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著作権 裁判例

料理写真の無断投稿は権利侵害?

アバター画像 柿沼太一

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ドイツで新たな法律、料理写真の無断投稿は権利侵害」という記事を読みました。

この記事には、「新たな法律ができた」といいながら「裁判所の判決が出た」とも書かれており、法律ができたのか、新しい判決が下されたのか、どっちなのかよくわかりませんが、料理に関することなら黙ってられない私としては、一言言いたくてこのエントリを書きました。

ちなみに、冒頭に掲げているのは、私が作ったローストビーフの写真です。肉汁が一滴もこぼれていない会心の作ですし、写真の著作権は放棄するので、どんどんシェアしてください。

■1 被写体の権利と写真撮影者の権利

まず、何かを撮影した写真については、「被写体に関する権利」と「写真撮影者の権利」の両方があることに注意してください。
たとえば、「絵画を撮影した写真」であれば「被写体である絵画の著作権」の問題と「写真撮影者の著作権」の問題があります。
また、「アイドルを撮影した写真」であれば、「アイドルのパブリシティ権・肖像権」(通常はプロダクションや音楽出版社に移転していますが)と「写真撮影者の著作権」の問題があるのです。
ですので、「ファンが自分で撮影したアイドルの写真」を、当該ファン自身でSNSでシェアする場合、「写真撮影者の著作権」は問題ありませんが「アイドルのパブリシティ権・肖像権」を侵害する可能性があるのです(商用利用でない場合は微妙ですが)。

■2 料理写真に関する権利

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この写真は「サンマのベッカフィーク」です。どんどんシェアしてください。
さて、料理写真についても「被写体である料理に関する著作権」と「写真撮影者の著作権」の問題があることになります。
つまり、サイト上の料理写真を無断転載したり、料理本に掲載されている料理写真をコピーして自分のサイトに掲載した場合は、「被写体である料理に関する著作権」と「写真撮影者の著作権」の両方を侵害する可能性がある、ということになります。
まず、このような行為が「写真撮影者の著作権」侵害となることはほぼ間違いありません。
写真撮影に際しては、構図や光量、シャッタースピードなどに撮影者の創意工夫があるため、写真そのものが著作物でないケースというのはほとんどないからです。
ただ、今回のニュースは「被写体である料理に関する著作権」に関するものです。
本当に「被写体である料理に関する著作権」なんてあるのでしょうか。

■3 料理写真の著作権とレシピの著作権は全然違う

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この写真は「フリッタータ・サラダ添え」です。どんどん行ってください。
ここで注意しなければならないのは、料理写真における「被写体である料理に関する著作権」というのは、「レシピの著作権」ではないということです。
料理写真における著作権ですから、あくまで「盛りつけという見た目」しか問題になりません。
料理レシピの斬新さや、料理の制作工程の複雑さとは関係がないのです。
どんなにオリジナリティーが高いレシピであったとしても、見た目が地味な料理であれば、著作権が発生することはありません。
逆に、それまでよく知られているレシピの料理であったとしても、独創的な盛りつけをした場合、著作物として著作権が発生する可能性があります。
「料理は見た目じゃない」ということは間違いのない真実なのですが、こと料理写真に関して言えば、「見た目」が全てということになります。

■4 著作権と所有権

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この写真は「アスパラのケッカソース」です。シェアしてもいいです。
さて、冒頭で紹介した元記事には、中国の弁護士のコメントとして「中国では今のところ、権利の侵害にはあたらない。客は代金を支払った時点で料理の所有権を得たことになる。」とあります。
仮に、ある料理の盛りつけが著作物に該当する場合、「料理の所有権を得たから、その料理の盛りつけの写真を撮影して公開しても著作権侵害にはならない」といえるのでしょうか。
これは所有権と著作権の関係の問題ですが、このブログを読んでいる人なら当然わかっているように、両者はまったく別物です。
古くは「顔真卿自書建中告身帖事件(がんしんけいじしょけんちゅうこくしんちょうじけん)(最高裁昭和59年1月20日第二小法廷判決)」という超有名事件があります。
ちょっとややこしい事件なのですが、まず「顔真卿自書中告身帖」というのは、中国唐代の書家顔真卿が自書したもので、極めて貴重とされている書です。当然のことながら、とっくに著作権の保護期間は満了しています。
原告は博物館であり、故人Aが収集した「顔真卿自書中告身帖」を所蔵していました。
被告は、書道関係の図書を出版・販売している出版社で、故人Aが直接撮影した「顔真卿自書中告身帖」の写真乾板を利用して、書籍に「顔真卿自書中告身帖」を掲載して出版しました。
そうしたところ、原告が「被告の行為は原告の所有物である『顔真卿自書中告身帖』の所有権を侵害するものであり違法だ」として裁判を起こした、という事件です。
先ほども言ったとおり、書の著作権保護期間は満了していますし、原告は書の著作権を譲り受けたわけでもありませんから著作権侵害に基づく裁判ではありません。
この事件で、最高裁は「所有権は有体物としての美術品に関する権利であり、著作権は著作物に関する権利だから両者は対象を異にする権利である。したがって保護期間が満了している著作物を利用したからといって、その著作物の所有権者の所有権を侵害するものではない」と判断して、原告の請求を棄却しました。
著作物の所有者だからといって、著作権を行使できる訳ではないということですね。

話を元に戻すと、料理を注文してお金を支払えば料理の所有権はお客様のものになるでしょうが、かといってその料理の(盛りつけの)著作権までお客様のものになるわけではない、ということです。

■5 具体的にどんな料理の盛りつけが著作物となるのか

さて、で結局のところ、どんな料理の盛りつけが著作物になるのか、ですが、正直言ってよくわかりません。
たとえば、洋食器の大手メーカーであるノリタケは「盛りつけコンテスト」というものを開催していて、ノリタケの洋食器に工夫を凝らして盛りつけた料理の写真コンテストを行っています。
第5回のグランプリの写真はこれです。

http://tableware.noritake.co.jp/style/details/000174.htmlより

http://tableware.noritake.co.jp/style/details/000174.htmlより

この盛りつけに対する講評は

講評:
「ゴールデンウェイブ」シリーズのエレガントなスクロール模様と呼応するような盛り付けが一体感を生み、大変バランスの良い仕上がりの作品です。プレートのサイズと盛り付けのバランス、ソースの配置など、さまざまなポイントを参考にしていただけると思います。

というものでした。
確かに、皿の模様と合わせて料理が盛りつけられており、食材の色のバランスや大きさ、ソースの配置など様々な点に工夫が凝らされていることから、この盛りつけに一定の創作性があることは間違いがないと思います。
ただ、この盛りつけが著作物ということになると、単にこの盛りつけの写真の投稿が権利侵害になるにとどまらず、今後50年間、著作権が切れるまで、この盛りつけは誰も使えないということになります。
著作権はそういう強力な権利ですので、料理の盛りつけに著作物性が認められるためには、実際には相当高いハードルをクリアする必要があるのではないかと思います。