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映像を無断使用した出版社に対して裁判を起こし勝訴的和解を得た例

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STORIAの弁護士による解決事例。映像制作会社から依頼を受け、映像を無断使用した出版社に対して裁判を起こしました。

■映像制作会社からの相談内容

ある映像制作会社(A映像)が公益法人(B法人)から、著名な学者の講演会の撮影依頼を受けました。B法人によると、撮影した映像はB法人の下部組織の会員に配布するということでした。撮影後、A映像は映像を編集した上でマスターテープをB法人に渡しました。
その後、学者が逝去。するとB法人が、学者の逝去をきっかけとして、ある出版社(C出版)を通じて映像を一般販売するという話が出ます。A映像とB法人、C出版の間で、具体的な販売方法について契約締結交渉が行われました。
しかし。ある日突然、「学者の講演録全12巻をC出版が販売する」という新聞広告が掲載されました。寝耳に水のA映像は、当事務所に相談に来られました。

■本件のポイント

1 講演映像の著作権者は誰か?
2 A映像がB法人にマスターテープを渡したことで、A映像はB法人に著作権を譲渡したといえるか?

1 B法人とC出版、どちらに請求するべき?

現実にDVDを市販しているのはC出版です。なのでB法人はC出版との間で、A映像に無断で、講演録の使用許諾契約を結んでいると思われました。
B法人とC出版の双方を相手方とすることも検討しましたが、実際に損害賠償請求をするならば、DVDの販売で現実に利益を得ているC出版を相手にすることとなります。そこで本件ではC出版のみを相手方としました。

2 交渉ではらちがあかない!

当事務所の弁護士は、早速C出版に対してDVD販売の差し止めと損害賠償を求めて内容証明郵便を送付しました。
これに対してC出版からは「学者のご遺族の承諾をとっているから問題ない」「映像はB法人がお金を出しているのだからB法人に著作権が帰属する」と回答しました。
しかし、本件では「講演」そのものではなく、「講演を撮影した映像」の著作権が問題となっていますので、「学者のご遺族の承諾をとっているから問題ない」というのは成り立ちません。学者のご遺族が持っているのはあくまで「講演」の著作権であり、「講演を撮影した映像」の著作権ではないからです。
また「お金を出しているから著作権者である」というのも一般的には成り立たない話です。
本件の場合「講演映像」という「映画の著作物」ですから、講演映像の著作権者は「映画製作者」(著作権法2条1項10号)です。この「映画製作者」とは「自らの計算で映像の制作を行い,発注者に対して,本件映像の完成について責任を負っている者」を言いますので、本件ではまさにA映像ということになります。
そこで講演映像の著作権者はA映像であると丁寧に反論をしたのですが、C出版の弁護士にはどうしても理解して貰えませんでした。P1150422

3 交渉は決裂、裁判を起こすことに

そこでA映像とも相談し、やむをえず裁判を起こすこととしました。
正直なところ、裁判というのは極力起こしたくないものです。
日本の裁判は、時間も費用もかかります。また勝訴したからといって、必ずお金を回収できる保証があるわけでもありません(勝訴判決をもらうのと、判決どおりに実際に回収できるのとは全く別の話なのです)。
しかし本件では裁判を起こさざるを得ないと判断しました。
訴状では、C出版に対してDVD販売の差し止めと損害賠償を求める内容としました。著作権に関する裁判ですので、知的財産の専門部で審理されることになりました。

4 相手弁護士が著作権に詳しくない・・・

裁判においてもC出版は交渉段階と同じような主張を繰り返しました。さらに「マスターテープを渡して貰ったのだから、その時点で著作権はA映像からB法人に移転したのだ」という主張も追加しました。
しかしA映像がB法人にマスターテープを渡したのは「映像制作」という業務の一環として渡しただけであって、著作権の譲渡を意味するわけではないことは業界的には明らかです。
こちら側から見れば、裁判の勝敗ははじめから明らかで、後は損害がいくら認められるかだけが問題となるだろう、と考えていたのですが、C出版側がいろいろな反論を沢山出してきたので、予想外に審理が長引きました。
裁判所は、C出版の弁護士にやんわりと「もう少し著作権法のことをよく調べて主張を組み立ててください」と促すのですが、同じような反論が繰り返されるだけで、いっこうに裁判が前に進みません。

5 裁判官の説得により勝訴的和解へ

いい加減頭にきて、ある期日で裁判官に「現時点での裁判所の考えを是非ここで明らかにしてください!」と強い口調でお願いしました(こちらに不利な考えが示されるリスクもあったのですが)。
すると裁判所からは「原盤テープという「物」と著作権という「権利」は別物なので,原盤についての約束がされていたとしても著作権は原告に残っていると裁判所は考えます」と明確な心証が示されました(ちなみに裁判官は自分の考えを開陳するときに「私は」とは言わず、必ず「裁判所は」と言います)。
さすがのC出版弁護士も、そこまで言われてさらに反論することは出来ず、結局当方にとって相当有利な和解が成立しました。
一定の成果を得ることが出来たので、依頼者であるA映像も満足してくれたのですが、裁判まで起こしたために解決までかなりの時間を要することになりました。
もっとも本件では、相手方C出版の態度を踏まえれば、裁判を行わずに解決することは不可能だったと考えられます。

 

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