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人工知能(AI)、ビッグデータ法務 著作権

AIと著作権【第15回】RAGとAI利用者の責任~入力・送信・出力のそれぞれで何が問われるか?~

アバター画像 柿沼太一


 2025年7月にSTORIA法律事務所の柿沼・杉浦の共著で日本加除出版から書籍「AIと法 実務大全」を出版します。
 本書は650頁超というボリュームでありながらも、AI開発や利活用に問題となる点を「網羅的」に解説するものではありません。あくまで、現場の方がAI開発や利活用を行う際に、法律的によく問題となる論点とその解決手法に照準を絞っています。その分個々の論点については、最先端の議論を下敷きにしつつ実務的に相当深掘りした記述となっています。
 書籍の出版に先立ち、その一部である「第2章 生成AI開発・提供・利用と著作権」について日本加除出版からご了解を得て、ブログで連載記事として先行公開することとしました。
 「一部」といっても記事合計13万字を越えるボリューム(ほぼ新書1冊分!)であり、ブログ公開を快諾いただいた日本加除出版には感謝しかありません。
 この連載記事を読んで興味が湧いた方は是非書籍をお買い求めください!

連載「AIと著作権」全18回の目次を表示
  1. 第1回 プレイヤー・フェーズ・提供形態による法的整理
  2. 第2回 AI学習段階での著作物利用はどこまで許されるか?──著作権法第30条の4の射程
  3. 第3回 学習用データとして“何を使ってはいけないか”を見極める~学習対象の観点からの検討~
  4. 第4回 海賊版や学習禁止表示がされている著作物をAI学習に利用することができるか
  5. 第5回 開発・学習段階での著作権侵害行為が発生した場合、侵害者はどのような責任を負うか
  6. 第6回 生成・利用段階では何が問題になるのか?
  7. 第7回 類似AI生成物の「生成」における依拠性をどのように考えるか~複雑な論点を解きほぐす~
  8. 第8回 類似AI生成物の「生成」における行為主体性~ロクラクⅡ事件判決をベースに徹底的に考える~
  9. 第9回 生成された類似AI生成物を利用すると著作権侵害?
  10. 第10回 類似AI生成物の「送信」は誰の責任?──クラウド提供型AIにおける著作権侵害リスクを検証する
  11. 第11回 生成・利用段階で著作権侵害行為が認められた場合、権利者は何を請求できるのか
  12. 第12回 RAG・ロングコンテクストLLMと著作権侵害(前編)
  13. 第13回 RAG・ロングコンテクストLLMと著作権侵害(後編)
  14. 第14回 RAGシステムのための既存著作物の蓄積・入力などは著作権侵害になるのか
  15. 第15回 RAGとAI利用者の責任~入力・送信・出力のそれぞれで何が問われるか?~
  16. 第16回 AI生成物に著作権はあるのか?~著作物性と“創作的寄与”の最新実務論~
  17. 第17回 その行為に日本著作権法は適用されるか~準拠法の問題~
  18. 第18回 で、結局何に気をつければよいのか~AI開発者・AI提供者・AI利用者それぞれの注意事項~

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Contents

(6) タイプ3(図78)

 

図78

 タイプ3のRAGはAI提供者がRAGシステムの「ガワ」だけを提供し、AI利用者自身がRAGに利用する既存著作物を収集・蓄積するタイプです。
 たとえば、AI提供者が用意したサーバにAI利用者がRAGに利用する既存著作物をアップロードし、その後AI利用者が質問(クエリ)を送信して検索・解析・生成等が行われるタイプのRAGです。
 GoogleのNotebookLM1https://notebooklm.google/ はこのタイプのRAGと思われます。

ア 既存著作物の蓄積・入力行為

 (ア) 行為主体

 タイプ3においては、既存著作物の蓄積・入力行為を物理的に行っているのは、AI利用者ですので、AI利用者のみが行為主体となります。

 (イ)権利制限規定

 タイプ1で述べたことがそのまま当てはまります。
 具体的には以下のとおりです。

 ・ 原則として30条の4が適用され適法。
 ・ 例外的に「表現出力目的」がある場合は30条の4が適用されない。
 ・ ただし、「① そもそも蓄積・入力対象著作物と創作的表現が共通した生成物が生成されていない場合」「② 蓄積・入力対象著作物と創作的表現が共通した生成物が生成されることがあるが、そのような事態が著しく頻発しない場合」「③ サービサーが侵害物の生成を抑止するための実効的な技術的手段(フィルタリング等)を講じている場合」は表現出力目的がなく30条の4が適用され適法。

イ 入力された既存著作物と同一・類似のAI生成物の生成・利用行為

 タイプ3の場合、既存著作物と同一・類似のAI生成物の生成・利用行為は行われていませんので、この点は問題になりません。

(7) タイプ4(図 79)

 

図79

 タイプ4のRAGは、タイプ3と同様、AI提供者がRAGシステムの「ガワ」だけを提供し、AI利用者自身がRAGに利用する既存著作物を収集・蓄積するタイプです。ただ、タイプ3と異なり、蓄積・入力された既存著作物の同一・類似物が生成されています。

ア 既存著作物の蓄積・入力行為

 (ア) 行為主体

 タイプ4においても、既存著作物の蓄積・入力行為を物理的に行っているのは、タイプ3同様、AI利用者ですので、AI利用者が行為主体となります。

 (イ) 権利制限規定

 タイプ4においては、タイプ3と異なり、蓄積・入力された既存著作物と同一・類似のAI生成物の生成・利用行為を行う目的(表現出力目的)があるため、30条の4は適用されません。
 したがって、他の権利制限規定(47条の5第2項、30条1項、35条、30条の3)が適用されない限り著作権侵害となります。

イ 入力された既存著作物と同一・類似のAI生成物の生成・利用行為

 (ア) 生成

 (ⅰ) 行為主体性
 タイプ2で述べたように、RAGにおける既存著作物と同一・類似のAI生成物の生成の行為主体性を判断するに際しては、蓄積・入力対象となった著作物をAI提供者・AI利用者のいずれが蓄積し、AIに入力しているのかを行為主体性の判断に際しては重視すべきと考えます。
 そして、タイプ4のRAGにおいては、蓄積・入力対象となった著作物を蓄積・入力しているのはAI利用者であることからすると、AI利用者が行為主体に該当することは明らかと考えます。一方、AI提供者に行為主体性が認められることはないでしょう。
 (ⅱ) 権利制限規定
 タイプ2で述べたように、RAGにおける既存著作物と同一・類似のAI生成物の生性に関して適用可能な権利制限規定は、47条の5第1項、30条第1項、35 条第30 条の3、32条です。
 (ⅲ) 故意・過失
 タイプ4のRAGにおいては、AI利用者自身が対象著作物を蓄積・入力しており、同利用者が行為主体であるため、類似AI生成物の「生成」について故意があることは明らかです。

 (イ) 送信

 (ⅰ) 行為主体性
 生成された類似AI生成物の「送信」行為は、物理的にはAI提供者が行っています。
 もっとも、この場合、AI提供者は「生成」された類似AI生成物を自動的に「送信」しているに過ぎませんから、タイプ4においてはAI利用者が「生成」の行為主体に該当するため、AI利用者が「送信」についても行為主体に該当すると考えます2この場合は、AI 利用者自身が生成した著作権侵害物を自分に送信(すなわちダウンロード)していることとなる。
 (ⅱ) 権利制限規定
 「生成」と同様、47条の5第1項等の権利制限規定の適用が考えられます。
 (ⅲ) 故意・過失
 タイプ4のRAGにおいては、類似AI生成物の「送信」についてAI利用者が行為主体に該当するため、当然故意は存在することとなります。

 (ウ) 利用

(ⅰ) 行為主体性
 生成された類似AI生成物をAI利用者が「利用」(公衆送信や販売)する場合、物理的にはAI利用者のみが行為を行っています。
 したがって、AI利用者が「利用」についての行為主体に該当することは明白です。
 一方、AI提供者は生成物の「利用」には物理的にも規範的にも関与していないため、AI提供者が「利用」に関する行為主体に該当することはありません。
(ⅱ) 権利制限規定
 私的使用目的の複製(法第 30 条第1項)、学校その他の教育機関における複製等(法第 35 条)、また、企業・団体等の内部において、生成物を生成することについては、生成物が既存著作物と類似している検討過程における利用(法第 30 条の 3)の適用が考えられます。
 なお、AI利用者による類似AI生成物の「利用」については、AI利用者自身が「検索結果提供」(同1号)や「情報解析結果提供」(同2号)サービスを第三者に提供している場合であれば47条の5第1項の適用可能性はありますが、そうでなく、単に自ら生成した類似AI生成物を公衆送信・販売しているような場合は、同条は適用されません。
(ⅲ) 故意・過失
 タイプ4のRAGの場合は、AI利用者自身が既存著作物を蓄積・入力していることから、類似AI生成物の「利用」について故意が認められると思われます。

(8) タイプ5(図80)

 

図80

 タイプ5は、AI利用者がRAGに利用する既存著作物を自ら収集・蓄積してRAGシステムを構築するタイプです。

ア 既存著作物の蓄積・入力行為

 (ア) 行為主体

 タイプ5においては、既存著作物の蓄積・入力行為を物理的に行っているのは、AI利用者ですので、AI利用者のみが行為主体となります。

 (イ)権利制限規定

 タイプ1、3で述べたことがそのまま当てはまります。
 具体的には以下のとおりです。
 

・ 原則として30条の4が適用され適法。
 ・ 例外的に「表現出力目的」がある場合は30条の4が適用されない。
 ・ ただし、「① そもそも蓄積・入力対象著作物と創作的表現が共通した生成物が生成されていない場合」「② 蓄積・入力対象著作物と創作的表現が共通した生成物が生成されることがあるが、そのような事態が著しく頻発しない場合」「③ サービサーが侵害物の生成を抑止するための実効的な技術的手段(フィルタリング等)を講じている場合」は表現出力目的がなく30条の4が適用され適法。

イ 入力された既存著作物と同一・類似のAI生成物の生成・利用行為

 タイプ5の場合、既存著作物と同一・類似のAI生成物の生成・利用行為は行われていませんので、この点は問題になりません。

(9) タイプ6(図 81)

 

図81

 タイプ6は、タイプ5と同様、AI利用者がRAGに利用する既存著作物を自ら収集・蓄積してRAGシステムを構築するタイプです。ただしタイプ5と異なり収集・蓄積・入力された既存著作物の同一・類似物が生成されています。

ア 既存著作物の蓄積・入力行為

 (ア) 行為主体

 タイプ6においては、既存著作物の蓄積・入力行為を物理的に行っているのは、タイプ3同様、AI利用者のみですので、AI利用者が行為主体となります。

 (イ) 権利制限規定

 タイプ6においては、タイプ5と異なり、蓄積・入力された既存著作物と同一・類似のAI生成物の生成・利用行為を行う目的(表現出力目的)があるため、30条の4は適用されません。
 したがって、他の権利制限規定(47条の5第2項、30条1項、35条、30条の3)が適用されない限り著作権侵害となります。

イ 入力された既存著作物と同一・類似のAI生成物の生成・利用行為

 (ア) 生成

 (ⅰ) 行為主体性
 タイプ2で述べたように、RAGにおける既存著作物と同一・類似のAI生成物の生成の行為主体性を判断するに際しては、蓄積・入力対象となった著作物をAI提供者・AI利用者のいずれが蓄積し、AIに入力しているのかを行為主体性の判断に際しては重視すべきと考えます。
 そして、タイプ6のRAGにおいては、蓄積・入力対象となった著作物を蓄積・入力しているのはAI利用者であることからすると、AI利用者が行為主体に該当することは明らかと考えます。
 (ⅱ) 権利制限規定
 タイプ2、4で述べたように、RAGにおける既存著作物と同一・類似のAI生成物の生性に関して適用可能な権利制限規定は、47条の5第1項、30条第1項、35 条法第 30 条の 3、32条です。
 (ⅲ) 故意・過失
 タイプ6のRAGにおいては、AI利用者自身が対象著作物を蓄積・入力しており、同利用者が行為主体であるため、類似AI生成物の「生成」について故意があることは明らかです。

 (イ) 利用

 (ⅰ) 行為主体性
 生成された類似AI生成物をAI利用者が「利用」(公衆送信や販売)する場合、物理的にはAI利用者のみが行為を行っています。
 したがって、AI利用者のみが「利用」についての行為主体に該当することは明白です。
 (ⅱ) 権利制限規定
 私的使用目的の複製(法第 30 条第1項)、学校その他の教育機関における複製等(法第 35 条)、また、企業・団体等の内部において、生成物を生成することについては、生成物が既存著作物と類似している検討過程における利用(法第 30 条の 3)の適用が考えられます。
 なお、AI利用者による類似AI生成物の「利用」については、AI利用者自身が「検索結果提供」(同1号)や「情報解析結果提供」(同2号)サービスを第三者に提供している場合であれば47条の5第1項の適用可能性はありますが、そうでなく、単に自ら生成した類似AI生成物を公衆送信・販売しているような場合は、同条は適用されません。
 (ⅲ) 故意・過失
 タイプ6のRAGの場合は、AI利用者自身が既存著作物を蓄積・入力していることから、類似AI生成物の「利用」について故意が認められます。

(10) タイプ7(図82)

 

図82

 タイプ7は、AI提供者が既存著作物を収集してRAGに用いるベクトルDBを作成し、当該ベクトルDBをAI利用者に提供、AI利用者は当該ベクトルDBを用いてRAGシステムを構築するタイプです。
 RAGにおける一連の流れ(既存著作物の収集・蓄積→既存著作物の入力→AI生成物の生成)をAI提供者とAI利用者が分担して行うタイプと言えます。

ア 既存著作物の蓄積・入力行為

 タイプ7における既存著作物の蓄積・入力行為は、「既存著作物の収集蓄積・ベクトルDBの提供行為」はAI提供者、「ベクトルDB内の既存著作物の入力(送信)行為」はAI利用者が行っていることから、両者を分けて検討します。

 (ア) 既存著作物の収集蓄積・ベクトルDBの提供行為(図83)

 

図83

 タイプ7の場合、AI提供者が既存著作物を収集・蓄積してベクトルDBを作成し、当該ベクトルDBをAI利用者に提供しています。
 当該既存著作物の収集・蓄積は、AI利用者からAI提供者が依頼を受けて個別に行うケース(受託ケース)と、AI提供者自身が自発的に収集・蓄積を行っておき、AI利用者からの依頼を受けて当該ベクトルDBを提供するケース(自社サービスケース)があります。自社サービスケースとしては、たとえば「建築仕様書ベクトルDB」「土木工事仕様書ベクトルDB」などをAI提供者が用意しておいて、AI利用者の依頼を受けて当該DBのみ、あるいは当該DBを含んRAGシステムを提供するビジネスが当てはまります。
(ⅰ) 行為主体
 上記いずれのケースにおいても、物理的に既存著作物を収集・提供しているのはAI提供者です。
 まず、自社サービスケースでAI提供者が行為主体に該当することは明らかです。
 また、受託ケースについても、AI提供者は事業として当該行為を行うのが通常であることからすると、AI提供者をAI利用者の手足とみなすことはできず、AI提供者が行為主体であることは自炊代行事件(知財高裁平成26年10月22日)などの裁判例に照らすと明らかと思われます。
(ⅱ) 権利制限規定
 タイプ7の場合、AI提供者はAI利用者という他人のために、RAGに入力して情報解析をするためのベクトルDBを作成するべく既存著作物の蓄積・提供行為を行っています。
 もっとも、30条の4によって権利制限の対象となる利用行為については「いずれの方法によるかを問わず、利用することができる」と規定されていることから、複製、公衆送信、譲渡といった行為はもちろん、翻訳・翻案等の二次的著作物の創作行為、創作された二次的著作物の利用行為も含めて、著作物を利用する行為は全て権利制限の対象となります3 松田政行編『著作権法コンメンタール別冊 平成30 年・令和2年改正解説』(勁草書房、2022)29 頁
 また、同文言から、他人による情報解析のためのデータセット作成行為や、情報解析目的で収集したデータセット等を情報解析に供する第三者に譲渡したり、公衆送信をすることも可能と解釈されています4 松田政行編『著作権法コンメンタール別冊 平成30 年・令和2年改正解説』(勁草書房、2022)17頁
 したがって、タイプ7のように、AI提供者がAI利用者という他人のために、RAGに入力して情報解析をするためのベクトルDBを作成するべく既存著作物の蓄積・提供行為を行う場合であっても30条の4が適用されます。
 ただし、あくまで30条の4には「(情報解析に)必要な限度において」という限定がありますので、RAGを実現するための必要最低限の利用しかできません。たとえば、DB内の既存著作物をそのまままるごと読めてしまい、RAG以外の用途にも当該DB単独で用いることが可能なDBなどは「(情報解析に)必要な限度において」の要件を満たさず30条の4が適用されない可能性が高いと思われます5 この点は、開発・学習段階における学習用データセット(DB の一種である)の提供と同じ議論である。

 (イ) 既存著作物の入力(送信)行為(図84)

 

図84

(ⅰ) 行為主体
 タイプ7においてAI提供者から提供を受けたベクトルDB内の既存著作物を、RAGを利用することによりAIに入力(送信)する行為を物理的に行っているのは、AI利用者です。
 したがってAI利用者はタイプ7の入力行為についての行為主体に該当することとなります。
 もっとも、ロクラクⅡ事件では、サービス提供者が複製主体に該当すると判断された理由として「複製対象の放送番組をサービス提供者が自らの支配管理下で複製機器に入力している点」が重視されたと評価されています。
 そして、タイプ7、8のRAGの場合、① AI利用者がAIに入力したベクトルDB内の既存著作物はAI提供者が収集・蓄積したものである一方、② AI利用者はRAGを利用するに際して、ベクトルDBの中のどの著作物が入力(利用)されているかを通常把握していない、という事情があります。
 ロクラクⅡ事件の場合、ユーザは「サービス提供者が用意した番組の中から、録画したい番組を選択して録画する」という行為を行っていますが、タイプ7、8のRAGの場合、AI利用者は利用対象著作物の内容すら認識していないことになります。
 したがって、少なくともタイプ7,8において同一のAI提供者が、ベクトルDBとRAGのシステムを同時に提供している場合には、AI利用者に加えてAI提供者も「枢要な行為」を行っているとして行為主体に該当する可能性が高いと考えます。
(ⅱ) 権利制限規定
 AI提供者・AI利用者のいずれか(あるいはいずれも)が行為主体であったとしても、タイプ1、3、5で述べたことがそのまま当てはまります。
 具体的には以下のとおりです。
 

・ 原則として30条の4が適用され適法。
 ・ 例外的に「表現出力目的」がある場合は30条の4が適用されない。
 ・ ただし、「① そもそも蓄積・入力対象著作物と創作的表現が共通した生成物が生成されていない場合」「② 蓄積・入力対象著作物と創作的表現が共通した生成物が生成されることがあるが、そのような事態が著しく頻発しない場合」「③ サービサーが侵害物の生成を抑止するための実効的な技術的手段(フィルタリング等)を講じている場合」は表現出力目的がなく30条の4が適用され適法。

イ 入力された既存著作物と同一・類似のAI生成物の生成・利用行為

 タイプ7の場合、既存著作物と同一・類似のAI生成物の生成・利用行為は行われていませんので、この点は問題になりません。

(11) タイプ8(図85)

 

図85

 タイプ8は、タイプ7と同様、AI提供者が既存著作物を収集してRAGに用いるベクトルDBを作成し、当該ベクトルDBをAI利用者に提供、AI利用者は当該ベクトルDBを用いてRAGシステムを構築するタイプです。ただしタイプ7と異なり、収集・蓄積・入力された既存著作物の同一・類似物が生成されています。

ア 既存著作物の蓄積・入力行為

 (ア) 既存著作物の蓄積・提供行為(図86)

 

図86

 既存著作物の蓄積・提供行為の行為主体はAI提供者ですが、タイプ8においては、タイプ7と異なり、蓄積・入力された既存著作物と同一・類似のAI生成物の生成・利用行為を行う目的(表現出力目的)があるため、30条の4は適用されません。
 したがって、他の権利制限規定(47条の5第2項、30条1項、35条、30条の3)が適用されない限り著作権侵害となります。

 (イ) 既存著作物の入力(送信)行為(図87)

 

図87

(ⅰ) 行為主体
 AI利用者が既存著作物の入力(送信)行為の行為主体に該当しますが、タイプ7で述べたように、タイプ8においても、AI提供者がベクトルDBとRAGのシステムを同時に提供している場合には、AI利用者に加えてAI提供者も「枢要な行為」を行っているとして行為主体に該当する可能性が高いと考えます。
(ⅱ) 権利制限規定
 タイプ8においては、タイプ7と異なり、蓄積・入力された既存著作物と同一・類似のAI生成物の生成・利用行為を行う目的(表現出力目的)があるため、30条の4は適用されません。
 したがって、他の権利制限規定(47条の5第2項、30条1項、35条、30条の3)が適用されない限り著作権侵害となります。
(ⅲ) 故意・過失
 タイプ8において、AI提供者が行為主体に該当する場合は、自ら既存著作物を収集・蓄積したAI提供者が当該既存著作物を入力(送信)していることになるため、故意があることは明らかです。
 また、AI利用者が行為主体に該当する場合でも、蓄積されている著作物の内容についてAI提供者に確認するなどして調査・確認することは可能ですから、AI利用者に「過失」はあると思われます。

イ 入力された既存著作物と同一・類似のAI生成物の「生成」「送信」「利用」行為(図88)

 

図88

 タイプ8において、①既存著作物の入力(送信)行為の行為主体がAI利用者である場合はタイプ4と全く同じ状態、② 既存著作物の入力(送信)行為の行為主体がAI提供者である場合はタイプ2と全く同じ状態ですから、それぞれの箇所で説明したことがあてはまります。

脚注一覧

  • 1
    https://notebooklm.google/
  • 2
    この場合は、AI 利用者自身が生成した著作権侵害物を自分に送信(すなわちダウンロード)していることとなる。
  • 3
    松田政行編『著作権法コンメンタール別冊 平成30 年・令和2年改正解説』(勁草書房、2022)29 頁
  • 4
    松田政行編『著作権法コンメンタール別冊 平成30 年・令和2年改正解説』(勁草書房、2022)17頁
  • 5
    この点は、開発・学習段階における学習用データセット(DB の一種である)の提供と同じ議論である。
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