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住宅ローン金利の比較表について著作物性を否定した事例

住宅ローン金利の比較表をウェブサイトに掲載していた原告が、同様の比較表を掲載していた被告に対して、原告の比較表を真似たものだとして損害賠償請求をおこなった事案です。

知財高裁平成23年4月19日判決(知的財産高等裁判所平成23年(ネ)第10005号、損害賠償等請求控訴事件)

■事案の概要

 原告は「銀行商品コム」というサイト(http://www.ginko-shohin.com/)を開設し、そこに以下のような住宅ローン金利の比較表を掲載していました。

2015y08m25d_211137133
(http://www.ginko-shohin.com/syohin.html?bn=300&cp=0&st=0&ar=0より一部抜粋)

 一方の被告は「住まいのポータルサイト」というサイト(http://www.sumai-info.com/)内で、下記のような「住宅ローン商品金利情報」(http://www.sumai-web.tv/loan_kinri/)を掲載していました。

2015y08m25d_211230148
(http://www.sumai-web.tv/loan_kinri/より一部抜粋)

 原告は自サイトの「住宅ローン金利の比較表(図表を含む)」は著作物であり、被告の「住宅ローン商品金利情報」はそれを模倣したものだとして著作権侵害に基づく損害賠償請求訴訟を起こしました。

 なお公表されている判例では、「銀行商品コム」というサイトのURLまでは公表されていないのですが、おそらく上記サイトではないかと思われます。

 また「銀行商品コム」の上記図表は平成27年8月25日時点のものですので、裁判当時と同一のものではありません。

【主たる争点】

原告が作成した図表は著作物といえるか(「図形の著作物」「編集著作物」「データベースの著作物」にあたるか)

【裁判所の判断(要旨)】

著作物性は否定された

 図表は各金融機関が提供する住宅ローン商品の金利情報について分類、対比した表であって、同じような表は他にも多く存在する、として「図形の著作物」性を否定。

 また金融機関名,商品名,変動金利,固定金利の各固定期間の順に配列することはありふれたものであって,表現上の創作性を認めることはできないことから「編集著作物」性も否定。

 最後に、本件図表のデータベースにおいて選択された情報は「全国の金融機関の住宅ローンの金利情報等に関する数値及び図形の情報」であって,全国の金融機関の全てを対象に,その提供する全ての住宅ローン商品の金利情報を素材として選択したものであり,そのような選択はありふれたものであるから「データベースの著作物」性も否定されました。

【裁判所の判断から読み取れること】

1 データは著作物ではない

 原告作成の図表は、データを自動的に収集しているのか手作業で収集しているのかわかりませんが、いずれにしても各金融機関の金利情報という「データ」を「図表」という表現形式で表現したものです。

 この場合、原告としては「データ」そのものが著作物だという主張は出来ません。先ほど述べたように「データ」には創作性が無いからです。

 したがって原告は「データ」を表現した「図表」の著作物性を問題にせざるを得なかったのです。

 たとえば別のWEB業者が、原告のサイトに記載されているデータを利用して、全く別の形式の住宅ローン比較アプリのようなものを作ったとしても問題は無い、ということになります(もちろん、元データにあたることがデータの正確性という点からは望ましいですが)。

 ちょうどこんなイメージです。

3-001-3

2 一定の場合にはデータを含んだ表現が著作物になることがある

 ただしデータそのものは著作物でないとしても、データを含んだ表現が編集著作物やデータベースの著作物となることはあり得ます。

 この裁判例で原告が作成した図表は、その素材の選択や配列がありふれたものだったために「編集著作物」「データベースの著作物」には該当しないとされましたが、もし原告が作成した図表がユニークな視点で選択された素材や配列で構成されていた場合は、当該図表は「編集著作物」「データベースの著作物」に該当する可能性があります。

 たとえば、住宅ローンについて多数の口コミを収集した上で、その裏付け取材も行い、口コミに現れてくる評価基準(「金利の高低」「行員の説明のわかりやすさ」「繰り上げ弁済手数料の高低」「ネットでの返済のしやすさ」「返済条件変更のしやすさ」「延滞があった場合の対応」等々)を要素として、住宅ローンについての格付けを行うような図表の場合、その内容によっては「編集著作物」に該当する可能性があるのです。