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弁護士が教えるベンチャー必読法律講座03【ベンチャーを法人化するときに創業者が必ず知っておきたい2つのこと】

ベンチャーであればいずれ法人化するタイミングは来るもの。
1人で創業していれば創業者が100パーセント株式を持てば良いのですが、複数のコアメンバーで創業していた場合、どのような形で法人を作ればよいのでしょうか。
ここでは「ベンチャーを法人化するときに創業者が必ず知っておきたい2つのこと」を紹介します。


■よくあるトラブル

まず、よくあるトラブルを紹介します。

 あなたは、最初からチームを組んでサービスを伸ばしてきた天才肌のエンジニアである杉山君と一緒に、株式会社BENという法人を設立することになった。
お互いお金もなかったので、50万円ずつ出資し合い合計100万円の資本金で事業をスタートさせた。事業は急成長してユーザーも順調に増えていった。
さあこれから、というときに突然杉山君が「Googleにヘッドハンティングされたので、もうここにはいられない」と言い出した。
引き留めるのも聞かず杉山君がそのまま出て行ってしまって2年、BENのユーザー数はさらに伸び、複数のVCから投資をさせて欲しいという話が持ち込まれるようになった。
さらなる成長のために、あらたに大型の資金調達をしようと思い、杉山君に連絡を取ったところ、なんとGoogleではなくBENの競合他社のエンジニアに就職していた。そんな杉山君がライバルであるBENの資金調達に賛成してくれるわけがない。
さらに、抜けてしまった杉山君が未だに50パーセントもの株式を持っていることに対して従業員から多くの不満が出ている。株を買い戻したいが、今ではかなりの高値になっているため資金も足りないし、なにより杉山君が買い戻しに応じるのを拒否している。
このままでは、資金調達できず会社全体の士気も大きく低下してしまう。

杉山君ひどい。信じてたのに。
しかし、このようなことは実際によくあることです。
実は、あなたがたった2つのことを知っておけば、このようなトラブルを避けられたはずです。
それは
▼ できれば3分の2、最低でも51パーセント以上の株式を持っていないと、思うような会社運営ができないこと。
▼ 複数の創業者間では、将来的な株の強制買戻についての契約(創業者間契約)を締結しておくべきであること。

です。

■ 「株式を持つ」ということの意味

株式を持つということは、その法人の一部分を持っているということです。
たとえば100株の株式を発行している法人について、ある株主が40株を持っていれば、その株主は法人の5分の2を持っているということになります。
もっとも、「法人の一部分を持っている」と言っても法人は目に見える存在ではないので、具体的なイメージがわかないかもしれません。
「法人の一部を持っている」というのは、具体的にいうと「配当やキャピタルゲインを得ることが出来る」と「法人の運営を持分割合に応じてコントロールすることが出来る」の2つのことです。
前者はお金の問題、後者は会社のコントロールの問題と言い換えてもいいでしょう。
そして、ベンチャーの場合配当は通常行わないので、「キャピタルゲインを得ることが出来る」と「法人の運営を持分割合に応じてコントロールすることが出来る」の2つが「株式を持つ」ことの意味となります。

キャプチャ72

このうち「キャピタルゲインを得ることが出来る」というのはお金の話ですから、株主同士の意見が対立するということは基本的にはありません。「持分に応じてお金を貰える」というだけです。
むしろ、会社の事業を売却しようというときに「売却するべきかどうか」という意思決定をする際に株主同士の意見が対立するのであって、その際に「法人の運営を持分割合に応じてコントロールすることが出来る」という株主の権利がクローズアップされてくるのです。

■ 株式を何%持っていれば何が出来るのか?

このように、「法人の運営を持分割合に応じてコントロールすることが出来る」が株主の権利としては重要なのですが、では株式を何%持っていれば何が出来るのでしょうか。イメージ的には「過半数を握っていれば会社を思い通りに出来る」というものかもしれませんが、実際にはもう少し複雑です。
覚えておいて欲しい数字は「3分の2以上」「2分の1超」「3分の1超」の3つです。

スライド15

まず、総株式の3分の2を持っていれば、基本的に何でも1人で決めることが出来ます。資金調達、合併、会社分割、事業譲渡など会社の運命に関わるようなことも、全て1人で決定できるのです。
次に総株式の2分の1超を持っていれば、会社の運営にとって重要な事項を1人で決めることが出来ます。たとえば、役員の選任・解任などです。しかし、逆に言えば2分の1超を持っていても3分の2未満しかなければ、資金調達や合併などの意思決定は1人では出来ない、ということに気をつけてください。
そして最後に、3分の1超を持っていれば合併、会社分割、事業譲渡などについて、「拒否権」を持つことが出来ます。ある株主が3分の1超を保有しているということは、3分の2以上を単独で持っている株主がいないということになるからです。
ですので、冒頭のケースでは、あなたが3分の2以上の株式を持っていれば、あなただけの判断で資金調達できたということになります(もちろん、杉山君のような大株主がいる会社にVCが投資するかは別問題ですが)。

■ 創業者間契約

複数の創業者が法人を設立するときにもう1つ知っておいて欲しいことは「複数の創業者間では、将来的な株の強制買戻についての契約(創業者間契約)を締結しておくべきであること」です。
冒頭のケースのように、創業者の1人が途中で辞めてしまうということは避けられないことです。もちろん、杉山君の場合のように「信じてたのに。」と言いたくなるケースだけではなく、介護や病気などやむを得ない理由によるケースもあるでしょう。
いずれにしても、そのように創業者(株主)のうち1人が辞めてしまった場合、その創業者が持っている株式を強制的に買い取れるようにしておかないと、冒頭のケースのようなことが起こり、最悪会社が潰れかねません。
そこで、「複数の創業者間では、将来的な株の強制買戻についての契約を締結しておく」契約(創業者間契約)を締結しておく必要があるのです。
トラブルが生じてからでは当然そのような契約は締結できませんから、必ず法人設立時に契約を締結しましょう。

■ 創業者間契約のポイント

創業者間契約書の雛形については「創業者間契約」を参照していただきたいのですが、キモとなるのは「何株を」「いくらで」強制的に買い取ることが出来るようにしておくかです。

▼ 強制的に買い取れる株式数

まず「何株を」という部分ですが、雛形では以下の3つの場合に分けて、それぞれ買い取れる株式数を変えています。

(1) 退任等にやむを得ない理由があると取締役会が認めた場合
(2) 退任株主が本会社の競合会社を設立したり、本会社の競合会社に出資したり、本会社の競合会社に就職したり、本会社の競合会社との重要な取引を行う場合
(3) (1)及び(2)以外の場合

まず(1)は、病気や家族の介護など本当にやむを得ない理由があると会社の取締役会で認められた場合です。
次に(2)は、今回の杉山君のようなケース、要するに「会社を裏切った場合」です。
そして、(3)は(1)と(2)以外の場合ですね。

当然のことながら、会社が買い取れる株式数は多い順に
(2)>(3)>(1)
ということになります。
それぞれの場合に何株を強制的に買い取れるかは雛形を見ていただきたいのですが、文字にすると少しわかりにくいかもしれないので、図で書いてみます。

まず「(1) 退任等にやむを得ない理由があると取締役会が認めた場合」。
青い部分が、強制的に買い取れる部分、赤い部分が退任株主の手元に残る部分です。

スライド16

強制的に買い取れるのは最大でも90%、その後少しずつ減っていって最終的には80%を買い取ることができることになります。
退任にやむを得ない理由がある場合ですので、退任株主も4年経過後であれば20パーセントは手元に残せることになります。

次に「(2) 退任株主が本会社の競合会社を設立したり、本会社の競合会社に出資したり、本会社の競合会社に就職したり、本会社の競合会社との重要な取引を行う場合」。
これは背信行為があった場合ですので、保有する株式の全てを強制的に買い取ることが出来るようにしてあります。
図も簡単。

スライド17

最後に「(3) (1)及び(2)以外の場合」。
これは、経過年数にかかわらず90パーセントを強制的に買い取れるようにしてあります。

スライド18

▼ いくらで

次に「いくらで」強制的に買い取れるかですが、雛形では「退任株主による本件株式の1株あたりの取得の金額(以下「取得単価」という)と同額、または残存株主が定める取得単価以上の価額とする。」としてあります。
たとえば、設立当初に退任株主が1株5万円で株式を取得していた場合には、5万円以上の金額で強制買取できるということです。
ここで「取得単価と同額または残存株主が定める取得単価以上の価額」としているのには意味があります。
買取価格は低ければ低いほどいいのでは?と思うかもしれませんが、実は「実際には高い価値を有する株式を、非常に低い価額で買い取る」と高額の税金が発生します。たとえば、設立当初は1株あたり5万円だった株式の価値が、買取時には5000万円になっていた、なんてことはベンチャーであれば十分にありえます。
この場合「5000万円の株式を5万円で取得する」ことを行った場合、税金(贈与税や所得税)が退任株主や買取人に発生します。
なので、雛形では「取得単価と同額または残存株主が定める取得単価以上の価額」としているのです。

■ まとめ

▼ 株式を持つということは「配当やキャピタルゲインを得ることが出来る」と「法人の運営を持分割合に応じてコントロールすることが出来る」という2つを意味する。
▼ 保有株式割合については、3分の2以上、2分の1超、3分の1超でそれぞれ出来ることが違うことを知っておく。
▼ 複数の創業者の間では、将来的な株の強制買戻についての契約(創業者間契約)を必ず締結しておく。

弁護士柿沼太一

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