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ステマ問題の本質は記事と広告の境界線である
前回の記事で「楽天やAmazonのレビューにも多く見られる「ステマ」とは」について説明をしました。
そして、
・ ステマといっても、「優良誤認・有利誤認表示を内容するステマ」と「優良誤認・有利誤認表示を内容としないステマ」の2種類がある。
・ 意見が分かれるのは「ネイティブ広告+ノンクレジット広告の体裁の広告+有利誤認・優良誤認表示を内容としない」ステマ(下の図の黄色の部分)の方。
というところで話が終わりました。
これは、たとえば
【事例1】
広告主や代理店がウェブメディア・雑誌に編集協力費を払って取材してもらい、自社商品が競合商品より優れているという内容を掲載してもらった。ただし、比較方法や記事の体裁などはメディア側に一任されており、広告主らは一切口出しできない。
【事例2】
広告主や代理店がウェブメディア・雑誌に自社商品が競合商品よりも優れているという実験結果を渡し、このとおりに掲載してほしいと依頼したうえで編集協力費を支払った。その後、実際そのとおり掲載された。
【事例3】
広告主がブロガーに自社商品を無料で渡して、同商品を誉める記事を書いて貰うよう依頼し、そのとおりの記事を書いてもらったのでブロガーに報酬を支払った。
【事例4】
広告主が、新製品・新サービスについてウェブメディア・雑誌にプレスリリースを送って取材を依頼し、「これから流行しそうな××」として取り上げてもらった。特にお金のやりとりや利益の供与はない。
などの例です(いずれの例も「自社商品が競合商品より優れている」という内容自体は事実だったとします。それが事実でなかったら景表法違反になってしまうので)。
Contents
■ そもそも広告なのか?
まず考えなければならないのは、先ほど挙げた例がそもそも「広告」なのか?ということです。
広告に該当しなければ当然広告表示をする必要もありませんし(つまりノンクレジットでも問題はない)、景品表示法違反の問題も生じないということになります。
たとえば、今回の週刊ダイヤモンドの記事(2015年11月7日号)では、ベクトルの西江社長はステマについて、こう話しています。
そもそも、私たちは広告を主として扱う会社ではありません。クライアント企業も、広告をやりたいわけではなく、PR(パブリック・リレーションズ)を依頼してくるわけです。そのためノンクレジット(広告主の名前を表記しないこと)の依頼があった場合は、一部でやることもありましたが、そもそも「広告」ではありません。
【関連記事】
西江肇司(ベクトル代表取締役社長)インタビューステマと認識しなかった商習慣 時代に合わせて適正化する(週刊ダイヤモンド 15/11/2)より
要するに「当社のやっているのはPRであり、広告ではないからノンクレジットでも問題ない」つまり、先ほどの図で言うと、そもそも自社が制作しているPR記事は「広告」ではなく「記事」であるという主張なのだと思います(下の図の緑の部分)。
■編集権の有無が「記事」と「広告」の境目なのか
週刊ダイヤモンドの記事(15/11/2)では、各ウェブメディアにアンケートを実施しているのですが、「編集権が編集部にあるかないかによって編集記事と広告記事を明確に分けております」という回答をしているメディアが結構多いです。
これは、
・ メディア側に編集権がなく、広告代理店やPR会社が提供した記事内容をそのまま掲載するのが「広告」
・ 広告代理店やPR会社から提供を受けた情報を元に独自にメディア側で編集を行うことができる(編集権が編集部にある)ものが「記事」
という区分けです。
この見解を前提とすると、編集権がメディア側にあれば、メディアが広告主や代理店から編集協力費などの名目でお金をもらったとしても「広告」ではなく「記事」である、ということになります。
つまり先ほどの例で言うと以下のようになります。
【事例1】
広告主や代理店がウェブメディア・雑誌に編集協力費を払って取材してもらい、自社商品が競合商品より優れているという内容を掲載してもらった。ただし、比較方法や記事の体裁などはメディア側に一任されており、広告主らは一切口出しできない。
・・・・・編集権がメディア側にあるので広告ではない、したがってノンクレジットでも問題なし。
【事例2】
広告主や代理店がウェブメディア・雑誌に自社商品が競合商品よりも優れているという実験結果を渡し、このとおりに掲載してほしいと依頼したうえで編集協力費を支払った。その後、実際そのとおり掲載された。
・・・・編集権がメディア側にないので広告に該当する。したがって広告表示必要。
【事例3】
広告主がブロガーに商品を無料で渡して、同商品を誉める記事を書いて貰うよう依頼し、そのとおりの記事を書いてもらったのでブロガーに報酬を支払った。
・・・・広告主の言うがままに記事を書いてもらっているので広告である。したがって広告表示必要。
【事例4】
広告主が、新製品・新サービスについてウェブメディア・雑誌にプレスリリースを送って取材を依頼し、「これから流行しそうな××」として取り上げてもらった。特にお金のやりとりや利益の供与はない。
・・・・・編集権がメディア側にあるので広告ではない、したがってノンクレジットでも問題なし。
■業界団体のガイドラインは「メディアが広告主からお金をもらっているかどうか」で「広告」と「記事」を区別している
広告規制には、法律としては、景品表示法、薬事法や宅建業法、金融商品取引法などがありますが、それと平行して業界の自主規制も多数あります。
WEB広告に関しては、一般社団法人インターネット広告推進協議会(JIAA)が定めているインターネット広告倫理綱領及び掲載基準ガイドラインの中では、「インターネット広告の範囲」として「広告枠として取引しているか否かに関わらず、媒体社が広告主から依頼を受けて有償で掲載する広告すべて」と定義されています。
この「媒体社」とは、広告を掲載する媒体、ここで言えばウェブメディアのことを指します。
また、同じJIAAが定めているネイティブ広告の定義と用語解説では「編集記事」について「広告主や広告代理店等から金銭等の授受が直接的にも、間接的にもなく、媒体社が自らの意思で企画、編集、制作された記事のことを指す。」としています。
つまり、これらのガイドライン等では「広告主からお金をもらっているかどうか」を、「広告」と「記事」の境界線としているのです。
■ニュース配信サイトであるYahoo!ニュース側も「メディアが広告主からお金をもらっているかどうか」で区別している
前回の記事で、7月30日にはYahoo!ニュースが、ステマについて「読者を裏切る」「優良誤認として景表法違反に問われる可能性もある」として糾弾したことを紹介しました。
【関連記事】
Yahoo!ニュースがステマ記事の配信を停止
では、Yahoo!ニュース側は「広告」と「記事」の境目をどう考えているのでしょうか。
11月9日のダイヤモンドオンラインのインタビューで、宮坂学ヤフー代表取締役社長がこのように答えています。
(ダイヤモンド)──本誌の取材によると、Yahoo!ニュースはその影響力の大きさ故に、お金を払って執筆された記事の配信先として狙われていました。
(宮坂氏)私たちは提携メディアとの契約書の中で、金銭授受のある記事の配信はやめてくださいと明記しています。それがいかに優れた記事であっても同じです。キャッシュをもらうのは、さすがにニュースとは違うでしょう。
そのような記事の存在は否定しませんが、少なくともヤフーの求めるニュースではありません。ルールから外れないよう提携メディアと話し合いをすることに尽きると思っています。社内でも過去のノンクレジット広告が判明しています。いきなり契約解除をすることは、まずありません。
【関連記事】
ヤフーがニュースの品質に応じて新たな収益シェア導入へ
このインタビューでの宮坂氏の答えからも明らかなように、ニュース配信サイトであるYahoo!ニュース側も「メディアが広告主からお金をもらっているかどうか」で広告と記事を区別しているようです。
■やはり「メディアが広告主からお金をもらっているかどうか」で区別すべき
「広告」と「記事」の違いは、それに対する消費者の信頼の高低にあります。
その信頼に決定的な意味を持っているのが、「メディアが広告主からお金をもらっているかどうか」でしょう。
仮に編集権がメディア側にある場合でも、消費者からの信頼という目から見ると、やはり「編集権が編集部にあっても、お金もらったら中立性なんてないんじゃないの」と考える消費者が多いのではないでしょうか。
「お金をもらっている」のであれば、その内容がいかに客観的で中立的であろうが、編集権があろうがなかろうが、やはり消費者の信頼度は下がると思います。
ですので、私としては、業界ガイドラインやヤフーと同様、「メディアが広告主から依頼を受けて有償で掲載する」かどうかを「広告」と「記事」の境界線と考えるべきだと思います。
この見解を前提とすると、先ほどの【事例1~3】はいずれもメディア側が広告主から依頼を受けて有償で掲載しているため「広告」であるということになり、広告表示をすべしということになりますが【事例4】は金銭のやりとりがないため「広告」ではないことになります。
■ 日本の法律では違法ではないが
もっとも、日本の景表法を前提とすると、このパターンのステマは違法ではない可能性が高いと思われます。
「本当は広告なのに記事の体裁をとっている」というだけでは、「有利誤認・優良誤認」とまでは言えないためです。
しかし、違法ではないからやってもいい、ということにはなりません。
「広告」と「記事」の違いは、それに対する消費者の信頼の高低にあります。
「記事」であればメディアが自ら取材を行い、中立的な立場から執筆されたものとして一般的に信頼度が高いのに対し、「広告」は、あくまで広告主の意向に沿って制作されているものであって、広告主に有利な点を誇張しているのではないかという目で消費者は見ます。
つまり、ステマは、メディアが、自ら築きあげた「信用」という包み紙で広告を包んだものであり、それが故に広告効果が高いのですが、その反面、ステマをしていることが露呈した場合にはメディア自身の信用を失墜させるものなのです。
その意味でステマは「メディアが自分の信用を切り売りしている」という点に問題の本質があるのではないでしょうか。
また、消費者としても「記事だと思って読んでいたら実は広告だった」と知らされた場合、おそらく「騙された」と感じる人が多いと思われます。
■ まとめ
・ 「ネイティブ広告+ノンクレジット広告の体裁の広告+有利誤認・優良誤認表示を内容としない」ステマは日本の現行法では違法ではない。
・ しかし、このパターンのステマは消費者の誤解を招きやすく、いわば「メディアが自らの信用を切り売りしている」という意味で問題がある。