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自動運転で事故した場合、運転手に法的責任はあるのか?

杉浦健二 杉浦健二

自動運転の車で事故が起きた場合、運転手は責任を負わないのでしょうか。
少なくとも現時点で市販されている自動運転車では、運転手は一定の責任を免れないと考えられています。

■テスラの自動運転車で初の死亡事故

2016年5月7日、米テスラモーターズ社の自動運転機能(オートパイロット)を搭載した自動車「モデルS」の運転手が死亡する事故が起きました。

事故は5月7日に発生した。「車は、中央分離帯のある幹線道路を自動運転で走っていて、前方で交差点を左折しようとしていた大型トレーラーに衝突した」とテスラは説明している。「後方の空が明るく光っていて、白い色をしたトレーラーの側面をドライバーも自動運転機能も認識しなかった。そのため、ブレーキが作動しなかった」という。
(外部リンク)テスラの自動運転車で初の死亡事故。何が問題だった?

よく勘違いされがちなのは、2016年現在市販されている自動運転車はまだ一部の機能のみが自動運転なのであって、完全自動運転にはほど遠いという事実。

ここで米国運輸省道路交通安全局 (NHTSA)が定義する自動運転車のレベル(0~4)を整理しておきましょう。2016年8月現在、現在市販されているのはレベル2まであって、レベル4(完全自動運転)の市場投入はまだ先です。

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戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)自動走行システム研究開発計画(内閣府)より引用 http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/keikaku/6_jidousoukou.pdf

■現在市販されてる自動運転車では、運転手は法的責任から解放されない

今回死亡事故が起きたテスラ社のモデルSはレベル2(アクセル・ハンドル・ブレーキの複数をシステムが行う)にあたり、完全自動運転ではありません(テスラジャパン公式)。テスラ社自身、モデルSの自動運転機能(オートパイロット)時にはハンドルに手から離さないよう求めており、運転手の注意義務は変わらず存在します。

すなわちレベル2クラスで気を抜くとこうなるわけです。

テスラ社自身、モデルSの自動運転機能(オートパイロット)時において運転者には注意義務があることを明記しています。

完全にドライバーが不要となるクルマの出現はまだ先のことですが、私たちは安全性をさらに向上し、ドライバーがより自信を持って運転できるよう、また、高速道路の運転がより楽しくなるように自動運転を開発しています。自動運転技術が有効になっていてもドライバーはクルマを完全に制御することができ、その責任はドライバーが負います。
テスラジャパン公式

■自動運転車事故の法的責任は誰が負うべきなのか?

運転手がある程度運転に関与する準自動運転(レベル1~3)であれば、事故発生時、被害者は運転手とメーカーに対して責任追及することが考えられます。

そして将来的に運転手が全く操作に関与しない完全自動運転(レベル4以上)が実現した場合、運転手の操作責任を問い得ないと考えれば、事故の法的責任は自動車メーカーのみならず、ソフトウェア開発者やビッグデータ管理者らも責任追及の対象に入ってきそうです。

ただし完全自動運転であっても、運転手(所有者)は、自動運転システムが滞りなく稼働するためのソフトウェアアップデートやシステムメンテナンス義務を負うと考えれば、なお運転手(所有者)の法的責任は観念し得ることになります。

以上より、今後自動運転車が市場に広く出回っても、当面の間は、運転手の法的責任がゼロになることはないと考えられます。

■自動運転の開発はメーカーの法的責任を拡大する

自動運転が進化し、運転手を運転操作や前方注意から解放できればできるほど、運転手が負うべき注意義務の程度は低くなり、かえって自動車メーカーの負う法的責任は重くなると考えられる点は何とも皮肉的です。

自動運転車の開発を進める自動車メーカーにとって、自動運転者の事故発生時において運転手の責任追及をすることは、まさにアクセルを踏みながらブレーキを踏むようなものであり、何とも悩ましいジレンマではないかとも感じます。

自動車メーカーにとっては、自動運転車の開発をこれ以上進めないことで,現在のように事故時の一次的な法的責任を運転手が負うままにしておく、という選択肢もあるのかもしれません。

しかしながら、交通事故発生原因の大半は運転手自身の過失(ヒューマンエラー)に存することは明らかである以上、完全自動運転が実現すれば、交通事故は大幅に減少することが期待されます。

自らの法的責任が拡大するリスクを承知で自動運転の進化を追求する自動車メーカーの心意気には頭が下がるのであり、法律関係者の端くれとしても、完全自動運転の達成とこれに伴う交通事故減少を心より応援したいと感じ入るばかりです。(弁護士杉浦健二

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