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コンテンツビジネス法務(知的財産権、著作権) 著作権

なぜ音源の「放送」はできて「配信」は許されないのか~著作権法上の違いを確認してみた~

アバター画像 山城 尚嵩

イントロ(はじめに)

突然ですが、先日、Twitterを見ている中で、以下のtofubeats氏1氏は神戸生まれの同い年の星です。の投稿が目に留まりました。

この話、実は放送事業者を中心に「通信と放送の融合」として10年近く種々の議論がなされているトピックに通ずる問題意識です(ここでは深くは立ち入りません)。
しかし、どうしてテレビで「放送」されている市販CDなどの音源を、アーティストが「配信」することが許されないのでしょうか。コロナ禍においてライブ活動が制限されているアーティストがこのような問題意識を持つのは極めて自然な感覚です。

そこで、以下ではどうして音源の「放送」ができて「配信」ができないのかについて、著作権法を紐解いてみます。また、上記ツイートと時を同じくして、原盤権をめぐる面白い動きが出てきているので、最後に紹介できればと思います。

音源に発生する権利(総論)

まず、音源に含まれる著作権法上の財産的権利は以下の3つに大別できます。

ここでは、ざっくりと音源には3つの権利が含まれていて、放送や配信において他人の音源を利用するためには、これら3つの権利の権利者に許諾を得る(一般に「権利処理」といいます)必要があることを押さえていただければと思います。

作詞家・作曲家の権利(著作権)

1 著作権とはなにか

作詞家・作曲家が創作した歌詞・楽曲は「著作物」として著作権の対象となります。
この著作権は、最初は著作物を創作した著作者(作詞家・作曲家)のものです。ただし、著作権は譲渡可能な権利です。そのため、著作者が著作権を有しているとは限りません。著作者から著作権の譲渡を受けるなどして著作権を有している者のことを「著作権者」といいます。

この「著作権」という権利の正体ですが、実は複数の権利から構成されている「権利の束」です。
そのため、著作権者は、以下のすべての権利を専有(独り占め)する権利を有しています。

JASRAC HP「著作権の概要」を一部引用)

そのため、著作物を利用する場面では、単に「著作権があるからダメだよね」という話ではなく、具体的にどの権利の話をしているのか、を毎回個別に検討する必要があります。

なお、著作権は、音楽ビジネスにおいて「出版権」とも呼ばれることがありますが、本稿では著作権法に忠実に引き続き「著作権」と呼ぶこととします。

2 歌詞・楽曲を放送・配信に使う方法

では、音源の放送ができて、配信ができない理由は「著作権」にあるのでしょうか。
答えはノーです。

著作権とは、著作物の利用を独り占めできる権利であると説明しました。そのため、著作物を放送や配信で利用するためには、著作権者の許諾を得る必要があります。

そして、音楽ビジネス上、多くの作品2以下では、歌詞と楽曲をあわせて「作品」といいます。は、著作権者からJASRAC・NexToneといった著作権管理事業者に著作権の管理が委託されます。3管理委託と一口に言っても、JASRACとNexToneとでは管理委託の方法が異なります。JASRACの場合は作品の著作権を(信託)譲渡するためJASRACが著作権者となりますが、NexToneの場合には、委任契約であるため作品の著作権は著作権者に留保されます。

つまり、JASRACやNexToneの管理する作品を放送・配信に利用するためには、著作権管理事業者に所定の使用料を支払って利用許諾を得る必要があります。

しかし、逆にいうと、ある作品を放送・配信などで利用したい人は、JASRACやNexToneに使用料さえ払えば、放送であれ、配信であれ、利用することができるということです。

そうすると、どうやら音源の放送がOKで配信がNGな原因は、作詞家や作曲家が有する「著作権」にあるわけではない、といえます4JASRACやNexToneが拒否したら使えないのでは?といった疑問の声がありそうですが、著作権管理事業法第16条は「著作権等管理事業者は、正当な理由がなければ、取り扱っている著作物等の利用の許諾を拒んではならない」と定めています。したがって、JASRACやNexToneは原則として、利用許諾に応じる義務があります。5JASRACやNexToneが管理していない作品(非管理楽曲)については、放送にせよ配信にせよ直接著作権者の承諾を得る必要がありますので注意が必要です。

言い換えると、著作権ではない方の権利、つまり「原盤制作者(レコード製作者)の著作隣接権」「アーティスト(実演家)の著作隣接権)」に謎が隠されていそうですので、以下ではこれを見ていきましょう。

音源にまつわる2つの著作隣接権、そして原盤権

1 著作隣接権とはなにか

著作権法は、著作物(≒創作的な表現)と密接な関係を持つプレイヤーに「著作隣接権」という権利を認めています。著作隣接権は、その名のとおり「著作権」に隣り合わせの権利です。

ここまでに、作詞家・作曲家が著作物(歌詞・楽曲)を創作すると説明してきました。しかし、歌詞や楽譜が書かれた譜面だけを見て楽しめる方は少数でしょう6・・・ですよね?
むしろ、アーティストがこれを実演しているのをライブで聞き、またはレコーディングしてできた音源をCDや各種サブスクリプションサービスなどを通じて聞く形で、音楽を楽しむ方が大多数ではないでしょうか7・・・ですよね?(2回目)

このように、音楽の著作物である歌詞・楽曲を多くの人に届けるには、アーティスト(実演家)やアーティストの実演をレコーディングしてできた原盤の制作者(レコード製作者)の貢献が不可欠です。そこで、著作権法は、アーティストや原盤制作者に対して「著作隣接権」という権利を認めています。

そして、この「著作隣接権」も、著作権と同じで「権利の束」になっています。
以下では、原盤制作者に認められる著作隣接権と、アーティストに認められる著作隣接権を順を追って確認します。

2 原盤制作者の権利(レコード製作者の著作隣接権)

CRIC「著作隣接権とは?」を元に筆者作成)

一般に、原盤とは、音楽CDの販売などのために、アーティストの演奏を収録して、ミックス、マスタリングの過程を経て得られたマスターテープ(完パケ)を指します。

この原盤制作者は、著作権法上「レコード製作者」と定義されます8ここで、よくある質問として、「要するに【レコード会社=レコード製作者】なの?」といった質問があります。この質問に対しては、「その場合もあるし、そうでない場合もある」という歯切れの悪い回答となります。著作権法上、「レコード製作者」とは、レコードに固定されている音を最初に固定した者」と定義がされています(2条1項6号)。これはつまり、音源を作った者、平たくいうと原盤の制作費を投じた者を指します。かつてはレコード会社が制作費を全額負担することが多かったですが、今は出版社やプロダクションと共同で制作費を出し合ったり(共同原盤)、あるいは出版社やプロダクション側だけが制作費を出してレコード会社に原盤供給を行うケースもあるので、常に「レコード製作者=レコード会社」となるわけではありません。。先ほど、著作隣接権も「権利の束」だ、とお伝えしましたが、レコード製作者には上の図のような著作隣接権が認められます9上の図では「狭義の著作隣接権」なる言葉が出てきますが、これが著作権法上正しい意味での「著作隣接権」です。ただ、実務上、著作権法上の著作隣接権に限らず、報酬請求権も含めて(広い意味で)「レコード製作者の著作隣接権」と呼ばれることがあり、上の図はそのような理解に基づき整理しています。

3 アーティストの権利(実演家の著作隣接権)

CRIC「著作隣接権とは?」を元に筆者作成)

次に、レコーディングにおいて実際に楽曲を演奏する(実演する)アーティストは、著作権法上「実演家」に該当します。そして、実演家には、上の図のような著作隣接権が認められます。

4 原盤権とはなにか

ここまで、原盤制作者にレコード製作者の著作隣接権、アーティストに実演家の著作隣接権が認められることを紹介してきました(以下では、「著作隣接権」は、狭義の著作隣接権であることを前提に話を進めます。)

ただ、実務上、原盤制作者は、原盤制作の過程で、原盤に収録されるアーティストとの間でレコーディング契約書を交わして、実演家の著作隣接権の譲渡を受けます10ここでいう著作隣接権は狭義の著作隣接権ですので、広義の著作隣接権に含まれると整理した報酬請求権は実演家に留保されます。
したがって、実務上、原盤制作者は、自らに与えられるレコード製作者の著作隣接権と実演家の著作隣接権とをセットで取り扱うことになります。

そして、こうしてセットで取り扱われるレコード製作者の著作隣接権と実演家の著作隣接権をあわせて、実務上「原盤権」と呼んでいます。「実務上」としているのは、「原盤権」という概念は著作権法上の定義ではないビジネス上の概念だからです。

要するに、レコード製作者の著作隣接権と実演家の著作隣接権をセットにすることで「実演が固定された音源」をビジネスで利用しやすくするために「原盤権」という概念が用いられるようになった、と理解しておけば良いでしょう。

(余談ですが、特に法律側から音楽ビジネスの門戸を叩いた方の中には、この「原盤権」という法律上の概念ではない権利にとっつきにくさを覚えた方も多いのではないでしょうか11・・・ですよね?(3回目)。)

これを図示すると以下のようになります。

このとおり、「原盤権」は音楽ビジネスに欠かせない音源の権利(実演家の著作隣接権とレコード製作者の著作隣接権)を総称した概念です。
しかしながら、利用の場面では、単に「原盤権」というものさしで考えるのではなく、2つの著作隣接権、もっというと著作隣接権を構成する個別の支分権を検討する場面が少なくありません

ようやく、本題に迫ってまいりましたが、以下では「原盤権」が、放送と配信とでどのように異なる取り扱いを受けるのかについて見てまいりましょう。

音源の配信利用がNGで放送利用がOKな理由

1 (ここまでの復習)原盤権に含まれる権利

ここまでの復習として、原盤権には2つの著作隣接権が含まれているとお話しました。
そして、著作隣接権も、著作権同様に権利の束であることもお伝えしてきました。

そこで、原盤権はどのような権利の束になっているのかをお示ししたのが、上の図です。
わからない部分がある方や、ここから読み始めた方については、それぞれ前章(音源にまつわる2つの著作隣接権、そして原盤権)に戻って確認できるように整理してありますので、行ったり来たりしてみてください。

2 音源の放送利用がOKな理由

私たちが毎日、テレビやラジオを付けたときに音楽を聞かない日はありません。そして、ここでいう「音楽」の多くが、収録された音源です。要するに、放送事業者は、音源を放送で利用しているわけですが、このことは原盤権との関係で問題がないのでしょうか

その答えを示したのが以下の図です。

まず、大きな枠組みとして、原盤権者12多くの場合は原盤制作者が原盤権者に当たります。は、原盤権を構成する2つの著作隣接権に含まれる支分権を独り占めできる権利を有しています。独り占めできるは、要するに、他人に対して利用を禁止できるということです。

そこで、原盤権者が、音源の放送利用を禁止できる権利(放送権)を持っているかどうかを検討することになります。

まずは簡単な方から。著作権法上、レコード製作者の著作隣接権(96条~97条の3)に放送権は含まれていません。したがって、原盤権者はレコード製作者としての立場では、音源の放送利用を禁止することはできません。

他方で、原盤権者が保有しているもう一つの著作隣接権、実演家の著作隣接権においては放送権(放送利用を独り占めする権利=第三者の放送を禁止する権利)が明示的に定められています(92条)。したがって、原盤権者は、一見、実演家の放送権を行使して、放送事業者に対して音源の放送利用を禁止することができるように思えます。

しかしながら、ここには例外規定があります。少しだけ細かい話となるのですが、実演家の放送権は、放送する録音物(音源)が実演家の許諾を得て録音されたものである場合には適用されません(92条2項2号イ)。
そして、原盤に含まれる音源は、基本的に実演家(アーティスト)の許諾を得て録音されたものです。そのため、実演家(アーティスト)は、自らの実演を放送で利用することについては禁止することができません。したがって、その実演家の著作隣接権を譲り受けた原盤権者も、音源を放送で利用することを禁止することができないのです。

以上のとおり、原盤権者は、原盤権を構成する、実演家の著作隣接権・レコード製作者の著作隣接権のいずれに基づいても、放送事業者が音源を放送利用することを禁止することができません。このことを裏からいえば、放送事業者は、原盤権者に許諾を得ることなく、音源を放送に利用することができるというわけです

ただし、放送事業者も無償で使えるというわけではありません。前章(音源にまつわる2つの著作隣接権、そして原盤権)で見た、原盤制作者の権利・アーティストの権利の説明のとおり、広義の著作隣接権には、独り占めをするための権利である狭義の著作隣接権だけでなく、報酬請求権が含まれるためです(以下の図を参照)。

したがって、放送事業者は、原盤権者に許諾を得ることなく音源を放送に利用することはできるものの、音源を放送に利用した場合には、アーティスト、原盤制作者に対してそれぞれ放送二次使用料と呼ばれる対価を支払っています。なお、二次使用料は、原盤制作者については日本レコード協会が、アーティストについては芸団協(CPRA)が取りまとめて請求を行うことになっています。このことも実は著作権法にわざわざ明文で記載があります(95条5項、97条3項)。面白いですよね13・・・ですよね?(4回目)

2 音源の配信利用が禁止される理由

では、次に、どうして音源の配信利用14DJのライブストリーミング配信を行う場合や、自作MixをUPするような場合も含まれます。が禁止されるのでしょうか。同様に、図をもってお示しします。

まず、「配信」とは、平たく言うと、不特定多数の視聴者が音源を視聴できるように、音源をサーバーにアップロードする行為ですが、これは著作権法上「送信可能化」という行為に該当します

そして、上の図で赤色で表示したとおり、原盤権を構成する2つの著作隣接権に含まれる個別の権利(支分権)には「送信可能化権」が含まれています。これらの「送信可能化権」にも、先ほどの実演家の放送権の例外規定のようなものがあればよいのですが、残念ながらそのような例外規定はありません。

つまり、原盤権者(通常は原盤制作者)は、実演家の立場からも、レコード製作者の立場からも、音源の配信(送信可能化)を独り占めでき、第三者による配信(送信可能化)を禁止できることを意味します。

したがって、配信を行いたいユーザーとしては、著作隣接権侵害にならないよう、配信のつど原盤権者を探し出して事前の承諾を得る必要があります(が、そのような作業が現実的でないことはいうまでもありません)15「著作権」についても、JASRACやNexTone管理楽曲以外の「非管理楽曲」については著作権者から直接許諾を得る必要があることは前掲注5のとおりです。ただし、著作権の場合は「原盤権」とは異なり、放送・配信といった利用態様を問わずに許諾を得る必要があるため配信に限った話ではありません。16このように、放送と配信とが著作権法上異なる取扱いを受ける理由ですが、伝統的に、テレビに代表される放送は、電波の希少性とその社会的影響力を背景とする公共的な性格により、著作権法上特殊な取扱いがされてきたものと言われています(そのような理由が現状妥当するのかという批判はありますがここでは詳細に立ち入りません)。

【2024年5月4日追記~条文上の根拠をもう少し丁寧に~】

定期的にSNSで話題に上げていただけるこちらの記事ですが、昨日もXにて様々に反響をいただきました。そこで、上記の点について、著作権法上の条文に着目して、X上で整理してみました。「法律上の条文もっと詳しく?!」という、より深く知りたい方(多分いない)はぜひご一読ください。↓↓

(それにしても、この問題の根っこが、著作権法上の実演家の規定(録音された音源についての実演家のワンチャンス主義が放送にのみ適用され、配信には適用されない)に隠されているだなんて普通は知り得ないですよね・・。)

音源の配信利用に向けた近時の動き

1 原盤権の集中管理はできないのか

ここまで読んでくださった方は、音源の配信を行うためには、原盤権者(≒原盤制作者)に、原盤権(実演家・レコード製作者の送信可能化権)の許諾を得る必要があることを、ご理解いただけたのではないかと思います。

ここで思い出していただきたいのが、「あれ?著作権ってどうやって許諾を得ていたんだっけ?」ということです。著作権については、すっかり前になってしまいましたが、JASRACやNexToneといった著作権管理事業者が集中管理をしているので、これらの管理楽曲については、わざわざ著作権者を探して許諾を得る必要がないことを説明しました。

そうすると、「原盤権についても集中管理団体が現れてもいいのに・・」という声が聞こえてきそうです。利用者のニーズとしてはごもっともであり、そうした声は、アーティストに限らずコンテンツビジネスを行う事業者からもよく寄せられるところです。

一方、原盤制作者の立場に目をやってみましょう。原盤制作者は、自ら資本を投下して得られた音源について認められる独占権(原盤権)を行使してビジネスを行っています。そうである以上、ユーザーのニーズは理解しつつも、原盤制作者が持つ個別の権利を、(放送二次使用権のように法律で権利制限されない限り)自社の利益を最大化するために戦略を立てて利用することが、営利企業として当然のスタンスともいえます。

そのため、様々な思惑がある原盤権者が一枚岩となって、「原盤権を手放し集中管理のもとに差し出す」といった動きを実現するためには、相当なハードルがあると言われています。

2 近時の動き

以上のような現状の中で、以下の3つの興味深い動きが出てきています。長くなってますので、以下では簡単なコメント共に、それぞれの動きを紹介させていただきます。

(1)立法関係:知的財産推進計画2021

デジタル化の進展に伴って、政府は映像や音楽などを利用しやすくするため一元的に権利処理できる制度を検討し年内に結論を得るなどとした、ことしの「知的財産推進計画」を決定しました。
(2021.07.13 NHKニュース「政府 デジタル化で音楽など利用しやすい権利処理の制度検討へ」より)

政府は、知的財産推進計画2021において、デジタル時代に適合したコンテンツ戦略として、映像や音楽などの一元的権利処理制度の実現を目指しているようです。原盤権(著作隣接権)を含めた議論かどうかは資料からは明確ではありませんでしたが(かつて少しそのことをツイートしました)、大きな潮流として参考になるものと思われます。

概要資料はこちら。詳細な本文はこちら

(2)業界団体による取り組み:JDDAによるDJライブ配信事業

一般社団法人 JDDA/Japan Dance Music&DJ Association は、一般社団法人日本レコード協会(RIAJ)、一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)及び株式会社 NexTone と連携し、著作権及び著作隣接権の権利者から特別な了承を得て、今年 7 月 17 日より半年間、DJ プレイのライブ配信事業を行います。
(2021.07.14 一般社団法人JDDA「JDDA がインターネットで DJ プレイを正規にライブ配信する日本初の事業を開始」(PR TIMES)より)

一般社団法人JDDAが、日本レコード協会や各原盤権者と連携して、本年7月17日から半年間にわたって、DJプレイのライブ配信事業を行うようです。
上記のリンク先のプレスリリースからもわかるように、この取組みは、原盤制作者と交渉し、協力を得られた原盤権者との間で、原盤権の利用許諾を受けて行う事業のようです。

したがって、こちらのJDDAの取り組みは、原盤権者から配信についての利用許諾を得ることで実現する、ある種正攻法な取り組み、または集中管理の萌芽と整理できるかと考えます。

このような実証実験的な意味合いのある一つずつ丁寧に積み重ねることで、現状が変わっていくと思いますので、重要な取り組みとして注視していきたいと思います。

(3)配信事業者の取り組み:Spotifyの【Music&Talk】機能

Spotifyが新たに展開したこのサービスにおいて、Spotifyのユーザーは、適法に音源を用いて、ラジオのような形で配信することができるようになりました。

どうしてこの場合配信が許されるのか?ですが、今回、直接的には触れませんでしたが、そもそも、SpotifyやAppleMusicなどのサブスクリプション配信サービスは、原盤権者から音源のライセンス契約を締結して許諾を受けることで、音源を配信しています。
今回のこのサービスも、Spotifyが原盤権者から音源のライセンスの許諾を受けていることを強みとして打ち出したサービスであると整理できそうです。

アウトロ(まとめ)

「音源の配信は原盤権の問題があるからダメ」

と聞いたことがある音楽関係者の方は一定数いるのではないかと思います。
そしてそれは正しい理解です。

しかし、今回冒頭で紹介したtofubeats氏のツイートでの問題提起(同じ音源利用なのにどうして「放送」はOKで「配信」はダメなのか)を正確に理解するためには、単に「原盤権」といった上位概念で考えていても説明できません。

言い換えると、この問題は、原盤権を構成する2つの著作隣接権に含まれる個別の権利(支分権)の違いに目をやって、初めて説明ができる問題です。(なので最初、tofubeats氏のツイートを見たときに、鋭い問題提起だと感じました。)

今回の記事が、アーティストの皆さまにとって「原盤権」を一歩踏み込んで考えてみるきっかけになれば幸いです!(また、かつての私のように「原盤権」の理解に苦しんだ音楽著作権に関心を持つ法律関係の皆様の一助になれば、恐れながらうれしく思う次第です。)

  • 1
    氏は神戸生まれの同い年の星です。
  • 2
    以下では、歌詞と楽曲をあわせて「作品」といいます。
  • 3
    管理委託と一口に言っても、JASRACとNexToneとでは管理委託の方法が異なります。JASRACの場合は作品の著作権を(信託)譲渡するためJASRACが著作権者となりますが、NexToneの場合には、委任契約であるため作品の著作権は著作権者に留保されます。
  • 4
    JASRACやNexToneが拒否したら使えないのでは?といった疑問の声がありそうですが、著作権管理事業法第16条は「著作権等管理事業者は、正当な理由がなければ、取り扱っている著作物等の利用の許諾を拒んではならない」と定めています。したがって、JASRACやNexToneは原則として、利用許諾に応じる義務があります。
  • 5
    JASRACやNexToneが管理していない作品(非管理楽曲)については、放送にせよ配信にせよ直接著作権者の承諾を得る必要がありますので注意が必要です。
  • 6
    ・・・ですよね?
  • 7
    ・・・ですよね?(2回目)
  • 8
    ここで、よくある質問として、「要するに【レコード会社=レコード製作者】なの?」といった質問があります。この質問に対しては、「その場合もあるし、そうでない場合もある」という歯切れの悪い回答となります。著作権法上、「レコード製作者」とは、レコードに固定されている音を最初に固定した者」と定義がされています(2条1項6号)。これはつまり、音源を作った者、平たくいうと原盤の制作費を投じた者を指します。かつてはレコード会社が制作費を全額負担することが多かったですが、今は出版社やプロダクションと共同で制作費を出し合ったり(共同原盤)、あるいは出版社やプロダクション側だけが制作費を出してレコード会社に原盤供給を行うケースもあるので、常に「レコード製作者=レコード会社」となるわけではありません。
  • 9
    上の図では「狭義の著作隣接権」なる言葉が出てきますが、これが著作権法上正しい意味での「著作隣接権」です。ただ、実務上、著作権法上の著作隣接権に限らず、報酬請求権も含めて(広い意味で)「レコード製作者の著作隣接権」と呼ばれることがあり、上の図はそのような理解に基づき整理しています。
  • 10
    ここでいう著作隣接権は狭義の著作隣接権ですので、広義の著作隣接権に含まれると整理した報酬請求権は実演家に留保されます。
  • 11
    ・・・ですよね?(3回目)
  • 12
    多くの場合は原盤制作者が原盤権者に当たります。
  • 13
    ・・・ですよね?(4回目)
  • 14
    DJのライブストリーミング配信を行う場合や、自作MixをUPするような場合も含まれます。
  • 15
    「著作権」についても、JASRACやNexTone管理楽曲以外の「非管理楽曲」については著作権者から直接許諾を得る必要があることは前掲注5のとおりです。ただし、著作権の場合は「原盤権」とは異なり、放送・配信といった利用態様を問わずに許諾を得る必要があるため配信に限った話ではありません。
  • 16
    このように、放送と配信とが著作権法上異なる取扱いを受ける理由ですが、伝統的に、テレビに代表される放送は、電波の希少性とその社会的影響力を背景とする公共的な性格により、著作権法上特殊な取扱いがされてきたものと言われています(そのような理由が現状妥当するのかという批判はありますがここでは詳細に立ち入りません)。

よければ音楽著作権関係で過去に書いたnoteもどうぞ(こちらは主にオンラインライブ配信と決済の法律についてまとめた記事です):
「Contemporary http Cruise~電子チケット制ライブ配信から見えた未来~」
https://note.com/vvanna8e/n/nd0403a0772de

弁護士山城尚嵩

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