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ポケモンGO大ヒットによる各社の収益分配を推測してみた(記事修正・追記あり)
昨日の記事「ポケモンGOで学ぶキャラクターライセンスビジネス基礎講座」では、キャラクターライセンスビジネスの基礎から始めて、ポケモンビジネスがどのように発展してきたかを順を追ってみてきました。
今日は「ポケモンGO」の制作体制を前提として、「ポケモンGO」の収益構造はどうなっているのかを大胆に推測してみたいと思います。
1 「ポケモンGO」制作体制について
「ポケモンGO」制作体制についてですが、これは平成28年7月22日発表の任天堂の「『Pokémon GO』の配信による当社の連結業績予想への影響について」というIRを見ると、以下のような体制と思われます。
・ 米国法人Niantic, Inc:開発・配信
・ 株式会社ポケモン:ポケモンキャラのライセンスおよび開発運営協力
・ 任天堂、クリーチャーズ、ゲームフリーク:ポケモンキャラの原著作権者として株式会社ポケモンにライセンス
これを前提とすると、「ポケモンGO」というゲームに関する著作権は米国法人Niantic, Incが保有、そこで利用されているキャラクターは任天堂、クリーチャーズ、ゲームフリークのものということになり、各社の役割分担は以下のとおりとなります。
2 「ポケモンGO」の収益構造はどうなっているのか
では次に「ポケモンGO」がユーザーに配信された場合、その売上について、どこがどの程度取得するかを推定してみましょう。
ユーザーが課金した場合、そのお金はこの矢印に沿って流れていきます。
まず「ポケモンGO」は、Google PlayとAppStoreを通じてユーザーに配信されていますので、Nianticはユーザーからの売上のうち30%をそれらのプラットフォーマーに支払い、70%を得ることになります。
次に、Nianticが株式会社ポケモンに対してポケモンキャラのライセンス利用料および開発運営協力費を支払うことになります。
これがNianticの「ポケモンGO」売上高の何%かは不明ですが、単に「ポケモンキャラを利用させた」ということの対価であれば、大したパーセンテージにはなっていないと思われます。
しかし、ポケモンがゲームとして子どもたちからこれほどまでの支持を長い間得ているのは、単に「ピカチュウかわいい」からだけではありません。
「モンスターを交換する」という田尻の着想の秀逸さはもちろんですが、それのアイデアを元に、その世界観は極めて慎重に、長い時間をかけて練り上げられ、最終的には「収集・育成・交換・対戦」という独自のシステムにたどり着いています。
しかも、1996年の最初のゲーム発売後、システムやパラメーター調整のノウハウはポケモンの原著作権者や株式会社ポケモンに大量に蓄積されているはずです。
それらのシステムやノウハウがあって初めて「ポケモンGO」はこれほどまでの世界的大ヒットになったのであって、これが「ミッキーマウスGO」や「スヌーピーGO」ではヒットはしていないはずです(というか、キャラ数が少なすぎてすぐ終わってしまう)。
したがって、株式会社ポケモンの貢献度合いは、単なるキャラクターのライセンサー以上のものがありますので、株式会社ポケモンがNianticから支払いを受けるポケモンキャラのライセンス利用料および開発運営協力費は、Nianticの「ポケモンGO」売上高の50%程度に近い金額ではないかと推測します。
最後に、株式会社ポケモンはポケモンキャラの原著作権者3者との間で、ライセンスフィーの分配に関する契約を結んでいるはずです。
なので、株式会社ポケモンがNianticから支払いを受けるもののうち、ライセンス利用料についてはその契約に従って分配されます。
ただ、ここでは、あくまで分配の対象となるのは株式会社ポケモンがNianticから支払いを受けるもののうち、ライセンス利用料に限られると思われること(開発運営協力費は株式会社ポケモンからの分配対象となっていないのではないでしょうか)と、株式会社ポケモンの手数料を差し引いた残りが分配の対象となることから、株式会社ポケモンがNianticから受け取る金額の50%程度がポケモンキャラの原著作権者3者に分配されているのではないかと思います。
結局、ユーザーが支払う対価を100とすると
100☓70%☓50%☓50%
=17.5程度
がポケモンキャラの原著作権者3者の合計収入ということになるのではないかと思います。
そのうえで、原著作権者3者間の分配割合が最後に問題になりますが、これは3者の株式会社ポケモンに対する出資割合が3分の1ずつであろうことから、単純に3等分と推測してみました。
なお、この記事によると、AppStoreでのポケモンGOの配信を通じてアップルは30億ドル(約3100億円)程度の売り上げ増が見込めるということです。
【参考記事】
ポケモンGO「驚くべきこと」アップルCEOが称賛
Google Playも同規模だとすると、両者合計で60億ドル。ここから逆算すると(60億ドル/0.3)、ポケモンGOの売上は200億ドル(2兆円)ということになります。
とすると、ポケモンキャラの原著作権者3者の合計収入は、
2兆円×17.5%
=3500億円
となり、これを原著作権者3者で3等分すると任天堂の収入は約1200億円程度ということになります。
ちなみに、任天堂は、株式会社ポケモンの株式を32%持っていますので、株式会社ポケモンは、任天堂の「持ち分法適用会社」という関係になります。したがって、任天堂の連結会計上は株式会社ポケモンの利益の32%が任天堂の利益となりますが、これは会計上の処理がそうなっているというだけであって、実際に株式会社ポケモンが任天堂ら原著作権者にいくら支払っているかとは関係がありません。
3 まとめ
以上、「ポケモンGO」の収益構造について推測してみました。
5000億円の売上がある任天堂からすると、1200億円程度のライセンス収入はかなりの影響があると思われますが、これは推測の上に推測を重ねた数字なので、あくまで参考ということで。
関連記事を見ていると、「ポケモンGO」の開発にはゲームフリークがかなり関与しているようなので、もしかしたら、原著作者3者の分配割合は単純に3等分ではないかもしれませんね。
また、任天堂の「ポケモンGO」からの収益については、単なるライセンス収入だけでなく、関連物品(「Pokémon GO Plus」など)の製造販売などもあると思うので、これからどうなるか注目していきたいと思います。
(追記)
ポケモンキャラの原著作権者3者の合計収入に計算間違いがあったので、その点を修正し、その後の関連する部分についても修正しました(2016年8月16日)
【この記事の参考文献・参考記事】
「ポケモン・ストーリー」(畠山けんじ・久保雅一著)(日経BP社)
「踊るコンテンツ・ビジネスの未来」(畠山けんじ著・久保雅一企画監修)(小学館)
【岩田 聡氏 追悼企画】岩田さんは最後の最後まで“問題解決”に取り組んだエンジニアだった。「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」特別編
(弁護士柿沼太一)