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AIと著作権【第14回】RAGシステムのための既存著作物の蓄積・入力などは著作権侵害になるのか

アバター画像 柿沼太一


 2025年7月にSTORIA法律事務所の柿沼・杉浦の共著で日本加除出版から書籍「AIと法 実務大全」を出版します。
 本書は650頁超というボリュームでありながらも、AI開発や利活用に問題となる点を「網羅的」に解説するものではありません。あくまで、現場の方がAI開発や利活用を行う際に、法律的によく問題となる論点とその解決手法に照準を絞っています。その分個々の論点については、最先端の議論を下敷きにしつつ実務的に相当深掘りした記述となっています。
 書籍の出版に先立ち、その一部である「第2章 生成AI開発・提供・利用と著作権」について日本加除出版からご了解を得て、ブログで連載記事として先行公開することとしました。
 「一部」といっても記事合計13万字を越えるボリューム(ほぼ新書1冊分!)であり、ブログ公開を快諾いただいた日本加除出版には感謝しかありません。
 この連載記事を読んで興味が湧いた方は是非書籍をお買い求めください!

連載「AIと著作権」全18回の目次を表示
  1. 第1回 プレイヤー・フェーズ・提供形態による法的整理
  2. 第2回 AI学習段階での著作物利用はどこまで許されるか?──著作権法第30条の4の射程
  3. 第3回 学習用データとして“何を使ってはいけないか”を見極める~学習対象の観点からの検討~
  4. 第4回 海賊版や学習禁止表示がされている著作物をAI学習に利用することができるか
  5. 第5回 開発・学習段階での著作権侵害行為が発生した場合、侵害者はどのような責任を負うか
  6. 第6回 生成・利用段階では何が問題になるのか?
  7. 第7回 類似AI生成物の「生成」における依拠性をどのように考えるか~複雑な論点を解きほぐす~
  8. 第8回 類似AI生成物の「生成」における行為主体性~ロクラクⅡ事件判決をベースに徹底的に考える~
  9. 第9回 生成された類似AI生成物を利用すると著作権侵害?
  10. 第10回 類似AI生成物の「送信」は誰の責任?──クラウド提供型AIにおける著作権侵害リスクを検証する
  11. 第11回 生成・利用段階で著作権侵害行為が認められた場合、権利者は何を請求できるのか
  12. 第12回 RAG・ロングコンテクストLLMと著作権侵害(前編)
  13. 第13回 RAG・ロングコンテクストLLMと著作権侵害(後編)
  14. 第14回 RAGシステムのための既存著作物の蓄積・入力などは著作権侵害になるのか
  15. 第15回 RAGとAI利用者の責任~入力・送信・出力のそれぞれで何が問われるか?~
  16. 第16回 AI生成物に著作権はあるのか?~著作物性と“創作的寄与”の最新実務論~
  17. 第17回 その行為に日本著作権法は適用されるか~準拠法の問題~
  18. 第18回 で、結局何に気をつければよいのか~AI開発者・AI提供者・AI利用者それぞれの注意事項~

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(5) タイプ2

 

図74

 タイプ2は、AI提供者がRAGに利用する既存著作物を自ら収集・蓄積し、当該著作物を利用したRAGサービスをSaaSの形式でAI利用者に提供するタイプです。ただし、タイプ1と異なり、収集・蓄積・入力された既存著作物の同一・類似物が生成されています(図74)。
 タイプ2に関しては、「ア 既存著作物の蓄積・入力行為」「イ 入力された既存著作物と同一・類似のAI生成物の生成・利用行為」それぞれについて著作権侵害の有無を検討する必要があります。

ア 既存著作物の蓄積・入力行為(図75)

 

図75

(ア) 行為主体

 タイプ2においても、既存著作物の蓄積・入力行為を物理的に行っているのは、タイプ1同様、AI提供者ですので、AI提供者が行為主体となります。

 (イ) 権利制限規定

 (ⅰ) 30条の4
 タイプ2においては、タイプ1と異なり、蓄積・入力された既存著作物と同一・類似のAI生成物の生成・利用行為を行う目的(表現出力目的)があるため、30条の4は適用されません1「考え方」22 頁 (図 76)。
 

図76

 (ⅱ) 47条の5第2項
 一方、「イ 入力された既存著作物と同一・類似のAI生成物の生成・利用行為」が47条の5第1項により適法化される場合には、それに先立つ「ア 既存著作物の蓄積・入力行為」についても、47条の5第2項により適法化される可能性があります2「考え方」22 頁
 その意味で、実際には、「ア 既存著作物の蓄積・入力行為」が47条の5第2項により適法化されるか否かは、「イ 入力された既存著作物と同一・類似のAI生成物の生成・利用行為」が47条の5第1項により適法化されるかどうかにかかっていることになります。
 その点については以下「イ 入力された既存著作物と同一・類似のAI生成物の生成・利用行為」で詳細に検討します。
(ⅲ) その他の権利制限規定
 また、タイプ1で述べたように、30条1項、35条、30条の3が適用される場合にも著作権侵害には該当しません。

イ 入力された既存著作物と同一・類似のAI生成物の生成・利用行為(図 77)

 

図77

 この「イ 既存著作物と同一・類似のAI生成物の生成・利用行為」については、「3 生成・利用段階における著作物利用行為と著作権侵害」で説明したことが基本的にはあてはまります。
 つまり、① 著作物の利用行為である生成・送信・利用に分けて検討すること、②それぞれの著作物利用行為ごとに依拠性・行為主体性・権利制限規定・故意過失を検討することが必要です。

(ア) 生成

 (ⅰ) 依拠性
 開発・学習段階において利用された学習対象著作物の類似AI生成物が生成・利用段階において生成された場合の依拠性については、「AI利用者による依拠」と「AIによる依拠」のいずれが存在するかを検討する必要があると説明しました。
 一方、RAGの場合は、いずれのタイプであっても、生成・利用段階で既存著作物がAIに入力され、その結果類似AI生成物が生成されていることから、依拠性があることは明らかです。
 (ⅱ) 行為主体性
 開発・学習段階において利用された学習対象著作物の類似AI生成物が生成・利用段階において生成された場合の行為主体性については、ロクラクⅡ最判の考え方を前提として、学習モデルの開発から生成物の出力に至るまでの一連の流れにおける、AI開発者・AI提供者・AI利用者それぞれの関与の内容・程度等の諸要素を総合的に考慮し,いずれが、あるいは双方が、既存著作物と類似するAI生成物の生成(複製)における「枢要な行為」を行っているか(重要な役割を果たしているか)という観点から判断すべきと説明しました。
 RAGの場合でも行為主体性の判断に際しては、同じ基準により判断すべきと考えます。
 ロクラクⅡ事件では、サービス提供者が複製主体に該当すると判断された理由として「複製対象の放送番組をサービス提供者が自らの支配管理下で複製機器に入力している点」が重視されたと評価されています。
 そして、RAGの場合、蓄積・入力された既存著作物の解析結果として、類似AI生成物が生成されています。
 したがって、RAGの行為主体性の判断においては「蓄積・入力対象となった著作物を、AI提供者・AI利用者のいずれが蓄積し、AIに入力しているか」を重視すべきと考えます。
 これを前提とすると、タイプ2のRAGにおいては、蓄積・入力対象となった著作物を蓄積・入力しているのはAI提供者であることからすると、AI提供者が行為主体に該当することは明らかと考えます3事業者が侵害対象著作物を収集、蓄積しユーザのリクエストに応じて複製(入力及び出力)しているという点では、ロクラクⅡのサービスとタイプ2のRAG はかなり類似しているといえよう。
 もっとも、RAGの場合、AI利用者が、AI生成物の生成(複製)に際して様々なコントロールを行うことが可能であり、当該AI利用者の行為の内容によって、類似AI生成物の生成の可能性が大きく異なります。
 したがって、行為主体性の判断に際してはAI利用者の行為態様も考慮すべきです。
 たとえば、AI利用者が、蓄積された著作物の内容を認識しつつ、同著作物の類似AI生成物を生成しようとして特殊なプロンプトを入力したり、繰り返し指示を行っている場合などは、AI提供者に加えて例外的にAI利用者も行為主体に該当するでしょう。そのような場合には両者とも行為主体(複製主体)に該当することとなります。
(ⅲ) 権利制限規定
 仮に類似AI生成物の「生成」について類似性・依拠性を満たしたとしても、権利制限規定の適用があれば著作権侵害には該当しません。
 この場合に適用可能な権利制限規定として考えられるのは、47条の5第1項とそれ以外の権利制限規定です。特に47条の5第1項については「考え方」でもRAGにて起用可能な権利制限規定として明示されていることから、本書でも紙幅を割いて検討します。
 ① 47条の5第1項
 RAGの回答生成に際して47条の5第1項が適用されうることについては、「考え方」21頁~において、以下のように明確化されています(強調部筆者)。

ウ 検索拡張生成(RAG)等について
 ○ 略
 ○ 法第 30 条の 4 が適用されない場合でも、RAG 等による回答の生成に際して既存の著作物を利用することについては、法第 47 条の5第1項第1号又は第2号の適用があることが考えられる。
 ただし、この点に関しては、法第 47 条の5第1項に基づく既存の著作物の利用は、当該著作物の「利用に供される部分の占める割合、その利用に供される部分の量、その利用に供される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なもの」(軽微利用)に限って認められることに留意する必要がある。また、同項に基づく既存の著作物の利用は、同項各号に掲げる行為に「付随して」行われるものであることが必要とされているように、既存の著作物の創作的表現の提供を主たる目的とする場合は同項に基づく権利制限の対象となるものではない、ということにも留意する必要がある。
 そのため、RAG 等による生成に際して、「軽微利用」の程度を超えて既存の著作物を利用するような場合は、法第 47 条の5第1項は適用されず、原則として著作権者の許諾を得て利用する必要があると考えられる。
 ○ また、RAG 等のために行うベクトルに変換したデータベースの作成等に伴う、既存の著作物の複製又は公衆送信については、同条第2項に定める準備行為として、権利制限規定の適用を受けることが考えられる。

 (a) 「電子計算機による情報解析を行い、及びその結果を提供すること」
 47条の5第1項が適用されるためには、まず1号(「電子計算機を用いて、検索により求める情報(略)が記録された著作物の題号又は著作者名、送信可能化された検索情報に係る送信元識別符号(略)その他の検索情報の特定又は所在に関する情報を検索し、及びその結果を提供すること」または2号(「電子計算機による情報解析を行い、及びその結果を提供すること」)に該当する必要があります。
 RAGにおいては、利用者が入力した内容について、電子計算機を用いて蓄積したベクトルDBから検索を行い、検索結果及び利用者の入力内容をAIに入力・解析して情報解析を行い、その結果を提供しています。
 したがって、RAGにおいては電子計算機による情報解析及びその結果提供が行われていることになりますので、RAGは47条の5第1項2号の要件を満たすこととなります。
 なお、予め構築したベクトルDBではなく、質問(クエリ)に応じてインターネット上のデータを検索してRAGに利用(AIに入力)するタイプのRAG(WebRAG)も近時一般化されつつあります。そのようなWebRAGは47条1項1号を満たすかが問題になるでしょう。
 (b) 「電子計算機を用いた・・・(・・・当該行為を政令で定める基準に従つて行う者に限る。)」
 次に、47条の5第1項の適用を受けるためには、主体要件として政令で定める基準を満たす必要があります。
 政令で定める基準は「インターネット情報検索サービス(送信可能化された検索情報に係る送信元識別符号を検索し、及びその結果提供する行為)」か否かによって異なります。
 RAGは、通常「インターネット情報検索サービス」には該当しない4 138)ただし、ベクトルDB に蓄積されたデータだけではなくウェブ上のデータも検索して解析に用いるRAG
(WebRAG)は「インターネット情報検索サービス」に該当する可能性がある。その場合、異なる要件をクリアする必要があることに注意が必要である。
ため、以下の要件を満たす必要があります。 

① 47条の5第2項により作成された著作物等の複製物を使用する場合に、当該複製物に係る情報の漏えいの防止のために必要な措置を講ずること(著作権法施行令7条の4第1項2号)
 ② 要件の解釈を記載した書類の閲覧、学識経験者への相談等(同施行令7条の4第1項3号及び施行規則4条の5第1号)
 ③ 問合せを受けるための連絡先等の情報の明示(同施行令7条の4第1項3号及び施行規則4条の5第2号)

 ▼ 47条の5第2項により作成された著作物等の複製物を使用する場合に、当該複製物に係る情報の漏えいの防止のために必要な措置を講ずること(施行令7条の4第1項2号)
 「47条の5第2項により作成された著作物等の複製物」とは、RAGでの解析のために蓄積された複製物やベクトルDBを指します。
 そして、「情報の漏洩の防止のために必要な措置」とは、大量の情報を扱うビジネスを行うに当たって社会通念上求められる外部からのアクセスを防ぐような措置を指し、一般的なデータベースよりも高度なアクセス防止措置を求めるものではありません。
 したがって、RAGにおいても蓄積した複製物やベクトルDBについて通常のアクセス制限を行えば、この要件は満たします。
 ▼ 要件の解釈を記載した書類の閲覧、学識経験者への相談等(施行令7条の4第1項3号及び施行規則4条の5第1号)
 「要件の解釈を記載した書類」としては、47条の5に関連して、文化庁著作権が作成・公開している解説やコンメンタールが該当します5松田政行編『著作権法コンメンタール別冊 平成30 年・令和2年改正解説』(勁草書房、2022)98 頁 。また「学識経験者」とは著作権法に精通している者を意味しており、たとえば、学者、弁護士や弁理士等を意味します6松田政行編『著作権法コンメンタール別冊 平成30 年・令和2年改正解説』(勁草書房、2022)99 頁
 なお、これらの要件は「あらかじめ」行っていることが求められるため、訴訟になった場合の立証に備えて、「要件の解釈を記載した書類」の閲覧記録を日時が判る形で残しておくのが望ましいです。
 ▼ 問合せを受けるための連絡先等の情報の明示(施行令7条の4第1項3号及び施行規則4条の5第2号)
 本要件については、サービス実施者のメールアドレスや電話番号等の連絡先をサービス利用規約等に表示すれば足りるでしょう7松田政行編『著作権法コンメンタール別冊 平成30 年・令和2年改正解説』(勁草書房、2022)99頁
 (c)「当該行為に付随して」
 RAGにおいて、情報解析の対象となった既存著作物の一部を表示する行為(「著作物利用行為」)は、「情報解析結果(「結果」)を提供する行為(「結果提供行為」)に「付随して」」の要件(付随性)を満たす必要があります。
 このような付随性の要件が要求されるのは、所在検索サービスや情報解析サービスの主たる目的はあくまで結果提供行為にあり、著作物利用行為は、当該「結果」がユーザの求める情報であるか否か容易に確認することができるようにするために限定的に許容されているに過ぎないためです。
 「付随して」と言えるためには、① 情報解析結果の提供行為(結果提供行為)と、当該提供に伴う検索対象となった既存著作物の一部を表示する行為(著作物利用行為)の区分可能性及び② 前者が「主」、後者が「従」の関係になければなりません。
 結果提供行為と著作物利用行為が一体化している場合については、区分可能性がなく、また著作物の利用が主たる目的であることも多いと考えられるため「付随して」の要件を満たさないことが多いと思われます8松田政行編『著作権法コンメンタール別冊 平成30 年・令和2年改正解説』(勁草書房、2022)104 頁
 RAGの設計に際しては付随性の要件を満たすように留意が必要であり、たとえば情報解析結果の表示を省略して、単に情報解析に用いられた既存著作物の一部分のみを表示することがないようにする必要があります。
 平成30年改正の前提となった平成29年文化審議会著作権分科会報告書9 https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/h2904_shingi_hokokusho.pdf47頁においても「形式的には所在検索や情報分析の結果とともに著作物が表示等されるものであっても、実質的には著作物そのものを享受させることを目的とした、いわばコンテンツ提供サービスと評価すべきもの」については権利制限の対象とならないとされています。
 (d) 「軽微利用」
 47条の5第1項は、著作物の利用行為について「いずれの方法によるかを問わず、利用(当該公衆提供等著作物のうちその利用に供される部分の占める割合、その利用に供される部分の量、その利用に供される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なものに限る。以下この条において「軽微利用」という)を行うことができる。」としています。
 「軽微」であるかどうかは、外形的な要素を総合的に考慮して、著作物の本来的な市場に影響を与える可能性が類型的に低い程度の利用態様であるか否かによって判断されることになります10松田政行編『著作権法コンメンタール別冊 平成30 年・令和2年改正解説』(勁草書房、2022)105 頁
 立法担当者の解説では、著作物のうち「漫画、小説、論文、映画など一定の分量があって流れ(ストーリー)のある著作物」については、著作物全体のうちどの程度の割合及び量が利用されているかが軽微性に与える影響が大きく、「絵画やイラスト、写真などの単独で完結している著作物」については、通常、その画質が鑑賞に堪えるようなものかどうかが軽微性に与える影響が大きい傾向にある、とされています11松田政行編『著作権法コンメンタール別冊 平成30 年・令和2年改正解説』(勁草書房、2022)105 頁 。そして、前者については、「50パーセントを超える割合で利用している場合」には軽微性要件を満たす可能性は低いであろうとされています。
 また、平成30年著作権法改正の前提となった文化審議会著作権分科会報告書12https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/h2904_shingi_hokokusho.pdf では、軽微性についての説明部分において「Google Booksでは、ユーザに対して表示される検索結果に表示されるのは通常1頁の8分の1であり、書籍全体のうち10%の領域はあらかじめ表示対象から除外されている。また、辞書、レシピ、俳句のような短文詩は表示対象から除外される。」と紹介されています(同報告書P48脚注70)。
 「軽微」要件を満たすための基準を明確に設定するのは難しいですが、あくまで「外形的」な要素を考慮するとされているので、表示される既存著作物(文章)の、元書籍の当該文章が記載されている頁内に占める割合が10パーセント以下であれば「軽微」要件を満たすのではないかと考えます。

 ■ コラム:画像生成AIサービスにおいて47条の5は適用可能か
 画像生成AIサービスにおいては、AIに入力された画像をAIが加工して加工画像を生成することができます(いわゆるi2i)。当該加工画像が入力画像の複製または翻案である場合、47条の5は適用できるのでしょうか。
 この場合、情報解析の結果提供行為(加工画像の加工部分の提供行為)行為と、利用対象著作物(入力された画像)の利用行為が一体化しているため、「付随性」を満たさず47条の5は適用されません13「考え方」22 頁脚注25 14『AI と著作権』23 頁〔愛知〕
 一方、RAGの場合は、そのシステム内容次第では付随性・軽微性を満たすことも十分考えられますから、47条の5の適用を検討する意義は大きいでしょう15 『AI と著作権』24 頁〔愛知〕、前田健「生成AI における学習用データとしての利用と著作権」(有斐閣オンライン)

 (e) ただし書(「ただし、(略)当該軽微利用を行う場合その他当該公衆提供等著作物の種類及び用途並びに当該軽微利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。」)
 47条の5第1項ただし書では、著作権者の利益が不当に害されることとなる場合には、権利制限の適用を受けないことを定めており、これに該当するか否かは、同様のただし書を置いている他の権利制限規定と同じく、著作権者の著作物の利用市場と衝突するかあるいは将来における著作物の潜在的販路を阻害するかという観点から、最終的には司法の場で具体的に判断されることになります。
 例えば、辞書のように複数ある語義のうち、一部のみでも確認されれば本来の役割を果たすような著作物について当該一部を表示することや、映画の核心部分のように一般的に利用者の有している当該著作物の視聴等にかかわる欲求を充足するような著作物について当該核心部分を著作物の一部分として表示することは、そのオリジナルの著作物の視聴等に係る市場に悪影響を及ぼし得ることから、利用の態様によっては、同項ただし書に該当することとなり、同項の権利制限の対象とならないものと考えられます16「基本的な考え方」問31(24 頁)
 RAGの場合、蓄積された既存著作物の一部が出力として表示される場合であっても、軽微性の要件を満たすのであれば、表示されるのは大量に蓄積された既存著作物のごく一部だけですから、当該表示部分が「辞書のように複数ある語義のうち一部のみでも確認されれば本来の役割を果たすような著作物について当該一部を表示すること」に該当することは考えにくいと想われます。
 したがって、RAGにおいて、ただし書に該当するケースは考えにくいように思われます。
 ③ それ以外の権利制限規定
 具体的には、私的使用目的の複製(法第 30 条第1項)、学校その他の教育機関における複製等(法第 35 条)、また、企業・団体等の内部において、生成物を生成することについては、生成物が既存著作物と類似している検討過程における利用(法第 30 条の 3)の適用が考えられます17「考え方」38頁
 また、引用(法第 32 条第1項)の適用も考えられます。
 (ⅳ) 故意・過失
 タイプ2のRAGにおいては、AI提供者自身が対象著作物を蓄積・入力しており、同提供者が行為主体であるため、類似AI生成物の「生成」について故意があることは明らかです。

(イ) 送信

 (ⅰ) 依拠性
 (ア)で述べたように、RAGにおいては「生成」について依拠性があることが明白であることからすると、生成された類似AI生成物の「送信」についても依拠性が認められると考えます(間接依拠)。
 (ⅱ) 行為主体性
 タイプ2のRAGの場合、「生成」についてAI提供者が行為主体に該当しますので、当該生成された類似AI生成物の「送信」についてもAI提供者が行為主体に該当することとなります。
(ⅲ) 権利制限規定の適用
 「生成」と同様、47条の5第1項等の権利制限規定の適用が考えられます。
 (ⅳ) 故意・過失
 タイプ2のRAGの場合、類似AI生成物の「送信」についてAI提供者が行為主体に該当するため、当然故意は存在することとなります。

 (ウ) 利用

 (ⅰ) 依拠性
 (ア)で述べたように、RAGにおいては「生成」について依拠性があることが明白であることからすると、生成された類似AI生成物の「利用」についても依拠性が認められると考えます(間接依拠)。
(ⅱ) 行為主体性
 生成された類似AI生成物をAI利用者が「利用」(公衆送信や販売)する場合、物理的にはAI利用者のみが行為を行っています。
 したがって、AI利用者が「利用」についての行為主体に該当することは明白です。
 一方、AI開発者・AI提供者は生成物の「利用」には物理的にも規範的にも関与していないため、AI開発者・AI提供者が「利用」に関する行為主体に該当することはありません。
 ただし、AI利用者の「利用」が著作権侵害となる場合には、AI提供者がその幇助者として共同不法行為責任(民法719条2項)を負う可能性があります。
 この点については、従来の判例上、行為主体が著作権侵害を生じさせる蓋然性が高いと客観的に認められ、この蓋然性を幇助者において予見でき、侵害結果回避のための措置を講ずることが可能であったこと等の事情から、幇助者に一定の注意義務が認められるにもかかわらず、この注意義務を怠った場合等に、当該責任が認められた事例があります(最判平成 13 年3月2日民集 55 巻2号 185 頁〔ビデオメイツ事件〕等)(「考え方」37頁・脚注50)。
 タイプ2のRAGにおいて類似AI生成物の生成等に権利制限規定が適用されないことが明らかな場合、たとえば、RAGの出力において蓄積・入力された既存著作物の相当な分量がそのまま出力され、47条の5第1項やそれ以外の権利制限規定を明らかに満たさない場合などは、上記ビデオメイツ事件最判が判示する「行為主体が著作権侵害を生じさせる蓋然性が高いと客観的に認められ、この蓋然性を幇助者において予見でき、侵害結果回避のための措置を講ずることが可能であった」に該当するため、「利用」についてもAI提供者が幇助者としてAI利用者と共に共同不法行為責任(民法719条2項)を負う可能性が高いと思われます。
 (ⅲ) 権利制限規定の適用
 私的使用目的の複製(法第 30 条第1項)、学校その他の教育機関における複製等(法第 35 条)、また、企業・団体等の内部において、生成物を生成することについては、生成物が既存著作物と類似している検討過程における利用(法第 30 条の 3)の適用が考えられます。
 なお、AI利用者による類似AI生成物の「利用」については、AI利用者自身が「検索結果提供」(同1号)や「情報解析結果提供」(同2号)サービスを第三者に提供している場合であれば47条の5第1項の適用可能性はありますが、そうでなく、単に自ら生成した類似AI生成物を公衆送信・販売しているような場合は、同条は適用されません。
 (ⅳ) 故意・過失
 「AI利用者(正確に言えばAI生成物の利用者)」が、出力物が、蓄積・入力された既存著作物と類似していることを認識しつつ「利用」した場合は、AI利用者に「故意」があることになりますが、RAGの場合、蓄積される既存著作物は膨大な量に上るため、そのようなケースはほとんどないと思われます。
 問題はAI利用者に「過失」があるかです。
 一般論としては、生成・利用段階における、類似AI生成物のAI利用者による「利用」について、AI利用者の「過失」に関しては、調査の範囲に限界があることから、調査義務違反に基づく過失が問われるケースは少ないのではないかと説明しました。
 しかし、RAGの場合、どのタイプであっても、ベクトルDBとして蓄積されている著作物の内容についてはAI利用者がAI提供者に確認するなどして調査・確認することは可能です。
 したがって、RAGに関しては、AI利用者において、蓄積されている著作物の内容と出力物との間の類似性を比較検討し著作権侵害の有無を調査する義務を課しても酷ではありません。
 以上の見地からRAGにおいて、生成された類似AI生成物の「利用」については通常、AI利用者に過失が認められると考えます。

 ■ コラム:タイプ1とタイプ2の間
 タイプ1とタイプ2の間のケースをどのように考えるべきでしょうか。
 具体的には、RAGの出力として、蓄積した既存著作物の類似AI生成物を出力させる目的がなく、実際にそのような出力がなされないように技術的措置も講じていたが、制御を失敗して、「たまたま」類似AI生成物が出力されてしまったケースです。
 この場合、まず「既存著作物の蓄積・入力行為」については、表現出力手目的がない以上、30条の4が適用されて適法となります。結果的には「入力された既存著作物の類似AI生成物が出力されている」という状態なので、客観的にはタイプ2と同様に見えますが、「表現出力目的」がないことから、タイプ2とは明確に区別する必要があります。
 また「入力された既存著作物と同一・類似のAI生成物の生成・送信・利用行為」については、依拠性について限定肯定説をとる本書の立場からすると、この場合は「依拠性」がなく著作権侵害は成立しないこととなります。

脚注一覧

  • 1
    「考え方」22 頁
  • 2
    「考え方」22 頁
  • 3
    事業者が侵害対象著作物を収集、蓄積しユーザのリクエストに応じて複製(入力及び出力)しているという点では、ロクラクⅡのサービスとタイプ2のRAG はかなり類似しているといえよう。
  • 4
    138)ただし、ベクトルDB に蓄積されたデータだけではなくウェブ上のデータも検索して解析に用いるRAG
    (WebRAG)は「インターネット情報検索サービス」に該当する可能性がある。その場合、異なる要件をクリアする必要があることに注意が必要である。
  • 5
    松田政行編『著作権法コンメンタール別冊 平成30 年・令和2年改正解説』(勁草書房、2022)98 頁
  • 6
    松田政行編『著作権法コンメンタール別冊 平成30 年・令和2年改正解説』(勁草書房、2022)99 頁
  • 7
    松田政行編『著作権法コンメンタール別冊 平成30 年・令和2年改正解説』(勁草書房、2022)99頁
  • 8
    松田政行編『著作権法コンメンタール別冊 平成30 年・令和2年改正解説』(勁草書房、2022)104 頁
  • 9
    https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/h2904_shingi_hokokusho.pdf
  • 10
    松田政行編『著作権法コンメンタール別冊 平成30 年・令和2年改正解説』(勁草書房、2022)105 頁
  • 11
    松田政行編『著作権法コンメンタール別冊 平成30 年・令和2年改正解説』(勁草書房、2022)105 頁
  • 12
    https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/h2904_shingi_hokokusho.pdf
  • 13
    「考え方」22 頁脚注25
  • 14
    『AI と著作権』23 頁〔愛知〕
  • 15
    『AI と著作権』24 頁〔愛知〕、前田健「生成AI における学習用データとしての利用と著作権」(有斐閣オンライン)
  • 16
    「基本的な考え方」問31(24 頁)
  • 17
    「考え方」38頁
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