った人は、他のメンバーに対して割り勘分の代金を請求できるわけですが、この割り勘代金の送金と受領を、代表支払者に代わって行ってくれるサービスです。→Paymo
Paymo利用規約では、割り勘を以下のように表現しています。飲み会メンバーはお店に飲み代を連帯して負担(連帯債務者)、代表者が飲み代全額を立て替え払いすれば、代表者はお店の飲み会メンバーに対する代金債権に法定代位し、他メンバーに対する代金請求ができる。単なる割り勘作業を法律的に因数分解すればこのような表現となるのは面白いですね。
Paymo利用規約
第23条(割り勘決済機能の概要)
割り勘決済機能とは、第24条第1項に定める適格店舗等における代金の支払に関して、当該適格店舗等が物品又はサービスの提供を行った相手方(以下「参加者」といいます。)に対して取得した債権(以下「対象債権」といいます。)について、参加者が連帯して債務を負担した場合に、当該参加者のうち1人の会員(以下「代表会員」といいます。)が適格店舗等に対して対象債権の全額の支払を行い、これにより代表会員が参加者に対する対象債権に法定代位した場合に、参加者である会員(以下「参加会員」といいます。)による代表会員への対象債権の支払手続きを行うための機能です。第29条(代金の決済(割り勘決済機能))
2. 代表会員は、当社に対し、参加会員が支払う請求額にかかる代金を代表会員に代わって参加会員から収納することを委託し、当社はこれを受託するものとします。
4. 代表会員は、第2項の委託に基づき、当社及び当社の委託先に対し、対象債権にかかる代金を代理受領する権限及び参加会員の支払にともなって領収書を発行する権限を授与するものとします。ただし、当社所定の決済事業者又は収納代行業者との間で締結する加盟店契約に従って、対象債権(請求額に限ります。以下本項において同じです。)の譲渡が必要な場合には、代表会員は、当社に対して対象債権を譲渡するものとし、当社は債権譲渡の対価として、第31条に従い、対象債権相当額を代表会員に支払うものとします。
Paymoが資金移動ではなく収納代行サービスであるといえる根拠は、割り勘代金の支払いという原因取引があることです。実際は飲みに行ってもないのに割り勘を装って送金すれば、単なる送金サービスとなってしまい資金移動業に該当してしまいます。そのためPaymoでは、割り勘の前提となる原因取引の根拠資料として、レシートの添付を義務付けています。レシートの添付は、Paymoがサービスの適法性を維持するために不可欠な要素というわけです。
なおPaymoは前払式支払手段を利用したサービスではないため、割り勘代金の支払いを受けた側は当然現金として出金することが可能です。
以上のとおり、日本においては資金決済法の壁があるため、投げ銭サービス(投げ銭類似サービス)を実現するためには様々な工夫を凝らして適法性を保つ必要があります。
SHOWROOMは「バーチャル投げ銭システム」である
それではSHOWROOMは、いかなる方法で投げ銭サービスを実現しているでしょうか。その秘密はSHOWROOMの会員規約に記載されています。
SHOWROOM 会員規約
第11条 Show Gold
・Show Gold(ショーゴールド)とは、当社の指定するコンテンツ(デジタルアイテムを含みます。)を使用するためのポイントをいいます。
・SHOWROOM 会員は、Show Gold を当社の定める方法により使用することで、当社の定める範囲のコンテンツの使用権を取得することができるものとします。Show Gold は当社の指定するサービス内でのみ使用することができます。
・SHOWROOM 会員は、当社が特に認めた場合を除き、Show Gold 及びコンテンツの使用権を他の SHOWROOM 会員その他第三者に使用させ、または貸与、譲渡、売買、質入等をすることはできないものとします。
・SHOWROOM 会員は、当社が特に認めた場合を除き、Show Gold の払戻し、または Show Gold と当社の指定するコンテンツ以外のコンテンツとの交換を求めることはできないものとします。
・SHOWROOM 会員が退会等により本サービスの利用資格を喪失した場合は、未使用分のShow Gold も消滅するものとします。
SHOWROOMにおいて、投げ銭をしようとする視聴者は、まず「ShowGold」を購入します。「ShowGold」は、SHOWROOM内でライブ配信者に投げ銭(ギフティング)する際に必要となる花束や東京タワーなどのギフト(デジタルコンテンツ)を購入する際の代金決済に利用できるもので(ShowGold注意事項1項)資金決済法上の「前払式支払手段」に該当するものと考えられます(SHOWROOM株式会社は、前払式支払手段(自家型)発行者として届出をしています。外部リンク参照)。
そして「SHOWROOMライブストリーミング配信規約」「ライブストリーミング配信ガイドライン(SHOWROOM会員用)」によれば、SHOWROOMは
- 視聴者数、コメント投稿、デジタルコンテンツの使用実績等に基づいて、SHOWROOMが独自に定める方法によって各ライブストリーミング配信を評価し、配信者に評価ポイントを付与すること
- 評価ポイント1ポイントにつき1円を配信者に分配金として支払うことができること
- 評価ポイントの算定方法、分配方法の支払方法はSHOWROOMが自由に定められること
が明記されています。
SHOWROOMライブストリーミング配信規約
第5条収益の分配
当社は、配信者が実施するライブストリーミング配信の内容または当該ライブストリーミング配信を視聴するSHOWROOM会員の行動等に基づき、当社の定める方法により当該ライブストリーミング配信を評価し、その評価に基づき当社が定める金員(以下、「分配金」といいます。)を、当社が本サービスにおいて得た収益から収益分配として支払うものとします。なお、配信者が実施するライブストリーミング配信の評価方法、分配金の支払方法等は当社が自由に定めることができ、かつ当社が自由に変更できるものとします。
(以下略)ライブストリーミング配信ガイドライン(SHOWROOM会員用)
収益の分配
当社は、配信者が配信するライブストリーミングを視聴するSHOWROOM会員の行動(視聴者数、コメント投稿、デジタルコンテンツの使用実績等)に基づき、当社が独自に定める方法によって各ライブストリーミング配信を評価し、評価ポイントを付与いたします。当社は、配信者に対して、評価ポイント1ポイントにつき1円を、分配金として支払うことができるものとします。なお、評価ポイントの算定方法、分配方法の支払い方法等は当社が自由に定め、かつ当社が自由に変更できるものとします。
(以下略)(注:以上の配信規約及び配信ガイドラインは、SHOWROOMと直接配信契約を締結する配信者(アマチュアアカウント)に適用される内容であり、オーガナイザーと呼ばれる芸能事務所・スクール・代理店などと契約する配信者(公式アカウント)が得られる報酬については個々のオーガナイザーとの契約内容によります)
つまりSHOWROOMは、配信者がライブ配信中に視聴者から投げてもらえたギフトのみならず、コメントや視聴者数に応じた自社独自の基準によって配信者に対して分配金を支払っているのであり、視聴者の投げたギフトがそのまま配信者に届いているわけではないことになります。視聴者から配信者にポイント(前払式支払手段)を送信させて一定の手数料を控除するシンプルな仕組みではなく、独自の評価基準で算出した分配金を配信者に支払う点でユニークなシステムであり、投げ銭のようにみえるが投げ銭ではない、いわばバーチャル投げ銭システムといえます。
SHOWROOMのバーチャル投げ銭システムは、難解な資金決済法の壁をクリアするためのひとつの解です。投げ銭(類似)システムは、ライブ配信などの動的なコンテンツのみならず、今後はテキストやイラストなどの静的なコンテンツ配信においても実装が進んでいくことが予測されるところ、コンテンツ配信サービス事業者としては、資金決済法その他の法律に抵触しない適法な投げ銭(類似)システムの導入を本気で検討すべき時代に来ているといえます(弁護士杉浦健二)
・STORIA法律事務所では投げ銭サービスなど資金決済法に関する適法性審査を承っております。
・ブログ更新その他の最新情報はツイッターやFBページでお届けしております。
Follow @kenjisugiura01
(関連過去記事)メルカリ事例で学ぶ、CtoCサービスにおける資金決済法の罠
※本記事はSHOWROOM会員規約等の記載から推測できるビジネスモデルについて筆者の視点で分析したものであり、本記事の記載内容が実際のSHOWROOMのビジネスモデルと一致することを保証するものではありません。