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メルカリ事例で学ぶ、CtoCサービスにおける資金決済法の罠

杉浦健二 杉浦健二

2017年12月、フリマアプリ「メルカリ」を運営するメルカリ(https://www.mercari.com/jp/)は取引ルールを変更し、それまで出品者は販売で得られた売上金を1年間は引き出さずにメルカリに預けられていたところ、新ルールではこの預かり期間を90日間に短縮しました。
また売上金を直接使用した商品購入ができなくなり、代わりに商品を購入できるポイントと交換したうえで、ポイントで商品を購入する手順に変更しました(ポイントは換金不可)。

メルカリ、出品者売上金の預かり期間を短縮 新取引ルール、12月から(日本経済新聞)

これらの新ルールへの変更は、メルカリの従前のビジネスモデルが資金決済法で定める「資金移動業者」に該当する可能性を指摘されたためと考えられます。

メルカリのみならず、サービス利用者間での代金支払を伴うCtoCビジネスにおいては、資金決済法に抵触しないかを常に意識する必要があります。今回取り上げるメルカリのルール変更事例は、資金決済法(資金移動業者)を学ぶ格好の教材であるため、少し前の話ですが取り上げて解説します。

資金移動業者に該当すれば、資産保全義務などの義務が課される

銀行等以外の一般事業者が、顧客から依頼を受けて資金を移動するサービス(為替取引)を行う場合、「資金移動業者」として登録する必要があります(資金決済法第37条、第2条2項3項)。

(※為替取引…最決平成13年3月12日は、為替取引について「隔地者間で直接現金を輸送せず に資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引き受けること、又はこれを引き受けて遂行すること」と定義しています)

為替取引(顧客から依頼を受けて資金を移動する振込送金のようなサービス)は、従来は銀行等でなければ行えませんでしたが、2010年に施行された資金決済法により1回あたりの送金額が100万円以下であれば「資金移動業者」に限って行えることになりました。

資金移動業者の登録を受けたサービスとして代表的なのは、LINE PAYやYahoo!ウォレットが挙げられます。

利用者の資金を預かるという性質上、資金移動業者としての登録が認められるためには、事業者に資産保全義務などが課せられます。
資金移動業者に課せられる資産保全義務とは、利用者の資産を保護するために、送金サービスで受領した金額の100%以上の額を供託させる義務のことです(法43条2項3項)。供託に代えて、一定の銀行等との間で履行保証金を供託する旨の契約(履行保証金保全契約)や信託会社等と履行保証金信託契約を締結することも認められています。

更に資金移動業者に当たる場合、利用者のアカウントを開設する際に運転免許証等による本人確認も要することになります(本人確認義務、犯罪収益移転防止法4条)。

ポイントは、いかに資金移動業にあたらないサービスを構築するか

このようにサービスが資金移動業だと判断されると、資産保全義務や本人確認義務などの様々な規制を課されます。資金移動業者として登録が認められるためには、一定の財産的基礎や業務遂行体制等の整備が求められることからも(法40条)、潤沢なキャッシュがあるとはいえず管理体制も十分に整っているとはいえないベンチャー企業にとって、資金移動業者登録のハードルは相当に高いものといえます。

そこでユーザ間で資金移動を伴うCtoCサービスでは「いかに資金移動業にあたらないようにするか」という観点からサービスを構築することが肝となります。

ここで考えられるのが、収納代行サービスとして設計することです。収納代行サービスとは、何らかの商品やサービスの対価を支払う際に、サービス事業者が買主から売主の代わって代金を受領するサービスのことで、公共料金のコンビニ払いなどもこれにあたります。収納代行サービスは、資金決済法が規制する資金移動業にあたらないとされています(重要)。実際に多くのCtoCサービスにおいて収納代行スキームが採用されています。

CtoCサービスにおける収納代行スキームとは、具体的には①売主がサービス提供者に対して代金の代理受領権限を付与②買主がサービス提供者に代金を支払った時点で売買契約成立③代理受領した代金から手数料を控除して売主に支払う、という流れです。
サービス提供者はあくまで売主の代わりに代金を受領しているだけなので、受領した代金を必要以上にサービス提供者のもとに残しておくことは許されません(ここがポイント)。そのようなスキームだと、売主に変わって収納を代行しているだけの単なる収納代行サービスとはもはやいえなくなり、資金決済法が資金移動業者に供託金を積ませる等して利用者の資産を保全しようとした趣旨に反するためです。

ルール変更前のメルカリは何が問題とされたのか

2017年12月にルールを変更する前のメルカリは、出品者(売主)が販売で得た売上金を1年間はメルカリに預けておくことができる仕組みでした。メルカリは、出品者が得た売上金で別の商品を購入できる点が最大の強みだったわけで、1年間売上金を滞留させられる仕組みは、利用者にとってもメリットが大きいものでした。

一方でメルカリ側からみれば、出品者が売上金を引き出さなければ、最大1年間、売上金を保管し続けることができました(なお1年経っても売上金が引き出されないと没収していた)。メルカリは資金移動業者としての登録を行っていない以上、供託金を預ける等の資産保全義務は課されていません。出品者がメルカリに預けていた売上金は何ら担保がないことになり、倒産など万一のことがあった場合に出品者は売上金を引き出せなくなる可能性が高くなります。この点が利用者保護の点から問題視されるに至っていました。

そこで2017年12月以降の新ルールでは、売上金の預かり期間が1年間から90日間に短縮され、90日後には出品者口座に自動的に入金されるものと変更されました。
また旧ルールのように、預けていた売上金で直接別の商品を購入することはできなくなり、売上金をいったんポイントに変更したうえでポイントで購入する仕組みに変更となりました(ポイントの換金は不可。なおこのポイントは「前払式支払手段」と呼ばれ、資金決済法上の別の規制に服することになります)。

旧ルールは収納代行といいつつも、単なる収納代行の範囲を超えた仕組み(出品者は売上金を1年間預けられ、その売上金で別商品を購入できる)と判断されるリスクが大きかったことから、
新ルールではサービスモデルを修正し、より形式的な収納代行に近づけた(売上金預かり期間は90日間に短縮+売上金での直接購入不可)+ポイント制(前払式支払手段)の導入により、資金決済法に抵触する疑いを減少させたものといえます。

ルール変更時のメルカリプレスリリースでは変更の経緯について説明されています。
フリマアプリ「メルカリ」仕様変更のお知らせ

新ルールでは、90日経てば売上金は自動で出品者口座に振り込まれる

現在の新ルールでは、売上金は90日間たてば自動で出品者口座に振り込まれることになりますが、出品者が口座登録をしていなければ、90日経つと売上金は没収されます(以下のメルカリ利用規約第13条参照)。メルカリも期限が迫れば出品者に注意喚起を行う仕組みとしていますが、この点はユーザからのクレームにつながりやすいので、サービス提供者としては慎重に慎重を期すべきと言えます。いくら利用規約で謳っても実際に利用規約に目を通してくれる利用者は皆無であるのが現実である以上、売上金没収の条件や没収までの期間が嫌でも利用者の目に入る仕組みにしておくことは大変重要といえます。

(参考リンク)メルカリ、8月頭ごろから利用者を警告なく突然利用制限→取引停止、売上金没収にするトラブルあいつぐ。(togetter)
https://togetter.com/li/1262825

メルカリ利用規約
第13条 2.引出申請
出品者は、出品した商品の売買契約が成立し、当該売買契約に関する支払及び商品の発送ならびに出品者及び購入者による相互の評価が行われ取引が完了した場合、当該取引完了時から90日以内に当該商品の商品代金の引出申請を行うものとします。なお、商品代金の引出申請に当たっては、弊社所定の本人確認を求めることがあり、確認が終了するまでは、引出しを留保させていただくことがあります。弊社が商品代金の引出申請を求めたにもかかわらず、出品者が当該取引完了時から90日を経過しても、当該商品の商品代金の引出申請を行わなかった場合には、弊社は、速やかに、当該出品者が登録した金融機関の口座に、当該商品代金の全額を振り込む方法により支払います。なお、本項に基づき、弊社が振込手続を行ったにもかかわらず、弊社の責めに帰すべき事由なく振り込みが正常に完了しない場合には、弊社は、当該出品者が、当該商品代金相当額の支払請求権を放棄したとみなすことができるものとします。

経営者にとって、自社サービスモデルの適法性把握は必須である

新ルールでは、預けている売上金で直接別の商品を購入できるというメルカリ最大の強みを修正せざるを得なくなりました。ヒットするサービスの強みは既存のサービスにはない新規性であることが多いですが、これまで同種のサービスがなかったということは、そもそも法的な規制があったからできなかった可能性もあります。

たとえば2018年頭にローンチした投げ銭サービスOsushiは、気に入ったブロガー等に寄付金を送金できる画期的なサービスでしたが、これはもろに「資金移動業」に該当するものだったにもかかわらず資金移動業者としての登録がなされていなかったため、サービス停止のうえで再始動を余儀なくされました。
(参考)投げ銭サービス「Osushi」が再始動 お寿司の“現金化”は不可能に

サービスモデルの構築においては、
①まず当該分野に法律などの規制がないかを調査する
②規制があった場合、真正面から許可や登録を得るか、規制に該当しないようサービスモデルを修正するかを検討する
③サービスモデルを修正して対応する場合、その修正で本当に規制を回避できているのか(白か)、微妙なのか(グレーか)を検討し、グレーでサービスを開始する場合は、指摘を受けた場合の想定問答や、将来的に白を目指すためのサービス再修正や許可登録取得についてプランニングしておく
ことが重要になります。
自社のサービスモデルが、どれだけの法的リスクを有しているモデルなのかを正確に把握しておくことは会社の経営判断に直結する以上、経営者にとって必須の事項といえるでしょう。(弁護士杉浦健二

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