人工知能(AI)、ビッグデータ法務 著作権
人工知能がコンテンツ業界に与えるインパクトを考えると冷や汗が出てくる
「人工知能が描いた絵がすごい」というツイートが話題になっています。
人工知能が写真を元に「特定の絵柄っぽく真似して描いた絵」がどれもすごすぎる。すごすぎて今後こういうイラストレーターさんの仕事が心配になるレベル。 https://t.co/AhlHtkHrbg pic.twitter.com/lWd20c3nWK
— 吉永龍樹(ヨシナガタツキ@僕秩) (@dfnt) March 14, 2016
これ、確かに凄い。
「A Neural Algorithm of Artistic Style」という論文が原理を説明してくれているようですが、数式なんかも出てきて難解そうなので、とりあえずサービスだけ利用してみました。
サービスのURLはこちら。
加工したい「写真」を1点と、「スタイル」を表す画像を1点アップロードすると、人工知能がその「写真」をその「スタイル」で加工してくれる、というサービスです。
たとえばこちら。
花を撮影した写真に、静物画のスタイルを付け加えることで、元の写真の印象は残しつつ、かなり異なるイメージの写真ができあがっています。
■ 操作方法はとても簡単
操作方法はとても簡単です。
左側の「YOUR PHOTO」のところに加工したい写真を1枚アップロードし、右側の「STYLE IMAGE」のところに、スタイルを表す画像を1点アップロードして「submit」を押すだけです。
無料でも利用できるのですが、現在はかなり申し込みが殺到しているようで、無料サービスだと申し込んでから完成まで4000分ほどかかるようです。
ただ、そこはちゃっかりしておりまして、2ユーロ支払えば15分で完成させてくれます。
私も早速利用してみましたが、衝撃の結果が出ました。。。。。。
それはまた後で紹介しますが、気になったのは、このように人工知能を用いて制作された作品の著作権はどうなるのか、ということです。
■ ある作品を元に別の作品を制作した場合の著作権
それを考える前提として、ある作品を元に別の作品が作成された場合の著作権の考え方について押さえておきましょう。
Aさんが著作物Xを制作し、次にBさんが、著作物Xを元に、自分なりの創作性のある表現を付け加えて著作物Yを作成したとします(Aさんの了解の有無はここでは問いません)。
この場合、著作物Yが著作物Xに類似している場合(表現上の本質的な特徴を感得できる場合)には、著作物Yを著作物Xの「二次的著作物」と言います。
二次的著作物となると、著作物Yを創作したBさんだけでなく、原著作物Xの著作者であるAさんも、二次的著作物についてBさんと同一の権利を持ちます(著作権法28条)。
つまり、二次的著作物Yについては、AさんとBさん両方が権利を持つ、ということになりますので、仮に誰かが二次的著作物Yを利用したい場合には、その両者の承諾を得なければならない、ということになります。
ただ、ある作品を元に別の作品を制作した場合全てが「二次的著作物」となるわけではありません。
あくまで、原著作物の「表現上の本質的な特徴を感得できる場合」だけが二次的著作物になるのであって、そうでない場合は別の著作物になります。この場合は、原著作物の著作権者は何の権利も持ちません。
まずここまで押さえておいて、次に行きましょう。
■ 人工知能が制作に関与した場合の著作権
今回のサービスは、元になる「写真」に「スタイル」を付与した新作品を人工知能が制作する、というものです。
ですのでこの場合、以下の2つのパターンがあることになります。
1 新作品が元写真の二次的著作物になる場合、つまり、新作品が元写真の「表現上の本質的な特徴を感得できる場合」
と
2 新作品が元作品と別個の著作物になる場合
です。
お待たせしました。
先ほどのサービスを実際に利用して考えてみましょう。
プロのカメラマンの方に撮影していただいた柿沼の写真を使います。
外で撮影した写真なので、適度に背景が複雑で素材として面白いのではないかと思います。
まず、この「柿沼写真」に「ムンクの叫び」テイストを付加してみました。
言うまでもなく、とても有名な絵です。
これを「スタイル」として追加すると。。。
すごい。
テイストがほぼ完璧に再現されていますね。
元写真は、昨年3月に事務所開設した際に、事務所サイト用に撮影したものですが、ムンクテイストの写真を見ると、新事務所がうまくいくとは到底思えません。
ただ、それほど元写真の構図などは崩れておらず、あくまで「テイスト」だけが「叫び」風味になった、というだけです。
ですので、先ほどの2つのパターンのうち
新作品が柿沼写真の「表現上の本質的な特徴を感得できる場合」
に該当することになります。
この場合の著作権関係はどうなるのでしょうか。
この場合、新作品を制作しているのはあくまで人工知能です。
人工知能は「人」ではありませんから、人工知能が著作者となることはありません。
では、人工知能の開発者が著作者になるのか、というとこれもちょっと疑問があります。
日本の著作権法上では著作者は「著作物を創作する者」とされているのですが、人工知能といういわば「道具」を開発する行為が「創作」とは評価されないのではないかと思うからです。
ましてや「submit」ボタンをポチッと押しただけの私は全く「創作」行為をしていませんので、当然著作者ではありません。
そうすると、結局このパターンの場合は、元写真の著作者だけが新作品について著作権を有するということになります。
▼ 別著作物の場合は?
では、人工知能が作成した新作品が、元写真とは全く別物だった場合はどうでしょうか。
テイストとして、知り合いのプロのイラストレーターの作品「花」のスタイルを付加してみましょう。
この絵です。
すてきな絵ですね。
で、これを元写真に「スタイル」として付け加えると。。。。。
我ながら(と言っても私は「submit」ボタンを押しただけですが)、想像を超える出来映えです。
メガネや目、鼻や口が違和感なく花になっていますね。弁護士バッチも新種の花みたいになっています。
背景も大胆にデフォルメして花と茎で埋め尽くされています。
ただ、まあ、人間の顔と言えなくもないので、ギリギリ
元写真の「表現上の本質的な特徴を感得できる場合」
ですかね。
ではこれは?
これは、私の知り合いの、カエルと野外フェスが好きな女性がささっと描いたカエル絵です。
・・・たぶん3分くらいで描いてますね、これ。
カエルのDJがお皿を回しています。
この絵を「スタイル」として元写真に付加したみたのがこちら。
人間ではないですね、まず。
向かって右のカエルの化け物から熱い吐息を吹きかけられてピカピカ光っている電球みたいになっています。
向かって左側には、金剛力士が踏みつけている邪鬼もいますね。
完全に元作品とは別の作品としかいいようがない。
このように、元作品と、人工知能が作った新作品が全く別物だった場合は、このような関係になります。
新作品を制作した人工知能は著作権を持ち得ないし、かつ原作品と新作品は別物だから原作品の著作者も新作品に何の権利も持てない。
とすると、結論的に、このパターンの作品は誰も著作権を持っていない、ということになりそうです。
こんなにいいカエルなのに。
この結論が意味しているのは、人工知能を用いると、既存の著作権法の解釈の下では著作者が存在しない、しかも一定レベル以上の質の著作物が大量に生み出される、ということです。
つまり、きわめて低コストで著作物を量産することが出来ることになり、これがコンテンツ業界に与えるインパクトは想像できないほど大きいと思います。
今は、人工知能による著作物の生成は写真やイラストの世界にとどまっていますが、映像や小説などのコンテンツについてもどんどん人工知能が活用されようとしています。
それは、ほとんどの人間のクリエイター(と私のような著作権関係を生業としている弁護士)が失職するという暗黒の未来につながっているのでしょうか。
考えると冷や汗が出てきます。
■ まとめ
▼ 原著作物を元に新作品を制作した場合、原作品の「表現上の本質的な特徴を感得できる場合」には、二次的著作物となり、2人の著作権者が存在することになる。
▼ 人工知能が関与して二次的著作物を制作した場合には、原著作物の著作者のみが二次的著作物に関する権利を有することになるのではないか。
▼ 人工知能が関与して原著作物とは別の著作物を制作した場合には、だれも著作権を有しない著作物が生み出されることになるが、それは既存のコンテンツ業界に大きなインパクトを与えるのではないか。
(弁護士柿沼太一)