弁護士が教えるベンチャー必読法律講座01【チーム立ち上げ時にメンバー間で必ず握っておくべきこと】
ベンチャー立ち上げの際、1人で始める人もいるでしょうが、複数のメンバーでチームを組んで始める方が成功確率が高まるというのが一般的な考えです。
優秀で熱意あるメンバーを創業者が巻き込めなければ、そもそもユーザーをサービスに巻き込むことも不可能だろ?ということなのでしょう。
ただ、そのようなメンバーを集めれば必ず成功するというわけではもちろんありません。
今回は、チーム立ち上げの際にメンバーの間で必ず約束しておいた方が良いことについて解説をします。
これから複数のメンバーでチームを立ち上げようという人には是非読んで欲しい記事です。
Contents
■ ベンチャーでよくあるトラブル
まず、「ベンチャーあるあるトラブル」の中から3個紹介します(ちなみに、「ベンチャーあるあるトラブル」は、あと1000個ぐらいあります)。
▼ コアメンバーの1人だったエンジニアが他のメンバーと揉めてチームから離脱、その後「自分が作ったアプリだから使わないでくれ。使うんだったらお金を支払ってくれ」と言ってきた。
▼ 事業がきわめて順調に進み、かなりの利益が貯まってきたため、コアメンバーの1人が「モチベーションをあげるため利益をメンバーで分配しよう」と言いだしたが、あなたはさらなる成長のために利益分配はしたくない。
▼ 大学生同士で結成したチームの中の1人が就職を機に離脱、その際に「自分はここで抜けるから、これまでの活動で貯まったもののうち、自分の貢献分について精算してくれ」と言ってきた。
これは、いずれも私たちの事務所が相談を受けた実例です。
皆さんも、似たようなトラブルについて周りの方から聞いたことがあるかもしれませんね。
■ このもめ事の原因はどこにあるのか?
では、このようなトラブルの原因はどこにあるのでしょうか。
それを考えるためには、事業というものの構造から考える必要があります。
事業というものを非常におおざっぱに捉えると、さまざまなリソース(お金や構成員の労力、時間、アイデア、個々人のアイデアなど)を投入し、事業活動をして、その結果アウトプット(利益、各種資産、知的財産など)を産出する仕組と考えることが出来ます。
こんな感じですね。
より具体的に書くとこんなイメージです。
で、先ほどのトラブルは、いずれもここでいう「アウトプット」が誰のものなのかが問題になっているわけです。
個人事業主が1人で事業をしていれば、あるいは法人として事業をしていれば、どのようなリソースが投入されようが(外部投資家から投資を受けようが、借金をしようが)、アウトプットは当該個人事業主、あるいは法人だけに帰属します。
しかし、複数のメンバーでチームを組んで事業をしている場合は、アウトプットが誰にどのように帰属しているかが曖昧になります。
それがトラブルの原因です。
したがって、この手のトラブルを避けるためには、あらかじめコアメンバー間で、あるいは新メンバーが加入する際に「アウトプットの帰属に関する約束」をしておくしかないのです。
■ トラブルを避けるためにメンバー間で具体的にどのような約束をしておくべきか
では、トラブルを避けるためにメンバー間で具体的にどのような約束をしておくべきなのでしょうか。
ここでのポイントは2つあります。
1つは、メンバーの立場によって内容を変えることです。
チームメンバーと言っても、ボランティアなど外部協力者やコアメンバー、あるいは外注先など、関係は様々です。それらのメンバーや協力者との間でまったく同じ内容の約束をすることは出来ないし、すべきではありません。
もう1つのポイントは、アウトプットを、「アプリ・デザインなどの著作物」と、「その他の財産(お金や負債)」に分けることです。この2つは重要性やその性格がかなり異なるためです。
以下では
■ ボランティアなど外部協力者との間で約束すべきこと
■ コアメンバー間で約束すべきこと
■ 外注先との間で約束すべきこと
に分けて考えましょう。
■ ボランティアなど外部協力者との間で約束すべきこと
リーダー、エンジニア、営業のコアメンバー3名で構成されるチームに、一部の業務をボランティアで担当してくれる協力者がいるとします。たとえば、アイコンのデザインや簡単名紹介記事作成などの業務を協力して貰うという場合です。
ボランティアだけに、がっつり協力してくれるというよりは、単純業務を一部担ってくれるというイメージです。
(1) 活動の結果生まれたアプリ・デザインなどに関する権利について
まず、ボランティアといえど,その方がなにかのデザインをしたり、アプリの一部のコードを書いたりした場合、それらのデザインやコードは当該ボランティアに著作権が帰属する著作物ということになります。
したがって、当該著作物の帰属についてきちんと定めておかないと後々トラブルになる可能性が高いため、たとえ無償で手伝ってくれるボランティアの方との間でもその点に関する簡単な合意書は結んでおくべきでしょう。
(2) 活動の結果生まれたその他の財産(お金や負債)について
一方、活動の結果生まれたその他の財産(お金や負債)については、そもそもボランティアの活動のおかげで利益や資産が生まれるということは通常はありえないため、詳細に定めなくても特に問題は無いでしょう。
(3) ボランティアなど外部協力者との間で締結すべき覚書の雛形
ボランティアなど外部協力者との間で締結すべき覚書の雛形を「ベンチャーが外部協力者(ボランティア)との間で締結する覚書」として紹介しているので、参考にしてください。
気軽にサインして貰いやすくするためにごくシンプルな形式にしています。
なお、この覚書(に限らず、当事務所のサイトで紹介している雛形)はあくまで試案ですので、利用することによって何らかのトラブルが生じたとしても責任は負えません。あくまで自己責任でご利用くださいね。
■ コアメンバー間で約束すべきこと
リーダー、エンジニア、営業の3名のコアメンバーで構成されているチームです。全員がフルタイムでコミットしています。法人化の予定はまだありませんが、この3人で新規事業を立ち上げるべく、猛烈に働こうとしています。
(1) 活動の結果生まれたアプリ・デザインなどに関する権利について
まず、このようにコアメンバーのみで構成されている場合、先ほどのボランティアとの間の覚書のように「著作物が生じた時点で全てリーダーに無償で帰属する」という条項ではリーダー以外のメンバーが納得しないでしょう。
ではどうするか。
実は、チームが一体となって存続している間は、著作物の帰属を明確にする必要はそれほどありません。全員「すべての著作物はチームに帰属している」と意識しているからです。
問題は、何か問題があってチームからメンバーが抜けるときです。
その際に「このデザイン・アプリ・プログラムは誰のものか」という問題がシビアにクローズアップされてくるのです。
であれば、チーム立ち上げ時にメンバー間で「万が一メンバーが抜けるときには、当該メンバーが創作した著作物については、リーダーに無償・あるいは一定の対価と引き替えにすべて帰属する」という約束をしておけば良いのです。
「著作物が生じた時点」で権利が動くのではなく「メンバーが抜ける時点」で権利が移転するとするのがポイントです。
このような条項にすれば、全メンバーの同意も得られやすいと思います。
別の記事で紹介しますが、複数のメンバーで株式会社を立ち上げる場合、創業者間契約を締結することがあります。この創業者間契約というのは、簡単にいうと「複数の出資者(創業者)のうち一部が離脱した場合、当該離脱者が保有している株式を残存している創業者が強制的に買い取る」というものです。
「万が一メンバーが抜けるときには、当該メンバーが創作した著作物については、リーダーに無償・あるいは一定の対価と引き替えにすべて帰属する」というのは、創業者間契約と同じ発想です。
(2) 活動の結果生まれたその他の財産(お金や負債)について
活動の結果生まれたその他の財産(お金や負債)については、プラスもマイナスも全てリーダー帰属とするか、それぞれ一定割合で分配・負担する約束をしておけばトラブルは生じにくいと思います。
(3)コアメンバー間で締結すべき覚書の雛形
以上を踏まえた、コアメンバー間で締結すべき覚書の雛形を「ベンチャー立ち上げ時にコアメンバー間で締結する覚書」として紹介しているので、参考にしてください。
■ 外注先との間
一部の業務について、チーム外の専門業者と契約結んでお金を支払って外注するパターンです。
チーム内にエンジニアがいない場合には、アプリやシステム制作を外部業者に外注せざるを得ませんがそのようなパターンです。
この場合は、これまでの2つのパターンと違い、お金を支払ってモノを作って貰うという関係にあるので、当然のことながら、成果物に関する権利がどちらにどのように帰属するかを含めて、きちんと契約書を締結しなければなりません。
外注先との間で締結する契約書の雛形については、また別の機会に紹介します。
■ まとめ
▼ 個人同士のチームで起業した後のもめ事は結構多い。
▼ そのようなトラブルを防ぐためには、アウトプットに関する約束をしておくとよい。
▼ 具体的には、メンバーの関係性ごとに、アプリ・デザインなどの著作物とその他の財産の帰属についての約束をすべき。雛形も参照のこと。