IT企業法務
パブコメ&ガイドライン改正版の公表に伴う、改正電気通信事業法(外部送信規律)施行直前対応
Webサービス・アプリといったオンラインサービスを提供する事業者の多くが対象となる、改正電気通信事業法(外部送信規律)の施行が2023年6月16日に迫っています。
2023年5月18日、「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン及びその解説の改正案」へのパブリックコメントに対する総務省の考え方(いわゆるパブコメ返し)にあわせて、同ガイドライン解説の改正版が公表されました。
総務省「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン及びその解説の改正案に対する意見募集の結果」(2023年5月18日)
本ブログでは、パブリックコメントとガイドライン解説改正版のうち重要と考えるいくつかのポイントを取り上げて説明します。
Contents
改正電気通信事業法(外部送信規律)とは
Webサービスやアプリ等のオンラインサービスでは、利用者(ユーザー)が認識していない状態で、スマートフォン等の端末やブラウザから、第三者に向けて利用者に関する情報が送信されている場合がありますが(3rdパーティクッキーやSDKなど)、利用者としてはこの外部送信状況を把握できる手段が乏しい状況でした。そこで「いかなる情報が・いかなる事業者に向けて・いかなる利用目的で」送信されているのかについて、利用者に確認できる機会を付与することにしたというのが外部送信規律の趣旨です。外部送信規律の概要については昨年末の拙Noteもご参照ください。
「電気通信事業を営む者」でなければ外部送信規律の対象とならない
外部送信規律の対象となる事業者は、
①電気通信事業を営む者(=「電気通信事業者」または「第三号事業を営む者」)であり、かつ、
②「利用者の利益に及ぼす影響が少なくない電気通信役務」を提供する者
です(法27条の12)。
②「利用者の利益に及ぼす影響が少なくない電気通信役務」(対象役務)は以下の4つです。
⑴他人の通信を媒介するサービス(電子メールやダイレクトメッセージ、宛先を限定したウェブ会議システム。イメージは「閉じた通信」)
⑵「場」を提供するサービス(SNS、電子掲示板、動画共有、オンラインショッピングモール、シェアリング等)
⑶検索サービス
⑷各種情報のオンライン提供サービス
よく誤解があるのは、②「利用者の利益に及ぼす影響が少なくない電気通信役務」を提供している事業者であっても、そもそも①電気通信事業を営む者にあたらない場合は、外部送信規律の対象とならない点です(典型的には⑷各種情報のオンライン提供サービスを提供している事業者で問題となる。以下の図参照)。
電気通信事業とは「電気通信役務を他人の需要に応ずるために提供する事業」をいうところ(法2条4号)、企業・個人・自治会等のホームページについて自己の情報発信のために運営している場合や、小売事業者によるモノ・商品についてのオンライン販売など自らの本来業務の遂行手段としてオンラインを活用している場合は、自己の需要のために電気通信役務を提供しているため「電気通信事業」に該当せず、外部送信規律の適用対象外となります(GL改正版P96)。
企業・個人・自治会等のホームページについて自己の情報発信のために運営しているケースの典型例は阿部寛さんのホームページです。阿部寛さんのホームページにおけるコンテンツは出演作品等、ご自身の情報に関するものであるため、自己の需要のために電気通信役務を提供しているものとして、同ホームページの運営は「電気通信事業」には該当しません。
自己の情報を発信するだけのウェブサイトであれば、電気通信事業法は適用されません。
もっともわかりやすい例は「阿部寛のホームページ」です。「阿部寛のホームページ」には電気通信事業法は適用されません。https://t.co/K16oNZQbyo— 弁護士杉浦健二 STORIA LAW (@kenjisugiura01) February 6, 2023
ちなみに「阿部寛のホームページ」は、3rd Party cookieはおろか、1st Party cookieすら確認できない。もちろんGoogleアナリティクスも確認できない。あらゆる角度から電気通信事業法の適用対象外。
「阿部寛のホームページ」は閲覧者のプライバシーに究極まで配慮された、次世代ウェブサイトだった。 https://t.co/rjuaRO0U0f pic.twitter.com/1OSPW4Y1mE— 弁護士杉浦健二 STORIA LAW (@kenjisugiura01) February 7, 2023
そのため、仮に阿部寛さんのホームページにおいて、ページの閲覧者が阿部寛さんの作品へのレビューや口コミを投稿できる機能を設けられていたとした場合、個別の内容ごとに判断することにはなりますが、当該レビューや口コミ機能は上記の⑵「場」を提供するサービスである掲示板類似の機能として②「利用者の利益に及ぼす影響が少なくない電気通信役務」にあたる可能性がありますが、そもそも同ホームページの運営は①電気通信事業にあたらない以上、外部送信規律の適用対象外となります。
以上の点(②要件を満たしていても①要件を満たさない場合(電気通信事業を営む者でない場合)は規律対象外となること)は、今回のパブコメ返しでも明確にされています。
(御意見)
レビューや口コミの掲載について、レビュー・口コミの掲載を中心とするサイトとは異なり、例えば、「電気通信事業」に該当しない自社商品のオンライン販売サイトにおいて、付随的に当該商品のレビュー・口コミの掲載がある場合、当該レビュー・口コミは独立の役務としての性質を備えておらず、電気通信役務としての独立性が認められないため、規律の対象外であると理解で相違ないか。
(御意見に対する考え方)
個別の事案ごとに判断されることとなりますが、レビューや口コミの機能のみを捉えて、「電気通信事業」の該当性を判断するものではなく、これらの機能を有するウェブサイトについて、「電気通信事業」の該当性を判断します。当該ウェブサイトが、自社商品のオンライン販売サイトであれば、自己の需要のために電気通信役務を提供しているのであって、「他人の需要に応ずるために提供」しているものではないため、「電気通信事業」に該当しません。
(パブリックコメントP47)
自己の情報以外の情報も発信しているウェブサイトは対象となるか
阿部寛さんのホームページのように、自己の情報発信のみにソリッドに特化しているサイトは限定的であり、多くのウェブサイトでは、自己の情報以外の様々な情報(業界情報、ユーザーのための有益な知識など)を含めて発信している場合が少なくありません。
そこで問題になるのがGL改正版の以下の記載です。
(略)他方で、本来業務の遂行手段としての範囲を超えて、独立した事業としてオンラインサービスを提供している場合には、当該オンラインサービスは「電気通信事業」に該当する可能性もある。例えば、金融事業者によるオンライン取引等及び当該取引等に必要な株価等のオンライン情報提供は「電気通信事業」に該当しないが、当該金融事業者が証券・金融商品等についてのオンライン販売のウェブサイトにおいて、オンライン取引等とは独立した金融情報のニュース配信を行っている場合には、当該ニュース配信は情報の送信(電気通信役務の提供)の事業として独立していると考えられ、「電気通信事業」に該当する。(GL改正版7-1-2)
上記の記載はGL解説案が公表された時点から話題になっており、いかなる場合に「本来業務の遂行手段としての範囲を超えて、独立した事業としてオンラインサービスを提供している場合」といえるのか、はっきりとしていませんでした。
そうしたところ、このたびのパブコメ返しで、これを具体化する考え方が総務省から示されました。
(御意見)
金融事業者に関する事例において、金融情報のニュース配信は金融取引の判断において重要な指標となり得るもので、金融商品等のオンライン取引等に必要なものと通常は考えられるところ、「オンライン取引等とは独立した金融情報のニュース配信」とは、具体的にどのようなものを想定されているのか、明らかにしていただきたい。
(御意見に対する考え方)
例えば、株取引の仲介業務とは独立して、運用のコツや狙い目の銘柄等を紹介しているようなウェブサイトなどが該当すると考えられます。
(パブリックコメントP46)
(御意見)
各企業においては、自社に関する情報や自社が提供する商品又はサービスに関する情報を掲載するウェブサイト(以下「自社サイト」という)を開設していることが多い。
その中には、次の(ア)乃至(エ)に記載のものであることも多く、それぞれかかる自社サイトの提供が、「電気通信事業」に該当することにより改正電気通信事業法第二十七条の十二第1項に定められる義務(以下「外部送信規律」という)の対象となるか
否かを考慮するにあたっては、その自社サイト提供の目的において「自己の情報発信のために運営している場合」であると考えられることから、「他人の需要に応ずるために提供」しているものではないものとして、電気通信事業には該当しないとの理解でよいか。(略)
(エ) その多くにおいては自社に関する情報又は自社の製品若しくはサービスに関する情報を提供するものの、一部においては関連する情報(業界団体、事業環境にかかる情報や、業務提携先の企業にかかる情報など)もあわせて提供する自社サイト
(御意見に対する考え方)
(略)また、個別の事案ごとに判断されることとなりますが、(エ)のような場合は、「他人の需要に応ずる」に該当するものとして判断される場合があります。
(パブリックコメントP46)
今回総務省から示された上記の考え方によって、自己の情報発信のみならず、業界団体、事業環境にかかる情報や、業務提携先の企業にかかる情報、ユーザーのための有益な知識などもあわせて発信しているオウンドメディアのようなサービスの場合、①他人の需要に応ずるために提供するものとして「電気通信事業」に該当する可能性が生じることが示されました。この場合、さらに②「利用者の利益に及ぼす影響が少なくない電気通信役務」のうち⑷各種情報のオンライン提供サービスにあたるものとして、外部送信規律の対象になる可能性が生じることになります。
事業者としては、自己の情報発信に特化したウェブサイトや、本来業務の遂行手段としてオンラインを活用しているウェブサイトの場合(たとえばEC機能のほかは会社概要ページのみを有しており、自社や自社商品の情報以外を発信していない場合など)以外は、外部送信規律の対象事業者となる可能性があると捉えて外部送信規律への対応を実施しておくことがセーフティであるといえます1総務省の「御意見に対する考え方」を前提としても、自社サイトにおける情報提供に、自社や自社製品サービス以外の情報が含まれている場合は「『他人の需要に応ずる』に該当するものとして判断される場合があります。」とあくまで電気通信事業にあたる可能性を示唆しているに過ぎず、自社や自社製品サービス以外の情報が含まれている場合は常に電気通信事業にあたると示しているわけではありません。さらに電気通信事業にあたるとしても、これを「営む」要件、すなわち「電気通信役務を利用者に反復継続して提供して、電気通信事業自体で利益を上げようとすること、すなわち収益事業を行うこと」にあたらない場合も外部送信規律の対象とはなりません。電気通信役務の提供を行う場合でも、無償 ・原価ベースでこれを提供する場合は「営む」に含まれないとされています(以上の「営む」要件の解釈については電気通信事業参入マニュアル[追補版](令和5年1月30日 改定)P4)。。
通知等する情報の粒度(利用者情報、利用目的)
通知等(利用者に通知し、又は当該利用者が容易に知り得る状態に置くこと。以下同じ)を行う場合、外部送信される利用者情報の内容/外部送信先(事業者名・サービス名称など)/利用目的をそれぞれ記載する必要があります。今回のパブコメ返しでは、利用者情報の内容と利用目的について、どの程度の粒度で書けばよいのかに関する考え方が以下のとおり示されており、参考になります。
(御意見)
例えば、「ウェブサイト閲覧履歴」や「サービス購入履歴」、「商品購入履歴」等のような記載粒度で良いとの理解で良いか、考え方をガイドライン又は FAQ 等で明確化していただくことを要望します。
(御意見に対する考え方)
個別の事案ごとに判断されることとなりますが、いただいた記載粒度でも問題ないものと考えられます。総務省のホームページにおいて掲載している FAQ 等における明確化を検討します。
(パブリックコメントP54)
(御意見)
通知等を行うべき利用目的の記載粒度としては、例えば「当社の商品やサービスの運用・向上、新商品や新サービスの企画、アンケート調査その他マーケティング分析のため」「お客さまにお勧めする商品・サービス・コンテンツ等のご案内のため」「お客さまに適した当社および他社の広告の表示・配信のため」といった記載ぶりは許容されるか、ガイドライン上で明記していただくことを要望します。
(御意見に対する考え方)
個別の事案ごとに判断されることとなりますが、いただいた記載粒度でも問題ないものと考えられます。ただし、例えば、利用者に関する情報から、当該利用者に関する行動・関心等の情報を分析する場合、どのような取扱いが行われているかを当該利用者が予測・想定できる粒度で利用目的を記載しなければならないものと考えられます。総務省のホームページにおいて掲載している FAQ 等における明確化を検討します。
(パブリックコメントP54)
今回取り上げた事項のほかにも、パブリックコメントには多くの示唆が含まれているため、外部送信規律対応を検討中の事業者におかれては、ぜひ時間をとってご一読することを強くおすすめします。外部送信規律の個所だけであれば、1時間程度あればひととおり読むことができます。(弁護士杉浦健二)
- 1総務省の「御意見に対する考え方」を前提としても、自社サイトにおける情報提供に、自社や自社製品サービス以外の情報が含まれている場合は「『他人の需要に応ずる』に該当するものとして判断される場合があります。」とあくまで電気通信事業にあたる可能性を示唆しているに過ぎず、自社や自社製品サービス以外の情報が含まれている場合は常に電気通信事業にあたると示しているわけではありません。さらに電気通信事業にあたるとしても、これを「営む」要件、すなわち「電気通信役務を利用者に反復継続して提供して、電気通信事業自体で利益を上げようとすること、すなわち収益事業を行うこと」にあたらない場合も外部送信規律の対象とはなりません。電気通信役務の提供を行う場合でも、無償 ・原価ベースでこれを提供する場合は「営む」に含まれないとされています(以上の「営む」要件の解釈については電気通信事業参入マニュアル[追補版](令和5年1月30日 改定)P4)。
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