利用規約
決済代行サービスWebPay終了から学ぶWEBサービスの正しい畳み方
簡単にシステムに組み込めて高いセキュリティを持つことから人気のあった決済代行サービスWebPayが2017年04月30日をもってサービスを終了するとのことです。
【参考】
「WebPay」サービスの終了について
「WebPayを組み込んだサービスを受託開発して納品直前なのに。。。」「すでにWebPayを組み込んだECサービスを提供しているが決済代行会社の変更に費用がかかる。。」などの悲鳴が聞こえてきそうです。
今回はWebPayのサービス終了を題材に
1 サービス終了という修羅場の局面では利用規約がとても大事
2 ただ、利用規約があればいいってんもんじゃない、WebPayの誠実な対応こそ見習うべき
3 受託開発や自社サービスに外部サービスを組み込む場合にやっておいた方が良いこと
を解説します。
Contents
■ WebPayとは
WebPayという会社は決済代行サービスを提供しているのですが、そもそも決済代行サービスとは何かを知らない方もいると思うので、そこから解説します。
商品代金や利用代金などをクレジットカードで支払えるWEBサービスは多数ありますが、事業者がユーザーにクレジットカードを利用して貰う場合、原則として事業者が「加盟店」として各クレジットカード会社と直接加盟店契約を結ぶ必要があります。
ただ、直接加盟店契約を結ぶとなると、5大カードブランドの導入には5社それぞれの審査を受けて契約する必要がある、各カード会社に対応した決済システムの開発が複雑になる、決済方法ごとにバラバラの入金となるなどのデメリットがあります。
また、加盟店が顧客からクレジットカード番号を受領してしまうと漏洩や不正使用のリスクがあります。
そのようなデメリットを解消するのが決済代行会社です。
事業者と各カード会社の間に入って、各カード会社との取引を代行してくれますので、先ほどの個別契約のデメリットが解消されます。
WebPayはそのような決済代行会社の1つですが、数行のコードを書くだけでシステムに実装できる簡便さと高いセキュリティで人気があるサービスでした。
■ サービス終了の場合に法律的に問題となることは?
サービス終了の場合に法律的に問題となることは
▼ そもそもWEBサービスって事業者の都合で一方的に終了させられるものなのか
▼ ユーザーから中途解約に伴う損害賠償請求がされないのか
の2点です。
ただ、利用規約がきちんと整備されていれば法的に大きな問題を引き起こすことなくサービスを終了させることは可能です。
WebPayの利用規約はよくできていますので、その点を学ぶ格好の題材なのです。
■ そもそもWEBサービスって事業者の都合で一方的に終了させられるものなのか
で、今回はこのような人気サービスだったWebPayが終了するというアナウンスが突然なされた訳ですが、そもそもWEBサービスって事業者の都合で一方的に終了させられるものなのでしょうか。
WebPayとWebPayサービスの利用者(加盟店)とはサービスの利用契約を締結していますので、これは「一方当事者の意思だけで契約を解約できるか」という問題と言い換えることが出来ます。
とすると当然、契約内容がどのようなものかが問題となりますが、WEBサービスではユーザーと事業者の間の契約は「利用規約」という形で締結されます。
WebPayも当然利用規約があります。
具体的に見ていきましょう。
利用規約38条にはこのように規定されています。
第38条 (解約)
1 加盟店契約の有効期間は、締結の日から、加盟店が書面により2ヶ月以上の予告期間をもって加盟店契約の解約を申し出て、その手続が完了する日までとします。
2 当社が、書面により2ヶ月以上の予告期間をもって、加盟店に通知することによって、加盟店契約は、解約できるものとします。
3 略
1は、加盟店側からの中途解約についての条項、2はWebPay側からの中途解約についての条項です。2ヶ月以上の予告期間をもって通知することで中途解約可能となっていますね。
このように中途解約の条項が設けられていれば、事業者側からの一方的な中途解約も当然可能です。
このような中途解約条項がある以上、当然今回のようにWebPay側からのサービス提供終了を行うことは可能、ということになります。
逆に言えば、利用規約で、このような中途解約条項が定められていない場合は事業者側から一方的にサービスを終了させることは原則として出来ないことになります。
永久に続くサービスはあり得ませんので、事業者による中途解約条項は必ず利用規約の中に入れておくようにしましょう。
現在、WEBサービスを提供している方は自社の利用規約を今一度確認してください!
■ ユーザーから中途解約に伴う損害賠償請求がされないのか
WebPay側がサービスを一方的に終了できることはわかった、しかし、それによって損害を被ったユーザーから損害賠償請求がなされないのでしょうか。
たとえば、「WebPayを組み込んだサービスを受託開発して納品直前だったので、これからシステムを変更するとなると納品が遅れ追加作業も発生してしまう」「すでにWebPayを組み込んだEサイトを運営しているが、決済代行会社を変更するのに手間や費用がかかる」場合などです。
結論は、「今回のケースでWebPayに対してユーザー(加盟店)は損害賠償請求できない。WebPayの利用規約がきちんと整備されているから。」です。
▼ 故意・過失がない
まず、債務不履行や不法行為に基づいて損害賠償請求をする場合には、相手方に故意・過失がなければなりません。
たとえば、古い事件になりますが、2012年に発生したファーストサーバ事件というのをご存じの方もいると思います。
【参考】
前代未聞のデータ消失事故の真実を追うデータ消失!あのとき、ファーストサーバになにが起こったか?
これは2012年に、大手レンタルサーバー会社のファーストサーバが大規模な顧客データの消失事故を引き起こしたという事件です。この事件でデータの消失の原因は人為的なミスでしたので、当然事業者に「過失」が存在します。
これが損害賠償が可能な典型的なケースです。
一方、WebPayは「サービスを中途解約した」というだけですので、故意も過失もありません。中途解約条項がないのに強引にサービスを終了させたというのであれば過失ありと判断される可能性もありますが、先ほども書いたように利用規約には中途解約条項(38条2項)が明記されています。
ですので、本件ではそもそもWebPayに故意過失がなく、損害賠償請求はできないということになるのではないかと思います。
▼ 保証もしていない
「でも、決済代行サービスのようなサービスは一度システムに組み込んだらずっと使い続けられるものだからサービスを永続的に提供することが前提じゃないの?」と思った方は鋭い。
確かにそれは一理あります。
しかし、WebPayの利用規約にはその疑問に対する答えも書いてあります。
第36条 (免責および非保証)
1 略
2 当社は、本サービス及びソフトウェアについて、以下の各号に定める内容を保証するものではありません。
a 本サービスが中断、中止、廃止されることがないこと
b 以下略
これは非保証条項というもので、「こういうことは約束できませんよ」ということを定めているものです。「これはやりますよ」と約束するのが保証ですから、その逆ということですね。
この非保証条項により、「サービスを永続的に提供することも保証していないので、それを理由とする損害賠償請求をすることも出来ない」ということになります。
▼ 損害賠償額の上限規定もある
このように、中途解約規定+非保証規定により損害賠償請求が出来る可能性はほぼ0なのですが、それでも何かの理由で損害賠償が可能になったとしましょう。
しかし、そのような場合でも、損害全額が賠償請求できるわけではありません。
利用規約にこの条項があるからです。
第37条 (損害賠償)
会員が本サービスの利用にあたり、当社の責めに帰すべき事由により損害を被った場合には、本規約に基づき当社が免責される場合を除き、当社は、直接の結果として現実に被った通常の損害に限り、賠償責任を負うものとします。但し、当社の賠償責任は、損害賠償の事由が発生した時点から遡って過去3ヶ月間に当社が会員から現実に受領した本サービス利用料金の総額を上限とします。
「過去3ヶ月間に当社が会員から現実に受領した本サービス利用料金の総額」が損害賠償額の上限とされています。
これは損害賠償額の上限規定ですね。
利用規約においては、非常に重要な規定です。もしこのような規定が自社の利用規約になければすぐに修正するようにしてください。
■ まとめ
このように、WebPayの利用規約はよくできており、中途解約条項+非保証+損害賠償額の上限規定のフルコンボにより、中途解約に伴う法的なトラブルはほとんど発生しないでしょう。
サービス終了という修羅場の局面では利用規約がとても大事ということをよくわかって頂けると思います。
なので
利用規約は超重要!作成のご依頼はSTORIA事務所まで!連絡先はこちら!
いや。。。。実はこれは今回の記事の主題ではありません。
私がもっと大事だと思うのは
サービスの終了時のWebPayの振る舞いには学ぶべきことが沢山ある。利用規約が整備されていればいいっていうもんじゃない。
ということです。
利用規約をきちんと整備するというのももちろん重要ですが「法的に問題なければ社会的にも批判を受けない」訳ではありません。
法的に損害賠償請求を受ける可能性がないケースでも、ユーザーに大きな不満が残った場合、様々バッシングなどを受ける可能性があります。
今回のケースは、WebPayはそのあたりをよく理解し、非常に誠実な対応をしているように感じます。
▼ サービス終了までの猶予期間が6ヶ月も設定されている
利用規約上は2ヶ月前までに通知すれば中途解約可能となっていますが、実際には「2016年11月1日にサービス終了通知をし、2017年4月30日APIの提供停止」ということですので、終了まで6ヶ月間もの期間が設定されています。
おそらくサービス終了の影響の大きさを考えて猶予期間を長めに設定したのでしょう。
▼ FAQ及びサービス移行のサポート
また WebPay Service Closing FAQというページが設置されています。
【参考】
WebPay Service Closing FAQ
さらに、他決済代行業者へカード番号の移管や、他決済代行業者の紹介などのサポートもきちんと行っているようです。
【参考】
Webpayサービス終了…ショ、あれ?定期課金も移行できそう
また、同じ決済代行事業者であるPAY.JP は、WebPay と連携して移行をサポートしていくそうです。
【参考】
WebPay サービス終了にあたっての PAY.JP への移行方法
▼ まとめ
決済周りというユーザー(加盟店)に与える影響が大きい事業領域であること、上場会社であるLINEの子会社であることも影響しているとは思いますが、サービス終了というシビアな状況でのこのような誠実な対応は、他の会社も非常に見習うべき点だと思います。
ま、今回の記事を書くためにWebPay関係のネット記事を何本か読み、代表の久保さんのファンになってしまったのでひいき目に見ているのかもしれませんが。…
このインタビューなんか最高ですよ。
【参考】
「大切な数年間をつぎ込んでも価値がある仕事を」WebPay・久保渓の「輝ける働き方」
■ もう1つ教訓
また、今回の件から学べるもう1つの教訓があります。
それは「システム開発において外部サービスを組み込む場合にやっておいた方が良いこと」です。
受託開発するサービスにおいても、自社サービスにおいても、WebPayのような外部サービスを組み込むことはよくあることです。
大事なのは「外部サービスの途中終了・仕様変更は十分にありえる」ことを念頭に契約書の条項などを工夫することです。
▼ 受託開発するサービスに外部サービスを組み込む場合
外部サービスの途中終了・仕様変更が発生した場合、納期に遅れたり十分な性能が発揮できずに発注者との間でトラブルが発生する可能性があります。
そのようなトラブルを避けるためには、発注者との間の契約書に、そのリスクを回避できるような条項を入れておくこと。
具体的には、
・ 完成したシステムに外部サービスを利用していること
・ 当該外部サービスの仕様変更/終了による納期遅れやバグには責任を負えないし、工数が増加した場合には追加費用が必要であること
を明記するとよいでしょう。
▼ 自社サービスに外部サービスを組み込む場合
また、自社サービスに外部サービスを組み込む場合、外部サービスの途中終了・仕様変更が発生すると自社サービスが利用できなくなり、自社サービスのユーザーとの間でトラブルが生じる可能性があります。
そこで、その点に関するリスクも回避する必要があります。
これも、ユーザーとの間の利用規約において以下のような条項を定めておくべきです。
・ 外部サービスの途中終了・仕様変更により、場合によってはサービスが提供できなくなる可能性があること
・ サービス提供は保証できないこと(非保証条項)。
・ 損害賠償額の上限規定
■ まとめ
今回のまとめです。
1 サービス終了という修羅場の局面では利用規約がとても大事
利用規約がきちんと整備されていないと大変なことになります。修羅場こそ利用規約の出番です。
2 ただ、利用規約があればいいってんもんじゃない、WebPayの誠実な対応こそ見習うべき
これが一番言いたかった。
3 システム開発において外部サービスを組み込む場合にやっておいた方が良いこと
「受託開発するサービスに外部サービスを組み込む場合」「自社サービスに外部サービスを組み込む場合」いずれもリスクを回避するために、契約書や利用規約上の条項をきちんと整備しておく必要があります。
(弁護士柿沼太一)