インターネット 著作権
WantedlyのIPO批判記事削除にみる、DMCA申請を行うタイミング
求人情報サービスWantedlyの運営会社であるウォンテッドリー株式会社に関して批判的な内容を記載したブログが、Wantedly社の請求によりGoogleの検索結果から削除されました。
Wantedly社の削除請求は、同社代表取締役である仲暁子さんの顔写真を無断使用されたことを理由とするもので、米デジタルミレニアム著作権法(DMCA)に基づくものでした。
DMCAに基づく削除申請とは何か、そしてあえて削除申請を行うべきでないタイミングについて考察します。
Contents
■代表者の顔写真無断掲載を理由とする削除請求だった
Wantedly社の請求によりGoogle検索結果から削除されたのはWantedly(ウォンテッドリー)のIPOがいろいろ凄いので考察」というブログ。
同ブログはWantedly社の新規株式公開(IPO)に関して、同社株式を仲暁子さんが7割弱保有しており従業員にストックオプションを与えていないこと等について批評を加える内容で、当初は仲暁子さんの顔写真も掲載していました(現在は削除)。
Wantedly社は、著作権侵害を理由としてGoogleやTwitterに削除申請を行ったことを同社サイトで公表しています。
■DMCAに基づく削除請求とは
Wantedly社が米デジタルミレニアム著作権法(DMCA)に基づいて削除請求を行ったことは、Googleの検索結果からわかります。
今回問題となったブログ記事名「Wantedly(ウォンテッドリー)のIPOがいろいろ凄いので考察」でGoogle検索すると、8月26日現在、以下の検索結果が表示されます。
赤囲み部分より、米デジタルミレニアム著作権法(DMCA)に基づいた削除申請がなされたことが分かります。
実際の申請内容もリンク先のLumenDatabase.orgから確認できます。
英語で書かれている削除申請理由を要約すると以下のとおり。
このURLの画像は、Wantedly社の同僚が撮影した仲暁子さんの写真であり著作権は当社に帰属します。当該ブログはこの写真を当社の許可なく使用しており、仲暁子さんの肖像権も侵害していますので、適切な処置をとって下さい。
The image found in the URL below (a woman) is our colleague Akiko Naka, which is taken by our colleague at the company, so the copyright belongs to the company. It was originally taken to provide to online medias, as well as headshot for conference pages. Reported blog have used the image without our permission. It also violates Akiko’s portrait right. Kindly take appropriate action.
https://www.lumendatabase.org/notices/14881282
Googleがこの削除申請に応じた結果、当該ブログは現在、Googleの検索結果から見ることができない状態です。
■画像の無断使用が認められる基準(著作権法第32条)
当該ブログのサーバが日本にあれば、日本の著作権法が適用されます。
画像の無断使用が認められるのは、著作権法第32条の引用要件を満たす場合です。
引用要件をシンプルに言うと以下のとおり。
裁判例等を踏まえた著作権法第32条の引用要件
1 本文と引用部分が明瞭に区分されている
2 本文(自分の記事)がメインで、引用部分がサブ(主従関係)
3 引用の必然性がある
4 改変しない
5 出典を明記する
この引用要件を満たせば、画像を無断使用しても適法となります(引用要件満たしても承諾は取るべきと言われたりしますが、それはあくまでマナーの問題であって著作権法とは別の話。勘違いされているケースも多い)。
今回のケースでは引用の必然性があるといえるかが問題になりそうです。記事はWantedly社のIPOに関するものであり、代表の仲暁子さんの顔写真を引用する必然性があったとまでは言えないかもしれません。となると引用要件は満たさず、写真の無断使用は著作権法違反となる可能性が一応は残りそうです(福井健策弁護士もこちらの記事で同様の見解を述べておられます)。
■世間からDMCA申請の濫用と誤解されないために
一部ニュースサイトでは、今回のWantedly社の削除申請は、形式的にはDMCAに基づくものの実質的には同社IPO批判記事の削除を狙ったものではないかとの考察も見られますが、真相は定かではありません。
Wantedly社はさておくとしても、著作権侵害を理由とするDMCA申請に紐づけて、真の目的は自社に不利な記事がGoogleの検索結果に表示されないようにするいわばDMCA申請の濫用ケースが散見されるようです。
(参考リンク:フリー素材に権利を主張するDMCA申請が悪評隠しに悪用されたと思われる事例)
しかし、画像無断使用などを理由としてGoogleからの削除に成功しても、当該ブログ記事自体を削除できる訳ではなく、当該ブログ記事を紹介する他サイトには何ら影響がありません(当ブログもそのひとつ)。
その結果残るのは、自社に批判的なブログ記事が話題になっているタイミングであえて著作権侵害を理由としてDMCA申請をしたという事実、当該ブログがGoogleの検索結果から削除された事実、これらの事実を受けての社会的批判による自社評判の低下のみではないでしょうか。
とすれば、仮に自社に批判的な記事を発見し、その記事内の画像無断使用に著作権法上問題があったとしても、社会の耳目を集めるタイミングにおいて当該批判記事を狙い撃ちするかのようなDMCA申請は控える、という判断の方が合理的と言えるのかもしれません。
一方でブログを書く側としては、DMCA申請によるGoogleからの削除を食らう可能性を減らすためにも、他サイトの画像や文章を使用する際には著作権法第32条の引用要件を満たしているかを事前に十分にチェックしておくことが肝要といえます。(弁護士杉浦健二)