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ファーストサーバ社のレンタルサーバ「Zenlogic」で大規模障害。利用者は返金や損害賠償を請求できるのか

杉浦健二

ファーストサーバ社が提供するレンタルサーバーサービス「Zenlogic」で、6月19日より本日現在まで、断続的に障害が発生しています。

https://zenlogic.jp/news/status/syogai/

Zenlogicホスティング契約をしている一部の利用者は、7月6日現在、
・メールの送受信
・ホームページの閲覧(グループウェア含む)
・サーバーへのファイル転送
・コントロールパネル操作
が断続的に利用できない状態とのこと。

ファーストサーバ社が運営するサービスでは、2012年にもユーザのデータを消失するという大規模障害が発生しています。
ファーストサーバ障害、深刻化する大規模「データ消失」

今回のような大規模障害が発生した場合、利用者は損害賠償や返金を請求できるのでしょうか。

まずはZenlogicの利用規約を確認する

サービス提供者と利用者との間の契約内容は、利用規約に定められています。
今回はZenlogicサービス関連約款のうち、大規模障害が発生しているホスティングサービスの利用規約であるZenlogicホスティング利用契約約款を確認します。

https://zenlogic.jp/pdf/yakkan/zen_host.pdf

サービス品質について定めるSLA(サービスレベルアグリーメント)

SLA(サービスレベルアグリーメント)とは、サービス提供者と利用者間におけるサービス品質に関する合意を指します。たとえば、サービスの月間使用可能時間割合が99.95%を下回った場合、利用料金の10%が返金される、というように定められていたりします。今回のようなサーバサービスのほか、ウイルス対策サービスやネットワークサービス等、ずっと稼働してないと困る性質のサービスについては、サービス提供者からの品質に関する約束としてSLAが定められている場合が多いです。

https://zenlogic.jp/pdf/yakkan/zen_host.pdf

それではZenlogicホスティングサービスのSLAはどのように定められているでしょうか。利用規約の第34条にSLAに関する内容が記載されています。

Zenlogicホスティング利用契約約款
第34条(返金)
1.次の表の各号のいずれかに該当する場合、当社は既に支払われている利用料金のうち、それぞれに定める金額を返金するものとします。
【返金が生じる場合】
(1)SLA(Service Level Agreement)
次に定める方法によりお客様ごとに算出した基本サービスの月間稼働率が99.5%を下回る場合
月間稼働率=月間総稼働時間-月間サービス停止時間)÷月間総稼働時間×100
※例:1か月の日数が30日の場合、月間サービス停止時間は3時間36分を超える場合となります。
【返金額】
稼働停止当月における基本サービス月次料金×30%

なお第34条2項では、本サービス用設備のメンテナンスを行う場合・天災地変等不可抗力により本サービスを提供できない場合等は例外的に返金に応じないとしていますが、今回のケースではこの例外既定の適用はされないものと考えられます。

(7月8日追記)「本サービス用設備のメンテナンスを行う場合」(第15条1項1号)、SLAに基づく返金規定は適用されないとの記載(34条2項1号)ですが、今回のような数日間にわたる大規模メンテナンスを想定した規定ではないでしょうし、本件が実質的にこの例外条項にあたるケースかというと大いに疑問があります。実際に返金に応じない対応をすれば炎上必至でしょうし、経営判断としてもそのような対応はしない可能性が高いのではないかと思われます。

以上より、Zenlogicホスティングサービスの利用者は、まずは上記SLA(Zenlogicホスティング利用契約約款第34条)に基づいて、稼働停止当月における基本サービス月次料金×30%の返金請求を行うことが考えられます。

利用者はサーバ停止により生じた損害賠償の請求をできるのか

ホスティングサービスの大規模障害により、メールの送受信やホームページの閲覧ができなくなれば、SLA適用による30%返金では賄えない損害が発生する場合が少なくありません。とりわけウェブサイトで商品サービスを販売するECサイトの場合、自分の店舗を強制的に閉鎖されたようなもので、ときにその損害は甚大なものとなります。利用者はサービス提供者に対して、損害賠償を請求できるでしょうか。

Zenlogicホスティングサービスにおいて、サービス提供者であるファーストサーバ社が損害賠償責任を負う場合については、利用契約約款の第35条に定められています。

https://zenlogic.jp/pdf/yakkan/zen_host.pdf

Zenlogicホスティング利用契約約款
第35条(免責)
3.当社はお客様に対し、債務不履行責任、不法行為責任、その他法律上の請求原因の種別を問わず、当社の故意または重過失による場合にのみ損害賠償責任を負うものとします。
4.利用契約に関して当社がお客様に負う損害賠償責任の範囲は、直接の原因によりお客様に現に発生した通常の損害に限るものとし、予見またはその可能性の有無にかかわらず特別事情による損害については責任を負わないものとします。
5.利用契約に関する損害賠償額は、当該損害の原因となる事由が生じた月を含めた過去12か月間を最大期間とし、当該期間における本サービスの利用料金として現に当社に支払った額を上限とします。

要は
・当社は、当社の故意または重過失による場合のみ損害賠償責任を負います
・サーバ障害を直接の原因として利用者に生じた損害に限るものとし、特別事情による損害については責任を負いません
・損害賠償額は、利用者がこれまでに支払った利用料金額を上限とします(ただし最大過去12か月分)
と定められています。

このように、サービス提供者が負う責任の範囲を絞る規程を免責規定といいます。免責規定がなければ法律(民法)がそのまま適用され、
・故意または過失による場合は損害賠償責任を負う →軽過失があった場合も責任を負う
・特別事情による損害も、当事者がその事情を予見し又は予見することができたときは、責任を負う(民法416条2項)
・債務不履行と相当因果関係のあるすべての損害について損害賠償責任を負う →最大過去12か月間の利用料金に限られない
ことになります。免責規定を定めることで、サービス提供者は一定の範囲で自身の負う責任の範囲を軽減できるのです。

サービス提供者の責任を軽減する免責規定は常に有効になるのか

まず、いかなる場合であっても一切責任を負わないとする規定(完全免責規定)は無効とされています(民法90条)。
また消費者契約法に反する場合(BtoC取引において、サービス提供者に故意または重過失がある場合に、損害賠償額を一部制限するような規定)も無効となります。

Zenlogicホスティングサービスは、BtoB取引を想定しているものと考えられます。
BtoB取引の場合において、サービス提供者に故意または重過失がある場合に、損害賠償額を一部制限する規定が有効かどうかは裁判例が分かれています(たとえば東京地裁平成26年1月23日判決は、重過失がある場合には責任は限定されないとしています)。

Zenlogicホスティングサービスの免責規定は、ファーストサーバ社に故意または重過失による場合のみ、利用者がこれまでに支払った利用料金額(ただし最大過去12か月分)を上限として損害賠償請求に応じると定めており、このような規定の有効性についてはまさに裁判例が分かれていますが、実際にこのような定めがなされている利用規約は少なくありません。

Zenlogicの大規模障害で損害を被った利用者が選択できる手段(まとめ)

以上より、今回のZenlogicホスティングサービスで発生した大規模障害で損害を被った利用者としては
・SLAに従って稼働停止当月における基本サービス月次料金×30%の返金請求を行う
・自社が被った損害賠償請求を行う。ただしファーストサーバ社に故意または重過失がある場合に限られ、かつ上限額は利用者がこれまでに支払った利用料金額(最大過去12か月分)となる(※)
(※)損害賠償額が支払った利用料金額の範囲に限られるかどうかは裁判で争う余地がなくはない
ということになります。
サービス提供者にとっては、あらためて免責規定を定めておく重要性が浮き彫りになった事例であり、利用者にとってはサービス導入にあたって事前にSLAや免責規定を確認しておくことが肝要であるといえます。(弁護士杉浦健二

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