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著作権

動物がカメラで自撮りした場合、その著作権は誰に?

柿沼太一

猿がカメラを使って素晴らしい写真を撮影した場合、その写真の著作権は猿に発生するのでしょうか?
実際に猿が撮影した写真がこちら。なんと自撮りです。

動物愛護団体のPETA訴状より

クロザル「Naruto」の自撮写真。動物愛護団体PETAの訴状より

そして、動物保護団体が、猿が撮影したこの写真の著作権者は猿であるとして写真家らを提訴したそうです。
英国写真家のDavid Slater氏がインドネシア・スラウェシ島で撮影を行っていたところ、野生のクロザルがカメラを勝手に使って自撮した写真があまりにすばらしかったため、誰に著作権があるかが話題になりました。クロザルの名前は「Naruto」。マンガの影響があるかどうかはともかく、愛嬌たっぷりのすてきな写真。話題になるのも頷けます。
ではこの写真、誰に著作権があるのでしょうか。

猿?カメラを持ってたカメラマン?

■カメラを使われたカメラマンは著作者とならない

写真の著作権については、まず、カメラマンのDavid Slater氏vs ウィキペディア間で争いになりました。
このクロザルの自撮り写真が有名になった後、この写真がWikipedia Commonsにアップロードされたのです。Wikipedia Commonsにアップされる写真は著作権フリーの作品とされています。
カメラマンのDavid氏は反論しました。「シャッターボタンを押したのは猿だが、すべてのお膳立てをしたのはわたしなのだから」(参考記事)。
このDavid氏の発言に対しては、著作権は人間しか持てないという前提のもと、アメリカの著作権庁は「人間以外の動物による作品はアメリカにおける著作権の対象とはならない」と宣言したようです。
つまりクロザルが撮影した写真の著作権は、カメラの所有者であるカメラマンには発生しないこととなりました。

■クロザルも著作者となり得ない

"Macaca nigra self-portrait full body" by Self-portrait by the depicted Macaca nigra female - Daily Mail. Licensed under パブリック・ドメイン via ウィキメディア・コモンズ - https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Macaca_nigra_self-portrait_full_body.jpg#/media/File:Macaca_nigra_self-portrait_full_body.jpg

“Macaca nigra self-portrait full body” by Self-portrait by the depicted Macaca nigra female – Daily Mail. Licensed under パブリック・ドメイン via ウィキメディア・コモンズ – https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Macaca_nigra_self-portrait_full_body.jpg#/media/File:Macaca_nigra_self-portrait_full_body.jpg

この写真もクロザル君の自撮写真です(Narutoくんのものかどうかはわかりません)。
実は、クロザル君の自撮写真の問題は、2つに分解できます。
▼問題1 人間以外の動物は、著作権の権利主体となり得るのか
▼問題2 動物が権利主体となり得た場合、著作権法上の「著作者」と言えるのか
まず日本法上、人間以外の動物は権利主体となりません。
次に著作権法上、「著作者」とは「著作物を創作する者」とされています(著作権法2条1項2号)。
人間以外の動物は権利主体となりえない以上、動物であるクロザルは著作権を持ち得ません(問題1&2)。
そしてDavid氏自身も何の「創作的活動」もしていませんから、David氏が「著作者」となることもない、ということになります。

■著作者ではないカメラマン、動物愛護団体から訴えられる

結局冒頭の自撮り写真は、撮影したクロザル君も、カメラを使われただけのカメラマンDavid氏も「著作者」とはならないという一応の決着がつきました。
クロザル君の自撮り写真は、著作権が発生しないパブリック・ドメイン(著作権フリー)として扱われることになったのです。
その後カメラマンDavid氏は、このクロザル自撮り写真を含んだ写真集を出版したようです。
自撮り写真はパブリック・ドメインに属する(著作権フリー)のだから誰でも使えるわけで、自分の写真集にこの写真を含めても問題がないと考えたのは当然ですね。
ところがこの自撮り写真について、次に問題にしたのが動物愛護団体PETAでした。
動物愛護団体PETAは「著作権者はカメラを操作したクロザルのNarutoである」として、写真家と出版社を相手に訴訟を提起した、というのが冒頭の記事だったわけです(PETA、猿が撮影した写真の著作権者は猿自身であるとして写真家らを提訴)。
日本ではこのような訴訟は門前払いされます。
動物を原告とした訴訟で日本で有名なのはアマミノクロウサギ訴訟です。この裁判は、1995年2月23日、奄美大島でのゴルフ場建設に反対する住民たちが、林地開発許可処分の取り消しなどを求めて鹿児島地裁に提訴したもので、動物たち(アマミノクロウサギ・オオトラツグミ・アマミヤマシギ・ルリカケス)を原告にしたことで非常に注目されました。
この裁判では結論としては動物に原告適格が無いということで却下されたのですが、判決文は必ずしも冷たいものではなく、むしろこのような訴訟が起こされた社会適宜について深く考察したもので、なかなか味わい深いものとなっています(判決文はこちら)。
この訴えがアメリカで認められるかどうか分かりませんが、David氏としては「ふんだりけったり」の状態です。

当初はクロザルが撮影した写真は、自分が著作者であると主張したのに認められなかった。だから写真はパブリック・ドメイン(著作権フリー)であるとして写真集を出したら、今度は動物愛護団体から訴えられるという、じゃあどうすりゃいいの状態です。

合掌。