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人工知能(AI)、ビッグデータ法務 著作権

【連載】生成AIと著作権~文化審議会著作権分科会法制度小委員会「考え方」を踏まえて~第6回

柿沼太一 柿沼太一

Contents

【連載】生成AIと著作権~文化審議会著作権分科会法制度小委員会「考え方」を踏まえて~

 本連載は、2024年3月15日に文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AIと著作権に関する考え方について」(以下「考え方」」といいます)が公表されたことを受けて、2024年4月時点でのAIと著作権に関する法的論点とその基本的な考え方について網羅的に整理したものです。
 本連載の作成にあたっては、文化庁の「考え方」をベースに、関連する各書籍や論文等を参照し、かつ私自身が実務で経験したことを最大限盛り込んでいます。
 特に「上野達弘・奥邨弘司(編)「AIと著作権」勁草書房、2024年」は、2024年時点の最新の論点について、理論的・実務的な観点から極めて詳細な検討がされている書籍であり、本連載作成に際しても大いに参考にしています。
 本連載では、網羅的、かつ最新の知見を盛り込みつつも、学説の対立の紹介は最小限にとどめて、できるだけ一般的な結論を記載するようにしています。
 もっとも、連載の中での「通説」「一般的」という表現は、あくまで筆者の個人的な見解ですので、そのつもりでお読み下さい。

■ 連載目次
1 AIと著作権法に関する全体像
(1) 分析の視点
(2)「開発・学習」段階と「生成・利用」段階の意味
(3) 誰が、どのような行為に対して、どのような責任を負う可能性があるのか
(4) 開発・学習段階と生成・利用段階を分けて検討する意味
【以上第1回】
2 開発・学習段階
(1)分析の視点
(2)学習目的による制限
【以上第2回】
(3)学習対象による制限
ア はじめに
イ 情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物
ウ 海賊版等の権利侵害複製物
【以上第3回】
エ 学習禁止意思が付されている著作物
オ 学習を防止するための機械可読方法による技術的な措置が付されている著作物
カ 情報解析用DB著作物以外の著作物のうちライセンス市場が形成されている(すでにライセンス・販売されている)もの
(4)開発・学習段階での著作権侵害行為について権利者はどの範囲で差止請求等ができるか
(5)生成・利用段階における情報解析と30条の4
(6)30条の4と47条の5の役割分担
【以上第4回】
3 生成・利用段階
(1)検討の視点
(2)依拠
【以上第5回】
(3)行為主体性
(4)入力
(5)生成
(6)送信
(7)利用
【以上第6回】
4 結局、著作権者は誰に何を請求できるのか
5 AI開発者・AIサービス提供者・AI利用者は著作権侵害とならないために何をすれば良いのか
6 RAGと著作権侵害についての整理
7 AI生成物の著作物性について
8 日本著作権法の適用範囲

3 生成・利用段階

(3) 行為主体性

ア 何の問題か

 「生成・利用」段階における「入力」「生成」「(送信)」「利用」の各フェーズにおいて既存著作物の利用行為(侵害行為)を行っている主体(行為主体)が誰かの問題です。
 物理的に対象著作物の利用行為を行っている者が行為主体であることは明らかですが、既存の判例・裁判例上、一定の場合に、物理的な行為主体以外の者が、規範的な行為主体として著作権侵害の責任を負う場合があります(いわゆる規範的行為主体論)(「考え方」36頁)。
 「生成・利用」段階における各フェーズのうち、「入力」「(送信)」「利用」の各フェーズにおける行為主体が誰か、は比較的容易な問題です。
 「入力」についてはAI利用者、AIがクラウドサービスとして提供されている場合の「送信」についてはAI開発者ないしAIサービス提供者、「利用」はAI利用者が行為主体であることが通常明らかであり、それ以外の主体が行為主体となることは通常はありません。
 問題は「生成」です。
 「生成」は、AI開発者・AIサービス提供者が行う「学習」と、AI利用者が行うAIへの「入力」の2つの行為が競合しており、どちらが(あるいはどちらも)行為主体となるかを判断するのが難しいためです。

イ 行為主体性を問題とする意義

 このように、物理的な行為主体以外に、規範的な行為主体を問題とするのは、特に権利者にとって重要な意味があります。
 AI利用者による著作権侵害行為について、AI開発者・AIサービス提供者が規範的な行為主体に該当する場合には、当該AI開発者・AIサービス提供者に対して、権利者が、直接に差止請求と損害賠償請求を行うことができるからです。
 これにより、一網打尽効果(サービスの利用者の行為を個々に問題にするのではなく、サービス全体を停止させること)、隠れ蓑対策効果(物理的な利用主体の行為が適法であることを隠れ蓑として利益を上げる者の責任追及を可能とする)があると考えられているのです1奥邨弘司「まねき TV・ロクラクⅡ事件最判後の著作権の間接侵害論〜ネットワーク型サービスの場合に焦点を当てて〜」(パテント2011Vol64・89頁)

ウ 行為主体性の判断基準

 AIと著作権侵害における行為主体性の判断基準を検討するに際しては、ロクラクⅡ事件最判(最判平成 23 年1月 20 日民集 65巻1号 399 頁〔ロクラクⅡ事件〕)が参考になります2「AIと著作権」横山先生・129頁

① ロクラクⅡ事件とは

 この事件で問題になったサービス(以下「ロクラクⅡサービス」という)は、簡単にいうと、日本国外に居住している視聴者が、日本国内で放送されているテレビ番組を視聴することができるようにするサービスです。
 具体的には、①サービス提供者がハードディスクレコーダー「ロクラクⅡ」の親機を日本国内の保管場所に設置し,②同所で受信するテレビ放送の放送波を同親機に入力するとともに,同親機に対応する子機をユーザーに貸与又は譲渡し、③ユーザーが子機から親機に録画の指示を出すことにより,放送番組を録画し,視聴することを可能とするサービスでした。
 下図は、ロクラクⅡ事件第1審の添付文書から引用したものです。

 ロクラクⅡサービスでは、ユーザーの指示に従ってテレビ番組を受信して親機に録画をしているのはサービス提供者ですが、録画の指示を出しているのがユーザーであることから、「サービス提供者が録画による複製の行為主体か」が争われました。
 AI開発者あるいはAIサービス提供者がAIを提供し、AI利用者が同AIを利用して既存著作物と類似するAI生成物を生成(複製)した場合に、「AIを提供しているAI開発者・AIサービス提供者が、当該AI生成物の生成(複製)の行為主体か」が問題になるのと問題状況としてはパラレルと言えます。
 ロクラクⅡ事件において、最高裁は, まず一般論として, 「複製の主体の判断に当たっては,複製の対象,方法,複製への関与の内容,程度等の諸要素を考慮して,誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当である」と判示しました。
 その上で,本件について, 「サービス提供者は単に複製を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず, その管理,支配下において,放送を受信して複製機器に対して放送番組等に係る情報を入力するという,複製機器を用いた放送番組等の複製の実現における枢要な行為をしており,複製時におけるサービス提供者の上記各行為がなければ, 当該サービスの利用者が録画の指示をしても,放送番組等の複製をすることはおよそ不可能」であるとして 「サービス提供者はその複製の主体である」 と判示しました(強調部筆者)3ちなみに、ロクラクⅡ最判はユーザーが複製主体となるかについて言及していない。もっとも、同最判の原審(知財高判平成21年1月27日 (平成20年(ネ) 10055号・ 10069号))は, サービス提供者ではなく、.ユーザが複製の主体になると判断している(「AIと著作権」横山先生・136頁)。

② ロクラクⅡ最判を踏まえた行為主体の判断基準

 ロクラクⅡ最判の考え方を前提とすると、学習モデルの開発から生成物の出力に至るまでの一連の流れにおける、AI開発者・AIサービス提供者・AI利用者それぞれの関与の内容・程度等の諸要素を総合的に考慮し,いずれが、あるいは双方が、既存著作物と類似するAI生成物の生成(複製)における「枢要な行為」を行っているか(重要な役割を果たしているか)という観点から、行為主体性を判断することになると思われます4「AIと著作権」横山先生・131頁
 検討を簡素化するために、AI開発者とAI利用者のみが関与することを前提に、それぞれが重要な役割を果たしている/果たしていないで場面を分けると以下のようになります。

 もっとも、問題は何がAI生成物の生成(複製)における「重要な役割」なのかという点です。
(ⅰ) AI利用者側が「重要な役割」を果たすケース
 AI利用者側が「重要な役割」を果たすケースとしては、生成利用段階において、① 既存著作物と類似するAI生成物を生成する意図を持ってプロンプト入力をする、② 既存著作物と類似するAI生成物を生成する意図を持って既存著作物をAIに入力する、③出力された生成物の部分的修正を繰り返して既存著作物に類似した生成物を作り上げる、などが考えられます5「AIと著作権」・横山先生・135頁
(ⅱ) AI開発者側が「重要な役割」を果たすケース
 一方、AI開発者が「重要な役割」を果たすケースとしては、開発・学習段階において、① 学習対象となった著作物の表現を出力する目的を持って過学習を行う、② 特定の著作権者の作風を再現する目的で特定の著作権者の著作物のみの学習を行う6「AIと著作権」・横山先生・135頁などが考えられます。
 また、AI利用者の「重要な役割」とAI開発者の「重要な役割」が複合して既存著作物と類似するAI生成物が生成された場合には、AI開発者とAI利用者とが双方とも行為主体となることもあり得ると思われます7「AIと著作権」座談会・横山先生発言・299頁。「考え方」34頁には「なお、生成 AI の開発・学習段階で既存の著作物を学習していた場合において、AI 利用者が著作権侵害を問われた場合、後掲(2)キのとおり、当該生成 AI を開発した事業者においても、著作権侵害の規範的な主体として責任を負う場合があることについては留意が必要である。」とあります。
(ⅲ) AI利用者側が「重要な役割」を果たさないケース
 一方、AI利用者側が「重要な役割」を果たさないケースとしては、生成利用段階において、AI利用者が一般的・抽象的な指示・入力しか行わない、などが該当します。
(ⅳ)AI開発者側が「重要な役割」を果たさないケース
 最後に、AI開発者側が「重要な役割」を果たさないケースとしては、そもそも学習用データに既存著作物が含まれていない、上記のような特殊な学習(表現出力目的の学習や、作風模倣目的の学習)ではなく一般的・網羅的な学習しか行わない、類似表現が出力されないような技術的な仕組みを備えている8パブコメ165参照などが該当します。なお、座談会での議論(「AIと著作権」294頁~302頁)を見ると、AI開発者・AIサービス提供者の行為主体性が否定されるポイントとして、事業者において類似表現が出力されないよう技術的な仕組みを備えたかどうかを重視する見解が多いように思われます。
(ⅴ) 「考え方」の記載
 この点について、「考え方」37頁には、以下の記載があります。

① ある特定の生成 AI を用いた場合、侵害物が高頻度で生成される場合は、事業者が侵害主体と評価される可能性が高まるものと考えられる。

② 事業者が、生成 AI の開発・提供に当たり、当該生成 AI が既存の著作物の類似物を生成する蓋然性の高さを認識しているにも関わらず、当該類似物の生成を抑止する措置を取っていない場合、事業者が侵害主体と評価される可能性が高まるものと考えられる。

③ 事業者が、生成 AI の開発・提供に当たり、当該生成 AI が既存の著作物の類似物を生成することを防止する措置を取っている場合、事業者が侵害主体と評価される可能性は低くなるものと考えられる。

④ 当該生成 AI が、事業者により上記の(2)キ③の手段を施されたものであるなど侵害物が高頻度で生成されるようなものでない場合においては、たとえ、AI 利用者が既存の著作物の類似物の生成を意図して生成 AI にプロンプト入力するなどの指示を行い、侵害物が生成されたとしても、事業者が侵害主体と評価される可能性は低くなるものと考えられる。

 この記載も、上記のようにAI開発者・AIサービス提供者・AI利用者それぞれの関与の内容・程度等の諸要素を総合的に考慮し,いずれが、あるいは双方が、既存著作物と類似するAI生成物の生成(複製)における「枢要な行為」を行っているか(重要な役割を果たしているか)という観点から行為主体性を判断するものと思われます。
 なお、「考え方」23頁には、AI開発事業者やAIサービス提供事業者の行為主体性について、37頁以外にも海賊版に関して以下の記載があります。

AI 開発事業者や AI サービス提供事業者が、ウェブサイトが海賊版等の権利侵害複製物を掲載していることを知りながら、当該ウェブサイトから学習データの収集を行ったという事実は、これにより開発された生成 AI により生じる著作権侵害についての規範的な行為主体の認定に当たり、その総合的な考慮の一要素として、当該事業者が規範的な行為主体として侵害の責任を問われる可能性を高めるものと考えられる。

 この点については、既に述べたように若干疑問です。
 「知らなかった場合にはAI開発事業者が規範的行為主体としての責任を問われる可能性が低くなる」、つまり「知っていること」が必要条件であるとは言えると思いますが、単に「ウェブサイトが海賊版等の権利侵害複製物を掲載していることを知りながら、当該ウェブサイトから学習データの収集を行った」というだけで、AI開発事業者の規範的行為主体としての責任を問われる可能性が高まるとまでは言えないと考えます。

エ 行為主体でない者が幇助者として共同不法行為責任を負うこともある

 以上、著作権侵害の行為主体性について検討をしてきましたが、行為主体でなければ一切責任を負うことはないかというとそうではありません。
 例えば、事業者が著作権侵害の行為主体と評価されないケースでも、場合によってはAI利用者による著作権侵害の幇助者として、民法上の共同不法行為責任を負う場合があり得ます。
 たとえば、従来の判例上、行為主体が著作権侵害を生じさせる蓋然性が高いと客観的に認められ、この蓋然性を幇助者において予見でき、侵害結果回避のための措置を講ずることが可能であったこと等の事情から、幇助者に一定の注意義務が認められるにもかかわらず、この注意義務を怠った場合等に、当該責任が認められた事例があります(最判平成 13 年3月2日民集 55 巻2号 185 頁〔ビデオメイツ事件〕等)(「考え方」37頁・脚注50)。
 もっとも、幇助者に対しては差止請求はできず、損害賠償請求しかできないというのが一般的な理解です。

(4) 入力

ア 典型的なパターン

 既存著作物のAIへの入力行為が著作権侵害に該当するか問題となる典型的なパターンは以下のとおり、AI利用者が既存著作物を収集した上でAIに入力するパターンです。

 また、RAGのようなサービス・システムにおいて、入力対象著作物の収集や蓄積をAIサービス提供者が行うケースもあります。

イ 行為主体

 AI利用者が既存著作物をAIに入力するパターンにおいては、AI開発者及びAIサービス提供者は当該入力行為に物理的にも規範的にも一切関与していないことから、AI利用者のみが行為主体となります。
 一方、RAGのようなサービス・システムにおいて、入力対象著作物の収集や蓄積をAIサービス提供者が行う場合は、当該行為を行ったAIサービス提供者が、入力における行為主体となることもあると思われます。

ウ 各要件の検討9AIサービス提供者が行為主体となる場合も同じ枠組みで判断することになる。

① 依拠性

 AI利用者自身が既存著作物を認識した上で入力行為を行っているので依拠性は当然存在します。

② 権利制限規定

 この点については、「2 開発・学習段階」「(5) 生成・利用段階における情報解析と30条の4」で述べたこと(考え方21頁・同37頁)が当てはまります。
 具体的には以下のとおりです。
 

 ▼ 入力対象である既存著作物の表現出力目的がある場合とない場合に分けて検討する必要がある。
 ▼ 入力対象である既存著作物の表現出力目的がない場合は30条の4が適用され適法。
 ▼ 入力対象である既存著作物の表現出力目的がある場合は30条の4は適用されないが、47条の5が適用される可能性がある。ただし47条の5の要件(「付随性」「軽微利用」等)を満たす必要がある。
 ▼ それ以外の権利制限規定(私的使用目的の複製(法30条1項)、学校その他の教育機関における複製等(法35条)、検討過程における利用(法30条の3)が適用されれば適法。

③ 故意・過失

 AI利用者自身が既存著作物を認識した上で入力行為を行っているので故意・過失は当然存在します。

エ 差止請求等として権利者が取り得る措置について

 既存著作物の入力が著作権侵害に該当し、AI利用者又はAIサービス提供者が行為主体となる場合に、権利者が差止請求としてとりうる措置としては以下のものが考えられます10繰り返しになるが、著作権侵害の行為主体に対してしか差止請求はできない。したがって、AIサービス提供者が行為主体とならない場合(幇助者としての責任を負う場合も含む)には、AIサービス提供者に対する差止請求はできない

① AI利用者やAIサービス提供者における新たな入力行為の差止請求
② AI利用者やAIサービス提供者において、入力のための蓄積行為(DB化行為)が行われており、当該DBが今後も入力に用いられる蓋然性が高い場合には、著作権侵害の予防に必要な措置として、当該DBからの対象著作物の除去の請求あるいは当該DBの廃棄請求(後者は当該DBが権利者が著作権を有する著作物でのみ構成されている場合)

(5) 生成

ア 典型的なパターン

 既存著作物と類似するAI生成物を生成することが著作権侵害に該当するか問題となる典型的なパターンは「依拠」の部分で説明したとおり、以下の3つのパターンです。


イ 行為主体

 「生成」の行為主体性については「行為主体性」のところで述べたように、AI開発者・AIサービス提供者・AI利用者それぞれの関与の内容・程度等の諸要素を総合的に考慮し,いずれが、あるいは双方が、既存著作物と類似するAI生成物の生成(複製)における「枢要な行為」を行っているか(重要な役割を果たしているか)という観点から行為主体性を判断することとなります。

ウ 各要件の検討

① AI利用者が行為主体となる場合

(ⅰ)依拠性
 先ほど説明したように、依拠性については「操作者による依拠」と「AIによる依拠」について検討することになりますが、AI利用者が行為主体となる場合(AI利用者がAI生成物の生成に重要な役割を果たしている場合)は、通常、「操作者による依拠が認められると思われます。
 ただ、正直に言うと、私は、行為主体性の判断基準と依拠の判断基準の関係性がまだよくわかっていません。
 具体的には以下のような内容の疑問です。

・ ロクラクⅡ最判の基準にしたがって行為主体性を認定した後に、当該侵害主体ごとに依拠性を判断するのか、逆に依拠性を認定した後に、行為主体性を判断するのか
・ 依拠性の有無の判断基準と侵害主体性の判断基準は完全に一致しているのか(つまり、操作者による依拠が認められる=操作者が行為主体、AIによる依拠が認められる=AI開発者が行為主体、ということなのか?)
・ しかし、「操作者による依拠」「AIによる依拠」とは、あくまで操作者(AI利用者)が行為主体であることを前提としての、依拠性の判断基準ではないか。
・ また、「AIによる依拠」は、AI開発者側において網羅的な学習しか行っていなくとも、学習用データに対象著作物が入っていただけで認められる可能性が高いが、そのような場合は、通常AI開発者に「重要な役割」があるとは考えられないが、AI開発者に行為主体性を認めてしまってよいのか。

 ロクラクⅡ最判の事案は、サービス提供者が受信した番組をサービス利用者が視聴しているため、依拠は明らかであり上記の様な疑問は生じないのですが。。。
 ということで、私の理解が追いついていないのですが、とりあえず、本記事では「ロクラクⅡ最判の基準にしたがって行為主体性を認定した後に、当該侵害主体ごとに依拠性を判断する」という順番で検討します。
(ⅱ) 権利制限規定
 AI利用者による「生成」について、適用があり得る権利制限規定としては、情報解析の結果提供に付随した軽微利用(47条の5第1項)、私的使用目的の複製(法30条1項)、学校その他の教育機関における複製等(法35条)、検討過程における利用(法30条の3)が考えられます(「考え方」38頁)。
(ⅲ) 故意・過失
AI利用者が行為主体となる場合(AI利用者がAI生成生物の生成に重要な役割を果たしている場合)は、AI利用者に故意・過失が認められると思われます。
(ⅳ) 差止請求等として権利者が取り得る措置
 生成に際して著作権侵害が生じ、AI利用者が行為主体となる場合に権利者が差止請求等としてとりうる措置としては以下のものがあります。

 AI利用者が著作権侵害となる同種の生成物の出力を繰り返すおそれがあるときや, 出力された生成物を用いて公衆送信等の利用を行うおそれがあるときに, 新たな侵害物の生成の差止請求及び出力されたAI生成物の廃棄請求( 「考え方」35頁)11「AIと著作権」136頁

② AI開発者・AIサービス提供者が行為主体となる場合

(ⅰ)依拠性
 依拠性については「操作者による依拠」と「AIによる依拠」について検討することになりますが、AI開発者・AIサービス提供者が行為主体となる場合(AI開発者等がAI生成生物の生成に重要な役割を果たしている場合)は、通常、「AIによる依拠」が認められると思われます。
(ⅱ) 権利制限規定
 AI開発者・AIサービス提供者による「生成」について、適用があり得る権利制限規定としては、情報解析の結果提供に付随した軽微利用(47条の5第1項)、学校その他の教育機関における複製等(法35条)が考えられます 。
(ⅲ) 故意・過失
 AI開発者・AIサービス提供者が行為主体となる場合(AI開発者・AIサービス提供者がAI生成生物の生成に重要な役割を果たしている場合)は、AI開発者・AIサービス提供者に故意・過失が認められると思われます。
(ⅳ) 差止請求等として権利者が取り得る措置
 生成に際して著作権侵害が生じ、AI開発者・AIサービス提供者が行為主体となる場合に権利者が差止請求等としてとりうる措置としては以下のものが考えられます(「考え方」35頁)12「AIと著作権」座談会295頁。 

① 著作権侵害の予防に必要な措置として、著作権侵害の対象となった当該著作物が、将来においてAI学習に用いられることに伴って、複製等の侵害行為が新たに生じる蓋然性が高いといえる場合には、当該データセットから、当該侵害の行為に係る著作物等の廃棄を請求すること
 ② 侵害物を生成した生成 AI について、当該生成 AI による生成によって更なる著作権侵害が生じる蓋然性が高いといえる場合には、当該 AI 開発事業者又は AI サービス提供事業者に対して、当該生成 AI による著作権侵害の予防に必要な措置を請求すること。この場合における「必要な措置」とは、たとえば、「特定のプロンプト入力については、生成をしないといった措置」あるいは、「当該生成 AI の学習に用いられた著作物の類似物を生成しないといった措置等の、生成 AI に対する技術的な制限を付す方法」など。

 なお、①については、「考え方」35頁の記載とパブコメ344の記載内容が微妙に異なっているように読めます。
 「考え方」の方では「侵害物を生成した生成 AI の開発に用いられたデータセットが、その後も AI 開発に用いられる蓋然性が高い場合」とありますが、パブコメ344の「著作権侵害の対象となった当該著作物が、将来においてAI学習に用いられることに伴って、複製等の侵害行為が新たに生じる蓋然性が高いといえる場合」とあります。どちらかというとパブコメ344の記載の方がより正確であるように思います。
 なお、同パブコメにも記載されているとおり、一度でも侵害物を生成すればデータセットからの廃棄を請求することが可能な訳ではありません。

(6) 送信

ア 典型的なパターン

 既存著作物と類似するAI生成物の送信行為が著作権侵害に該当するか問題となる典型的なパターンは以下のとおり、AIサービスがクラウドサービスとして提供されている場合です。

イ 行為主体

 AI開発者が既存著作物と類似するAI生成物を利用者に送信するパターンにおいては、物理的にAI開発者のみが行為主体となります。

ウ 各要件の検討

① 依拠性

 AI開発者自身が既存著作物を認識した上で送信行為を行っているので依拠性は存在します。

② 権利制限規定

 AI開発者による「送信」について、適用があり得る権利制限規定としては、情報解析の結果提供に付随した軽微利用(47条の5第1項)、学校その他の教育機関における複製等(法35条)が考えられます。

③ 故意・過失

 AI生成物の送信段階では,AI生成物の内容が明らかになっているため.AI開発者が生成物を送信する場合には,著作権侵害の成否を確認する義務を負うと解すべきでしょう。そのような義務を怠った場合には、過失があることになります。

エ 差止請求等として権利者が取り得る措置について

 AI開発者による送信に際して著作権侵害が生じる場合に権利者が差止請求としてとりうる措置としては、AI開発者が著作権侵害となる同種の生成物の送信を繰り返すおそれがあるときは、新たな侵害物の送信の差止請求及び出力されたAI生成物の廃棄請求が考えられます。

(7) 利用

ア 典型的なパターン

 既存著作物と類似するAI生成物の利用行為が著作権侵害に該当するか問題となる典型的なパターンは以下のとおりです。
 既存著作物と類似するAI生成物を、AI利用者が利用(公衆送信等)をするパターンです。

イ 行為主体

 生成されたAI生成物をAI利用者が利用するパターンにおいては、物理的にAI利用者のみが行為主体となります。AI開発者・AIサービス提供者は生成物の「利用」には物理的にも規範的にも関与していないため、「利用」に関する行為主体と判断されることはありません13「AIと著作権」・横山先生・137頁~138頁
 もっとも,AI利用者の利用行為が著作権侵害となるときは,例外的にAI開発者がその幇助者として共同不法行為責任(民法719条2項)を負う可能性があります。

ウ 各要件の検討

① 依拠性

 AI利用者自身が既存著作物を認識した上で利用行為を行っているので依拠性は当然存在します。

② 権利制限規定

 AI利用者による「利用」について、適用があり得る権利制限規定としては、情報解析の結果提供に付随した軽微利用(47条の5第1項)、学校その他の教育機関における複製等(法35条)が考えられます。

③ 故意・過失

 AI生成物の利用段階では,AI生成物の内容が明らかになっているため.AI利用者が生成物を利用する場合には,著作権侵害の成否を確認する義務を負うと解すべきでしょう。そのような義務を怠った場合には、過失があることになります。
 もっとも、AI利用者にあまりに高度な確認義務を課すと、AI利用者に容易に過失が認められることになってしまい、AI利用者に酷な結果となってしまうため妥当ではないと考えます。
 この点について「AIと著作権」・横山先生・137頁は「元となった既存作品が著名である場合や, AIの学習用データセットが公開されている場合を除いて,ユーザーが著作権侵害の前提事実(既存作品がAIの学習に使用されたか否か,生成物が既存作品とどの程度類似しているか,既存作品の著作権者が生成物の出力や利用に対して許諾を与えているか等)を調査・確認することは通常困難であるため,少なくとも一般のユーザが非営利目的で生成物を利用するような場合には, 注意義務の程度を引き下げ,過失を柔軟に否定する余地を認めるべきであろう」しており、賛成です。

エ 差止請求等として権利者が取り得る措置について

 AI利用者によるAI生成物の利用が著作権侵害に該当する場合に、権利者が差止請求等としてとりうる措置としては、AI利用者が著作権侵害となる同種の生成物の利用を繰り返すおそれがあるときや, 出力された生成物を用いて公衆送信等の利用を行うおそれがあるときは, 新たな侵害物の生成の差止請求及び出力されたAI生成物の廃棄請求が考えられます。

【脚注】

  • 1
    奥邨弘司「まねき TV・ロクラクⅡ事件最判後の著作権の間接侵害論〜ネットワーク型サービスの場合に焦点を当てて〜」(パテント2011Vol64・89頁)
  • 2
    「AIと著作権」横山先生・129頁
  • 3
    ちなみに、ロクラクⅡ最判はユーザーが複製主体となるかについて言及していない。もっとも、同最判の原審(知財高判平成21年1月27日 (平成20年(ネ) 10055号・ 10069号))は, サービス提供者ではなく、.ユーザが複製の主体になると判断している(「AIと著作権」横山先生・136頁)。
  • 4
    「AIと著作権」横山先生・131頁
  • 5
    「AIと著作権」・横山先生・135頁
  • 6
    「AIと著作権」・横山先生・135頁
  • 7
    「AIと著作権」座談会・横山先生発言・299頁。「考え方」34頁には「なお、生成 AI の開発・学習段階で既存の著作物を学習していた場合において、AI 利用者が著作権侵害を問われた場合、後掲(2)キのとおり、当該生成 AI を開発した事業者においても、著作権侵害の規範的な主体として責任を負う場合があることについては留意が必要である。」とあります。
  • 8
    パブコメ165参照
  • 9
    AIサービス提供者が行為主体となる場合も同じ枠組みで判断することになる。
  • 10
    繰り返しになるが、著作権侵害の行為主体に対してしか差止請求はできない。したがって、AIサービス提供者が行為主体とならない場合(幇助者としての責任を負う場合も含む)には、AIサービス提供者に対する差止請求はできない
  • 11
    「AIと著作権」136頁
  • 12
    「AIと著作権」座談会295頁
  • 13
    「AIと著作権」・横山先生・137頁~138頁