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著作権 裁判例

パクリデザイナーと言われないために押さえておくべき3つの裁判例

柿沼太一 柿沼太一

著名な現代芸術家である村上隆さんの作品をパクったとして、神戸アニメストリートの公式ロゴを巡る騒ぎが発生しているようです。

神戸市長田区の「神戸アニメストリート」の公式「目玉ロゴ」をめぐって、現代芸術家・村上隆さんが自らの作品に似ているとして、「権利侵害の申し立て」をしたことに対し、ネット上では「似ていない」「言いがかりだ」と、村上さんへの反発が起こっている。

ライブドアニュース(2015年12月8日)より

ライブドアニュース(2015年12月8日)より引用

ライブドアニュース(2015年12月8日)より引用。写真左=神戸アニメストリートの目玉ロゴ、写真右=村上さんの作品。

両者が似ているか、と聞かれれば「似ている。しかし・・・・・」という感想を持つ人が大半かもしれません。
東京五輪エンブレムを巡っても同じような騒動が起きており、デザイナーが「パクリ」と言われないために知っておくべき3つの裁判例を紹介したいと思います。

■ 著作権侵害かどうかは「依拠」+「類似性」があるかどうかで決まる

「何となく似ている」というのと「著作権侵害」であるというのは全く異なります。
前者は社会的な制裁はともかく法律的な責任は負いませんが、「著作権侵害」ということになれば、民事上の損賠償責任はもちろん、場合によっては刑事責任を負うこともあるためです。
したがって、「単になんとなく『似ている』を超えて著作権侵害かどうか」というのは非常にシビアな問題となります。
今回の村上氏の主張は、神戸アニメストリートのロゴが著作権侵害であると主張するものです。
本件の場合、実際には当初からロゴは変更予定だったとして神戸側がロゴの変更を行い、裁判までにはなりませんでしたが、仮に裁判になった場合にはどういう結論になったのでしょうか。
このようなケースで著作権侵害(翻案権侵害)が成立するためには
1 オリジナル作品を元にして(依拠性)
2 よく似た作品を制作した(類似性)
の2つが必要です。
よく似ていたとしても、それが「たまたま」であれば1の依拠性を欠き著作権侵害は成立しません。
ここまでをまず押さえていただき、3つの裁判例を見ていきましょう。

■ とても有名な「スイカ写真事件」

類似性が問題となった(業界的に)超有名な事件が「スイカ写真事件」(東京地判決平成11年12月15日(第1審)・東京高判平成13年6月21日(控訴審))です。

東京地判決平成11年12月15日(第1審)・東京高判平成13年6月21日(控訴審)

東京地判決平成11年12月15日(第1審)・東京高判平成13年6月21日(控訴審)

左の写真(原告の写真)が、あるプロの写真家の方の作品で「みずみずしいすいか」というタイトルでNHKの「きょうの料理」に掲載されていた写真です。右の写真が、別の写真家の方が撮影してカタログに掲載したものです。
そこで原告の方が、被告の写真を著作権侵害だとして提訴しました。
この事件は、結論的には、1審においては類似性は否定、高裁においては類似性が肯定されました。
高裁においては
・ 原告の写真は、屋内に撮影場所を選び、西瓜,籠,氷,青いグラデーション用紙等を組み合わせることにより、人為的に作り出された被写体であるから、被写体の決定自体に独自性が認められる。
・ スイカの向きが左右逆であることを含め、両方の写真に相違点は何点かあるが、それらの相違点は「些細な、格別に意味のない相違」にすぎない
として、類似性が肯定されています。

■ 結構有名な「村上隆ナルミヤ事件」

また、今回の村上隆氏に関しては服飾メーカーとして有名なナルミヤ・インターナショナルを著作権侵害を理由として提訴したという事件もありました(東京地方裁判所平成16年(ワ)第16146号)。

著作権の世紀(集英社新書・福井健策著)より

著作権の世紀(集英社新書・福井健策著)より

村上氏が創作したキャラクターである「DOB君」(どぶくん)に、ナルミヤのキャラクター「マウスくん」が類似している、というものです。
上記のイラストのうち(1)が「DOB君」、(2)~(4)が裁判所が類似性を認めたとされているもの、(5)が裁判所が類似性を否定したとされているものです。
確かに、(2)~(4)については、ポーズや耳と顔のバランスなど表現がかなり似ていますよね。
この裁判は判決までは行かずに、2006年に和解で終わり、ナルミヤが数千万円の和解金を支払ったと報道されています。

■ 最後に「ミッフィー対キャシー事件」

これも有名な裁判ですね。

https://www.sanrio.co.jp/wp-content/uploads/2013/12/20110607.pdfより

https://www.sanrio.co.jp/wp-content/uploads/2013/12/20110607.pdfより

左が紹介するまでもなくディック・ブルーナの「ミッフィー」で、右がサンリオのキャラクターの「キャシー」です。
「キャシー」は「ハローキティ」の友達という設定だそうです。

2010年11月2日、アムステルダム地方裁判所はサンリオの「キャシー」が、「ミッフィー」に関する著作権と商標権を侵害しているとの理由で差し止め仮処分命令を下しました。
サンリオは権利侵害していない旨の異議申し立てを行いましたが、さらにブルーナ側が本案訴訟、サンリオが「ミッフィー」の商標権取り消し訴訟を提起するなど、泥沼化していったのです。
ただ、この裁判では両者の類似性についての結論は出ませんでした。
というのは、この裁判中に東日本大震災が起こったことから、両社は訴訟を取りやめ、訴訟に費やす両社の諸費用を震災地に寄付すべきという結論に達したのです。
そのため、両者は和解して訴訟を終了させ、共同で約1750万円を東日本大震災への義援金として寄付しました(サンリオのプレスリリース)。
もしこの裁判が続いていたら、著作権侵害は認められたかどうかはわかりませんが、かなり難しい判断になりそうです。

■ 「類似性」の3つの判断基準

ここまで、いくつか「類似かどうか」が争われた事案を見てきましたが、実は「類似かどうか」を判断する方法・基準は、実務的にはほぼ確定しています(江差追分事件最高裁平成13年6月28日判決)。
まず判断方法は、「両作品を比較して共通部分を抽出し、その共通部分を検討する」というものです。
その上で
・ 抽出した共通の部分が、アイデアや思想に過ぎない場合は類似性否定。
・ 抽出した共通の部分に表現上の創作性がない場合は類似性否定。
・ 抽出した共通の部分に「表現上の本質的な特徴の同一性」がある場合にはじめて類似性肯定。
というものです。
図で示すとこんな感じですね。
スライド1
スライド2
スライド3

■ 目玉ロゴ事件は著作権侵害にあたるか

で、冒頭の目玉ロゴ事件ですが、まず、共通部分は
・ 目玉を使ったロゴである
・ まつげがある
・ 外周の黒色部分に細い部分と太い部分がある
・ 黒目の部分に光が反射して少女漫画的な表現になっている
・ 目玉の一部分にカラフルな色が使われている

という点でしょうか。
逆に相違点としては
・ 村上作品は黒目の部分が彩色されているが、アニメストリートのほうは黒目のままである
・ 両作品ではまつげの飛び出し角度が異なる
・ アニメストリートのほうはアルファベットの「a」を模している

などです。

この「共通部分」について、先ほどの3つの判断基準に従って判断してみます。
「目玉を使ったロゴである」というのはアイデアでしょう。
たとえば、同様のアイデアを使った作品として、きゃりーぱみゅぱみゅの「豆しぱみゅぱみゅ」があります(ロゴではありませんが)。
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とすると
・ まつげがある
・ 外周の黒色部分に細い部分と太い部分がある
・ 黒目の部分に光が反射して少女漫画的な表現になっている
・ 目玉の一部分にカラフルな色が使われている
という表現が「表現上の本質的な特徴」と言えるかどうかですが、どうなのでしょうか。
「目玉を使ったロゴである」以上、最初の3つの表現はいわばほぼ必然であって創作性があるとまではいえず、「表現上の本質的な特徴」とは言えないのではないかと思います。
迷うのは「目玉の一部分にカラフルな色が使われている」という部分ですが、これも両作品で彩色されている部分が異なることからするとアイデアレベルの類似なのではないでしょうか。
ですので、私の意見としては、この両作品は類似しておらず、著作権侵害は成立しない可能性が高いと考えています。

■ まとめ

以上まとめてみますと
・ 著作権侵害かどうかは「依拠」+「類似性」があるかどうかで決まる。
・ 「似ていれば即アウト」ではない。
・ アイデアベースで似ていても、表現上の本質的な特徴が類似していないのであれば類似ではない。
というところです。