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ウェブ利用規約のせいで起きる炎上を防ぐためにこれだけは知っておこう(2)

前回記事では、「利用規約が原因で炎上した著名な2つの事例」について紹介をしました。
このように、投稿系サービスにおいては、投稿されたコンテンツの著作権を巡って、しばしば利用規約を理由とした炎上が発生しています。
なぜそのような炎上が繰り返し発生してしまうのでしょうか。

worker with flaming torch

炎上を防ぐためには
・ 投稿系サービスの利用規約の3つのパターンをまず知った上で、
・ 利用規約でどのように定めておけば炎上を防げるのかについての知識を身につけておく必要があります。
今回の記事はその2点に関して解説します。


■ 投稿系サービスの利用規約の3つのパターン

利用規約が原因で炎上するパターンは、「投稿系サービスで投稿されたコンテンツの著作権を巡っての炎上」がほとんどです。
言うまでもないことですが、投稿系サービスにおいて投稿されたコンテンツの著作権は、当該コンテンツを投稿した人(厳密に言うと創作した人)に属します。
ですので、サービス側としては、当該コンテンツをサービス内でどのように扱うかについて、利用規約で定めなければなりません。
この場合の定めは大きく分けると3つのパターンがあります。

1 著作権の譲渡
2 著作物の利用許諾
3 サービス提供のための必要最小限度の改変

です。

 1 著作権の譲渡

投稿したユーザーの持っている著作権について事業者が譲渡を受けるパターンです。
譲渡を受ける訳ですから、事業者はそのコンテンツを自由に利用できます。コンテンツを第三者に販売したり、書籍化して二次利用したりなど、何でもできるようになります。一方ユーザーは、譲渡によって著作権を失うことになります。
条項例はこういう感じ。

ユーザーは,投稿データについて,その著作物に関する全ての権利(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含みます)を,投稿その他送信時に,事業者に対し無償で譲渡します。

改訂前のユニクロの「UTme!(ユーティーミー)」の利用規約がこのパターンですね。
著作権の譲渡を受ける訳ですから、著作者の手元には著作権は残らず(著作者人格権は残ります)、事業者が全ての著作権を取得するとうことになります。
事業者にとって最も有利ですが、譲渡に際してユーザーに全く対価を支払わない場合、最も炎上に結びつきやすいパターンです。

 2 著作物の利用許諾

投稿したユーザーに著作権は残しつつ、その著作物について事業者が使わせてもらう(利用許諾を受ける)というパターンです。
条項例はこういうものが多いです。

 ユーザーが本サービスに投稿したデータに関する著作権はユーザーに帰属するものとし、事業者がかかる権利を取得することはありません。
ただし、ユーザーは本サービスの利用により、当機構に対し投稿データを利用する権利を無償でかつ無期限に、地域の限定なく許諾したこととなり、事業者はかかる利用権を取得します。
この利用権には、複製、上演、演奏、上映、公衆送信、公衆伝達、口述、展示、頒布、譲渡、貸与、翻訳、翻案、事業者が事業目的上必要とみなす範囲での改変、著作権法第27条及び第28条に定める権利を含みます。

この条項例を見ればわかるように、「無償、無期限、無制限」に「全ての権利」について利用許諾を受けるというパターンがほとんどです。これは、事業者側が著作物を利用できる範囲という意味では、1の「著作権の譲渡」を受けた場合とほぼ同じです。

つまり事業者は、1同様コンテンツを第三者に販売したり、書籍化して二次利用したりなど何でもできます。
1との最大の相違点は、2の場合はユーザーに著作権が残りますので、ユーザは別の事業者に当該著作物の利用許諾をすることができる、すなわち著作物を事業者が独占的に利用することができないという点です。

ユーザーに残る権利と事業が取得する権利のバランスをとったパターンといえるかもしれません。
実は前回紹介したテレビ朝日の動画投稿サイト「みんながカメラマン」の条項もこのパターンです。

テレビ朝日は投稿データを、地域・期間・回数・利用目的・利用方法(放送、モバイルを含むインターネット配信、出版、ビデオグラム化、その他現存し、または将来開発されるあらゆる媒体による利用)・利用態様を問わず、自由に利用し、またテレビ朝日が指定する第三者に利用させることができるものとします。当該利用にかかる対価は無償とします。

こういう条項例はよくあるのですが、なぜテレビ朝日の場合は炎上したのでしょうか。
これはおそらく、この条項だけでなく

・ 投稿データの利用に関して投稿者に何らかの損害が生じた場合でも、テレビ朝日は一切の責任を負わない
・ 投稿データの利用が第三者の権利を侵害したとして、テレビ朝日が損害を被った場合は、これを賠償する

という条項があわせて規定されていたためと思われます。
加えて、条項の書きぶりが若干高飛車だった(その分厳密なのですが)というのも理由かもしれません。

改定された 「みんながカメラマン」の利用規約を見るとこの、コンテンツの利用に関する条項は以下のように変更されています。

投稿データの著作権は撮影者に帰属しますが、テレビ朝日グループ及びANN系列各局は、投稿データを期間、地域、回数、利用方法(放送およびインターネットを含みます)の制限なく利用すること、および利用にあたり内容の真実性を損なわない範囲で投稿データの編集・加工等を行うことを許諾して頂いたものとします。なお利用についての対価は無償とさせて頂きますのでご了承ください。

実は、法律的な内容はほとんど変わっていません。相変わらず、テレビ朝日はコンテンツを無償であらゆる態様で利用できるとなっています。
ただ、明らかに書きぶりが丁寧になっていますね。また、著作権が撮影者に帰属することも明記されています。
加えて

・ 投稿データの利用に関して投稿者に何らかの損害が生じた場合でも、テレビ朝日は一切の責任を負わない
・ 投稿データの利用が第三者の権利を侵害したとして、テレビ朝日が損害を被った場合は、これを賠償する

の条項は削除されています。
このような配慮により鎮火したのでしょう。

 3 サービス提供のための必要最小限度の改変

最後に、サービスの提供上必要な範囲で,当該コンテンツを修正するパターンです。
たとえば,投稿データの一覧を表示する目的で,文章の冒頭部分のみ引用したり,画像をサムネイル化したりするようなケースです。

そのような行為は著作物の翻案ということになりますので,本来は著作権者の許諾が必要ですが,いちいち許諾を取っていたら大変ですので,利用規約において,あらかじめその点について許諾を得ておくことがほとんどです。
ユーザーに著作権は当然残っていますし、事業者が著作物について何らかの利用権を取得するわけではないので、ユーザーの権利保護が最も厚いパターンです。
ですので、炎上などの問題が生じることはほぼあり得ません。

条項例はこんな感じ。

当社は、投稿データについて、本サービスの円滑な提供、当社システムの構築・改良メンテナンス等に必要な範囲内で、変更その他の改変を行うことができるものとします。

ユニクロが修正した後の利用規約もこの内容になっていますね(第9条)。
具体的には以下のとおりです。

  • 投稿データの著作権はユーザーに帰属します。
  • 当社は、投稿データについて、本サービスの円滑な提供、当社システムの構築・改良メンテナンス等に必要な範囲内で、変更その他の改変を行うことができるものとします。
  • ユーザーのうち、シェアボタンを選択あるいは投稿データの共有をご了承いただいた方は、UTme!!サイト、当社ウェブサイト及び当社が実施する各種キャンペーン等に投稿データが使用されること及び当社に対して著作者人格権を行使しないことに同意するものとします。

 4 まとめ

以上のように、投稿系サービスにおける著作権処理の利用規約は
1 著作権の譲渡を受ける
2 著作物の利用許諾を受ける
3 サービス提供のための必要最小限度の改変
の3つのパターンがあり、著作者に残る権利、事業者が取得する権利がそれぞれ異なり、それに伴って炎上のリスクがそれぞれ異なるということになります。

図にするとこんな感じです。

著作権譲渡0126+01


■ 炎上事例に学ぶ教訓

著名な2つの炎上事例からは、投稿系サービスでの炎上を防ぐために以下のような教訓が導かれます。

▼ 著作権譲渡のパターンは避ける

サービスの展開のためには、著作権の譲渡を受けるまでの必要性はないことがほとんどです。仮に事業者が投稿を受けたコンテンツについて二次利用をしたいと考えた場合、パターン2の「利用許諾」だけで十分なことがほとんどだからです。
ですので、よっぽど特殊なサービスでない限り、パターン1の「著作権の譲渡をうける」は避けた方がよいでしょう。
仮に譲渡パターンを採用する場合、ユーザーに何らかの対価を還元するなどの工夫がなければ、炎上リスクは非常に高まります。

▼ 無償利用許諾の場合、規約の表現に気をつける

投稿を受けたコンテンツを事業者が利用する場合、パターン2の「無償利用許諾」がほとんどだと思います。
ただ、その場合でも
・ 著作権はユーザーが保有していることを明記する。
・ 表現をわかりやすく、柔らかい丁寧なものとする。
配慮は必ず必要だと思います。
プロ同士の契約書であれば、表現が丁寧かどうかなんて問題にならないのですが、利用規約は一般の利用者との間の契約ですから、丁寧かつわかりやすい表現が必須です。若干手間はかかりますが、それで炎上リスクが減るなら手間を惜しむべきではないでしょう。

▼ 「プロから見たら当然」の条項でも気をつける

テレビ朝日の事例は
「投稿データの利用に関して投稿者に何らかの損害が生じた場合でも、テレビ朝日は一切の責任を負わない」
「投稿データの利用が第三者の権利を侵害したとして、テレビ朝日が損害を被った場合は、これを賠償する」
という条項のせいで炎上が加速したのではないかと思われます。
実は、このような条項は、コンテンツの提供を受ける契約書(たとえば、WEBサイトの制作委託契約書、小説の出版契約書、イラスト作成請負契約書等)においては、必ず入っています。
しかし、このような条項は、お金を支払ってコンテンツの提供を受ける場合に関するものです。
投稿系サービスではユーザーから無償でコンテンツの提供を受けることがほとんどですから、ユーザーにのみ責任を負わせる条項はバランスを欠くかもしれません。
たとえば「ユーザーが故意・重過失により違法なコンテンツを投稿し、当該コンテンツの利用によって事業者が損害を被った場合はユーザーは賠償責任を負う」というような条項にするなど、バランスをとる工夫が必要でしょう。


■ まとめ

▼ 投稿系サービスにおける著作権処理の利用規約は
・ 著作権の譲渡を受ける
・ 著作物の利用許諾を受ける
・ サービス提供のための必要最小限度の改変
の3つのパターンがあり、炎上のリスクがそれぞれ異なる。

▼ 炎上を防ぐためには
・ 著作権譲渡のパターンは避ける
・ 無償利用許諾の場合、表現に気をつける
・ 「プロから見たら当然」の条項でも気をつける
の3点に気をつけること。