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スタートアップ

【スタートアップ資本政策連載・第3回】 株式の取り扱い

坂田晃祐 坂田晃祐

*本記事は「【連載】ストーリーを通じて学ぶスタートアップのための資本政策と資金調達手法」の第3回目の記事です。

第3回「株式の取り扱い」では、株式会社における株式について解説します。前回記事で、「スタートアップでは基本的に株式会社が選択されることになる」と説明しました。言い換えれば、株式会社にしておいたほうが都合がいいということです。株式会社にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

株式とはなにか

藤本「会社にもいろいろあるけど、EmotechのようなEXITを見据えたスタートアップであれば、基本的には株式会社を選択すべきだろうね」

大山「株式会社にする理由って何かあるんですか?」

藤本「それを説明するには、『株式』が何かを説明するのが手っ取り早いね。『株式』って何のことか皆は把握してる?」

株式=会社の実質的な所有権の細分化

株式とは、おおまかにいうと、株式会社の実質的な所有権(構成員としての地位)を細分化したものです。

株式を保有している人(株主)は、会社に関する様々な権利を保有しています。

たとえば、

  • 会社が利益を得た場合、利益の分配(配当)を受けることができます(配当受領権)。
  • 会社が畳まれる(清算)場合に、会社に残った財産の分配を受けることができます(残余財産分配請求権)。
  • 株主は、株主総会において議決権を行使することができます。通常、株式1つにつき議決権は1つです。株主総会では、会社に関する一切の事項について決議することができ、会社は株主総会の意思決定に従って行動します。

大山「よく『会社は株主のもの』って聞きますけど、議決権によって会社の方向性を決められるからなんですね」

その他、株主であることを理由とした様々な権利を行使できます(株主提案権、株主総会招集請求、計算書類閲覧請求権等)。

  • 発行済株式(議決権)の3%を保有している株主は、会計帳簿の閲覧を請求することができる(会社法433条1項各号)。
  • 発行済株式(議決権)の1%を保有している株主は、株主総会において自らが指定する議案を審議することを請求することができる(会社法304条)。 →たとえば、「自分を代表取締役に選任する」旨の議案を審議することを請求することができる。

川崎「たった1%で『自分を代表にしろ』って言える、と考えると、株式って思ったより重要なものなんですね」

藤本「もちろん、その後その人が代表になるかどうかは、株主総会の議決の結果次第だけどね。でも、川崎さんの言うとおり、株式を付与するかどうかはとても重要な決断になることは確かだ」

また、株式には以下の原則があります。

有限責任:会社が損失を支払いきれずに倒産してしまうと、株主は上記のような株主としての権利を失うため、出資額を回収する手段を失います。他方で、会社の財産は株主の財産とは別に管理されているので、会社の損失を株主が支払う必要はありません。このように、株主は最大でも出資額全額を回収できないという限度のリスクしか負わないことを、有限責任といいます。

佐々木「出資したお金は返ってこないかもしれないけど、うまくいけば株式の価値が大きくなるし、最悪でも出資した額全額がなくなるだけ、ってことですね」

藤本「そう。投資家としては、出資した額以上のリターンを期待してお金を出すわけだね」

株式平等の原則:株主は、保有する株式の内容・数に応じて平等に取り扱われます(株主平等の原則)。ある株主には1株あたり2個の議決権を認め、それ以外の株主には1株あたり1個の議決権しか認めないといった取り扱いはできませんし、同じ内容の株式を保有しているのに、配当にあたって特定の株主だけを優遇することはできません。 特定の株主のみ異なる取り扱いをするためには、内容が異なる別の種類の株式を発行する必要がありますが、詳しくは後述します。

佐々木「株主はみんな平等なんだな。内容が異なる別の種類の株式を同時に発行することもできるんですね」

藤本「君たちの会社が無事大きくなれば、別の種類の株式を発行することもあるだろうね」

株式譲渡自由の原則:株式は原則として他者に自由に譲渡することができます(会社法127条)。合同会社・合資会社・合名会社での持分(株式に相当するもの)は、社員(持分保有者)全員の同意がなければ譲渡できませんので、株式会社は、他の会社形態と比べて株式譲渡のハードルが低いといえます。ただし、スタートアップにおいては、株式譲渡について株主総会または取締役会の承認を要する旨の制限がつけられることが一般的です(会社法107条1項1号等)。

藤本「株式譲渡が容易だということは、株式の価値を金銭的リターンに変換しやすいということになるね」

出資の対価としての株式

藤本「さっきも説明したとおり、株式は資金調達の際にも使われるよ。エクイティでの資金調達(エクイティ・ファイナンス)を行う場合には、出資の対価として、出資額に応じた株式を投資家に渡すことになる」

川崎「株式会社が選ばれる理由は、株式は自由に譲渡できるため、資金調達に適しているから、ということでしたね」

藤本「そういうことだね。佐々木くん、さっきの復習だけど、投資家は何を期待して株式を取得すると思う?」

佐々木「出資した額よりも、株式が値上がりすることですね」

藤本「そのとおり。エクイティでの資金調達の場合、出資した額そのものは返ってこないけど、かわりに取得した株式の価値が上昇すれば、出資額以上のリターンが返ってくる、ということだね」

大山「多額の出資を受けたければ、その分株式を多く投資家に渡す必要があるのか。でも、株式を外部投資家に渡しすぎると、自由な経営ができなくなりませんか」

藤本「スタートアップの側から見れば、そうなるね。解決する方法は色々あるけど、例えば…」

【解説】

エクイティによる資金調達を行う際、出資を受けたスタートアップは対価として株式を投資家に対し交付することになります。

株式を保有することによる経済的メリットは、一般的には①配当による収益(インカムゲイン)②株式自体の値上がりによる収益(キャピタルゲイン)の2つがありますが、一般的にスタートアップの株式では①インカムゲインは重視されず1配当は会社の営業利益から行われますが、スタートアップは資金調達した金額で短期間に急激な成長を目指すため、短期的には営業利益を度外視することも多く、また営業利益が生じたとしてもさらなる成長のための設備投資等に使われるためです。、②キャピタルゲインを目的に投資が行われます。

エクイティでの資金調達にあたっては、投資額に応じた額の株式を渡す必要が生じます。株式は、株式会社の実質的な所有権を細分化したものですから、投資家が多くの株式を保有すると、創業者側の議決権保有割合が低下し、投資家の意見が会社経営において通りやすくなります。自由な経営を行いたいスタートアップ側からすると、これはリスクとなります。

投資家へ付与する株式が多くなりすぎないよう、一般的には、以下のような方法がとられます。

株式評価のタイミングを後にずらす

株式を発行する場合には、一株あたりの値段(発行価格)を決定することになりますが、発行価格は、以下の式で表されます。

発行価格=(現在の企業価値)÷その時点の発行株式総数

投資額と発行価格の間には、以下の式の関係が成り立つので、同じ金額の投資を受けるのであれば、発行価格が高いほうが、投資家に付与する株式の数は少なくなります。

投資額=発行価格×発行する株式数

発行価格を高くする=企業価値を高めることで、付与する株式の数を減らすことができるため、スタートアップにとっては、「できるだけ企業価値が上がるまで他の調達手段で我慢し、可能な限り企業価値を上げてからエクイティによる調達をする」ということが一つの鉄則となります。特に、会社設立当初のいわゆるシード期においては、企業価値を見積もることがそもそも難しい場合も多く、ある程度企業としての基盤が整ってからのほうが、結果的に投資も受けやすくなります。

たとえば、大学発特許を製品化するディープテックスタートアップの場合は、本当の立ち上げ初期は、助成金や手持ちの資金などでミニマムに事業を回し、重要なライセンス契約(大学との間の基本特許のライセンス契約等)を締結し、企業価値がある程度上昇してから外部からのエクイティによる調達に臨むというのが理想の流れになります。

新株予約権による出資を活用する

新株予約権とは、別途定めた条件を満たすと行使することができ、行使とともに株式を取得することのできる権利のことをいいます。

新株予約権は、株式そのものではありません(議決権などの会社の経営に参画する権利や配当を受領する権利はない)。このため、新株予約権とひきかえに投資を受けても、その時点では創業者の議決権保有割合は低下しないため、会社経営に支障は生じません。

新株予約権では、付与される株式の計算方法等についても記載しますが、一般的には企業価値の算定は先送りされる(新株予約権が付与された時点ではなく、行使時点で企業価値を算定するように設計される)ため、企業価値評価のタイミングを後ろにずらす目的でも利用されます。

種類株式(優先株式)を発行する

会社は、普通株式とは異なる条件を付した株式(種類株式)を発行することができます。

スタートアップ投資では、配当及び残余財産の分配の優先権(会社法108条1項1号)を付与した種類株式が発行されることが一般的であり、投資の段階(ステージ)に応じて「A種優先株式」「B種優先株式」などと呼ばれます。

これらの株式を保有している株主は、スタートアップが配当を行ったり、M&A・上場等のEXITに至った際の残余財産の分配が行われたりする際、普通株式に優先して配当や残余財産の分配を受けることができます。このようなオプション付きである種類株式は、同数の普通株式と比べて高い価値を有しているため、付与する数を少なく抑えることができます。

また、種類株式では、株主総会での議決権行使を制限することができる(会社法108条1項3号)ため、創業者の議決権保有割合は低下しない設計にすることも可能であり、実務上もよく行われています。このように、株式の内容をある程度自由に決定できる点が、種類株式発行のメリットとなります。

転換社債を発行する

社債(Bond)とは、会社が発行する債券のことをいいます。デッド形式の資金調達であり、会社には元本返済義務が生じます。

転換社債(転換社債型新株予約権付社債、Convertible Bond)とは、当初は社債として発行されていますが、新株予約権付社債に記載されている転換価格を支払えば株式に転換できるものをいいます。実際の株式価格より転換価格が低ければ、差額が投資家の利益になります。

新株予約権と同様に、株式そのものではないため創業者の議決権保有割合が低下しないほか、転換価格の算定は先送りすることも可能なため、企業価値評価のタイミングを後ろにずらすことができます。

こうして株式の大切さを理解した大山たちですが、スタートアップを創業するにあたり創業者株主が複数いる場合、当該株式の取り扱いについて契約を締結する必要があります。次回は、創業者株主間契約の重要性について解説します。

弁護士坂田晃祐

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    配当は会社の営業利益から行われますが、スタートアップは資金調達した金額で短期間に急激な成長を目指すため、短期的には営業利益を度外視することも多く、また営業利益が生じたとしてもさらなる成長のための設備投資等に使われるためです。