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FC2vsドワンゴのブロマガ裁判と商標の仕組みを5分で理解できる記事~基礎編~

柿沼太一 柿沼太一


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ブログサービスなどを運営する米FC2が、同社が持つ「ブロマガ」という商標権をドワンゴが侵害したとして、東京地裁に裁判を起こしたそうです。

【参考記事】FC2、ドワンゴを提訴 「ブロマガ」商標めぐり

ドワンゴは9月8日、ブログサービスなどを運営する米FC2が、同社が持つ商標権をドワンゴが侵害したとして、商標の利用差し止めなどを求め東京地裁に提訴したことを明らかにした。ドワンゴは「徹底的に争う」としている。
ドワンゴによると、問題になったのは商標「ブロマガ」。ドワンゴは有料コンテンツ配信サービスの名称として使用しており、「電子出版物」などを対象に商標登録している。
一方、FC2は「ブロマガ」を「インターネットにおけるブログのためのサーバーの記憶領域の貸与」などを対象に商標登録している。

ドワンゴも2016年9月8日付けでこの件についてプレスリリースを出しています
【参考記事】ドワンゴに対するFC2の訴訟提起に関するお知らせ

http://dwango.co.jp/pi/ns/2016/0908/index2.htmlより

http://dwango.co.jp/pi/ns/2016/0908/index2.htmlより

 プレスリリースでは「当社の見解」として

当社は、当社標章「ブロマガ」について商標権を取得して正当に使用しており、当社の行為はFC2の商標権を侵害するものではありません。訴訟においてFC2の主張を徹底的に争う所存です。

とあります。
「徹底的に争う所存です。」
・・・・・やる気満々ですね。

 と、これだけを見ると、そんなに興味をそそられないのですが、実はこの2社の商標バトル、そもそもの紛争の種は10年前から生じており、そこまでさかのぼってみると非常に面白いのです。

 ・ 登録商標は「商標」×「商品・サービス分野」で構成されていること
 ・ 「商標が似ている・似ていない」(商標の類似性)が問題となる2つの場面
 ・ 商標の類似性の判断の仕方
 ・ 新サービス開始と商標登録
 ・ 類似登録商標があった場合の潰し方
 ・ 商標の「使用」とは何か

 などなど、商標に関して知っておくべきことのほぼ全てが網羅されています。
 
 そこで、何回かに分けて、この2社の商標紛争を深掘りしてみます。
 これら一連の記事を読めば、商標について「とりあえず知っていた方がいいこと」のほぼ全てが得られると思います。

 まず今回は、基礎編として

Contents

 ▼ 登録商標は「商標」×「商品・サービス分野」で構成されていること
 ▼ 「商標が似ている・似ていない」(商標の類似性)が問題となる2つの場面
 ▼ 商標の類似性の判断の仕方

 について解説します。

■ 登録商標は「商標」×「商品・サービス分野」で構成されていること

 登録商標は「SONY」「Panasonic」など、実際に目に見える部分だけで構成されているわけではありません。
 実は、登録商標は「商標」×「商品・サービス分野」で構成されているのです。

 商標を登録する際には、必ず

 1 商標登録を受けようとする商標
 2 商標を使用しようとする商品分野・サービス分野

 を定めなければなりません。

 つまり商標だけでは登録できず、商標を使おうとする商品やサービス(これを「指定商品・役務」といいます)とセットでないと登録できないのです。

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 指定商品・役務は1~45類まであり、商標登録をしようとする人はこの中から必要な商品・役務を選んで登録をすることになります。もちろん全指定商品・役務を登録しても構いませんが、多額の費用がかかりますので、通常は必要な分に限定して登録します。

 今回の「ブロマガ」商標についても、当然「ブロマガ」という商標部分と、指定商品・役務がセットになって登録されています。そして、今回のバトルにはこの「指定商品、指定役務」の部分が特に問題となっています。

■ 商標が似ている・似ていないが問題となる場面

 次に、「商標が似ている・似ていないか」(商標の類似性)が問題となる場面は、大きく分けて2つあります。
 今回のFC2とドワンゴの件が面白いのは、その2つの両方の場面で、激しいバトルが繰り広げられているからです。

 1つは,ある人が新しく商標登録をしようとするときに、すでに登録されている商標と似ているかどうか(すでに登録されている商標と同一・類似の商標は登録できません)、つまり商標の「登録」の場面です。
 もう1つは、ある人が登録商標を持っていて、誰かがその登録商標に似た文字やマークを使用した際に、当該文字やマークの使用行為が商標権侵害と言えるかどうか、つまり商標権侵害の場面です。

 今回のFC2が起こした裁判は後者に関するものです。
 ドワンゴが自社サービスに「ブロマガ」という文字を利用している行為が、FC2の保有する「ブロマガ」という登録商標を侵害したかどうかの問題(商標権侵害の場面の問題)だからです。

 しかし、実はその前に激しい前哨戦がFC2とドワンゴ(当時の権利者はニワンゴ)との間でありました。
 その前哨戦は、FC2の保有する「ブロマガ」の商標登録に関する攻防(商標の「登録」の場面の問題)に関するものです。
 このように、商標の類似性が問題となる場面が2つあることを押さえた上で、次に「どのような場合に商標の類似性が認められるか」に進みましょう。

■ どのような場合に商標の類似性が認められるか

 さてようやく「どのような場合に商標の類似性が認められるか」を解説します。
 先ほど、登録商標=商標+指定商品・役務であると言いました。
 ですので、商標と指定商品・役務双方の類似性を考えなければなりません。

 商標法が「類似」としているパターンは、商標の同一・類似と商品・役務の同一・類似を組み合わせた4パターンです。
 整理すると以下のとおりです。

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 4つのパターンを図で示すと以下のとおりです。
 まず、パターンAは、商標が同一、商品・役務も同一のパターンです。
 当然類似性は肯定され、商標登録は出来ませんし、商標権侵害になります。

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 次に、パターンBは商標は同一、商品・役務は類似のパターンです。
 これは本来の「類似」とは言えませんが、商標法は、出所混同を防止するために、特別にこのパターンも「類似性あり」としているのです。

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 パターンCは、商標は類似、商品・役務は同一のパターンです。
 これもパターンBと同じ理由で「類似性あり」とされています。

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 最後にパターンD。
 商標、商品・役務両方とも類似のパターンです。

 これもパターンB、Cと同じ理由で「類似性あり」とされています。

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一方、商品・役務が同一でも商標が非類似であれば類似性は否定されますし

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商標が同一でも商品・役務が非類似であれば類似性は否定されます。

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■ 「白い恋人」で見てみよう。

 商標を巡るバトルで有名な例でいうと、2012年に、「白い恋人」を製造販売する札幌の石屋製菓が、吉本興業に対して商標権侵害などを理由に「面白い恋人」の販売差し止めを求めて提訴した件があります。
 まず、特許情報プラットフォームで「白い恋人」というキーワードで簡易検索すると25件出て来ます。

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 で、この25件を見てみると、うち20件は石屋製菓が持っている商標ですが、残りの5件(うち1件は審査中)については、石屋製菓以外の個人・法人が「白い恋人」という商標を取得しています。
 たとえば、森永乳業株式会社も「白い恋人」の商標を持っていますし(第2606200号)、ネッフル株式会社というところも「白い恋人」の商標を持っています(第4290331号)。
 なぜこのように同一の商標登録がされているのでしょうか。
 それは、先ほど説明した「商品・指定役務」が違うからです。
 たとえば、森永乳業株式会社の「白い恋人」商標の指定商品は「コーヒー及びココア,茶,氷、清涼飲料,果実飲料」ですし、ネッフル株式会社の「白い恋人」商標の指定商品は「セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着」です。

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■ ここまでのまとめ

 さて、これでFC2vsドワンゴの商標バトルを読み解く準備は整いました。
 ポイントは以下の3点です。

 ▼ 登録商標は、目に見える「商標」部分だけではなく「商標」と「商品・サービス分野」で構成されていること。

 ▼ 「商標が似ている・似ていない」(商標の類似性)が問題となる2つの場面は、「ある人が新しく商標登録をしようとするときに、すでに登録されている商標と似ているかどうか」(商標の「登録」の場面)と、「ある人が登録商標を持っていて、誰かがその登録商標に似た文字やマークを使用した際に、当該文字やマークの使用行為が商標権侵害と言えるか」(商標権「侵害」の場面)の2つであること。

 ▼  商標が類似しているとされるのは、商標の同一・類似と商品・役務の同一・類似を組み合わせた4パターンであり、商品・役務が同一でも商標が非類似であれば非類似、商標が同一でも商品・役務が非類似であれば非類似であること。