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いよいよ施行された改正著作権法は、弁護士や学者にとってビジネスチャンスとなるかもしれない
改正著作権法が、一部の規定を除いて2019(平成31)年1月1日より施行されました(新条文はこちら)。
著作権法の改正にあわせて「著作権法施行令の一部を改正する政令」「著作権法施行規則の一部を改正する省令」も同じく2019(平成31)年1月1日より施行されています。
「著作権法施行令の一部を改正する政令」(官報平成30年12月28日・号外第290号)
https://kanpou.npb.go.jp/20181228/20181228g00290/20181228g002900005f.html
「著作権法施行規則の一部を改正する省令」(官報平成30年12月28日・号外第290号)
https://kanpou.npb.go.jp/20181228/20181228g00290/20181228g002900056f.html
著作権法の改正は既に多くのメディアが取り上げていますが、本エントリは著作権法改正とあわせて行われた著作権法施行令と著作権法施行規則の改正について触れるとともに、今回の改正は、弁護士、学者その他の「学識経験者」にとって新たなビジネスチャンスの到来となるかもしれないと思われたため取り上げさせていただく次第です。
Contents
まずは著作権法改正の概要をざっくりと理解する
まずは著作権法の改正をざっくりとおさらいします。
今回の著作権法改正は近年では最大規模のもので、改正の概要は以下の5点となります。
(1)デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備
(2)教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備
(3)障害者の情報アクセス機会の充実に係る権利制限規定の整備
(4)アーカイブの利活用促進に関する権利制限規定の整備等
(5)TPP11発行に伴う著作権法改正(保護期間の延長、一部非親告罪化)
うち(1)(3)(4)は2019年1月1日から、(5)は2018年12月30日から施行されました((2)は2019年4月1日から施行予定)。
上記(1)から(5)のうち、ウェブサービス事業者やAI業界にとって特に影響が大きいのは(1)デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備。
すなわち、他人の著作物(画像や音楽などのコンテンツ)を利用する場合であっても、
①AIによる情報解析や技術開発など、視聴者等の知的・精神的欲求を満たす効用を得ることに向けられた行為でなく、著作物を享受する目的で利用しない場合(著作物の非享受利用)
②新たな知見や情報を創出することで著作物の利用促進に資する行為で、権利者に与える不利益が軽微である一定の利用を行う場合(著作物の軽微利用)
には、著作権者の同意がなくとも付随的な利用が認められることとなりました(上記の説明は抽象的な概念でありこの時点で理解できる必要はありません)。
なお今回の改正は著作物を利用できる範囲を広くする方向のものであり、旧著作権法のもとで許容されている行為は改正後も同様に許容されるものと考えられています。
新たに定められた、著作物の「非享受利用」と「軽微利用」
文化庁が作成した改正概要説明資料(下記表)でいうと、上記の①著作物の非享受利用は下記表の[第1層]、②著作物の軽微利用は下記表の[第2層]にそれぞれ位置づけられます。
改正後の著作権法では
①著作物の非享受利用は新30条の4と新47条の4、
②著作物の軽微利用は新47条の5にそれぞれ定められています。
新法と旧法の対応関係を理解するためには、文化庁サイトに掲載されている新旧対照表の参照が有益です。
他人の著作物の軽微利用が許される「所在検索サービス」「情報解析サービス」とは
著作物の軽微利用について定める著作権法新47条の5は、ざっくり説明すると、
▼世の中にある情報を検索エンジンで検索し、検索結果を表示する場合に、元の著作物の内容を一部提供(サムネイル表示やスニペット表示)するようなサービス(所在検索サービス)
▼AI等による情報解析を行い、その結果を提供するようなサービス(情報解析サービス)
を政令が定める基準に従って行う場合、公表された他人の著作物について軽微な範囲で利用することができる、とするものです(細かい要件は省略しています)。
所在検索サービスについては著作権法新47条の5の1項1号、情報解析サービスは同条1項2号がそれぞれ定めています。新47条の5は長い条文ですが、以下の太字にした部分だけ読めば概要を理解できます。
改正著作権法 第47条の5
(電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等)
電子計算機を用いた情報処理により新たな知見又は情報を創出することによつて著作物の利用の促進に資する次の各号に掲げる行為を行う者(当該行為の一部を行う者を含み、当該行為を政令で定める基準に従つて行う者に限る。)は、公衆への提供又は提示(送信可能化を含む。以下この条において同じ。)が行われた著作物(以下この条及び次条第二項第二号において「公衆提供提示著作物」という。)(公表された著作物又は送信可能化された著作物に限る。)について、当該各号に掲げる行為の目的上必要と認められる限度において、当該行為に付随して、いずれの方法によるかを問わず、利用(当該公衆提供提示著作物のうちその利用に供される部分の占める割合、その利用に供される部分の量、その利用に供される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なものに限る。以下この条において「軽微利用」という。)を行うことができる。ただし、当該公衆提供提示著作物に係る公衆への提供又は提示が著作権を侵害するものであること(国外で行われた公衆への提供又は提示にあつては、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものであること)を知りながら当該軽微利用を行う場合その他当該公衆提供提示著作物の種類及び用途並びに当該軽微利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
一 電子計算機を用いて、検索により求める情報(以下この号において「検索情報」という。)が記録された著作物の題号又は著作者名、送信可能化された検索情報に係る送信元識別符号(自動公衆送信の送信元を識別するための文字、番号、記号その他の符号をいう。)その他の検索情報の特定又は所在に関する情報を検索し、及びその結果を提供すること。
二 電子計算機による情報解析を行い、及びその結果を提供すること。
三 前二号に掲げるもののほか、電子計算機による情報処理により、新たな知見又は情報を創出し、及びその結果を提供する行為であつて、国民生活の利便性の向上に寄与するものとして政令で定めるもの
2 前項各号に掲げる行為の準備を行う者(当該行為の準備のための情報の収集、整理及び提供を政令で定める基準に従つて行う者に限る。)は、公衆提供提示著作物について、同項の規定による軽微利用の準備のために必要と認められる限度において、複製若しくは公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。以下この項及び次条第二項第二号において同じ。)を行い、又はその複製物による頒布を行うことができる。ただし、当該公衆提供提示著作物の種類及び用途並びに当該複製又は頒布の部数及び当該複製、公衆送信又は頒布の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
所在検索サービスはGoogleなどの検索エンジンが代表例ですが、indeedやtrovitなどのアグリゲーションサイト(情報集約サイト)や、書籍の中の単語などを検索できる書籍検索サービス、今流れている音楽について検索できる楽曲検索サービス(shazamなど)もこれに含まれます。
たとえば、本投稿時点でGoogleで「資金決済法 弁護士」で検索すると以下の検索結果が表示されます。そこにはURLのみならず、記事タイトルや記事内容の一部が記載されています。このような検索結果が著作物に該当する場合でも、その一部を表示すること(スニペット表示やサムネイル表示など)、すなわち著作物の軽微利用について、一定の要件を満たせば権利者の同意なくとも可能としたのが新47条の5です。
ウェブ上にアップロードされた情報を対象とする検索エンジンについては、旧法47条の6でも検索結果の一部表示が可能とされていましたが、今回の改正は要件が更に緩和され(アップロードされた情報に限らず、広く公衆に提供提示された著作物も含まれることになった等)、対象サービスが所在検索サービス一般に拡大されました。
著作権法施行規則では「学識経験者への相談」が明記された
いよいよ本エントリのポイントです。
新47条の5第1項は、所在検索サービスや情報解析サービスにおいて他人の著作物の利用が認められる要件として、サービスを政令で定める基準に従って行うことを求めています。
この政令で定める基準が「著作権法施行令」であり、施行令から更に具体的な基準が委ねられたのが「著作権法施行規則」です(以下あわせて「政省令」)。
施行令はこちらの新旧対照表、施行規則はこちらの新旧対照表を確認いただきたいのですが、それぞれの適用関係が微妙に分かりづらいため、概要を以下にまとめました。
すなわち、所在検索サービスや情報解析サービスにおいて、他人の著作物を新法47条の5に基づいて利用する場合には、以下の政省令が定める基準を満たす必要があります。
【新法47条の5における政省令が定める基準(概要)】
① サービスに使用するデータベースに係る情報漏えいの防止のための措置を講ずること
② サービスが改正法の要件に適合するものとなるよう、あらかじめ、当該要件の解釈を記載した書類の閲覧、学識経験者に対する相談その他の必要な取組を行うこと
③ サービスに関する問合せを受けるための連絡先その他の情報を明示すること
④ IDやパスワードにより受信が制限された情報や、業界慣行に沿って情報収集禁止措置がとられた情報(robots.txtやメタタグ等による検索回避措置)を使用しないこと(※インターネット情報検索サービスのみ)
①は施行令第7条の4第1項第2号、第2項
②は施行令第7条の4第1項第3号、施行規則第4条の5第1号
③は施行令第7条の4第1項第3号、施行規則第4条の5第2号
④は施行令第7条の4第1項第1号イロ、施行規則第4条の4
※旧施行令第7条の5にあったプログラムによる自動収集の要件はなくなった
ここで注目すべきは、改正法は上記②サービスが改正法の要件に適合するものとなるよう「あらかじめ当該要件の解釈を記載した書類の閲覧、学識経験者に対する相談その他の必要な取組を行うこと」を求めている点です(著作権法47条の5第1項、施行令7条の4第1項第3号、施行規則4条の5第1号)。
具体的にどのような取り組みが「学識経験者に対する相談その他の必要な取組」にあたるのかは今後の刊行物等で明らかになっていくものと考えられますが、弁護士(※)や学者に対して相談や照会を行ったうえで、自社の提供する所在検索サービスや情報解析サービスが改正法が求める要件を満たしていることを裏付ける意見書等を準備しておくことが一例として考えられます。
※(20190107追記)「学識経験者」に弁護士が含まれることは、文化庁著作権課に確認しました。
なお新47条の5における政省令で定める基準の要件については、文化庁も「平成30年著作権法改正に伴う政省令改正の概要」において、以下のとおり説明しています。
改正著作権法は所在検索サービスや情報解析サービスにとって追い風となる
改正著作権法47条の5は、溢れる情報を分かりやすく整理して提供してくれる所在検索サービスにおける著作物の軽微利用や、これまでは引用要件(32条1項)を満たすこと等でしか回避できなかったAI等による情報解析結果の提供時における著作物の軽微利用をそれぞれ実現してくれるものであり、これらのサービスを営む事業者にとって間違いなく追い風となるものです。
ただし自社のサービスが新47条の5その他の要件を適正に満たしている必要がある点には注意が必要であり、その要件の一つとして「学識経験者への相談」が明記されたことは留意しておくべきでしょう。
逆に弁護士や学者など「学識経験者」に該当し得る方々は、今回の改正によって相談や照会を受ける機会が増える可能性が生じたのであり、その意味で新たなビジネスチャンスが到来したといえるのかもしれません。
改正著作権法で新たに許されることとなった著作物の利用範囲を理解し、改正著作権法を最大限に活用することで、適法かつ便利な所在検索サービスや情報解析サービスが世の中に増えていくことが本当に楽しみです。我々はこのようなサービスをサポートするための努力を本年も惜しまない所存です(弁護士杉浦健二)
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【参照条文等】
改正著作権法(平成31年1月1日改正・eGov)
著作権法施行令 新旧対照表(文化庁)
著作権法施行規則 新旧対照表(文化庁)
「著作権法施行令の一部を改正する政令(案)」及び「著作権法施行規則の一部を改正する省令(案)」に関する意見募集の実施について(パブリックコメント・eGov)