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平等院パズル訴訟に見る、建造物撮影写真の商用利用をコントロールするむずかしさ

アバター画像 杉浦健二

平等院(京都府)が、鳳凰堂を撮影した写真を使用したジグソーパズルを無断で販売していたおもちゃ会社に対して販売停止や在庫廃棄等を求めていた裁判で、2020年10月12日、裁判上の和解が成立したとの報道がありました。

世界遺産・平等院(京都府宇治市)の鳳凰(ほうおう)堂の写真を使ったジグソーパズルを無断で販売したとして、平等院が玩具会社「やのまん」(東京都台東区)に販売停止などを求めた訴訟が12日、京都地裁(村木洋二裁判官)で和解した。平等院によると、やのまん側が問題のパズルの在庫を廃棄する一方、廃棄費用を平等院側が負担することなどで合意したという。

ジグソーパズルに鳳凰堂写真 販売差し止め訴訟で平等院と玩具会社和解 京都地裁
毎日新聞2020年10月12日 19時44分(最終更新 10月12日 19時44分)
https://mainichi.jp/articles/20201012/k00/00m/040/146000c

報道によれば、和解内容は、おもちゃ会社側がパズル在庫328個を廃棄し、今後は同意を得ずに平等院の写真を用いた製品の製造・販売をしない一方で、平等院側は在庫廃棄費用約17万円を負担するものとのことです(NHK NEWS WEB)。

本件のような、建造物を撮影した写真の商用利用はどこまで許されるのでしょうか。
以下のような架空の事例を設定して検討してみます。

【架空の事例】

Y社は、複数の寺社を撮影した写真を組み合わせて、オリジナルの寺社3D映像が作れるスマホゲーム『あなたも寺院建立者』を開発している。
Y社は、本スマホゲームで用いる写真素材を入手するために、1500年前に建立された寺院Xの撮影を、外部カメラマンに有償で依頼した。外部カメラマンは、寺院Xに拝観料500円を払って入場し、寺院敷地内から寺院Xの本堂外観を撮影してY社に納品した。
Y社は寺院Xの写真を使用されたスマホゲーム『あなたも寺院建立者』を販売した。

寺院Xの拝観規約には、
「第〇条 当院では、無断で営利目的の撮影を行なうことを禁じています。違反した場合、損害賠償を請求するとともに、撮影したネガやデータ、写真を用いた商品の廃棄を求めます。」
との条項が記載されていた。

寺院Xは、Y社に対して、スマホゲーム『あなたも寺院建立者』の販売差止めを求めることができるか。

■寺院Xがゲームの販売差止めを求める法的根拠

寺院XがY社に対してゲームの販売差止めを求める場合に、考えられる法的根拠を挙げてみます。

1著作権

寺院Xの本堂は「建築の著作物」(著作権法10条1項5号)または「美術の著作物」(同4号)として、著作物にあたる可能性があります。
ただし著作権には保護期間があり、原則として著作者の死後70年で満了するところ(法51条)、仮に寺院Xの本堂が著作物にあたる場合であっても、1500年前に建立された寺院Xの著作権保護期間が既に満了していることに争いはないものと思われます。

※ただし著作者人格権については、著作者が生きていたならば著作者人格権の侵害となるような行為は禁止されているほか(法60条)、著作者の名誉や声望を害するような著作物の利用は著作者人格権を侵害する行為とみなされる(法113条7項)点には留意を要します。

仮に著作権保護期間内であった場合、寺院Xは「建築の著作物」または屋外に恒常的に設置された「美術の著作物」として扱われることになり、以下のような処理となります(法46条)。

▼建築の著作物

・写真撮影が可能。撮影した写真の商用利用(写真や動画データの販売、写真を利用したゲームの開発販売等)も可能。
・写真以外のコンテンツ作成や販売も可能(寺院Xのミニチュアキーホルダーの製造販売等)。
・ただし屋外に恒常的に設置するために複製すること(別の場所に寺院Xと同一・類似のデザインの寺院を建築する等)は認められない。

▼美術の著作物(※屋外に恒常的に設置されているもの)

・写真撮影は可能だが、美術の著作物をメインの被写体とする写真を販売する目的等での撮影(画像データ、絵葉書、ポスター等として販売する目的での撮影。すなわち「専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し、またはその複製物を販売する場合」(法46条4号))は認められない。

上記のとおり、寺院Xが著作権保護期間内であったとすれば、「建築の著作物」に該当した場合は本スマホゲームの販売は著作権法上可能となりますが、屋外に恒常的に設置された「美術の著作物」であった場合は、本ゲーム上で用いる目的でカメラマンに写真撮影を委託して撮影させてネガや写真データを作成させたこと、本ゲーム上で寺院Xの写真素材を使用できる仕様としたこと、本ゲームを販売したことが「専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し、またはその複製物を販売する場合」に該当すると評価される場合は、複製権等の侵害として、寺院XはY社にゲームの販売差止めを請求できる可能性が生じます(法112条)。

このように「建築の著作物」であるか、屋外に恒常的に設置された「美術の著作物」であるかで撮影した写真等の商用利用ができるかどうかが異なる場合があるため、この区別は重要なのですが、この判断は実務上も容易ではありません。
たとえば「太陽の塔」については美術の著作物であるとする見解もあります(※1)。しかし「太陽の塔」は2018年以降内部公開が実施されており、館内にはミュージアムショップ等も併設されているという構造や状況に鑑みれば、人が往来し活動する場を構成する構造物(※2)として「建築の著作物」とみる方が自然ではないかとも感じるところです。

建築や美術の著作物に関する撮影に関しては、こちらの過去記事もご参照ください。
神戸ポートタワーを無許可で撮影・利用したら著作権侵害になるのか

2 パブリシティ権

人は自分の氏名や肖像等について、みだりに利用されない権利を有するところ、著名人等の場合、氏名や肖像等が顧客吸引力(販売促進効果、経済的価値)を有するケースがあります。この顧客吸引力を排他的に利用できる権利をパブリシティ権といいます(ピンクレディー事件最高裁判決・最判H24.2.2)。

しかしパブリシティ権が上記のように人格権を根拠とするものである以上、物についてはパブリシティ権は発生しないとされており(いわゆる「モノパブ」問題。競走馬の名称についてのパブリシティ権を否定したギャロップレーサー事件最高裁判決・最判H16.2.1)、寺院Xという建造物自体にパブリシティ権が認められることは困難と考えられます。

3 宗教的人格権

下級審裁判例には、一般に非公開とされていて60年に1回しか拝観できない秘仏の写真を使った書籍や掛け軸を無断で販売した行為が、宗教的人格権を侵害するとして、商品の販売差止めや写真等の廃棄、寺院への慰謝料等を認めたものがあります(徳島地判H30.6.20・判例タイムズ1457号232頁)。

本事例における寺院Xは一般に公開されており、拝観料を払えば誰でも拝観できるため、同判決と同様の判断がなされるかは悩ましいところです。
ただし、本ゲームの「複数の寺院写真を組み合わせてオリジナルの寺院が作れる」点に着目してみれば、寺院の宗教的人格権を侵害すると判断される可能性はあるかもしれません。

 

以上ここまでの点は、寺院Xを公道など敷地外から撮影した場合にも問題となる論点ですが、本事例は寺院Xを寺院敷地内から撮影したケースですので、さらに以下の施設管理権や拝観規約(契約)の問題が生じます。

4 施設管理権

美術館や映画館でのフラッシュを用いた撮影禁止などは、施設管理者が有する施設管理権(施設の所有権や管理権に基づく権利)を根拠として認められるものとされています。
寺院敷地内であれば、寺院Xの施設管理権が及ぶため、寺院Xは施設管理権に基づいて、営利目的を含む撮影禁止を主張することも認められる可能性があります。

もっとも本事例において、Y社は外部カメラマンに撮影を委託しており、このカメラマンが撮影した写真をY社がゲーム内で使用していました。
カメラマンに対する撮影禁止や、写真データの廃棄を請求することはまだしも、寺院敷地内で撮影したわけではないY社に対して、施設管理権を根拠として、損害賠償を超えてゲームの販売差止めまでが認められるかは、低くないハードルがあるものと考えます。

5 拝観規約(利用規約)

寺院Xの拝観規約には「当院では、無断で営利目的の撮影を行なうことを禁じています。違反した場合、損害賠償を請求するとともに、撮影したネガやデータ、写真を用いた商品の廃棄を求めます。」との条項があったところ、この拝観規約違反を根拠する場合はどうでしょうか。

2020年4月に施行された改正民法により新たに定型約款制度が導入されているところ、本拝観規約が定型約款に該当すれば、拝観者との間で本規約を内容とするみなし合意(民法548条の2第1項)が成立する可能性があります。

たとえば
・寺院Xの入口において、拝観規約が見やすい場所に掲示されており、拝観にあたっては同規約が適用される旨が表示されていたとき(民法548条の2第1項2号)
・オンラインによる拝観チケット購入システムで、「拝観にあたっては拝観規約が適用されます」と記載したうえで同意ボタンを押して購入してもらう仕組みであった場合(同条第1項1号)
などは、拝観規約を内容とするみなし合意が成立し、拝観者は拝観規約の内容に拘束されることになります。

参考:(拙寄稿)「定型約款制度の概要と、定型約款による契約成立の要件(組入要件)」(BUSINESS LAWYERS)

ただしこの場合でも、拝観規約が適用されるのは、あくまでみなし合意の当事者である拝観者(カメラマン)のみであり、カメラマンが撮影した写真の譲渡を受けたY社には、拝観規約は直接適用されないものと考えます(カメラマンはY社の委託に基づいて撮影している点をどう評価するか次第で、Y社にも適用を及ぼせないかは別途検討の余地はありますが)。

したがって、拝観規約を根拠とした場合でも、カメラマンに対する写真データの廃棄は認められたとしても、Y社に対して本ゲームの販売差止めまでを求めることは難しい可能性があります。

6 本事例の結論

以上より、本事例において、寺院Xは、拝観規約違反に基づいて(または施設管理権を根拠として)、カメラマンに対して写真データ等の廃棄や損害賠償請求を行える可能性はあるものの、Y社に対して本ゲームの販売差止めを行うことまでは認められない可能性が高いと考えます。

なお冒頭で紹介した平等院の事例では、おもちゃ会社側は、自社のウェブサイトで以下のようなリリースを出しています。

(略)本件訴訟につきまして、令和2年10月12日付にて和解が成立いたしました。裁判所が、平等院の主張を否定して「やのまんに違法行為がない」ことを文書で認めて下さったので、和解を受諾することとしました。
本件商品につきましては、著作権者と協議の結果、違法行為はないものの、平等院とことさら軋轢を生みたいわけではなく、また消費者を混乱させてしまった事実を考慮し、令和2年5月31日の期間満了時に、契約の更新をせず商品化許諾契約を終了いたしました。
なお、現に市場に流通している本件商品については、何ら問題なく購入できることを申し上げます。

株式会社やのまん「宗教法人平等院との訴訟について」(2020年10月13日付・10月21日最終確認)

建造物撮影写真の商用利用をコントロールするむずかしさ

寺院Xのような建造物管理者側としては、そもそも建造物が著作物と認められるか否かに一定のハードルがあること、古い建造物の場合は保護期間切れの問題があること、建造物撮影写真の商用利用を一定の限度で禁止できる「屋外に恒常的に設置された美術の著作物」にあたると主張できるか否かは建造物の目的や構造等次第であること、施設管理権や入場規約を根拠とする場合でも原則として建造物(敷地)への入場者のみを請求の相手方とできることから、入場者以外の第三者に対して撮影写真の商用利用を禁止したり、商品販売差止めを求めたりすることは相当にハードルが高いものと考えられます。

そこで建造物管理者側としては、以下のような対策を講じておくことが考えられます。

1 商標登録をする

たとえば東京スカイツリーは、その名称、ロゴ、シルエット等が商標登録されています(東京スカイツリー®知的財産使用に関するお問い合わせ)。

商標権が侵害された場合、商品の販売差止めも可能となります(商標法36条)。商標権は何度でも更新可能なので、著作権とは異なり、事実上永遠に権利を保有することができます。
ただし商標権も万能ではなく、指定商品や役務との関係での商標的使用(自他商品等識別機能や出所表示機能を生じさせる使用)のみを禁止することができるため、商標権を侵害しないような商用利用までを禁止できるわけではありません。

2 利用規約を整備しておく

ウェブサイト上や施設入場時に示す施設利用規約を入念に整備しておくことは有益と考えます。
利用規約は、施設と何らかの契約(入場契約)を交わす当事者(入場者など)のみに適用されるのが原則ですが、入場者等以外の第三者にも閲覧されることを意識した作りこみをすることで、利用規約が適用される入場者等以外にも「事実上の抑止力」を及ぼす効果があることは否定できません。

※なお著作権や商標権などの法律上の権利でもなく、契約(規約)上発生する効果でもないものの、施設がウェブサイト上等で「施設からのお願い事項」として様々な事項を禁止している場合があります(たとえば建物外観について公道からの撮影を禁止するなど。これは著作権法上は許される行為です)。このような「法律上の権利ではない何か」が主張されている例はよくありますが(※3)、商用利用したい側としては、こういった「お願い事項」が①法律上発生する施設の権利なのか②契約(利用規約)上発生する効果なのか、それとも③そのいずれでもない「法律上の権利ではない何か」に過ぎないのかを吟味したうえで対応することが肝要といえるでしょう。このような「お願い事項」を順守するのが慣習化している業界もあり、法律・契約とは異なる事実上の拘束力が発生している例もあります。

以上、建造物撮影写真の商用利用を禁止するには高いハードルがあること、一定程度コントロールを及ぼすためには利用規約の整備等を行うべきだが、それにも限界はあるという話でした。

弁護士杉浦健二

※1 阿部浩二「建築の著作物をめぐる諸問題について」コピライト467号16頁
※2 島並良ほか「著作権法入門(第2版)」51頁
※3 福井健策弁護士は、このような「法律上の権利ではない何か」をして「疑似著作権」と表現しておられます。

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