インターネット
ポケモンGOで学ぶキャラクターライセンスビジネス基礎講座
・・・というわけで,STORIA夏休み特別企画「ポケモンGOで学ぶキャラクターライセンスビジネス基礎講座」をはじめます。
報道では「ポケモンGO」は、任天堂と米Niantic社、株式会社ポケモンの共同開発だ」「いや、開発は米Niantic社単独で、任天堂はキャラクター貸しているだけ」などと報じられたり、任天堂の株が暴騰したあと急落したりと忙しい限りですが、実際「ポケモンGO」に関するどのような権利を誰が持っているのでしょうか。
Contents
1 キャラクターライセンスビジネスの基礎
ポケモンgoは「ポケモン」というキャラクターを使ったゲームですが、このように「キャラクターを第三者に利用させるビジネス」は、キャラクターライセンスビジネスといわれます。
ポケモンだけではなく、ミッキーマウス、スヌーピーなどすぐにいくつか思いつくと思いますが、その特徴は2つ。
・ ライセンスビジネスであること
・ キャラクターに関する知的財産権が前提となっていること
です。
▼ ライセンスビジネス
ライセンスビジネスというのは、自分が持っている知的財産権を誰かに利用させて(ライセンスして)、その対価として利用料(ロイヤリティ)を貰うというビジネスです。
利用させる人を「ライセンサー」、利用する人を「ライセンシー」といいます。
最も身近なライセンスビジネスは、おそらく「ソフトウェアのライセンスビジネス」でしょうね。皆さんがソフトを有償無償関わらず利用する際には、必ず「ソフトウェア」という著作物(これも知的財産権の一種です)を利用するライセンス契約を、販売元というライセンサーとの間で締結しています。
また、ライセンスビジネスは、ライセンシーが自ら知的財産権を利用するだけではなく、さらにそれを活用して商品などを製作してユーザーに販売するパターンもあります。
キャラクターライセンスビジネスもこのパターンです。
▼ キャラクターに関する知的財産権
ライセンスビジネスは「知的財産権を誰かに利用させる」ことが前提となっていますので、何らかの知的財産権がなければなりません。ではキャラクターについてはどのような知的財産権があるのでしょうか。
キャラクターについては
・ 著作権:デザイン
・ 商標権:キャラクター名やデザイン
・ 意匠権:デザイン
という知的財産権で保護されていることがほとんどです。
ポケモンについても、この3つの権利でがっちり保護されています。どの権利を誰が持っているのかについては後で説明しますね。
2 ポケモンが生まれたとき
ポケモンが世に初めて出たのは、1996年2月に販売開始されたゲームボーイ用ソフト『ポケットモンスター 赤・緑』としてでした。
このゲームの開発経緯や開発形態は以下のとおりです(以下すべて敬称略)。
・ 株式会社ゲームフリークの代表者田尻智がゲームを着想、任天堂に持ち込む。
・ 高い可能性を感じた任天堂は即座に開発費支出を決定。
・ 田尻が任天堂に持ち込んだ時点ではゲーム名は「カプセルモンスター」だったが、商標権の問題で「ポケットモンスター」に変更。
・ 任天堂→エイプ→ゲームフリークという形態で開発委託契約を締結して開発がスタート。
・ キャラクターのモンスターデザイン・名付けは、ゲームフリークの杉森建が中心となって行った。
・ 1996年2月に任天堂からゲームボーイ用ゲームソフト「ポケットモンスター赤・緑」が発売開始。
*ちなみに、エイプは1994年に開発から離脱し、代わりにクリーチャーズが参加しています。
キャラクターということに着目すると
・ 各ポケモンのデザイン・名付けは、ゲームフリークの杉森建が中心となって行った
・ 「ポケモン」という名称を利用することが決まった
ということが重要です。
▼ ポケモンの商標登録
ではポケモンについてどのような商標が登録されているのかを調べてみましょう。
まず「ポケモン」については平成9年12月に登録されています。
さらに、「ピカチュウ」と元祖ポケモンの最初の3匹「ヒトカゲ」「フシギダネ」「ゼニガメ」については、単なるキャラ名だけではなく、キャラクターイラストそのものについても商標登録されています。
ピカチュウとヒトカゲだけ紹介しますが、かなり素朴なタッチのイラストです。
おそらく他のポケモンについても商標登録されていると思いますが、全て調べていたら時間がいくらあっても足りなさそうなので、この2体でご容赦ください。
これらはすべて、独立行政法人工業所有権情報・研修館が運営する特許情報プラットフォームで検索した結果ですが、そこには「権利者」という欄があります。
先ほどの登録商標を見ていただければわかるように、これらの登録商標はすべて任天堂、ゲームフリーク、クリーチャーズ3者の共有ということになっています。
▼ ポケモンキャラの著作権
「各ポケモンのデザイン・名付けは、ゲームフリークの杉森建が中心となって行った」ということからすると、各ポケモンのデザインの著作権は、法人著作(著作権法15条)の規定により、まずゲームフリークに帰属することになります。
しかし、その後の経緯はよくわからないのですが「ポケモンの原著作権者は、任天堂、ゲームフリーク、クリーチャーズ3者である」とされていることからすると、おそらくゲームの開発過程で、一旦ゲームフリークに帰属したポケモンの著作権について、この3者で共有するという契約が締結されたのではないかと思われます。
ちなみに、意匠権については登録されているかどうかがわかりませんでした(先ほどの特許情報プラットフォームでは、2000年以前に登録された意匠については検索できないため)。
▼ まとめ:ポケモンに関する知的財産権の帰属
このように、ポケモン関係の著作権と商標権は、すべて任天堂、ゲームフリーク、クリーチャーズ3者の共有になっています。
共有した時点で、当然のことながら、この3者間では、ポケモンキャラをライセンスして得られたロイヤリティの分配についても契約が締結されたはずです(詳細は公表されていないのでわかりませんが)。
なので、ポケモンが誕生した時点では、ポケモンに関する権利は以下の図のような形式になっています。
3 ポケモンの躍進
▼ まずはゲームから
1996年2月、ゲームボーイ用ゲームソフト「ポケットモンスター赤・緑」として任天堂から発売されたのが、ポケモンが世に出たきっかけです。
契約関係の詳細は不明であるものの、理屈から言うとこのゲームソフトについては、以下の図のようなライセンス構造になってるはずです(ただし、このゲームは先程述べたように任天堂・クリーチャーズ・ゲームフリーク間の開発委託契約に基づいて制作されているので、違うライセンス構造になっている可能性も高いと思います)。
▼同時にマンガ
さらに、同時期である1996年2月に小学館発行の「別冊コロコロコミック」で「ポケットモンスターふしぎポケモンピッピ」の掲載がスタートしました。
このマンガについても、ポケモンキャラを利用していますから、当然ポケモンキャラの原著作権者3者の許諾を得て制作されています。ですので、ライセンス構造はこのようになっているはずです(おそらく、ですが)。
▼さらにカードゲーム
次にポケモン関連商品でブレイクしたのは、1996年10月に発売されたカードゲーム「ポケットモンスターカードゲーム」です。
このカードゲームについては、ポケモンの原著作権者3者のうちクリーチャーズが窓口となり、メディアファクトリーに対して製造・販売のライセンスを供与しています。
さらに、この時点においては、マンガやカードゲーム以外にも、文具や玩具、アパレルや雑貨にもポケモンキャラは多用されるようになっていました。
それらのライセンスの管理業務はすべて任天堂が行っていたようです。
▼今度はアニメ
1997年4月にはアニメ「ポケットモンスターシリーズ」の放送が開始しました。
アニメ化にあたっては任天堂やクリーチャーズ、ゲームフリークの原著作権者3者共に当初難色を示し難航したそうですが、最終的にはゴーサインが出ました。
さらに、この時点において、ライセンスの管理体制も大きく変更されました。
具体的には、ゲームとカードゲーム以外のライセンスの管理を小学館プロダクションに独占的に委ねるという体制になったようです。
▼株式会社ポケモンによる管理の開始
そして、その後の正確な経緯は資料からはよくわからないのですが、2000年10月に、株式会社ポケモンが、ポケモンのブランドマネジメント全体を管理するようになります。
この株式会社ポケモンという会社は、1998年4月に、ポケモンの原著作権者3者の共同出資により設立された「ポケモンセンター株式会社」が社名変更した会社です(現在の株式会社ポケモンに対する任天堂の出資持分は32%ですので、おそらく3者が株式会社ポケモンの株式を3分の1ずつ保有しているのではないかと思われます。)。
これで、ようやく「ポケモンGO」制作前夜まで来ました。
明日は「ポケモンGO」の制作体制を前提として、「ポケモンGO」の収益構造はどうなっているのかを大胆に推測してみたいと思います。
お楽しみに!
【この記事の参考文献・参考記事】
「ポケモン・ストーリー」(畠山けんじ・久保雅一著)(日経BP社)
「踊るコンテンツ・ビジネスの未来」(畠山けんじ著・久保雅一企画監修)(小学館)
【岩田 聡氏 追悼企画】岩田さんは最後の最後まで“問題解決”に取り組んだエンジニアだった。「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」特別編
(弁護士柿沼太一)