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人工知能(AI)、ビッグデータ法務

AI技術により自動生成した人物肖像の利用による肖像権侵害

アバター画像 柿沼太一

はじめに

 AI技術を利用した文章や画像・音楽等の自動生成技術及び同技術を利用したビジネスは日進月歩のスピードで進化しています。
特に人物肖像の自動生成については、その技術が高度化し、実在の人物の肖像とほとんど区別がつかない人物肖像を自動生成できるようになってきています。
 そのため、それらの人物生成肖像の生成・利用に関する様々なビジネス(AI技術を利用して人物肖像を自動生成できるサービスやAI自動生成肖像を販売するサービスなど)や、AI自動生成肖像の利用場面(印刷物、ウェブサイト、漫画、映像、ゲームキャラ等)が急速に拡大してきています。

A Style-Based Generator Architecture for Generative Adversarial Networks(https://arxiv.org/pdf/1812.04948.pdfより)

 上記で引用した人物肖像は、一見すると実在の人物を撮影した写真のように見えますが、実際には、全てAI技術を利用して自動生成されたものであり実在の人物を撮影した写真ではありません。
 このようなAI自動生成肖像の利用については、肖像権やパブリシティ権侵害のリスクがない、あるいは当該肖像利用についてモデルやモデルが所属するプロダクションに費用を支払う必要がないなどの利点が主張されることがあるのですが、本当でしょうか。
 AI技術による画像自動生成技術を利用して人物肖像を生成し、様々な場面(印刷物、ウェブサイト、漫画、映像、ゲームキャラ等)で利用した際、自動生成された人物肖像が実在の人物の顔と同一又は酷似していた場合、当該実在の人物からすれば、自らの肖像を無断利用されたと考えるのが自然だと思われます。
その場合、当該実在の人物の肖像権やパブリシティ権を侵害したことになるのか、侵害が生じるとした場合に誰がどのような責任を負うのか、現段階でははっきりしません。
 そこで筆者は、大学院博士課程修了に際しての博士論文のテーマとして「AI技術により自動生成した人物肖像の利用による権利侵害」を選択し、論文を執筆しました(以下「本論文」といいます)。
 本記事は、本論文の内容のうち、狭義の肖像権に関する部分のみをピックアップし、さらに重要な点に絞って紹介するものです。
 本記事では、具体的なケースを4つ設定し、その設例の分析を通じて「AI技術により自動生成した人物肖像の利用による権利侵害」について検討していきたいと思います。

【ケース1】
アパレル会社X社が、インターネット上から無作為に人の顔写真を大量に(約1万枚)収集し、当該顔写真を元データとして人物肖像生成AIプログラムを制作した。そのうえで同プログラムを利用して人物肖像を自動生成して、自社製品であるアパレル商品を着用するモデルとして宣伝広告に利用した。その際には「AIを利用して自動生成したモデルです」と注意書きを付けた。利用開始してからしばらくたった頃、当該人物肖像と酷似した風貌を持つ実在の人物である藤田氏から肖像権侵害を理由に当該モデルの使用をやめて欲しいとのクレームが入った。そこで、人物肖像生成AIプログラムを生成する際に利用した元データ(約1万枚)を調査したところ、確かにSNS上で公開されていた藤田氏の顔写真数枚が元データとして用いられていた。X社の責任をどう考えるべきか。

【ケース2】
ケース1の場合において、元データを調査したところ、藤田氏の顔写真が用いられていなかった場合はどうか。

【ケース3】
X社が過去の多数の性犯罪者の顔写真を元データとして人物肖像生成AIプログラムを制作した。同プログラムを利用して人物肖像を自動生成し、その顔を「こういう顔に注意。性犯罪者はこういう顔だ!」として公表した。
そうしたところ、A氏から「自分の肖像が勝手に使われており、かつ『性犯罪者』とのレッテルが張られており名誉毀損・肖像権侵害にあたる」とのクレームがあった。調べてみると、確かに自動生成肖像の中にA氏に酷似した者が含まれていた。さらに調査を進めると、A氏は過去に性犯罪者としての逮捕・報道歴があり、その際に報道されたAさんの顔写真がAIプログラム生成の際の元データとして使用されていた。
X社の責任をどう考えるべきか。

【ケース4】
ケース3において、元データを調査したところ、A氏の顔写真は用いられていなかった場合はどうか。

問題の所在

 一般に、人物肖像の利用行為において問題となる権利または利益は、狭義の肖像権及びパブリシティ権ですが、本論文における検討対象も狭義の肖像権及びパブリシティ権に限定しています1 なお、人物肖像(顔写真)の利用行為については、顔写真の著作権者が有する著作権の権利処理の問題や、顔写真が「個人情報」(個人情報の保護に関する法律2条1項)に該当する場合の法規制のクリアの問題もあるが、本論文では検討の対象としていない。
 この点、AI技術を利用していない、従来型の肖像権及びパブリシティ権侵害の要件については、これまでに判例や学説の多数の蓄積があります。
 具体的には、法廷内での被告人の写真撮影行為、及び撮影された写真の公表並びにイラスト画の公表について、狭義の肖像権侵害の有無が争われた法廷写真事件最高裁判決(最判平成17年11月10日民集59巻9号2428頁、以下「法廷写真撮影事件」といいます)は、肖像権侵害の判断基準としていわゆる受忍限度論を採用し2「ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。」「また,人は,自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益も有すると解するのが相当であり,人の容ぼう等の撮影が違法と評価される場合には,その容ぼう等が撮影された写真を公表する行為は,被撮影者の上記人格的利益を侵害するものとして,違法性を有するものというべきである。」 、また、有名人の写真を週刊誌の記事の中で利用する行為についてパブリシティ権侵害の有無が争われたピンク・レディー事件(最判平成24年2月2日民集66巻2号89頁)は、顧客吸引力を有する者の人物肖像の利用がパブリシティ権侵害となる具体的要件を判示しています3「肖像等を無断で使用する行為は,〔1〕肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,〔2〕商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し,〔3〕肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に,パブリシティ権を侵害するものとして,不法行為法上違法となると解するのが相当である。」
 このように、従来型の肖像権及びパブリシティ権侵害における権利侵害要件についてはいずれも最高裁判例が存在し、権利侵害が成立するための要件が明確となっているのですが、AI自動生成肖像の利用においては、従前の肖像権侵害・パブリシティ権侵害における人物肖像の撮影・利用とはかなり相違点があります。
 最も大きな相違点は、AI技術を利用して自動生成した人物肖像の利用においては、「特定の人物の人物肖像だけでなく、大量の人物肖像を基に人物肖像が自動生成されており、特定の人物を特定の場面で撮影した肖像のみが利用されているわけではない。また、学習の対象となった元データに対象画像が入っていない場合でも、『偶然』対象画像と同じ肖像が生成される可能性がある。」という点です。
 その点を明確にするために、従来型の肖像権及びパブリシティ権侵害において問題となる2つのパターン、具体的には「① 特定の人物の写真撮影並びに撮影された写真の公表・利用」及び「② 特定の人物のイラスト作成並びに作成されたイラストの公表・利用」と、本稿で検討の対象とする「③ AI自動生成肖像の生成並びに公表・利用」を比較してみましょう。

1 特定の人物の写真撮影並びに撮影された写真の公表・利用

 従来型の肖像権侵害・パブリシティ権侵害において問題となる、特定の人物の写真撮影並びに撮影された写真の公表・利用です。
 具体的には、現実世界に存在する実在の人物Aの容ぼうを撮影し、撮影した写真を特定の場面(たとえば雑誌の記事や商品宣伝広告等)で公表・利用する行為が行われます。
 ここでは① 特定の人物の容ぼうの撮影行為と、② その写真の公表・利用行為が行われています。
①及び②を同一主体が行う場合も別主体が行う場合もありますが、法廷写真最高裁事件においては、①(法廷内での被告人の撮影行為)及び②(同写真の写真週刊誌への掲載行為)を同一主体が行い、かつそれぞれの行為の不法行為該当性が争点となりました。

2 特定の人物のイラスト作成並びに作成されたイラストの公表・利用

 次に従来型の肖像権侵害・パブリシティ権侵害において問題となる、特定の人物のイラスト制作および制作されたイラストの公表・利用です。
 具体的には、実在の人物Aを撮影した写真を基にイラストが制作され、当該イラストを特定の場面(たとえば雑誌の記事や商品宣伝広告等)で公表・利用する行為が行われます。
 ここでは①特定の人物の写真を基にしたイラストの制作行為、及び②当該イラストの公表・利用行為が行われています。
1と同じく①②を同一主体が行う場合も別主体が行う場合もありますが、法廷写真最高裁事件においては、①②を同一主体が行い、①の行為については不法行為該当性は争点とならず、②の行為についてのみ不法行為該当性が争点となりました。

3 AI自動生成肖像の生成並びに公表・利用(その1)


(*なお、上記は簡略化した図であり、実際にはAI自動生成肖像権の生成において学習に利用された写真がそのまま出力されるわけではありません。詳細は後述の通り。)

 次に、AI自動生成肖像の生成並びに公表・利用です。
 ここでは①複数の人物の写真を基にしたAI自動生成肖像の生成行為、及び②当該AI自動生成肖像の公表・利用行為が行われています。
「AI自動生成肖像の生成並びに公表・利用(その1)」と、先ほどの従来型との最大の相違点は、特定の人物(A)の容貌が撮影された写真だけではなく、それ以外にもB、C、D・・・・という別の人物の容貌が撮影された写真が肖像の自動生成に利用され、結果として「偶然」Aと類似した人物肖像が自動生成されているに過ぎないという点です。
 もちろん「AI自動生成肖像の生成並びに公表・利用(その1)」においては、人物肖像の自動生成の過程で、一応実在の人物Aの写真を利用はしていますが、同写真は、学習用データセットの中に含まれる、A以外の多数の肖像写真データ(通常は数万枚以上)と共に、学習の過程においてパラメータ化されています。
 このパラメータは、学習済みモデルにおける「重み」を示す単なる数値の集合体であり、学習に用いられた学習用データセットや、学習済みデータセット内に含まれている個々の元データとは全く形式が異なります。
 したがって、「AI自動生成肖像の生成並びに公表・利用(その1)」においてAと同一の肖像が自動生成されたのは、ある意味「偶然」であり、前記の「1 特定の人物の写真撮影並びに撮影された写真の公表・利用」及び「2 特定の人物のイラスト作成並びに作成されたイラストの公表・利用」のように「肖像生成に特定の人物Aの写真のみしか利用されていない類型」とは明確に異なります。
 当然のことながら、このような「AI自動生成肖像の生成並びに公表・利用(その1)」の類型についての裁判例は存在しません。
そして、実はAI自動生成肖像の利用については、さらに明確に従来型の肖像権侵害・パブリシティ権侵害とは異なる類型があります。

4 AI自動生成肖像の生成並びに公表・利用(その2)

 ここでは、「AI自動生成肖像の生成並びに公表・利用(その1)」と同様、①複数の人物の写真を基にしたAI生成肖像の生成行為、及び②当該AI生成肖像の公表・利用行為が行われていますが、3と異なり、実在の人物Dの肖像がAIにより自動生成されているものの、当該Dの写真はAIの学習及びAI生成肖像の生成には一切用いられていません。
 つまり、「AI自動生成肖像の生成並びに公表・利用(その1)」においては、パラメータ化されてはいるが、一応実在の人物Aの肖像写真が肖像の自動生成に利用されているのに対し、4においては、いかなる意味においても、人物肖像の生成に実在の人物Dの肖像は利用されておらず、当該DのAI生成肖像は、完全に「偶然」に生成されたことになります。
 人間の例に当てはめて考えると、ある人が人物の精巧な似顔絵を描いた際、10年以上前に会っていたが会ったこと自体を忘れていた人とそっくり同じ似顔絵を描いたのが「AI自動生成肖像の生成並びに公表・利用(その1)」のパターン、いままで一度も会ったことない人と、偶然そっくり同じ似顔絵を描いたのが「AI自動生成肖像の生成並びに公表・利用(その2)」のパターンと言い換えてもよいと思います。
 このように「ある実在の人物に類似する人物肖像が自動生成された場合において、当該実在の人物写真が生成に利用されているか」という3及び4特有の問題点は、いわば「実在の人物と、自動生成された人物肖像の結びつき(以下「関連性」という)」の問題であり、AI特有の問題であって、法廷写真事件最高裁判決やピンク・レディー事件最高裁判決を含め過去の裁判例では論点として全く現れていません。
 それらの裁判例を含めた、過去の肖像権侵害・パブリシティ権侵害の裁判例では、「特定の実在の人物の人物肖像」のみを利用することが当然の前提となっていたためです。
 したがって、実在の人物と、自動生成された人物肖像の結びつき(関連性)が乏しい、あるいは関連性がないAI自動生成肖像について、同自動生成肖像の利用が、どのような要件の下で狭義の肖像権侵害やパブリシティ権侵害に該当するかを明らかにする点に本論文の最大の意義があることになります。

AI技術を利用した人物肖像の自動生成及びその利用の流れ

 AI技術を利用した人物肖像の自動生成、及び同生成肖像の利用の流れの概要は以下のとおりとなります。
 まず人物肖像データを収集して学習用データセット(DS)を作成し(①)、同DSを用いて、学習行為(パラメーターの更新行為等)を行って学習済みモデルを生成する(②)、生成された学習済みモデルに、人物肖像の生成指示を行って人物肖像を生成し(③)、同人物肖像を特定の場面(例:商品広告、ゲーム等)において利用する(④)、という流れです。
 図にすると以下のとおりです。

AI自動生成肖像を利用する行為の肖像権侵害の判断基準

 従来、狭義の肖像権侵害の要件に関しては、法廷写真撮影事件判決がいわゆる受忍限度論を採用し、侵害の有無を判断するための各種要素(被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等)を示し、以後の裁判例ではおおむね当該各判断要素の総合考慮の下で肖像権侵害の有無が判断されています 4なお肖像権侵害の有無が争われたケースは「撮影・公表・利用」が同一主体により行われているケースと、「撮影・公表」と公表された肖像の「利用」が別主体により行われているケースがある。そして、「撮影・公表」と公表された肖像の「利用」が別主体により行われているケースにおいて、公表された肖像の「利用」についての肖像権侵害の有無については、法廷写真事件最高裁判決が示した要件がそのまま採用されているわけではない。
 しかし、「問題の所在」において述べたとおり、AI自動生成肖像を利用する行為については、その特殊性から、それら従来型の肖像権侵害における各判断要素をそのまま利用することができません。
 そのため、本論文においては、一般不法行為の成立要件における相関関係説的な違法性判断、すなわち「被害者側の侵害された権利(利益)の性質」及び、「加害者側の侵害行為の性質(態様)」を前提に、AI自動生成肖像を利用する行為の権利侵害の判断基準について検討しました。
 本記事では紙幅の関係で、結論部分である「AI自動生成肖像を利用する行為の権利侵害の判断基準としてどのような要素を考慮すべきか」に絞って紹介します。

1 実在の人物の容ぼうと生成された人物肖像の同一性

 まず「被害者側の侵害された権利(利益)の性質」に属する判断要素として「実在の人物の容ぼうと生成された人物肖像の同一性」が必要となります。
 狭義の肖像権は、人格権に由来する権利ないし法的な利益であるところ、実在の人物の容ぼうと、生成された人物肖像の同一性がなければ、その人格的利益が侵害されることはあり得ません。
 したがって、「実在の人物の容ぼうと生成された人物肖像の同一性」は、従来型の肖像権侵害と同様、AI自動生成肖像の利用による肖像権侵害の場合においても判断要素として当然考慮すべきであり、それが存在しなければ肖像権侵害が発生しないという意味で「必須要素」といえます5著作権侵害事件においては、特定の作者の「作風」が著作物として保護の対象となるか(通常はアイデアとして保護の対象とならない)という論点がある、肖像権侵害においては、肖像権が人格権である以上、「・・風」の肖像が肖像権侵害になるということはあり得ない。

2 実在の人物の容ぼうと生成された人物肖像の結びつき(関連性)

 次に、AI自動生成肖像の利用における、もっとも大きな特殊性である「実在の人物と、自動生成された人物肖像の結びつき(関連性)」を肖像権侵害の判断要素としてどのように考慮すべきかについて検討します。
 この点は、AI自動肖像生成特有の問題であり、法廷写真事件最高裁判決を含め、過去の裁判例では論点として全く現れていません。
法廷写真事件最高裁判決は「人は,みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する」と判示しているが、この「自己の」と言えるか否かが関連性の有無の問題です。

(1) 関連性の要否

 では、AI自動生成肖像の利用行為が肖像権侵害に該当するかの判断要素としてそもそも「関連性」は必要でしょうか。
 この「関連性」の要件は、従来型の肖像権侵害の事案においては、存在することが当然の前提とされていたため、肖像権侵害の成立要件としては特段論じられていませんでした。
 肖像権は、プライバシー権及びパブリシティ権とは区別された、肖像に関する人格的利益であり、① 自己の容ぼう等をみだりに撮影されない権利、② 撮影された写真、作成された肖像を公表されない権利、③ 撮影された写真、作成された肖像をみだりに利用されない権利で構成されます。
 このように、肖像権が肖像等に関する人格的利益である以上、肖像権侵害における相関関係説的な判断要素のうち「被害者側の侵害された権利(利益)の性質」に属する判断要素として「特定の人物の肖像が利用されること(関連性)」は当然に必要と解するべきでしょう。
 関連性がなければ、たとえ同一の肖像等が生成されたとしても、当該人物の人格との結びつきはなく、当該人物の人格的利益が侵害されることはないためです。
 この点、法廷写真事件最高裁判決は、肖像の撮影が不法行為上違法となるかの判断要素として「被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等」を総合考慮すべきとしているが、そこで掲げられている各要素のうち特に被撮影者側の事情、具体的には「被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容」は、狭義の肖像権侵害に、関連性が必要であることを当然の前提としていると思われます。仮に関連性が要件として必要でなければ「被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容」は権利侵害の成否とは無関係だからです。
 これに対して、「実在の人物の容ぼうと生成された人物肖像の同一性」の要件さえ満たせば、関連性は不要という考え方もありうると思われます。
 実在の人物の容ぼうとAI自動生成肖像の「同一性」さえあれば、当該自動生成肖像を見た第三者は、当該肖像は、当該実在の人物を撮影したものであると受け取る可能性が高いため、AI自動生成肖像の利用態様(例えばアダルト動画への出演やアダルトゲームのキャラクターとしての利用)によっては、関連性がなく完全に「偶然に」作成された自動生成肖像であったとしても、当該実在の人物は自らの肖像がみだりに利用されたとして、その人格権が侵害されるとも考えうるからです。
 確かに、完全に「偶然」に作成されたAI自動生成肖像であっても、実在の人物肖像と同一・類似であれば、当該実在の人物が、自らの肖像を利用されたと感じて不快感・不安感を感じることはあるでしょう。
 しかし狭義の肖像権侵害において関連性を必要としないという立場に立つと、AI技術を利用せずに、人間が架空の人物として精巧な人物イラストを制作して利用したところ、当該イラストがたまたま特定の人物の肖像と同一・類似だった場合、肖像権侵害という不法行為が成立する可能性があることになるが、それは当該行為者の表現の自由や経済活動の自由を過度に制約するものとして不合理と考えます。 
 生命・身体のような「絶対権・絶対的利益」と異なり、肖像権侵害(人格権侵害)のような「相対権・相対的利益」の侵害については、相関関係説的な違法性判断、すなわち被害者側の侵害された権利(利益)だけではなく、加害者側の侵害行為の性質(態様)も衡量すべきです。これは、人格権侵害のような「相対権・相対的利益」においては、その権利の外延が不明確であるところ、不法行為の成立という重大な効果を認めるためには、そのような総合考慮の手法が合理的だからです。
 そして、AI自動生成肖像の利用行為を不法行為として評価することは、加害者側の表現の自由や経済活動の自由を制約することを意味する以上、加害者側の侵害行為の性質(態様)の一要素である「関連性」を不要とし、被害者側の単なる主観的な不快感・不安感だけをもって権利侵害が成立するとするのはバランスを欠くと思われます。
 したがって、被害者の主観的な不快感を超えて、AI自動生成肖像の利用行為が不法行為として評価されるためには、その要件の1つとして加害者側の侵害行為の性質(態様)の1要素である「関連性」が必要と考えます。
 もちろん、これは、あくまで相関関係説的な違法性判断の1要素として関連性が必要であるということにすぎず、「関連性がなければ肖像権侵害が一切成立しない」というものではありません。詳細は後述しますが、関連性がない場合であっても、AI自動生成肖像の利用態様や利用者の主観的態様によっては肖像権を侵害することはありえます。

(2) 関連性の程度を判断するための要素

(ア) 「関連性」判断の難しさ

 
 次に、「関連性」が、AI自動生成肖像の利用に関する肖像権侵害要件の1つだとして、当該「関連性」をどのように判断するかが問題となります。
 「実在の人物の容ぼうと生成された人物肖像の結びつき(関連性)」といっても、AI自動生成肖像においては、その「結びつき」は0か100かで二分されるわけではなく、その間に各種バリエーションがあるためです。
 たとえば、「特定の1人の人物Aに関するデータのみを多数集めたデータセットを利用して学習済みモデルを生成し、当該モデルを利用して肖像を自動生成したところ、当該Aの肖像が自動生成された場合」には、関連性は非常に強いということになります。
 一方、「特定の1人の人物」ではなく「ある特定の外見上の傾向を持つグループ」の肖像を自動生成するために、そのようなグループに属する複数の者の顔写真を元データとしてデータセットを作成する場合には、必ずしも関連性が肯定されるとは限りません。
 たとえば、「ジャニーズグループに属している男性アイドルと同じような外見を持つ人物肖像写真を生成したい」と企図して、ジャニーズグループに属している複数のアイドルの写真を収集してデータセットとして用いるような場合(以下「ジャニーズ設例」という)や「ザ・日本人アイドル」の肖像写真を自動生成したい」と企図して、複数の日本人アイドルの顔写真のみを収集してデータセットを作成して学習に用いるような場合(以下「アイドル設例」という)です。

(イ) 関連性の程度の判断方法

 結論から言うと、関連性の程度を判断するためには、「データセットにどのくらいばらつきのある、何人くらいの人物肖像が含まれているかというデータセットの内容」及び「元データと類似した生成物が生成されやすい学習済みモデルのタイプ及び学習方法であるか否か」を総合的に考慮して判断すべきです。
まず、ある特定の1人の人物の肖像データのみを多数収集してデータセット(以下「DS」)を作成する場合(例:Aの肖像を自動生成することを意図してAの肖像のみを収集してDSを作成する)を考えてみましょう。
 このように、ある特定の1人の人物の肖像を自動生成する意図をもって、当該特定の人物の肖像データのみを収集してDSを作成し、それを用いて学習をした場合、当該学習済みモデルは、当該特定の人物肖像の特徴(「らしさ」)を非常に的確に再現する能力を持つツールとなります。
 すなわち、そのような方法により作成されたDSを用いて学習がなされて学習済みモデルが生成された場合、同学習済みモデルには「当該特定の人物の肖像らしさ(元データの特徴)を再現できる能力」(再現能力 )があり、この再現能力は、元データに偏りがある、すなわち元データが一定の共通特徴を有していればいるほど高くなります。
 したがって、ある特定の1名の人物の肖像を自動生成する意図をもって、当該特定の人物の肖像データのみを収集してDSを作成し、それを用いて学習をし、それによって、学習済みモデルが高い再現能力を持っている場合には、関連性が肯定されます。
 次に、先ほど述べたようなジャニーズ設例・アイドル設例、すなわち「特定の1人の人物」ではなく「ある特定の外見上の傾向を持つグループ」の肖像を自動生成するために、そのようなグループに属する複数の者の顔写真のみを元データとしてDSを作成することを考えてみましょう。
「ジャニーズグループに属している男性アイドルと同じような外見を持つ人物肖像写真を生成したい」と企図して、ジャニーズグループに属しているアイドルの写真のみを収集してDSとして用いるような場合(ジャニーズ設例)や「「ザ・日本人アイドル」の肖像写真を自動生成したい」と企図して、日本人アイドルの顔写真のみを収集してDSを用いるような場合(アイドル設例)です。
 まず、そのようなDSを用いて学習させた学習済みモデルによって自動生成された人物肖像が、誰がどう見ても「ジャニーズ風」「日本人アイドル風」だが、特定の実在の人物には似ていないということもありうるが、その場合には、必須要件である「実在の人物の容ぼうと生成された人物想像の同一性」が否定されるため肖像権侵害にはなりません。
 したがって、そのようなDSを用いて学習させた学習済みモデルによって自動生成された人物肖像が、学習に用いられた実在の特定の人物と同一・類似していた場合のみ肖像権侵害が問題となります。
 この場合は一律に結論を出すことはできず、DSの内容、具体的には「DSに用いられた人物の人数」によって、関連性の程度を判断することになるでしょう。
学習用データに用いられた人物の人数が少なければ、特定の人物と自動生成された人物肖像の結びつきが強いことになるため関連性が肯定される方向に働くし、学習用データに用いられた人物の人数が多ければ関連性が否定される方向に働きます。
たとえば、ジャニーズ設例において「ジャニーズの2名の男性ユニット(A及びB)」の写真のみを用いて学習させた場合において、Aと同一・類似の人物肖像が生成された場合には、学習用データに用いられた人物の人数が2名と少ないことから関連性は非常に高いことになります。
 一方、アイドル設例において、たとえば1万人の「日本人アイドル」の写真を用いて学習させた(その結果当然のことながらDS内の写真の外見上のばらつきは平均化されている)場合において、当該データセット内の特定の日本人アイドルと同一・類似の人物肖像が生成された場合には、学習用データに用いられた人物の人数が多数であること、及びその結果として当該複数人物の人物肖像の外見上のばらつき具合は小さくなることを考慮すれば、関連性はかなり低いということになります。
 さらに、学習済みモデルのタイプや学習方法にも様々なものがあり、DSに含まれている画像と同一の生成物が出力されやすい学習済みモデルのタイプや学習方法が用いられた場合には、関連性が肯定される方向に働くことになります。

(ウ) 小括

 以上述べたように、AI自動生成肖像の利用について関連性の程度を判断するためには、「データセットの内容」及び「学習済みモデルのタイプ及び学習方法」を総合的に考慮して判断すべきと考えます
 これを前提とすると、まず、自動生成されたAI生成肖像と同一人物の肖像が学習用データセットの中に入っており、一応当該実在の人物肖像が学習に利用されているというパターンについては、以下のように考えることになります。

 自動生成された肖像が元データの中に含まれているパターンですから、関連性の程度については、①データセットの内容及び②学習済みモデルのタイプ及び学習方法を総合的に考慮して判断することになります。
 具体的にはデータセットの内容が、多数のバラバラの外見の人物で構成され、かつ学習済みモデルや学習方法が、元データがそのまま出力されることがない性質のものであれば、関連性は低いということになります。
 一方、データセットの内に少人数の写真しか含まれていないようであれば、関連性は高いことになります。
 次に、実在の人物Dの肖像がAIにより自動生成されているものの、当該Dの写真はAIの学習及びAI生成肖像の生成には一切用いられていないパターンです。

 このパターンにおいては、自動生成された肖像が元データの中に含まれていないため、データセットの内容及び学習済みモデルのタイプ及び学習方法を総合的に考慮しても関連性は存在しないということになります。
 したがって、このパターンにおいては、関連性の程度「以外」の要素によって違法性を肯定できない限り、狭義の肖像権侵害は成立しないということになります。
 たとえば、DSに入っていない特定の人物の肖像を生成することを明確に意図して、当該人物の肖像が生成されるまで機械的に生成を大量に繰り返し、かつ当該人物肖像を当該人物の名誉が侵害されるような態様で利用した場合などです。

3 利用行為の態様


 次に、「自動生成された人物肖像の利用行為の態様」を、肖像権侵害における権利侵害要件として考慮すべきかを検討します。
 たとえば、適法に撮影された顔写真のデータがDS内に含まれ、当該実在の人物と同一の肖像が自動生成された場合において、当該生成された肖像を平穏な態様(一般のアパレルのモデルやアダルト以外のゲームのキャラクターなど)で利用する場合と、当該人物の名誉を毀損するような態様(アダルトゲームのキャラクターとして利用したり、精巧なアダルトCGで利用する、あるいは「犯罪者」などのレッテルを貼るなど)で利用する場合とで、AI自動生成肖像の利用行為の違法性の判断が異なるのか、という問題です。
 仮に「適法に撮影・公表された写真を元データとして自動生成された人物肖像を利用する場合、どのような利用態様でも適法である(生成肖像の利用態様は、肖像の利用行為の違法性の判断要素にならない)」という立場をとるのであれば、適法に撮影・公表された写真を元データとして利用している限りにおいて、生成された人物肖像をアダルトゲームや裸体と組み合わせて使用することもできることになります。
 この問題は、一般化して言うと、人物の撮影、公表及び人物肖像の利用を別主体が行った場合において、撮影および公表が適法なら自動的にその人物肖像の利用行為も適法になるのか(撮影・公表が適法でもその利用行為が違法になるケースがあるのではないか)という問題です(その意味で、AI特有の問題ではありません)。
 この点、肖像権侵害が争われた過去の裁判例を分析したところ、仮に適法に撮影された写真であっても、当該写真の利用行為の態様によっては、利用行為が違法と判断される傾向が強いことがわかりました。
 これは、狭義の肖像権の保護法益が被撮影者の人格的利益であることからすると、撮影行為が適法でも、利用行為(写真と一緒に掲載されている記事の内容や写真の内容、利用の必要性等)が被撮影者の人格的利益を侵害するのであれば狭義の肖像権侵害が肯定されるとの判断に基づくものと思われます。
 そして、その点は、AI自動生成肖像の利用に際しても別異に解する必要はありません。
 したがって、AI自動生成肖像の利用の違法性判断においても、肖像権侵害における相関関係説的な判断要素のうち「加害者側の侵害行為の性質(態様)」に属する判断要素として、「自動生成された人物肖像の利用行為の態様」を判断要素とすべきであり、AIの学習に用いられた写真が適法に撮影されたものであっても、AI自動生成肖像の利用行為が、被撮影者の名誉毀損やプライバシー侵害などの権利侵害行為に該当する場合には、違法性が肯定される方向に傾きます。

4 侵害者の主観的要素

(1) 問題の所在

 AI自動生成肖像の利用行為であっても、一般不法行為である以上、行為者の故意・過失の要件が必要なのは当然です。
 もっとも、従来型の肖像権侵害の場合、故意や過失についてはほとんど争いになりませんでした。「実在する特定の人物の写真を撮影・公表・利用すること」に関する故意過失がないという事態は想定しがたいためです。
 一方、AI自動生成肖像の利用行為の場合、判断要素のうち「利用行為の態様(どのように利用するか)」という点について認識していないということはありえませんが、「関連性」があることを認識していないということは十分にありえます。
 たとえば、DSに含まれている人物肖像と同一の肖像が生成されたが、当該肖像がDS内に含まれていることを生成者が認識していない(これは生成肖像が有名人のものではなく一般人のものである場合には容易に想定される事態です)ケースです
 そのため、AI自動生成肖像の利用行為の場合において故意・過失をどのように判断すべきかは非常に難問です。以下、「故意」と「過失」に分けて検討します。

(2) AI自動生成肖像の利用における故意

 実在している特定の人物の肖像を生成する意図を持って同一肖像を自動生成し、当該肖像を利用する場合、あるいは肖像生成時にはそのような意図はなかったが、自動生成した結果、結果的に実在している特定の人物と同一肖像であることを認識して当該肖像を利用した場合には、故意が存在することになります。

(3) AI自動生成肖像の利用における過失

 次に、どのような場合に過失が存在すると解釈すべきかです。

(ア) 過失についての一般論

 不法行為の成立要件における「過失」の位置づけについては様々な説がありますが、近時の学説においては「過失」の内容についてはほぼ一致しており、過失を「客観的な行為義務違反」と捉え、当該行為義務については「予見可能性を前提とした結果回避義務」と構成しています6前田陽一『債権各論Ⅱ不法行為法(第3版)』(弘文堂、2017年)14頁、窪田充見『不法行為法(第2版)』(有斐閣、2020年)46頁
 このように、過失を「予見可能性を前提とした結果回避義務違反」と捉えた場合、予見可能性がなければ結果回避義務は課されず、結果として結果回避義務違反、すなわち過失はないということになります。
 もっとも、一定の行為によって、人の生命・身体・その他の重大な被害が発生することについての抽象的危険が感じられる場合(例:公害をもたらす可能性がある産業活動を行う場合や、重大な健康被害を生じる可能性がある新薬の試験を行う場合)にあっては、そのような抽象的危険の段階で調査研究をする予見義務(調査義務)を課すべきという考え方が一般的です7 潮見佳男『不法行為法Ⅰ(第2版)』(信山社、2017年)297頁、加藤雅信『新民法体系Ⅴ事務管理・不当利得・不法行為(第2版)』(有斐閣、2005年)147頁、前田・前掲注7)17頁。また窪田・前掲注7)68頁は、予見可能性は規範的性格を有する(すなわち予見すべきだったのかという評価の問題を含む)のであって、当該行為をする前に、その行為に伴って、何らかの重大な結果が発生しないかどうかを調べるということも含まれる(調査義務)とするが、同趣旨と思われる。
 このような予見義務(調査義務)が課される状況の下では、① 当該予見義務違反が認められれば結果回避義務違反の有無を問わずに過失が認められる、あるいは、② 予見義務を尽くしていれば具体的危険性について予見可能性があった場合には、予見可能性が認められる、としていずれにしても結論的には過失が認められることになります。
 すなわち、このように、被侵害利益の重大性や加害者の地位や活動の性質に応じて、一定の場合に予見義務(調査義務)を課すことで、過失の成立範囲が拡大されることになるのです。
 このような予見義務(調査義務)という考え方は、公害、薬害、医療事件等を中心に発展してきました。
 もっとも、このような予見義務(調査義務)を課し、過失の成立範囲を広げるということは、結果発生の危険性が未だ抽象的な段階でも、行為者の行動の自由を制約する形で行為者に作為、不作為の義務を課すことを意味します。
したがって、どのような場合に予見義務(調査義務)が認められるかは、問題の危険が実現したとしたら想定され得る権利・法益侵害の重大性と衡量の上、過剰な制約をもたらさないようにという観点から検討すべきとされています8潮見・前掲注7)298頁

(イ) 具体的検討

 AI自動生成肖像の利用による狭義の肖像権侵害において、いかなる場合に「過失」が認められるのでしょうか。
 まず、「関連性の程度」のところで述べた、データセットに含まれている元データの数が十分多い場合は、原則として行為者には肖像権侵害の予見可能性がなく、結果回避義務違反、すなわち過失も存しないと考えます。
 なぜなら、データセットに含まれている元データの数が十分であれば、通常は元データと類似・同一の肖像が生成される可能性は極めて低く、予見可能性が認められないためです。
 一方、前述のように、被侵害利益の重大性や加害者の地位や活動の性質に応じて予見義務(調査義務)を課すことが認められていることからすると、① データセットに含まれているデータの数が十分でない場合、又は② 仮にデータセットに含まれているデータの数が十分であっても、肖像権侵害の危険性が高い利用態様の場合には、肖像権侵害が生じないか否かの調査義務を行為者に課すべきと考えます。
 これは、①の場合は、データセットに含まれているデータの数が十分でない場合は関連性が高く肖像権侵害の危険性が高いし、②についても、アダルト目的等の名誉毀損的状況で生成肖像を利用する場合には肖像権の保護法益である人格権を侵害する可能性が高いため、行為者に肖像権侵害が生じないか否かの調査義務を課しても不合理ではないからです9 一方、パブリシティ権侵害においては、ピンク・レディー事件最高裁判決が示した3つの利用態様に該当する場合(したがって、アダルト利用等、名誉毀損的状況における利用態様とは一致しない)に限って、調査義務として「データセット内のデータと自動生成された人物肖像の一致度を比較照合する義務」を課すべきである。パブリシティ権の保護法益は人物肖像が持つ顧客吸引力であるが、当該顧客吸引力の侵害は、平成ピンク・レディー事件最高裁判決が示した3つの利用態様に該当する場合にのみ生じるためである。
 そして、ここでいう「調査義務」とは、具体的には「データセット内の人物肖像データと自動生成された人物肖像の一致度を比較照合する義務(照合義務)」です。
 データセット内のデータと一致した人物肖像が生成されたにも関わらず、照合義務を果たさなかった結果、当該人物肖像をアダルト目的等名誉毀損的状況で利用した場合には、照合義務違反(予見義務違反)という過失及び過失と権利侵害の因果関係が認められることになります。
 もっとも、この「照合義務」として「世の中に存在するあらゆる人物肖像と、自動生成された人物肖像の一致度を比較照合する義務」は課しえません 。
 そのような内容の照合義務は履行が不可能であるため、当該義務を課すということは実質的に無過失責任を課すことを意味するからです。
 したがって「データセット内のデータと自動生成された人物肖像の一致度を比較照合する義務(照合義務)」を果たしても、なお同一肖像が存在することを認識できなかった場合には過失がないことになり、故意が肯定されない限り肖像権侵害は成立しないということになります。

5 元データの撮影行為の違法性

 次に、「元データの撮影行為の違法性」を、AI自動生成肖像の利用行為の違法性の判断要素として考慮すべきかを検討します。
 具体的には、AI自動生成肖像の利用においては、学習用データセットに含まれている写真の一部が違法に撮影されたものであることがあるが、そのようなDSを利用して生成された学習済みモデルを用いて自動生成した肖像を利用する行為が違法かという問題です。
 この問題は、一般化して言うと、人の肖像の撮影・公表と利用を別主体が行った場合において、撮影・公表が違法なら自動的にその利用行為も違法になるのか(撮影・公表が違法でもその利用行為が適法になるケースがあるのではないか)という問題です。
 肖像権侵害が争われた過去の裁判例を分析すると、一般的には人物肖像の利用行為の違法性判断において、撮影・公表行為の違法性を判断要素とすべし、とされています。
 もっとも、AI自動生成肖像の利用の場合は別途検討すべき点があります。
 まず、AI自動生成肖像の利用の場合は、仮に元データとして用いた写真が、その撮影・公表において違法だったとしても、① 当該写真の中の「顔部分」だけしか利用されておらず、かつ生成肖像においても「顔部分」だけしか生成されていない点です。もう1点は、② 仮に元データとして違法に撮影された写真が利用されているとしても、それは大量の元データのごく一部に過ぎない点です。
 これらの点を考慮すると、DSに含まれている特定の写真の撮影行為が違法であれば、AI自動生成肖像の利用が即違法になるわけではなく、「元データの撮影行為の適法性」はあくまで権利侵害の一要素に過ぎず、しかもその権利侵害への寄与度はかなり弱いと考えます。

6 打消し表示

 最後に、AI自動生成肖像の利用による肖像権侵害の判断要素のうち「加害者側の侵害行為の性質(態様)」に属する判断要素として、自動生成された画像を利用する際に、「本画像はAIを利用して自動生成された肖像であり、実在の人物との結びつきはありません」という表示(打消し表示)の有無を考慮すべきです。
 これは、AI技術を利用した精巧な人物肖像については、イラスト以上に「実在の特定の人物を撮影した写真である」との誤解を、受け手に生じさせやすいためです。AI自動生成肖像を利用するに際しては、当該画像がAI技術を利用して生成されたこと、及びその特質(関連性がないこと)を、正しく受け手側に伝えるために、打消表示が必要であると考えます10 矢沢永吉事件(ロックシンガーとして著名な矢沢永吉の「そっくりさん」がテレビのローカル放送におけるパチンコ店のコマーシャルに出演して、視聴者にあたかも矢沢永吉本人が出演しているかの印象を与えたとされるケース)において、矢沢永吉本人が訴訟を提起したが、結局和解で終結して、和解条件が新聞紙上に掲載された(1994年4月19日付朝日新聞朝刊)。同和解条件においては、「我々(注:原告及び被告)は、広告宣伝において物真似ないし「そっくりさん」が利用される場合には、法律上又は広告倫理上、次のようなルールが守られなければならないと考える」として「本人の事前の承諾を得た場合にも、受け手に誤信を与えないように、広告宣伝の登場者が物真似ないし『そっくりさん』であることについて、その同一表示上で、その旨を明示すべきである」として打消し表示に言及している(内藤篤=田代貞之『パブリシティ権概説(第3版)』(木鐸社、2014年)238頁)。
 もっとも、仮に打消し表示があったとしても、その他の要素(関連性・利用態様)によって違法性が肯定される場合に、当該違法性を完全に否定するまでの効果はなく、あくまで付随的な要素として捉えるべきでしょう。

7 結論:AI自動生成肖像の利用行為の肖像権侵害判断基準


 以上述べたように、AI自動生成肖像の利用については、AIの特殊性を考慮したうえで、① 実在の人物の容ぼうと生成された人物肖像の同一性、② 実在の人物の容ぼうと生成された人物肖像の結びつき(関連性)の程度、③ 利用行為の態様、④ 侵害者の主観的要素、⑤ 元データの撮影行為の違法性、⑥ 打消し表示の有無を総合的に考慮して判断すべきと考えます。
 もっとも、「総合的に考慮」と言っても、各要素についてはその重みづけが異なります。
 当該要素が欠ければ肖像権侵害は成立しないという意味での「必須要素」 は「① 実在の人物の容ぼうと生成された人物肖像の同一性」及び「④ 侵害者の主観的要素」です。
 「① 実在の人物の容ぼうと生成された人物肖像の同一性」については、そもそも当該要件が存在しなければいかなる意味でも肖像権侵害は発生しないし、「④ 侵害者の主観的要素」については肖像権侵害も一般不法行為である以上無過失責任を問うことはできないためです。
 次に重要な判断要素が「② 実在の人物の容ぼうと生成された人物肖像の結びつき(関連性)の程度」及び「③ 利用行為の態様」です。
 「② 実在の人物の容ぼうと生成された人物肖像の結びつき(関連性)の程度」については、AI自動生成肖像特有の問題であり重要な要素です。さらに、「③ 利用行為の態様」についても、第4章1(4)(エ)「利用行為の態様」で述べたように、従来型の肖像権侵害事例において肖像の利用行為の違法性判断に用いられてきた要素ですし、かつ過失判断における照合義務の存否に直結するという意味でも、重要な要素です。
 一方、「⑤ 元データの撮影行為の違法性」と「⑥ 打消し表示」については、重要性が低いと考えます。
 まず「⑤ 元データの撮影行為の違法性」については、従来型の肖像権侵害事例のように、特定の人物を撮影した肖像がそのまま利用される場合には、利用行為の違法性判断に非常に重要な要素となります11法廷写真事件最高裁判決はまさにその点を指摘し、「人の容ぼう等の撮影が違法と評価される場合には,その容ぼう等が撮影された写真を公表する行為は,被撮影者の上記人格的利益を侵害するものとして,違法性を有するものというべきである。」としている。が、顔写真のみが利用され、しかもDSの一部に利用されたに過ぎない写真の元データの撮影行為の違法性が、当該写真の生成・利用行為の違法性に及ぼす影響はかなり限定的であるためです。したがって、「⑤ 元データの撮影行為の違法性」の要件としての重要性は低いと考えます。
 最後に「⑥ 打消し表示」についても、受け手に「実在の人物が撮影された肖像である」という誤解を与えないという意味がある要素ではあるが、仮に打消し表示があったとしても、その他の要素(関連性・利用態様)によって違法性が肯定される場合に、当該違法性を完全に否定するまでの効果はなく、あくまで付随的な要素としてとらえるべきでしょう。
 以上をまとめたのが以下の表です。

判断要素 備考
1 実在の人物の容ぼうと生成された人物肖像の同一性 権利侵害が肯定されるためには必ず必要な要素である。
2 実在の人物の容ぼうと生成された人物肖像の結びつき(関連性)の程度 DSの内容(具体的にはDSに用いられた人物の人数)及び学習済みモデルのタイプ及び学習方法を総合的に考慮して判断する。
3 利用行為の態様 アダルト利用等、名誉毀損的状況でAI自動生成肖像を利用しているか否かにより判断する。
4 主観的要素 権利侵害が肯定されるためには必ず必要な要素である。
具体的な内容は故意又は過失であり、過失の有無が特に重要である。
過失については、関連性の強さ及び利用行為の態様によって、過失の前提として行為者に課される義務レベルが異なる。すなわち、データセットの量が少量の場合(関連性が高い場合)、又はアダルト利用等の名誉毀損的状況で利用する場合においては、照合義務(「データセット内のデータと自動生成された人物肖像の一致度を比較照合する義務」)が行為者に課され、当該照合義務を怠った場合には過失が肯定される。
逆にデータセットが大量の場合や、非名誉毀損的状況での利用の場合はかかる照合義務は発生しない。
さらに、照合義務が存在する場合であっても「世の中に存在するあらゆる人物肖像と、自動生成された人物肖像の一致度を比較照合する義務」は課されない。
したがって、照合義務が課される場合であっても「データセット内のデータと自動生成された人物肖像の一致度を比較照合する義務」を果たし、なお同一肖像が存在することを認識できなかった場合には過失がないことになり、故意が肯定されない限り肖像権侵害は成立しないということになる。
5 元データの撮影行為の違法性 被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮(法廷写真事件最高裁判決)
6 打消し表示 「本画像はAIを利用して自動生成された肖像であり、実在の人物との結びつきはありません」という表示(打消し表示)の有無

冒頭のケースの検討

以上を前提に、冒頭の4つのケースについて検討してみましょう。

【ケース1】
単独主体がデータ収集、データセット構築から自動生成肖像の利用までを行ったケースです。
利用の対象となった肖像は顧客吸引力の無い者の肖像であるため、狭義の肖像権侵害のみが問題となります。
データセットに藤田氏の写真が含まれているため「実在の人物と、自動生成された人物肖像の結びつき(関連性)」は存在するが、データセットの数が十分である(元データの数は約1万枚)ため関連性は低く、かつ非名誉毀損的使用態様(自社製品であるアパレル商品を着用するモデルとして利用)であり、さらに打消し表示も行っているため、X社の行為は肖像権侵害には該当しないと考えます。

【ケース2】
ケース1と同様、単独主体がデータセット収集から肖像の利用までを行ったケースですが、データセットに藤田氏の写真が含まれていないことから関連性がなく、かつ非名誉毀損的使用態様でありさらに打消し表示も行っているため、X社の行為は肖像権侵害には該当しないと考えます。

【ケース3】
単独の主体がデータセット収集から肖像の利用までを行ったケースですが、データセットにA氏の肖像が含まれている場合、データセットの大きさによって関連性が決まることになります。一方、利用態様としては「性犯罪者の顔だ」という記事と共に利用しているため、名誉毀損的使用態様による利用に該当します。
したがって、データセットの大小にかかわらず「データセットと自動生成された肖像との間の照合義務」が発生し、X社が同照合義務を果たしていれば、データセット内にA氏の顔写真が含まれていることを認識できたはずですから、過失と権利侵害との間の因果関係も存在します。
したがって、このケースではX社に狭義の肖像権侵害が成立すると考えます。

【ケース4】
このケースの場合、データセットにA氏の顔写真が含まれていないことから、関連性はないこととなります。もっとも、利用態様としては「性犯罪者の顔だ」という記事と共に利用しているため、名誉毀損的使用態様による利用です。
X社に故意があれば肖像権侵害は成立するが、本ケースではX社に故意はありません。
過失については、自動生成肖像を名誉毀損的態様で使用していることから、X社には「データセットと自動生成された肖像との間の照合義務」が発生します。
しかし、本ケースでは仮にX社が同照合義務を果たしていたとしても、A氏の顔写真は元データに含まれていないのだから、X社においてA氏の顔写真が元データに含まれていることを認識できないことになります。
したがって、仮にX社が照合義務を果たしておらず、その点に過失があるとしても、当該過失と権利侵害の間に因果関係がなく、X社に狭義の肖像権侵害は成立しないと考えます。

まとめ

 AI自動生成肖像の利用が狭義の肖像権侵害に該当するかについては、① 実在の人物の容ぼうと生成された人物肖像の同一性、② 実在の人物の容ぼうと生成された人物肖像の結びつき(関連性)の程度、③ 利用行為の態様、④ 主観的要素、⑤ 元データの撮影行為の違法性、⑥ 打消し表示の有無を総合的に考慮して判断すべきです。
特に「② 実在の人物の容ぼうと生成された人物肖像の結びつき(関連性)の程度」は、AI自動生成肖像特有の問題であり重要な要素ですが、DSの内容(具体的にはDSに用いられた人物の人数)及び学習済みモデルのタイプ及び学習方法を総合的に考慮して判断することになります。
また「④ 主観的要素」については、特に過失の判断基準が問題となります。この点については、以下のように考えるべきです。
 ▼ データセットの量が少量の場合(関連性が高い場合)、又はアダルト利用等の名誉毀損的状況で利用する場合においては、照合義務(「データセット内のデータと自動生成された人物肖像の一致度を比較照合する義務」)が行為者に課される。そのような照合義務が課される場合において同照合義務を果たさなければ過失が存在する。そして、データセット内にAI自動生成肖像と同一肖像が含まれていれば、照合義務を果たしていれば権利侵害を防止できたはずであるから過失と権利侵害との間の因果関係も存在し、不法行為が成立することになる。
 ▼ 逆に、そのような照合義務が課される場合であってもデータセット内にAI自動生成肖像と同一肖像が含まれていなければ、データセットとAI自動生成肖像の照合義務を果たしても同一肖像が含まれていることを認識できない。そのような場合は、照合義務を果たしていないという過失が存する場合でも、過失と権利侵害との間に因果関係がないため不法行為は成立しない。
 ▼ 十分な量のデータセットを利用しかつ非名誉毀損的な利用態様で利用する場合であれば、そもそもデータセットとAI自動生成肖像の照合義務が発生しないため当該照合義務を果たしていないとしても過失がなく不法行為は成立しない。

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 なお、本記事は、本論文の一部を抜粋して圧縮したものであり、本論文においては、本記事で検討した以外の論点についても検討しています。
 たとえば「著名人に酷似した肖像が自動生成された場合のパブリシティ権侵害の有無」「肖像自動生成ツールを提供したに過ぎない者の責任」です。
前者の「著名人に酷似した肖像が自動生成された場合のパブリシティ権侵害の有無」については紛争になる可能性や紛争になった場合の賠償額の大きさという点においては狭義の肖像権侵害よりより深刻な問題になる可能性が高いと思われます。また、後者については、事業者が肖像自動生成ツールを開発展開していく際に非常に大きな論点となるでしょう。

 本論文は、2022年3月以降に公開される予定なので、公開されましたらまたお知らせします。また、もし論文の内容に個別にご興味がある方がおられれば私宛にご連絡をください。対応させて頂きます。

  • 1
    なお、人物肖像(顔写真)の利用行為については、顔写真の著作権者が有する著作権の権利処理の問題や、顔写真が「個人情報」(個人情報の保護に関する法律2条1項)に該当する場合の法規制のクリアの問題もあるが、本論文では検討の対象としていない。
  • 2
    「ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。」「また,人は,自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益も有すると解するのが相当であり,人の容ぼう等の撮影が違法と評価される場合には,その容ぼう等が撮影された写真を公表する行為は,被撮影者の上記人格的利益を侵害するものとして,違法性を有するものというべきである。」
  • 3
    「肖像等を無断で使用する行為は,〔1〕肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,〔2〕商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し,〔3〕肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に,パブリシティ権を侵害するものとして,不法行為法上違法となると解するのが相当である。」
  • 4
    なお肖像権侵害の有無が争われたケースは「撮影・公表・利用」が同一主体により行われているケースと、「撮影・公表」と公表された肖像の「利用」が別主体により行われているケースがある。そして、「撮影・公表」と公表された肖像の「利用」が別主体により行われているケースにおいて、公表された肖像の「利用」についての肖像権侵害の有無については、法廷写真事件最高裁判決が示した要件がそのまま採用されているわけではない。
  • 5
    著作権侵害事件においては、特定の作者の「作風」が著作物として保護の対象となるか(通常はアイデアとして保護の対象とならない)という論点がある、肖像権侵害においては、肖像権が人格権である以上、「・・風」の肖像が肖像権侵害になるということはあり得ない。
  • 6
    前田陽一『債権各論Ⅱ不法行為法(第3版)』(弘文堂、2017年)14頁、窪田充見『不法行為法(第2版)』(有斐閣、2020年)46頁
  • 7
    潮見佳男『不法行為法Ⅰ(第2版)』(信山社、2017年)297頁、加藤雅信『新民法体系Ⅴ事務管理・不当利得・不法行為(第2版)』(有斐閣、2005年)147頁、前田・前掲注7)17頁。また窪田・前掲注7)68頁は、予見可能性は規範的性格を有する(すなわち予見すべきだったのかという評価の問題を含む)のであって、当該行為をする前に、その行為に伴って、何らかの重大な結果が発生しないかどうかを調べるということも含まれる(調査義務)とするが、同趣旨と思われる。
  • 8
    潮見・前掲注7)298頁
  • 9
    一方、パブリシティ権侵害においては、ピンク・レディー事件最高裁判決が示した3つの利用態様に該当する場合(したがって、アダルト利用等、名誉毀損的状況における利用態様とは一致しない)に限って、調査義務として「データセット内のデータと自動生成された人物肖像の一致度を比較照合する義務」を課すべきである。パブリシティ権の保護法益は人物肖像が持つ顧客吸引力であるが、当該顧客吸引力の侵害は、平成ピンク・レディー事件最高裁判決が示した3つの利用態様に該当する場合にのみ生じるためである。
  • 10
    矢沢永吉事件(ロックシンガーとして著名な矢沢永吉の「そっくりさん」がテレビのローカル放送におけるパチンコ店のコマーシャルに出演して、視聴者にあたかも矢沢永吉本人が出演しているかの印象を与えたとされるケース)において、矢沢永吉本人が訴訟を提起したが、結局和解で終結して、和解条件が新聞紙上に掲載された(1994年4月19日付朝日新聞朝刊)。同和解条件においては、「我々(注:原告及び被告)は、広告宣伝において物真似ないし「そっくりさん」が利用される場合には、法律上又は広告倫理上、次のようなルールが守られなければならないと考える」として「本人の事前の承諾を得た場合にも、受け手に誤信を与えないように、広告宣伝の登場者が物真似ないし『そっくりさん』であることについて、その同一表示上で、その旨を明示すべきである」として打消し表示に言及している(内藤篤=田代貞之『パブリシティ権概説(第3版)』(木鐸社、2014年)238頁)。
  • 11
    法廷写真事件最高裁判決はまさにその点を指摘し、「人の容ぼう等の撮影が違法と評価される場合には,その容ぼう等が撮影された写真を公表する行為は,被撮影者の上記人格的利益を侵害するものとして,違法性を有するものというべきである。」としている。

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