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スマホソフトウェア競争促進法によって、アプリ事業者が受けるポジティブな影響

アバター画像 杉浦健二

2024年6月、「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」(スマホ競争促進法)が成立、公布され、2025年12月までに施行されます。メディアでは「巨大IT規制法」「スマホ新法」等と称され、たびたび話題となっていたスマホ競争促進法は、スマートフォン用にアプリを配信する多くのアプリ事業者(デベロッパー)にポジティブな影響を与えるものです。本稿ではスマホ競争促進法の概要と、同法の施行によってアプリ事業者がどのような影響を受けるのかについて解説します。

スマホ競争促進法によって何が変わるのか

スマホ競争促進法の施行によってアプリ事業者に生じる影響として、主に以下の3つが挙げられます。

①App StoreとGoogleプレイストアのルールが大きく変更される

App StoreとGoogleプレイストアのルール(デベロッパー規約、アプリ審査ガイドライン)がスマホ競争促進法に適合するために大きく変わり、アプリ内課金以外の決済手段を用いたり、アプリ事業者が自社ウェブサイトに誘導してアイテムを購入させたりすることができるようになる見込みです1スマホ競争促進法に基づく指定事業者は、2024年12月までに公正取引委員会より指定される予定ですが、法案制定時の国会答弁の内容等に鑑み、本稿ではApple社とGoogle社が指定されることを前提としています。

②サードパーティが運営するアプリストアで配信することができるようになる

AppleとGoogle以外の第三者(サードパーティ)が運営するアプリストアが実現可能になります2GoogleのスマホOSであるAndroidでは、一定のハードルはあるものの第三者アプリストアの参入が一応は許容されていますので、厳密にいうと、AppleのスマホOSであるiOSにおいても第三者アプリストアの参入が実現可能になるという意味となります。。第三者アプリストアにおいてアプリを配信する場合、 AppleやGoogleによるアプリ審査ガイドラインの多くが適用されなくなる見込みのため、現在の審査ガイドラインでは認められていないアプリ配信が実現できる可能性が生じることになります。

③自らアプリストアを開設することができるようになる

自らがサードパーティとしてアプリストアを開設することも可能となります。既にアプリストアの開放が先行する欧州においては、マイクロソフトやSpotify、EpicGames等が、サードパーティアプリストアとして参入することを表明しています。自社のアプリのみで構成されるアプリカタログを提供することも可能になります(Appleの欧州向け新ルール)。

上記の3つの影響は、欧州デジタル市場法(DMA)が先行している欧州では、すでに現実のものとなっています。
スマホ競争促進法は2025年12月までに施行される予定ですが、アプリビジネス関係者としては、施行日を待たずに早い段階で、同法を理解したうえで、自社のアプリビジネスが受ける影響について検討を進めておく必要があります。以下ではスマホ競争促進法の概要を解説します。

スマホ競争促進法の概要

スマホ競争促進法(条文はこちら)は、スマートフォン分野において独占禁止法を補完する位置付けの法律です。一定規模以上の指定事業者に対して、一定の禁止事項(法5条-法9条)と遵守事項(法10条-法13条)が義務付けられます。2025年12月までに全面施行され、政省令(施行令及び施行規則)やガイドラインはこれから定められる予定です。

スマホ競争促進法の規律対象となるのは「スマホOS・アプリストア・ブラウザ・検索エンジン」の4つです。以上の4つは「特定ソフトウェア」と定義されています(法2条7項)。
指定事業者として指定されることが想定されるApple社またはGoogle社が提供する特定ソフトウェアのうち、現時点で本法の規律対象になると想定されるものは以下のとおりです。

iPad等のタブレットに関する特定ソフトウェア(iPad OS等)や、通信機能がある携帯ゲーム機等に関するOS等は、本法の規律対象に含まれません。本法は、あくまで「スマートフォンの利用に特に必要な特定ソフトウェア」に関する規律であるためです(法1条、2条1項)3スマホ競争促進法は3年ごと見直しが予定されているため、欧州DMA等にあわせて将来的に特定ソフトウェアの対象が拡大される可能性はありますが、そのためには法改正が必要になります。

禁止事項と遵守事項

指定事業者には、やってはならない禁止事項(法5条-9条)と、やらなければならない遵守事項(法10条-13条)がそれぞれ義務づけられます。
主な禁止事項として
・自社のアプリストアの限定禁止(法7条1号)
・支払手段(アプリ内課金)の利用強制禁止(法8条1号)
・アプリ内における情報提供制限やアプリ外へのリンク制限の禁止(法8条2号)
・不当に差別的な取扱いその他の不公正な取扱いの禁止(法6条)
・検索サービス提供時における自社サービスの優先表示禁止(法9条)
などがあり、
主な遵守事項として
・アプリ等のデフォルト設定を容易に変更したり他のアプリとの選択画面(チョイススクリーン)を表示できるようにしなければならない(法12条)
・データポータビリティツール提供の義務づけ(法11条)
などがあります。

https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2024/jun/0102gaiyou.pdf の図表に一部加筆

禁止事項の一部(上記図表で黄色ハイライトで示した箇所。法7条、8条1号2号)に違反した場合は、課徴金納付が命じられる可能性があります(法19条)。

欧州デジタル市場法(DMA)とスマホ競争促進法の異同

スマホ競争促進法は、欧州デジタル市場法(DMA, The Digital Markets Act)をベースとしています。DMAは「コアプラットフォームサービス」と呼ばれるオンラインデジタルサービスを提供する大規模プラットフォームを「ゲートキーパー(GK)」として指定し、一定の禁止行為や遵守行為を義務づける法律で、2024年3月7日より義務規定が発効しています。

DMAの規律対象である「コアプラットフォームサービス」は、スマホ競争促進法の規律対象である「特定ソフトウェア」よりも広範です。以下の図表は欧州委員会が2024年8月時点で公表しているコアプラットフォームサービス一覧ですが、このうち、スマホ競争促進法の規律対象となる「特定ソフトウェア」を赤で囲んでみました。DMAがオンライン仲介サービスやソーシャルネットワークなど、スマホに限らず広くオンラインサービスを対象としているのに対し、スマホ競争促進法はあくまでスマホ利用に必要となる特定ソフトウェアに対象を限定しているため、双方の規律対象となるサービスには大きな差分があることが分かります。

欧州委員会ウェブサイトの図表に一部加筆 https://digital-markets-act.ec.europa.eu/gatekeepers_en

英国でも、2024年5月、デジタル市場・競争・消費者法(DMCCA, Digital Markets, Competition and Consumers Act)が成立しており、競争法の観点からデジタルプラットフォームを規律する法律の制定が相次いでいる状況です。

アプリ事業者に生じるポジティブな影響(アプリ内通貨の有効期限を例に)

本稿の冒頭で、スマホ競争促進法の施行によって①App StoreとGoogleプレイストアのルールが大きく変更される②サードパーティが運営するアプリストアで配信することができるようになる③自らアプリストアを開設することができるようになる、といった影響がアプリ事業者に生じることを説明しました。ここでは②(サードパーティアプリストアでのアプリ配信)についてもう少し掘り下げます。

スマホ競争促進法が施行されれば、iOSにおいても、Apple以外のサードパーティが運営するアプリストアが実現可能となる見込みです。Appleは2024年初頭、欧州DMAに対応するためにApp Reviewガイドラインを改訂しており、iOS 17.4以降では、AppStore以外の第三者アプリストアの参入、第三者アプリストアにおけるアプリ配信、Webサイトからのアプリ直接配布等が、Appleの公証を得ること等を条件に欧州においては許容されました。

DMAのもとでは、AppStore以外の第三者アプリストアで配信されるアプリについては、App StoreのルールであるApp Reviewガイドラインの多くの条項が適用されません4App Reviewガイドライン左下の「公証に関するReviewガイドラインのみをハイライトする」をクリックすると、第三者アプリストアでは適用されない条項がハイライト表示されます。。たとえば「アプリ内課金で購入されたクレジットやゲーム内通貨に有効期限を設定することはできません。」とするルール(3.1.1)も適用除外となります。

第三者アプリストアであれば、iOSでもアプリ内通貨の有効期限を設定できる可能性

アプリ内通貨は資金決済法における前払式支払手段にあたるところ、iOSで配信するアプリではこれまでアプリ内通貨について有効期限を設定することができなかったため、アプリ内通貨の有効期限を6月内に設定することによって同法の適用除外を受けるスキーム(資金決済法4条2号)を採用することができませんでした。そのため、Web・iOS・Androidといったマルチプラットフォームでサービス展開する場合でも、Web版やAndroid版の通貨は有効期限を設定できてもiOS版では設定できない(したがって前払式支払手段の適用除外スキームをiOSアプリでは採用できない)といった不都合が生じていました。

AppleがDMAに対応した新たなApp Reviewガイドラインにおいては、有効期限を設定することはできないとする上記のルール(3.1.1)が第三者アプリストアには適用されないため、第三者アプリストアから配信するiPhone用アプリにおけるアプリ内通貨については、有効期限が設定できることとなります。以上はあくまで現時点の欧州における話ですが、スマホ競争促進法が施行された後の日本においても、同様の状況となることが想定されます。

上記は一例であり、その他にも、スマホ競争促進法が施行されることによって、これまで審査ガイドライン上許されていなかった新たなスタイルのアプリの配信が許容されることとなる見込みです。アプリ事業者としては、スマホ競争促進法の施行日を待つことなく、なるべく早い段階で同法をよく理解したうえで、今後自由度が高まるアプリビジネスモデルの検討を重ねておくべきでしょう5公正取引委員会は、2024年9月8日まで、同法のガイドライン等の策定準備や施行後の法運用を実効的なものとするため、アプリ事業者等との取引実態や、同法をきっかけとした新たなサービスに関する情報提供を募集しています(リンク)。これらの情報提供によって、今後定められるガイドライン等の内容に影響を与えられる可能性もあるので、アプリ事業者としては、この機に積極的に意見を送信されてみられるとよいかもしれません(締め切りまで1週間をきってますが・・)。(弁護士杉浦健二

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    スマホ競争促進法に基づく指定事業者は、2024年12月までに公正取引委員会より指定される予定ですが、法案制定時の国会答弁の内容等に鑑み、本稿ではApple社とGoogle社が指定されることを前提としています。
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    GoogleのスマホOSであるAndroidでは、一定のハードルはあるものの第三者アプリストアの参入が一応は許容されていますので、厳密にいうと、AppleのスマホOSであるiOSにおいても第三者アプリストアの参入が実現可能になるという意味となります。
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    スマホ競争促進法は3年ごと見直しが予定されているため、欧州DMA等にあわせて将来的に特定ソフトウェアの対象が拡大される可能性はありますが、そのためには法改正が必要になります。
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    App Reviewガイドライン左下の「公証に関するReviewガイドラインのみをハイライトする」をクリックすると、第三者アプリストアでは適用されない条項がハイライト表示されます。
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    公正取引委員会は、2024年9月8日まで、同法のガイドライン等の策定準備や施行後の法運用を実効的なものとするため、アプリ事業者等との取引実態や、同法をきっかけとした新たなサービスに関する情報提供を募集しています(リンク)。これらの情報提供によって、今後定められるガイドライン等の内容に影響を与えられる可能性もあるので、アプリ事業者としては、この機に積極的に意見を送信されてみられるとよいかもしれません(締め切りまで1週間をきってますが・・)

関連資料:
過去ブログ)アプリ開発者が知っておくべきデジタルプラットフォーム取引透明化法のポイント2022/01/07
過去スライド)アプリビジネスとプラットフォーム規制の最新動向2024/04/11

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