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弁護士が教えるベンチャー必読法律講座04【ベンチャーが大企業から契約書案を提示されたときに必ずチェックすべき5つのポイント(1)】

ベンチャーを立ち上げて、ユーザー数が伸びてきたり独自技術を開発したりすると、大企業から「アライアンス組みませんか」というお声がけをもらうことがあります。それ自体はチャンスですから積極的に進めていけば良いのですが、その時必ず出てくるのが「契約書」です。
実は契約締結交渉における鉄則というのがいくつかありまして、「契約締結交渉において有利な立場を握りたければ最初の文案は自分で作って先方に提示せよ。後手に回ってはいけない。」というのも、その1つです。
ただ、大企業相手だと、まあそれは現実的には不可能でして、どうしたって「大企業が提案してきた契約書案を検討する」というパターンがベンチャーにとってはほとんどではないかと思います。
そこで、今回と次回に分けて、「大企業から提示される契約書の中で特に注意してチェックすべき5つのポイント」を解説します。

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具体的には以下のとおりです。

 ▼ 大事なものを渡していないか
▼ 損害賠償が青天井になっていないか
▼ 過度な保証を求められていないか
▼ 期間が短すぎたり長すぎたりしないか
▼ ベンチャーにとって独禁法は頼れる味方

■大事なものを渡していないか

「5つのポイント」の中で最も大事なのがこれ、「大事なものを渡していないか」です。
まず、3つの例と、それぞれの事例で大企業から提案された契約書案を紹介します。

■ 設例1

【事例】
特殊なカメラを使って材料の表面を撮影・分析することで、当該材料の良・不良を瞬時に判断できるソフトウェアを保有しているベンチャーに、大手自動車部品メーカーから声がかかった。自社工場の製造ラインに当該ソフトウェアをカスタマイズしたシステムを導入したいとのこと。
当該ベンチャーは、自動車部品の分析に自社ソフトウェアを使ったことはなく、よい結果が出るかどうかはわからない。
そこで、まずは当該ベンチャーのソフトウェアが自動車部品に適用可能かどうかについての検討を共同で行うことになった。その検討結果が良好であれば、別契約を締結した上で実際のシステム開発に進むことになる。

【大手自動車部品メーカーから提示された契約書案】
1 本契約は、ベンチャーが有する●●技術が、メーカーが製造する●●の部品の検査を行うにあたって有用な技術かどうかを検討すること(「本検討」)を目的とする。
2 メーカーがベンチャーに委託する業務は以下のとおりとする。
・ データの収集
・ 収集データを●●ソフトを利用して分析し、有効なパラメーターを抽出
・ 抽出したパラメーターを利用して解析のためのロジックを構築
3 本検討によって得られた成果(データ、パラメーター、ロジックを含む一切のノウハウ)はすべてメーカーに帰属するものとし、ベンチャーは当該成果を他の目的に一切利用してはならない。

■ 設例2

【事例】
シニア層のマーケット調査を得意としているベンチャー。ウェブを使っての大規模調査が不可能な層だけに、全国にいる協力アルバイトが、病院や施設などシニア層が集まっている場所に行ってシニア層の生の声を直接聞くのが売りになっている。当該ベンチャーに、大手介護事業者から、シニア層がどのような食事や運動を好むかについて大規模な調査を行い、その調査結果を提供して欲しいとの依頼を受けた。

【大手介護事業者から提示された契約書案】
1 介護事業者がベンチャーに委託する業務は、介護事業者から指定した項目について、指定した地域における対象層に対して調査業務(「本件調査」)を行い、当該調査結果を介護事業者に提供することとする。
2 本件調査に関する必要項目は以下のとおりとする
調査対象、調査項目、調査対象者数等・・・(以下略)
3 本件調査によって得られた調査結果及び同調査結果に関する一切の権利については、全て介護事業者に帰属するものとし、ベンチャーは当該調査結果をいかなる形でも一切利用してはならない。

■ 設例3

【事例】
様々な予約管理システムの開発・制作を得意とするベンチャーに、大手レンタカー事業者からレンタカー予約管理システム開発の依頼が入った。レンタカー事業者は本業が伸び悩んでいることもあり、開発したシステムを自社内だけではなく、他社に有償でライセンスすることも視野に入れている。

【大手レンタカー事業者から提示された契約書案】
1 大手レンタカー事業者は、ベンチャーに対して予約管理システム(「本件システム」)の開発を委託する。
2 本件システムの仕様は以下のとおりとする。
(略)
3 本件システムに関する著作権等全ての権利(ベンチャーが当該システムに組み込んだ既存モジュール等に関する権利を含む)は、委託料金の支払いと引き替えに全て大手レンタカー事業者に帰属するものとする。

■ 問題はいずれも条項3

先ほど示した3つの事例における契約書案のうち、問題なのはいずれも条項3です
つまり「ベンチャーが依頼された業務を遂行したことで出来上がった成果物について、誰がどのような権利を持つか」の問題です。
ここでいう「成果物」には様々な種類のものがあります。
事例1で言えば技術的な発明・ノウハウ、2で言えばリサーチ業務の結果得られたデータ、3で言えば、コンテンツ・ソフトウェア・システムなどの著作物など様々です。

■ 何が問題なのか

先ほどの3つの契約条項だと、ベンチャーは成果物を一切利用できず、場合によっては契約を結ぶ前よりも自社の事業に不利になってしまいます。
たとえば事例3では「(ベンチャーが当該システムに組み込んだ既存モジュール等に関する権利を含む)」とされていることから、元々ベンチャーが持っていたモジュールに関する権利まで吸い上げられてしまうことになります。
図で考えてみましょう。

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まず、これは原則的なパターンです。業務完了時に生じた成果物を全て渡して終わり、というものですね。
しかし、ベンチャーはこれで満足してはいけません。

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成果物の一部でもいいので、できる限り自分の手元に残せないかを考えるのです。そのための具体的な対案についてはあとで紹介します。

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これは、成果物を全部渡すどころか、それに加えてもともとベンチャーが持っていた権利も一部渡してしまっているパターンです。
先ほどの事例3ですね。
このような契約を結ぶことは出来るだけ避けなければなりません。下手するとこの案件以降の会社の業務に大幅な制約がかかる可能性があります。
では、ベンチャーとしては契約交渉でどのような対案をぶつければ良いのでしょうか。

■ どのような対案をぶつければよいか

▼ 事例1の場合

【大企業から提示された条項】
3 本検討によって得られた成果(データ、パラメーター、ロジックを含む一切のノウハウ)はすべてメーカーに帰属するものとし、ベンチャーは当該成果を他の目的に一切利用してはならない。

ベンチャーとしては、できれば得られたロジックやノウハウを別業界に横展開したいはずです。
そこで以下のような契約条項が対案として考えられます。

【ベンチャーが提示すべき対案】
・ 「自動車業界以外は利用可能」とできないか
・ 検討のみで終了し、その後の本開発に進まなかったときは、業界問わずロジックを利用可能とできないか
・ 一定期間経過後はベンチャーが利用可能とできないか

▼ 事例2の場合

【大企業から提示された条項】
3 本件調査によって得られた調査結果に関する一切の権利については、全て介護事業者に帰属するものとし、ベンチャーは当該調査結果をいかなる形でも一切利用してはならない。

ここでも、ベンチャーとしては当該調査結果を別目的のために利用したいはずです。
そこで以下のような契約条項が対案として考えられます。

【ベンチャーが提示すべき対案】
・ 「介護業界以外は利用可能」とできないか
・ データをより抽象化することで利用可能とできないか
・ 契約書上で提供を義務づけられるデータを絞ることで、それ以外のデータを利用可能とできないか
・ 一定期間経過後はベンチャーが利用可能とできないか

▼ 事例3の場合

 3 本件システムに関する著作権等全ての権利(ベンチャーが当該システムに組み込んだモジュール等に関する権利を含む)は委託料金の支払いと引き替えに全て大手レンタカー事業者に帰属するものとする。

ベンチャーとしてはもともと持っていた独自モジュールに関する権利まで先方に移転してしまっては非常に困ります。
そこで以下のような契約条項が対案として考えられます。

【ベンチャーが提示すべき対案】
・ 契約締結前から保有していた独自モジュールについての権利は移転させず、使用させる(ライセンスを与える)だけにする(これは必須です。もしこの条項すらも大手企業が呑まなければ契約締結は拒否すべきです)
・ できればシステム全体も権利を譲渡するのではなく、ベンチャーに権利を残したままで大企業に利用させるライセンス契約の形式にする。

■ まとめ

▼ もともと自分の持っていた権利を渡してしまう契約にならないように十分に注意する。
▼ できれば成果物の一部を自分でも利用できるように交渉してみる

残りの「損害賠償が青天井になっていないか」「過度な保証を求められていないか」「期間が短すぎたり長すぎたりしないか」「あまりにひどすぎる条件の場合は独禁法、下請法を頼ろう」については次回解説します!

弁護士柿沼太一

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