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葉石かおりさんの日本酒本パクリ炎上騒動は単純な著作権問題とは少し違う

アバター画像 柿沼太一

「うまい日本酒の選び方」という書籍の著者である葉石かおり氏が、「著書をパクられた」とTwitterブログで激怒されています。

葉石氏の「うまい日本酒の選び方」とは、アマゾンの書籍紹介によると以下の内容のようです。なかなか魅力的です。 写真も豊富に掲載されているようですね。

(前略) 「日本酒って、よくわからない」 そんな日本酒ビギナーにもってこいの一冊。難しいかつ複雑だとされる日本酒の造り方を、全撮り下ろしで精米から搾りまでを網羅。 「わかりにくい」とされる生もと、山廃も一目でわかるようイラストで紹介するなど、まさに“日本酒の教科書”と言える一冊です。 また著者独自の視点で、お酒を「美」、「爽」、「濃」、「デ」(デザート酒)、「燗」の5つに分類。そのお酒が一番おいしい温度帯、合わせたい料理も紹介。日本酒ライフがますます楽しくなる一冊です。 お酒の神様の総本山・松尾大社(京都)で行われる、最も愛された日本酒を決定する「酒‐1グランプリ」公式本!

うまい日本酒の選び方/葉石かおり氏著

■一体何が起きたのか?

いろいろな情報を総合すると以下の流れのようです(直接確認したわけではないので事実誤認があるかもしれません。その場合はご指摘ください)。
1 葉石氏がエイ出版社との間で出版契約を締結した上で、同社から「うまい日本酒の選び方」(定価:1404円)を2015年3月に出版(葉石氏のブログには「契約書まで交わしているのに、何の連絡もありませんでした。」とあるので、契約書は交わしていたものと思われます)。
2 エイ出版社が「うまい日本酒の選び方」を元に、語尾などをわずかに変えて葉石氏に無断でムック「日本酒入門」(定価:500円)の出版を企画。
3 セブンイレブン限定にて2015年10月27日から同ムックの販売を開始しようとし、前日に出版社が葉石氏に連絡。
4 葉石氏は販売の中止等を求めたが、かなわず。
5 ネットで炎上しかけたため、エイ出版社が同ムックの出版中止を決定(ソース)。
「著作権紛争勃発・即収束」と言ったところでしょうか。

■出版社の倫理的には完全にアウト

先ほどの事実関係を前提とすると、要するに出版社が著者の了解を得ずに、元の書籍のわずか7ヶ月後に、元の書籍を少し改変しただけのムックを、元の書籍の約3分の1の値段で販売しようとしたようです。
葉石氏の怒りももっとも。出版社の倫理、というか仁義としては完全にアウトです。
いかに自社で出版している書籍であろうと、異なる形態で出版する場合に、著者の意向を確認しないで勝手に行うことは通常あり得ません。
しかも元書籍のわずか7ヶ月後、内容ほとんど同じ、値段3分の1というのですから、元書籍を買った人にも、元書籍の制作に協力した人にも失礼でしょう。

■法律的にもアウトなのか?

倫理的にはアウトだとしても、法律的にはどうなのでしょうか。
葉石氏が、著作権侵害などを理由に、エイ出版に出版の差止や損害賠償を求めて提訴した場合、勝訴することができるのかという問題です。
ネットでは「元の書籍の語尾を少し変えているから著作者人格権(同一性保持権)違反」というものも見られますが、なら全く一緒なら著作権侵害ではないのかというと、そういう問題でもありません。
これは「葉石氏とエイ出版社との間の出版契約においてどのような定めがなされていたか」に尽きます。
出版業界の友人に聞くと、出版業界では出版契約書を作成することはほとんどないようです。ただ今回のケースでは、先ほど書いたようにどうやら契約書は交わされていた様子。
社団法人日本書籍出版協会による契約書(出版権設定契約書ヒナ型1(紙媒体・電子出版一括設定用)というものがあります。

まず出版契約(出版権設定契約も)とは、対象をタイトル(題号といいます)で特定した上で、作者(著作者)が著作物についての出版権を出版社に与えるものです。作者は特定された以外の著作物について、出版社に何らかの権利を与えるものではありません。
今回の出版契約の場合、「うまい日本酒の選び方」という題号で対象著作物が特定されているでしょうから、出版形態も題号も異なるムックである「日本酒入門」を出版する権利は、出版社であるエイ出版に無いのではないかと思われます。

さらに先ほどの契約書ヒナ形には、以下のような条項が入っています。

第7条(著作者人格権の尊重)
乙は、本著作物の内容・表現または書名・題号等に変更を加える必要が生じた場合には、あらかじめ著作者の承諾を得なければならない。
第11条(改訂版・増補版等の発行)
本著作物の改訂または増補等を行う場合は、甲乙協議のうえ決定する。

もし今回の契約書もこのヒナ型を使っていたのであれば「著者の了解なく出版社が異なる形態での出版を行うことができる」というような特約がない限り(こんな特約は考えにくいですが)、エイ出版の行為は著作権侵害ということになります。
よって今回のエイ出版の行為は、出版社としての倫理のみならず法律上もアウトの可能性が高いと思います。
だからこそ早期の回収に動いたものと思われます。