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まだ契約書にハンコ押してるの?5分で押さえる電子契約書の基本
「日本人は、サインの代わりに契約書にハンコを押すのだ・・・・・・・」
「メールでは困る」
これはうちの事務所にあった印鑑マットです。
若干薄汚れているのはご勘弁ください。
社団法人全日本印章業協会が提供しているもののようですが、ゴルゴが物静かに日本の契約社会における印鑑の重要性を語っています。
このゴルゴには狙撃されるかもしれませんが、最近「電子契約システム」が流行の兆しを見せているようです。
たとえば、弁護士ドットコムが最近リリースした「CloudSign」(クラウドサイン)も電子契約サービスの一種です。
「電子契約って何?興味があるけどどんなものかイメージがつかめない。。」という方にとって、電子契約の基礎を知るのにちょうどよいサービスなので紹介します。
Contents
■CloudSignのサービス内容
このサービスは、クラウド上で契約書の締結・保管ができるというサービスで、以下のようなメリットがあるとされています
1 契約締結のスピード化
全てがクラウド上で完結するため、今まで数日間かかっていた契約締結作業がわずか数分で終わる。
2 コスト削減
郵送代・紙代・インク代はもちろん、紙ベースの契約書ではないため、印紙代がかかりません
3 契約書管理の手間の軽減
紙ベースでの契約書では、管理の手間暇がかなりかかりますが、本サービスで作成した契約書はクラウド上で一元管理できますので、管理が容易になります。
これらの点は、一定規模以上の会社ではどこでも悩んでいるところですので、すごく便利です。特に、印紙代がかからない、というのは、頻繁に契約書を作成する企業からするとかなりの魅力でしょう。
ただ、私がこのサービスを自分のお客さんに勧めるか、というと現段階では躊躇すると思います。
■CloudSignの残念なところ
というのは、CloudSignでは「権限を持った人によって契約締結がなされたこと」の証明が難しいのです。
つまり、このサービスを使って契約が締結された後に、その契約締結の効力が争われて、どちらか一方が「いや、この契約は営業担当者が勝手に締結したものであって、会社としては関知していない」と言われた場合、それへの反論が難しいのです。
これは、CloudSignの利用規約の以下の部分からもわかります。
第4条 当サービス
1.当サービスは、一方のお客さまが当サービス上に契約書等(以下「コンテンツ」といいいます。)をアップロードし、もう一方のお客さまがこれに同意することにより、お客者さま間で、コンテンツに関する合意を締結した事実について証跡を残すことを目的とするものです。当サービスを利用されるお客さまが当該合意をする権限を有しているかについて証明するものではございませんので、お客さまご自身でご確認ください。
2.(以下略)
「当サービスを利用されるお客さまが当該合意をする権限を有しているかについて証明するものではございませんので、お客さまご自身でご確認ください。」という点が、このサービスの現時点で一番残念なところです。
ちなみに、CloudSignでは、締結された契約書に電子署名が施されますが、これはあくまで「このサービスで締結された契約書が、締結後改ざんされていないことを証明する」という意味であり、「このサービスを使っている人に契約締結権限がある」ことを電子署名で証明するものではありません。
とすると、クラウド上で契約が締結できるクラウド契約サービスなんて危なくて使えないんじゃないの?と思う方がいるかもしれませんが、実はその点もクリアしたサービスもあります。
■電子契約と「二段の推定」
まず知っておいていただきたいのですが、紙に会社の印鑑で署名捺印がなされた契約書の場合、このような「会社は知らないよ」という言い訳はほぼ通りません。
それは、法律の規定やその点に関する判例があるためです。
詳細は省きますが、
「押された印鑑が会社の印鑑である」
→「その押印は権限がある人によってなされたものである」という事実上の推定
→「その書面はその会社によって作成されたものである」という法律上の推定(これを「真正に成立した」推定といいます)
が働くためです(「二段の推定」といいます)。
しかし、電子契約の場合、そもそも「印鑑」なるものがないので、このような二段の推定が働きません。
とすると、電子契約ってできないのか、というと、あるんですね、そういう法律が。
それが「電子署名法」(「電子署名及び認証業務に関する法律」)です。
この法律の第三条にはこのように規定されています。
第三条 電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。
出てきました。「真正に成立したものと推定」。
要するに、電子記録であっても、本人による電子署名が行われている時は、紙に印鑑が押されているのと同様に、「その書面はその会社によって作成されたものである」という推定が働くということです。
ですので、「電子契約」を利用する場合、この「本人による電子署名」が行われていないと、危なくて使えません。
■本人による電子署名に対応した電子契約サービスは増加の一途
このような「本人による電子署名」を利用した電子契約サービスは近年増加してきています。
「電子契約」で検索するとたくさん出てきますが、たとえば、ソフトバンクコマース&サービス株式会社が提供している「サインナップワン」です。
このようなサービスは「本人による電子署名」に対応していますので、紙の契約書に会社の印鑑が押印されたものと同じように扱うことができます。
今後、利用が伸びてくることは確実だと思います。
先ほど述べたように弁護士ドットコムのCloudSignは、現時点では「本人による電子署名」に対応していない点で、現時点では使用を躊躇します。
しかし、同サービスのトップページには「今後の機能開発」として「より高度な個人認証」の機能追加予定と記載されているので、すぐに「本人による電子署名」などを備え、競合サービスに追いついてくると思います。
CloudSignの運営会社である弁護士ドットコムは、弁護士である元榮太一郎氏が立ち上げたサービスで、先日上場もしましたので応援しています。
きっと弁護士らしく「ビジネスで使える」サービスに仕上げてくるはずです。
■電子契約、最近伸びているが内容をよくみて利用する必要あり
・ ゴルゴが重要性を強調する「紙の契約書に印鑑を押したもの」と同様に「電子署名を付した電子契約」サービスも最近伸びている。
・ 紙の契約書の有効性は「契約書に印鑑が押されたこと」があれば推定される(二段の推定)。
・ 電子契約においても「電子署名法」という法律があり、「本人による電子署名」があれば契約書の有効性は推定されるが「電子署名」がないと無効となるリスクがある。