コンテンツ利用許諾契約書
あるコンテンツ(たとえば小説)を元にドラマ化、映画化、商品化などの展開をしていく場合、当然コンテンツの利用に関する契約を締結することになります。
あるコンテンツを、一定条件の下で利用することを許諾する契約ですので「コンテンツ利用許諾契約」「ライセンス契約」などのタイトルがつけられることが多いです。
ここでは、コンテンツ利用許諾契約のうち、ある小説を映像化する場合のシンプルな原作利用許諾契約書のひな型を紹介します。
作成に関するご相談は当事務所までお問い合わせください。
【注意事項】
・ 自己又は自社内でのビジネスのための利用は問題ありませんが、それ以外の態様(セミナーでの利用や第三者への頒布等)での利用を禁止します。
・ 契約書雛型についてSTORIAはいかなる保証もおこなわず、雛型の利用に関し一切の責任を負いません。
・ 雛型に関する著作権その他の一切の権利はSTORIAに帰属しており、雛型の利用の許諾はかかる権利の移転を意味するものではありません。
原作利用許諾契約書
______を甲、_____を乙とし、甲乙間において、甲の著作物「●●」の原作利用に関し,以下のとおり契約する。
Contents
第1条 (定義)
本契約書において以下の語句は,以下の意味を有するものとする。
(1) 「本著作物」とは,甲の著作物である「●●」(タイトル名,キャラクターの名称,性格,ストーリー,プロット等を含む)をいう。
(2) 「本作品」とは,本著作物を原作として乙が制作するショートフィルム10話をいう。
第2条 映像化権等
1 甲は,乙に対し,本契約期間中,本契約に基づき,本著作物を原作として本作品を独占的に制作することを許諾する。
2 甲は,乙に対し,本契約期間中,前項に基づき制作した本作品を,独占的に下記の媒体で自ら又は第三者に許諾して利用することを許諾する。
(1) 本作品をインターネットを利用して配信すること
(2) 本作品を,市販用としてビデオカセット,ビデオディスク,DVD,ブルーレイディスク及びその他のデジタル媒体並びにその他将来開発される全てのオーディオ・ビジュアル媒体に複製し,頒布すること。
ここでは,本作品を乙がどのような態様で利用できるかを定めています。
まず1項では「ショートフィルムの制作」を定め,2項では,1項に基づき制作したショートフィルムについてどのような媒体で利用することが出来るかを定めています。
2項では,「独占的か非独占的か」「乙だけが配信等できるのか,乙がさらに第三者に許諾することが出来るのか」についても定めてあります。
また,媒体としては「その他将来開発される全てのオーディオ・ビジュアル媒体」という文言が入っているのも重要な点ですね。
将来的に,インターネットや衛星放送,ケーブルチャンネルに代わる新たなメディアが出現しないとも限りません。また,DVDやBDについても新たな記録媒体が開発される可能性もあります。
したがって,契約書においてはそれらメディアについて「将来開発されるもの一切を含む」という規定を設けておく必要があるでしょう。そうしないと,後々トラブルが生じる可能性があります。
ライセンス契約の解釈が問題となった事案ではありませんが,参考になる事例として「怪傑ライオン丸事件」(東京高裁平成15年8月7日)という事件があります。
この事件は,テレビ用特撮映画『電人ザボーガー』第1話~第52話」、「『風雲ライオン丸』第1話~第54話」及び「『怪傑ライオン丸』第1話~第25話」についての譲渡契約の解釈が問題となった事案です。
この事案の契約書では
「乙は甲に対し、作品の著作権のうち、下記の権利を本書の日付をもって譲渡する。
「作品の日本国内全域における放送権」・・・」
と記載されていました。
この「放送権」の中に,有線放送権及び衛星放送権が含まれるか,ということが問題となったのです。
裁判所は,譲渡対象の認定は厳格に行う必要がある,として結論的にはどちらも含まれないと判断しました。
まず,この契約が締結されたのは昭和53年でした。その時点での著作権法には「放送」と「有線放送」が別個に定義されていましたので,「有線放送」の記載が契約書に無い以上,それは譲渡対象から除外されていると考えるべきだとしました。
また,我が国で衛星放送が開始されたのは平成元年6月であって,契約締結当時には衛星放送技術試験の実験が開始されたばかりであるから,「衛星放送」は「放送権」に含まれない,としました。
すなわち
・ 契約書に入れようと思えば入れられた権利(この事件では「有線放送権」)や
・ 契約締結時点において想定されていなかった権利(この事件では「衛星放送権」)については,譲渡対象外だ,としたのです。
ですので、ライセンス契約の対象メディアについては、この条項例のように「将来開発されるもの一切を含む」と定めておくのが無難でしょう。
第3条 著作権使用料の支払い
1 乙は,甲に対し,第2条に基づく本著作物の利用対価として,以下の方法により算出した著作権使用料を支払うものとする。
(1) 乙自ら許諾された権利を行使する場合
本著作物に関する乙の総売上金額から,販売経費(総売上金額の %相当額)を差し引いた金額の %相当
(2) 乙が許諾された権利を第三者に対し再許諾する場合
再許諾をしたことにより乙が第三者から得た金額の %相当額
2 前項の著作権使用料の支払いは,6ヶ月に1回とし,乙は,本契約締結後各6ヶ月経過月の末日までに発生した著作権使用料を,翌月20日までに甲指定の口座に振り込み送金する方法で支払う(振込手数料は乙の負担とする。)
著作権使用料について定めた条項です。
使用料の決め方は千差万別ですが,だいたい
ア 売上基準
イ 利益基準
のどちらかにすることが多いです。
いずれの場合でも,ライセンシーの売上や利益を明らかにしてもらわないと使用料の算定が出来ないので,売上や利益に関する報告書やその裏付けとなる原資料を,定期的にライセンサーに提出することを義務づけるのが通常です。
また,イの利益基準の場合,売上から経費として何を控除するか,という点についても明確に定めておかないと,トラブルの原因となります。
明確に費目を特定できない場合は,「売上の●●%を販売経費として控除する」という決め方をする事もあります。
第4条 報告書の提出
乙は,甲が指定する形式にしたがって,各6ヶ月における本作品の売上高並びに第三者からのライセンス料等の詳細等,乙への著作権使用料算出の根拠を証明する計算報告書を甲に提出するものとする。
著作権使用料の算定基礎となる報告書の提出義務を定める条項です。
場合によっては,このような条項に加えて,甲の立ち入り調査権や,乙の帳簿(報告書の基礎となる資料ですね)提出義務を明記することもあります。
第5条 関係者の権利処理
本作品の制作に参加したスタッフに関しては,その権利処理を含めて乙が全てを行い,甲に一切迷惑をかけないものとする。
作品制作には,乙の社内スタッフ以外に外注のスタッフが加わることがあります。
そのような場合,外注スタッフに独自の著作権が発生することがありますが,そのような著作権についても,きちんと乙側において権利処理(具体的には,乙が当該著作権を譲り受ける旨外部スタッフと合意する,ということです)をする義務がありますよ,という条項です。
第6条 保証
甲は,本著作物の著作権を有しており,本著作物の利用が第三者の著作権,知的財産権その他の権利(以下「著作権等」という)を侵害しないことを乙に保証するものとする。
利用許諾を受けた作品が実は盗作だった、ということはあり得ないことではありません。
それを知らずに利用許諾を受け,当該著作物を利用しはじめたところ,「著作権侵害だ」としてクレームを受けるというケースはよくあります。
私が関与したケースでも,ある地方公共団体がイラスト制作会社のイラストを無断利用して観光用の資料等を制作・配布していたというケースがありました。私がイラスト制作会社の代理人として警告書を発したところ,当該地方公共団体は,ある旅行代理店に資料作成を委託し,当該旅行代理店はさらに下請業者に資料作成を委託していた,ということがわかりました。
もともとは,無断利用していた下請業者が一番悪いのですが,この場合でも,資料を複製して納品したあ旅行代理店や,資料を複製してHPに公開したり各所に配布した地方公共団体が著作権侵害の責任を問われることになります。
それを完全に防ぐ方法はなかなか難しいのですが,制作者に「第三者の著作権等の権利を侵害しないことを保証する」旨契約書で明確にして貰うのが一つの方法です。また,同じく,第三者からクレームがあったときの処理責任や費用負担についても,制作者負担としておくことが実務では多いです。
ちなみに,先ほどの地方公共団体の事件,地方公共団体ではなく,旅行代理店が全面的に責任を認めて賠償金を支払いましたが,地方公共団体と旅行代理店との契約書にこのような条項があったのでしょうね。
第7条 本作品の著作権
1 甲及び乙は,乙が本作品の著作権(著作権法27条及び28条に定める権利を含む)を保有することを確認する。
2 乙は,完成した本作品の著作権を第三者に譲渡することが出来る。この場合,乙は,本契約に定める,甲に対する著作権使用料の支払義務を,著作権を譲り受けた第三者に承継せしめるものとする。
本作品は本著作物をもとに乙が制作したものですから,乙が著作権を有するのは当然のことです。1項はそれを確認した条項です。
もっとも,甲は本作品の原作者ですから,本作品について乙と同一の権利を持つことになります(著作権法28条)。
したがって,本作品を利用する際には,甲乙双方の許諾が必要となりますし,仮に本作品の著作権侵害が発生した場合には,甲乙双方が独自に侵害訴訟を提起することが出来ます。
2項においては,本作品の著作権を乙が自由に譲渡することが出来る,としています。
これは必ずこうしなければならない,というものではなく,「譲渡について甲の許諾を要する」という条項にすることも出来ます。
なお,このように乙が第三者に本作品の著作権を譲渡した場合,甲が乙に対して有している著作権使用料請求権が当然に第三者に移転するものではありません。
「著作権使用料請求権」は著作権そのものでは無く,甲乙間の契約に基づいて発生した債権ですから,その権利(義務)について,当該第三者の承諾を得て引き継がせることが必要なのです。
そのことを定めたのが2項の「この場合・・」以下の条項です。
第8条 有効期間
本契約の有効期間は締結日より本作品の著作権の存続期間が経過するまでとする。
第9条 解除
甲は、乙が次の各号の一つに該当したときは、本契約の全部又は一部を解除することができる。
(1) 乙の責に帰する事由(乙の資産信用が著しく低下した場合も含む)により,納期までに乙がこの契約の全部又は一部を履行する見込みがないとき
(2) 乙が本契約上の義務に違反したとき
(3) 乙の資産信用が著しく低下したとき
(4) 乙が差押、仮差押又は仮処分を受けたとき
(5) 乙の振出、裏書、保証にかかる手形又は小切手が不渡になったとき
(6) 乙につき、破産、民事再生、特別清算、会社更生手続開始のいずれかの申立があったとき
第10条 秘密保持
甲及び乙は、本契約に関連して知り得た他の当事者の技術上・経営上の一切の秘密を、他の当事者の書面による承諾がない限り、第三者に漏洩又は開示してはならない。
第11条 その他
本契約について定めのない事項及び甲乙間に紛争又は疑義が生じた事項については,その都度甲乙協議して定めるものとする。
第12条 裁判管轄
甲及び乙は、本契約に関して紛争が生じた場合には、被告の本店所在地を管轄する裁判所を第1審の専属合意管轄裁判所とすることを合意する。
本契約の成立を証するため、本書2通を作成し、甲乙それぞれ各1通を保管する。
平成●●年●●月●●日
(甲)所在地 ●●
社名 株式会社A
代表者 甲野乙男
(乙)所在地
社名 B株式会社
代表者 丁原一夫