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著作権

大学のオンライン授業で「授業の録画、撮影は禁止。違反したら留年」と教授に言われたら?

アバター画像 柿沼太一

■ はじめに

 弁護士ドットコムから依頼されたお題にて原稿を書き進めていったところ、思ったより複雑かつ面白い問題だったため、指定字数を大幅にオーバーしてしまいました。もったいないので編集部に相談したところ、エッセンスを弁護士ドットコムに掲載し、全文を事務所サイトに掲載することになりました。本記事はそのような経緯で執筆したものであり、原稿依頼がなければ生まれていなかった記事です。
 弁護士ドットコム編集部様、ありがとうございました!

■ お題

コロナ禍、大学のオンライン授業は定着してきたが、あるルールをめぐって困惑も広がっている。

「授業の録画、撮影は禁止。アップしたことが発覚すれば留年になる」。首都圏の名門大学へ通う大学1年生のTさん(19)さんは、4月のオリエンテーション(授業説明会)で言われた一言にモヤモヤを感じている。

Tさんの大学の授業は、3度目の緊急事態宣言後、完全オンラインへと移行した。しかし授業によって使われるリモート会議システムが違うので、授業ごとに受け方が違い戸惑っているようだ。さらに、一部の授業では、教員から「資料は配らないから、適宜スクリーンの写真を各自の端末で撮るように」と指示されたという。

だがTさんは学期の初めに授業の撮影や録音は禁止と言われているそうだ。Tさんは「教員からは写真などが流出すれば留年とも言われています。ただ授業の内容によっては受講生同士で共有しないといけないものもあるし、レポートやテスト勉強を書く時には保存しておきたいとも思います。常に恐る恐る手探りの状態」と話す。

そこでTさんは「禁止された授業でキャプチャーを撮ってしまったり、その画像を第三者と共有したりした場合、著作権違反になるのでしょうか。また大学の『違反すれば留年』という方針は強すぎる気がしますが、問題ないのでしょうか」と質問している。

■ 回答

1 授業で映される資料の著作権は誰が有しているのか

 まず、大学の授業で映される資料の著作権について、当該大学の著作権規定の内容にもよりますが、当該資料を教員が作成した場合には、大学ではなく教員が著作権を有しています。もちろん、教員が当該資料を作成する際に第三者の著作物を引用等により利用しているのであれば、その部分については当該第三者が著作権を有していることになります。

2 禁止された授業で自分の学習のためにキャプチャーや動画を撮ったり、その画像を第三者と共有したりした場合、著作権法違反になるのか

 著作物については、原則として当該著作物の著作権者の許諾がなければ利用することはできません。
 もっとも、日本の著作権法では他人の著作物についても例外的に著作権者の許諾なく利用(コピーなど)できる場合が複数定められており、それに該当すれば著作権者の許諾がなくとも利用することができます。
 このような例外規定を「権利制限規定」といいます。

 本件の場合も一部の行為はこの権利制限規定に該当するのですが、ややこしいのは、そのような権利制限規定該当行為を、大学(あるいは大学教員)が契約や規則で禁止していることをどう考えるかです。
 これは一般化して言うと「著作権法上の権利制限規定に該当する行為を契約や規則で禁止した場合、当該契約等は有効なのか」という問題であり、著作権法を契約等により上書き(オーバーライド)できるかという問題です。
 要するに「法律でやって良いって書いてあるのに、著作権者といえども私人がそれをNGといえるのか」ということですね(なお、教室内での授業を撮影する行為を禁止する場合には、施設管理権という別の問題が生じるのですが、ここでは省略します)。
 イメージで言うとこんな感じです。

 上の図が「著作物については著作権者の承諾なく利用行為を行うことが出来ない」ことを示した図、下の図が「著作物についても権利制限規定に該当すれば著作権者の承諾がなくとも利用行為を行うことが出来る」ことのイメージ図です。権利制限規定は、一部の利用行為について著作権者の承諾なく利用できる「穴」が空いているようなイメージですね。

 そして、権利制限規定に該当する行為を契約や規則で禁止すると、以下のような図の状態になります。
 つまり、オーバーライド問題とは、比喩的に言えば「権利制限規定によって空けられた穴を、契約によって塞ぐことが出来るのか」という問題です。

 このオーバーライド問題についてどのように解釈するかについては、当該権利制限規定の制度趣旨などから総合的に考慮するとされており、一概に「権利制限規定該当行為を禁ずる契約が有効・無効」とは言えません。
 なお、弊所弁護士の杉浦が「著作権法の柔軟な権利制限規定とオーバーライド問題」というタイトルでブログ記事を書いていますので、興味がある方はそちらも是非ご参照下さい。

 以上を前提に検討していきます。

【ちょっと高度に】CC(クリエイティブコモンズ)ライセンスとオーバーライド問題
 CCライセンスは著作権法の権利制限規定を上書きしないとされている。具体的には「『非営利』の条件があるCCライセンスのついた作品を利用する際、著作権法上規定されている「引用」に該当すれば、仮に営利を目的とする利用でも認められることとなります。」とされている(https://creativecommons.jp/faq/#b6)
 つまり、CCライセンスがついている著作物については、オーバーライド問題は起こらず、権利制限規定の要件を満たしてさえいれば、営利目的であったとしても、『非営利』の条件があるCCライセンスのついた著作物を適法に利用できることになる。

(1) 禁止された授業で自分の学習のためにキャプチャーや動画を撮影する行為(ケース1)

 まず、「授業動画をキャプチャーや動画を撮影する行為」は、動画という著作物の「複製」行為なので、著作権者の許諾がなければできません。
 もっとも、学生が「自分の学習(復習)のため」という目的のために複製する行為は、権利制限規定の一種である「学校その他の教育機関における複製等」(同法35条1項)に該当し、著作権侵害にはなりません。
 この点「学校その他の教育機関における複製等」(同法35条1項)については学生などの「授業を受ける者」による複製が認められており、かつ「その授業の過程における利用に供する」には授業の予習・復習も含まれていると解釈されている(改正著作権法第35条運用指針(令和3(2021)年度版)P7、以下「運用指針」といいます)ので、ケース1では35条1項の適用があります。
 本件で更に問題となるのは、先ほど説明したように、ケース1のように35条1項に該当し著作権侵害には該当しない行為を契約や規則で禁止した場合、当該契約等は有効なのかという点です。
 この点については、権利制限規定の趣旨などから総合的に考える必要があるのですが、35条において、教育の重要性や、対象となる非営利の教育が持つ公益性から特別に権利制限が認められている趣旨、平成15年改正で、学生についても35条の適用が認められた経緯からすると、一律に学生による復習目的の複製を禁止する契約等は当該趣旨を没却するものと考えられます。
 したがって、大学において当該授業を受講している学生が、自分の学習のためにキャプチャーや動画を撮影する行為を禁止する契約や規則は、公序良俗違反等の理由により無効である可能性が高く、学生がそのような行為を行ったとしても著作権侵害はもちろん、契約・規則違反にも該当しないと考えます。

「授業の録画、撮影は禁止。違反したら留年」というのはやり過ぎだったのではないか・・・・と悩んでいる教授(イメージ)

(2) 禁止された授業で撮影した動画を第三者と共有する行為(ケース2)

 ケース2については、さらに2つのケースに分けて検討します。

ア 同じ授業を履修している数名程度における授業の復習目的のための共有行為の場合(ケース2-1)

 35条の適用を受けて複製した著作物をその目的以外の目的のために頒布したり公衆への提示を行うことは、複製を行ったものとみなされます(著作権法49条1項1号)。
 もっとも、ケース2-1は「同じ授業を履修している数名程度における授業の復習目的のための」送信行為ですので「その授業の過程における利用に供することを目的とする場合」に該当しますし(同じ授業を履修している者に対する提供は同目的を満たすと考えられます)、かつ「数名程度」への「送信」であれば「頒布」にも「公衆への提示」にも該当しません。
 したがって、当該送信行為は著作権侵害に該当しないと思われます。
 そして、ケース2-2においても、ケース1と同様そのような共有行為を禁止する契約等が有効なのか、という問題になりますが、結論的にはケース1と同じ理由でそのような契約等は無効である可能性が高く、学生がそのような行為を行ったとしても著作権侵害はもちろん、契約・規則違反にも該当しないと考えます。

イ 同じ授業を履修している数十名から数百名における授業の復習目的のための共有行為の場合(ケース2-2)

 この場合は、送信者側は多数の者に対して送信行為をしているため公衆送信行為を行っていることになります。
 「公衆送信行為」も35条1項の対象行為ではありますが、ケース2-2においては、ケース2-1と異なり数十名から数百名程度への送信行為がなされているため、同項の「その授業の過程における利用に供する目的」や「その必要と認められる限度において」の要件を満たすかが問題となります。
 まず、「教育を担任する者」が、授業のために同じクラスに在籍する数百人の学生に著作物を公衆送信する行為は、いずれの要件も満たすと考えます。
 しかし、本件は「教育を担当する者」による利用行為ではなく「授業を受ける者」による利用行為であることが悩ましいところです。
 この点については様々な解釈があろうかと思いますが、「教育を担任する者」による利用行為と「授業を受ける者」による利用行為については許容される範囲に差があっても不自然ではないこと、実質的に考えても、数十名から数百名に対する送信行為は、さらにそれを超えて対象動画が拡散される可能性が高いことから、ケース2-2においては同項の「その授業の過程における利用に供する目的」や「その必要と認められる限度において」の要件を満たさない可能性が高いと考えます。
 したがって、ケース2-2における送信者の行為には35条は適用されず著作権侵害に該当すると考えます。
 もっとも、当該著作権侵害行為を行った場合に、規則で留年措置まで課すことが認められるかという点については別問題です(詳細は以下)。

3 大学の『違反すれば留年』という方針について、学生側には争う余地はないのか

 まず、ケース1、ケース2-1のように契約・規則に定められている「禁止」規定が無効であった場合には、当然のことながら、当該禁止規定に違反したことをもって留年処分などの不利益処分は出来ません。
 次に、ケース2-2のように学生の行為が著作権侵害行為に該当する場合であったとしても、大学が無制限にどのような処分でも科せるわけではありません。
 もちろん、大学における学生に対する処分については一定の教育的裁量が存在しますが、「留年処分」というのは、当該学生にとって卒業が1年以上遅延し、その後の就職活動等にも影響する極めて重大な不利益措置です。
 したがって、留年処分を科す場合の裁量にも一定の限界があり、当該学生の行為の悪質性、大学の運営や他の学生の学生生活の秩序を乱すかどうか、社会的影響などを考慮して、留年処分がやむを得ないと判断される場合に初めてそのような処分を科し得ると解釈すべきでしょう(市立高等専門学校における留年処分の有効性が争われた事案において、最判平成8年3月8日(民集50巻3号469頁)は「学生に与える不利益の大きさに照らして、原級留置処分の決定に当たっても、(注:退学処分と)同様に慎重な配慮が要求されるものというべき」と判示しています)。
 そして、ケース2-2においても、「動画の共有において対価の授受がない」「大学側からの警告により可能な限り動画の抹消に向けて努力した」のような態様であれば、ケース2-2のような行為を行ったからといって著作権者の利益を大きく害するわけでもありませんし、大学の授業の秩序を乱すわけでもありません。したがって、そのような違反行為についてまで「違反すれば留年」という重い処分がなされた場合、同処分は無効である可能性が高いでしょう。
 一方、「撮影した動画を有償で販売する」「撮影した動画を動画サイトにアップロードして大学側からの警告にも拘わらず消さない」などの悪質な行為については、「違反すれば留年」という処分が合理性を有する場合もあるかと思います。

弁護士柿沼太一

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