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スマホ新法で実現する「アプリ外限定コンテンツの配信」

アバター画像 杉浦健二

2025年12月18日にスマホ競争促進法(スマホ新法)1正式な法令名は「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」。近時の公取委資料では「スマホ法」との略称が用いられている。が全面施行されることによって、アプリ事業者には以下のようなポジティブな影響が生じます。

・ AppStore/GooglePlayストア以外の第三者アプリストアでアプリを配信できるようになる
・アプリ内にアプリ外決済(自社Webサイトや第三者決済プラットフォーム等での決済)へのリンクを設置できるようになる
・アプリ外の自社ウェブサイト等でもデジタルコンテンツを購入できることについて、アプリ内で表示できるようになる2以上は順に法7条1号、法8条1号、法8条2号により規定。ただし一定の正当化事由がある場合(①サイバーセキュリティの確保②利用者情報の保護③青少年保護④その他政令で定める目的(異常動作の防止、犯罪行為の防止)のために必要な行為を行う場合であって、かつ、他の行為によって目的達成が困難である場合)、指定事業者は例外的にこれらの行為をさせないことが許される(法7条但書、法8条但書)。

本稿では、アプリ事業者にとってビジネスチャンスの拡大につながると思われる「アプリ内で配信していない限定コンテンツを、アプリ外で配信できるようになる」点について解説します。

スマホ新法の概要については、以下の過去記事もご参照ください。
スマホソフトウェア競争促進法によって、アプリ事業者が受けるポジティブな影響
スマホ競争促進法とは?アプリ提供者への影響を弁護士が解説(BUSINESS LAWYERS)

現在は許されていない、アプリ外限定コンテンツの配信

2025年11月13日時点のApple App Reviewガイドライン(日本国内向け)では、アプリ内で配信していないデジタルコンテンツ(アプリ内で使用できるコインやアイテム等)を、アプリ外で配信することが禁止されています(アプリ外限定コンテンツの配信禁止)。
すなわち、GooglePlayストアで配信しているアプリや、アプリ事業者(デベロッパ)のWebサイトで、AppStoreのアプリ内で利用できるデジタルコンテンツを配信することは許可されていますが、「アプリ内のアプリ内課金アイテムとしても購入可能であること」つまりAppStoreのアプリ内でも購入できるデジタルコンテンツであることが条件とされています。

App Reviewガイドライン
3.1.3(b)マルチプラットフォームサービス:複数のプラットフォームで動作するアプリでは、マルチプラットフォームのゲームにおける消耗アイテムなどを含め、別のプラットフォーム上のアプリやデベロッパのWebサイトでユーザーが入手したコンテンツ、サブスクリプション、機能へのアクセスを許可することが可能です。ただし、そうしたアイテムは、アプリ内のアプリ内課金アイテムとしても購入可能でなければなりません。
App Reviewガイドライン・2025年11月13日最終確認

このようにApp Storeにおいては、アプリ内で販売していないデジタルコンテンツを、アプリ外でのみ配信すること(限定コンテンツのアプリ外販売)は許されていない状況でした。

スマホ新法によってアプリ外限定コンテンツの配信が可能となる見込み

スマホ新法は、アプリ事業者がアプリ内で利用できるデジタルコンテンツを、アプリ外のウェブページや他のアプリ(以上をあわせて「関連ウェブページ等」と呼びます)で配信している場合において、指定事業者(Apple/Google)が、アプリ事業者に対して
・関連ウェブページ等で配信するデジタルコンテンツの情報がアプリ内で表示されないようにすることをデベロッパー向け規約等における条件とすること(法8条2号イ)
・アプリユーザーに対して、関連ウェブページ等によってデジタルコンテンツを配信することを妨げること(法8条2号ロ)
をそれぞれ禁止しました。
つまり、
・アプリ事業者は、アプリ内で使えるデジタルコンテンツについて、アプリ外のウェブページや他のアプリ(関連ウェブページ等)で配信している旨の情報(外部誘導情報)や、関連ウェブページ等に遷移するリンク(リンクアウト)を、当該アプリ内で表示できるようになる
・当該アプリ内で表示できるようになる外部誘導情報は、デジタルコンテンツの価格、値引額、値引率を含むセール又は特典情報等が含まれる(指針P56・想定例81)
・これらの規律は、アプリ内で配信するデジタルコンテンツと同一のコンテンツを、アプリ外のウェブページや他のアプリ(関連ウェブページ等)で配信する場合のみならず、アプリ内では配信していないデジタルコンテンツを、関連ウェブページで限定配信する場合についても及ぶ(令3条)
こととなります。

スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律
第八条 指定事業者(アプリストアに係る指定を受けたものに限る。)は、その指定に係るアプリストアに関し、個別アプリ事業者に対し、次に掲げる行為を行ってはならない。ただし、第一号から第三号までに掲げる行為(同号の個別ソフトウェアがブラウザである場合を除く。)にあっては、当該アプリストアが組み込まれたスマートフォンについて、サイバーセキュリティの確保等のために必要な行為を行う場合であって、他の行為によってその目的を達成することが困難であるときは、この限りでない。
一(略)
二 当該個別アプリ事業者がその提供する個別ソフトウェア(以下この号において「本個別ソフトウェア」という。)を通じて商品又は役務を提供し、これと同一の商品又は役務をウェブページ又は本個別ソフトウェア以外の個別ソフトウェア(以下この号において「関連ウェブページ等」という。)を通じて提供する場合(これに準ずるものとして政令で定める場合を含む。)において、次に掲げる行為を行うこと。
イ 関連ウェブページ等を通じて提供する商品又は役務の価格その他の情報について、本個別ソフトウェアの作動中に表示されないようにすることを当該アプリストアを通じて本個別ソフトウェアを提供する際の条件とすること(本個別ソフトウェアを経由して関連ウェブページ等を閲覧できる機能として公正取引委員会規則で定めるものの利用を拒み、又は制限する条件を付することを含む。)。
ロ イに掲げるもののほか、本個別ソフトウェアを利用するスマートフォンの利用者に対して関連ウェブページ等を通じて商品又は役務を提供することを妨げること。

スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律施行令
第三条 法第八条第二号の政令で定める場合は、個別アプリ事業者が本個別ソフトウェア(同号に規定する本個別ソフトウェアをいう。以下この条及び第十条第一項第一号イにおいて同じ。)を通じて提供していない商品又は役務であって本個別ソフトウェアで利用されるものを関連ウェブページ等(法第八条第二号に規定する関連ウェブページ等をいう。同項第一号イにおいて同じ。)を通じて提供する場合とする。

オフライン経由での限定配信も可能となる

上記の法8条2号は、あくまで関連ウェブページ等(アプリ外のウェブページや他のアプリ)を通したデジタルコンテンツの配信に関する規律ですので、関連ウェブページ等以外の配信ルート、すなわち書籍や玩具のおまけ、オフラインキャンペーンを経由したデジタルコンテンツの配信については射程が及びません。
しかし、アプリ事業者に対する不公正な取扱いの禁止について定めるスマホ新法6条に関する公取委指針では、以下の通り記載されています。

アプリストアに係る指定事業者による「その他の不公正な取扱い」に該当する行為の
想定例として、以下の行為が挙げられる。
○ アプリストアに係る指定事業者が、当該アプリストアの利用のための審査等にお
いて、個別ソフトウェアのアプリ内課金に関し、特段の事情がないにもかかわらず、
①当該アプリストアでの販売価格が代替アプリストア又はウェブサイトでの販売価
格より高くならないこと、②当該アプリストアでの販売価格が当該指定事業者の基
本動作ソフトウェアを搭載した端末以外の端末(例えば、PC やタブレット)で提供
れる当該アプリストアでの販売価格より高くならないこと、③個別アプリ事業者
が費用を投じて行ったオフラインでのプロモーション(書籍や玩具に掲載されたバ
ーコード又はイベントや映画の来場者特典としてのシリアルコード経由での限定ア
イテム配布)により配布された、個別ソフトウェア内で利用するためのアイテム等の
デジタルコンテンツについて、同一のデジタルコンテンツが当該個別ソフトウェア
内で販売されていない限り、当該デジタルコンテンツが利用できないようにするこ
とを求める条件を設けること。【想定例 17】
公取委「スマホソフトウェア競争促進法に関する指針」(令和7年8月20日)P18

以上のとおり、オフラインでのプロモーション、書籍や玩具に掲載されたバーコード又はイベントや映画の来場者特典としてのシリアルコード経由での限定デジタルコンテンツ配信について、指定事業者が妨げた場合、指定事業者はスマホ新法6条違反となる可能性があることが指針において明確に規定されました3なお法6条違反は、法7条各号及び法8条1号2号と異なり、課徴金納付命令の対象とはなっていない。

スマホ新法施行後における、アプリ外コンテンツ配信に関する整理

以上をまとめると以下の通りとなります。

現状(スマホ新法施行前の2025.11.14時点)

他のプラットフォーム(GooglePlayストア)のアプリや自社ウェブサイトで、アプリ内と同一コンテンツを配信すること 規約上○
App Reviewガイドライン3.1.3(b)
オフライン経由でアプリ内と同一コンテンツを配信すること 規約上×の可能性
App Reviewガイドライン3.1.1, 3.1.3
他のプラットフォーム(GooglePlayストア)のアプリや自社ウェブサイトで、アプリ内で配信していない限定コンテンツを配信すること 規約上×
App Reviewガイドライン3.1.3(b)
オフライン経由で、アプリ内で配信していない限定コンテンツを配信すること 規約上×の可能性
App Reviewガイドライン3.1.1, 3.1.3
アプリ内で、他のプラットフォーム(GooglePlayストア)のアプリや自社ウェブサイトでのコンテンツ配信に関する情報(外部誘導情報)を表示すること 規約上×の可能性
App Reviewガイドライン3.1.1(a)
アプリ内で、オフライン経由でのコンテンツ配信に関する情報(外部誘導情報)を表示すること 規約上×の可能性
App Reviewガイドライン3.1.1(a)

 

スマホ新法の施行後

関連ウェブページ等(ウェブページや別のアプリ)で、アプリ内と同一コンテンツを配信すること 規約上○が維持される見込み
(認めないと法8条2号ロ違反となる可能性)
オフライン経由でアプリ内と同一コンテンツを配信すること 規約上原則○となる見込み
(認めないと法6条違反となる可能性)
関連ウェブページ等で、アプリ内で配信していない限定コンテンツを配信すること 規約上原則○となる見込み
(認めないと法8条2号ロ違反となる可能性)
オフライン経由で、アプリ内で配信していない限定コンテンツを配信すること 規約上原則○となる見込み
(認めないと法6条違反となる可能性)
アプリ内で、関連ウェブページ等でのコンテンツ配信に関する外部誘導情報を表示すること 規約上原則○となる見込み
(認めないと法8条2号イ違反となる可能性)
アプリ内で、オフライン経由でのコンテンツ配信に関する外部誘導情報をアプリ内で表示すること 公取委指針では明らかでないが、認めないと法6条違反の疑いが生じる可能性

 

以上のとおり、スマホ新法の施行によって、ウェブページや別のアプリ(関連ウェブページ等)に加えて、オフライン経由での限定デジタルコンテンツの配信が可能になる見込みです。
アプリ事業者にとってスマホ新法の施行はビジネスの契機となりうるため、ぜひ内容を押さえておいていただければと存じます。(弁護士杉浦健二

  • 1
    正式な法令名は「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」。近時の公取委資料では「スマホ法」との略称が用いられている。
  • 2
    以上は順に法7条1号、法8条1号、法8条2号により規定。ただし一定の正当化事由がある場合(①サイバーセキュリティの確保②利用者情報の保護③青少年保護④その他政令で定める目的(異常動作の防止、犯罪行為の防止)のために必要な行為を行う場合であって、かつ、他の行為によって目的達成が困難である場合)、指定事業者は例外的にこれらの行為をさせないことが許される(法7条但書、法8条但書)。
  • 3
    なお法6条違反は、法7条各号及び法8条1号2号と異なり、課徴金納付命令の対象とはなっていない。

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