著作権
大学などの遠隔授業等における「著作権の壁」をクリアするためには
【追記】
▼「(1) 法が想定している授業形態」の表の一部に誤記があったので修正しました(2020年4月21日21:49)。
▼記事中の図について一部変更しました(2020年4月23日10:20)。
Contents
■ はじめに
国内で新型コロナウイルス感染症が引き続き拡大していることから、大学等の教育機関における遠隔授業が急速に拡大していますが、それらの遠隔授業において他人の著作物を利用することがあります。
他人の著作物を利用する際には原則として著作権者の許諾を得る必要がありますが、もともと教育目的での一定の著作物の利用については、「学校その他の教育機関における複製等」(35条)という規定があり、一部の行為については著作権者の許諾なく、かつ無償で行うことが可能となっていました。
そして、コロナのコの字もなかった時期になされた平成30年著作権法改正において、この著作権法35条が対象としている行為について、もともと著作権者の許諾がなければ行えなかった行為についても、有償であれば許諾なく行えるようにする改正がなされました。
この著作権法35条に関する改正については令和3年5月24日までに施行されることになっていたため、関係諸団体において施行に向けて入念に検討を行っていたのですが、この度の新型コロナウイルス感染症拡大により、施行が令和2年4月28日に前倒しになり、さらに令和2年度に限り補償金を無償にするという扱いがなされることになりました。
本記事は、前倒しで施行される改正法の内容を前提として、大学等の教育機関における遠隔授業等において、どのように著作権処理を行うべきかをできるだけわかりやすく解説することを目的としたものです。
なお、改正法は令和2年4月28日に施行されることとなりましたので、その日以降の著作物の利用行為について改正法が適用されます。
■ 基礎知識:他人の著作物を利用する場合
ある者(著作権者)が著作権を保有する著作物を利用しようとする場合、原則として当該著作権者の許諾が必要となります。
しかし、日本の著作権法は一定の場合には著作権者の許諾なくして著作物を利用できる場合を定めています(これを「権利制限規定」と言います。)。
著作権法の30条から50条まで権利制限規定が列挙されているのですが、実はこの権利制限規定には2種類あります。
「著作権者の許諾は必要ないが、著作権者等に補償金を支払う必要があるもの(無許諾・有償)」と「著作権者の許諾は必要なく、かつ著作権者等に補償金を支払う必要もないもの(無許諾・無償)」です。
上記の図のうち②が「著作権者の許諾は必要ないが、著作権者等に補償金を支払う必要があるもの(無許諾・有償)」、③が「著作権者の許諾は必要なく、かつ著作権者等に補償金を支払う必要もないもの(無許諾・無償)」です。
権利制限規定のうちの②の「無許諾・有償」については、「著作権者の許諾が必要」という①の原則とほとんど変わらないじゃないかと思われる方がいるかもしれませんが、両者は大違いです。
「許諾が必要」という原則の下では、権利者から嫌だと言われれば、いくらお金を積んでも著作物を利用することはできません。
一方,「無許諾・有償」については、逆にいえば「お金さえ支払えば著作権者が嫌だと言っても利用できる」ということになりますので、格段に利用がしやすくなります。
③の「無許諾・無償」の例としては、たとえば、引用(32条)や、私の大好きな笑、著作物の非享受利用(30条の4)があります。また、今回取り上げる、改正前の「学校その他の教育機関における複製等」(35条)も③の無許諾・無償の例です。一方、②の「無許諾・有償」の例としては、教科書用図書等への掲載(33条)や、営利目的の試験問題としての複製等(36条)があります。
今回は著作権法35条の問題ですが、この条文については、先ほど述べたように、「1 平成30年著作権法改正で、もともと著作権者の許諾がなければ行えなかった行為についても、有償であれば許諾なく行えるようにする改正がなされ」「2 かつその施行が令和2年4月28日に前倒しになり」さらに「3 令和2年度に限り補償金を無償にする」との扱いがなされることになりました。
まず「「1 平成30年著作権法改正で、もともと著作権者の許諾がなければ行えなかった行為についても、有償であれば許諾なく行えるようにする改正がなされた」について簡単に図示すると以下のイメージです(正確にいうと「公衆伝達行為」はもともと「許諾なくできない行為」だったのが改正により「無許諾・無償」で行えるようになったので、緑部分はもう少し増えるのですが、それは割愛します)。
したがって、改正法施行後は、著作権法35条が適用される行為について「平成30年改正までの無許諾・無償で行えていた行為」(図の緑の部分)と「平成30年改正により無許諾・有償で行えるようになった行為」(図の青の部分)が併存することになります。
なお、当然のことですが「改正後に、すべての行為が無許諾・有償で行えるようになった」ということではありません。あくまで35条が適用される行為(詳細は後述します)についての話ですので気を付けてください。
そして、この「平成30年改正により無許諾・有償で行えるようになった行為」(図の青の部分)については、指定管理団体である「授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)」の判断により令和2年度に限って補償金額が無償とすることとなりましたので、少なくとも令和2年度に限っては「無許諾・無償」で利用できることになります。
これもまた簡単に図示すると以下のイメージです。図の紫色の部分が令和2年度に限って無償とされた部分です。
では詳細内容に行きましょう。
■ 著作権法35条について
まず、改正後の著作権法35条の条文はこちらです。
(学校その他の教育機関における複製等)
第三十五条 学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は,その授業の過程における利用に供することを目的とする場合には,その必要と認められる限度において,公表された著作物を複製し,若しくは公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては,送信可能化を含む。以下この条において同じ。)を行い,又は公表された著作物であつて公衆送信されるものを受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし,当該著作物の種類及び用途並びに当該複製の部数及び当該複製,公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は,この限りでない。
2 前項の規定により公衆送信を行う場合には,同項の教育機関を設置する者は,相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。
3 前項の規定は,公表された著作物について,第一項の教育機関における授業の過程において,当該授業を直接受ける者に対して当該著作物をその原作品若しくは複製物を提供し,若しくは提示して利用する場合又は当該著作物を第三十八条第一項の規定により上演し,演奏し,上映し,若しくは口述して利用する場合において,当該授業が行われる場所以外の場所において当該授業を同時に受ける者に対して公衆送信を行うときには,適用しない。
1 35条の構造
著作権法35条の構造を理解していただくために
1 法が想定している授業形態
2 法が想定している著作物の利用行為
3 授業形態×利用行為のうち、どの行為が「許諾必要」「無許諾・有償」「無許諾・無償」なのか
4 その他35条が適用されるための条件(例:「授業の過程において」「必要と認められる限度において」等の文言の意味)
という順番で説明していきます。
条文解釈としては、本来4からスタートすべきなのでしょうが、まず1と2を整理して3をまとめ、そのうえで4について説明をします。改正著作権法35条がどの範囲で適用されるか、言い換えれば「許諾なければできない行為」「無許諾・有償の行為」「無許諾・無償の行為」が何かを理解するためには、1と2をきちんと押さえることがとても重要です。
(1) 法が想定している授業形態
法が想定している授業形態を整理すると以下の通りとなります。
整理の要素は、「教員と生徒の場所」「教員と生徒が異なる場所にいる場合は配信者側の教室に生徒がいるか否か」「教授と受講の時的関係」です。
ア 対面授業
教員と生徒が同じ場所にいて(対面)、同時(リアルタイム)に授業をしている場合です。
教育の最も基本的な形態と言ってもよいでしょう。
イ 遠隔合同授業
教員と生徒が異なる場所にいますが、配信者側の教室に生徒がいて、かつ他の教室に同時(リアルタイム)に配信をしているケースです。
これは、そもそも、アの対面授業(つまり、教員と生徒が同じ場所にいる授業)が前提として存在し、その対面授業を異なる場所にいる生徒に同時に配信するという形態です。対面授業が存在しない場合はこのパターンではありません。
遠隔合同授業の場合、受信側に教員がいる場合もいない場合もありますが、著作権法上の取り扱いに差異はありません。
ウ スタジオ型遠隔授業
教員と生徒が異なる場所にいるという点についてはイの遠隔合同授業と同じですが、配信者側の教室に生徒がいない(つまり対面授業が存在しない)点が異なります。配信者側に教員しかおらず、そこから授業を生徒に同時(リアルタイム)に配信する形態です。
大学の遠隔授業としては、エのオンデマンド型遠隔授業と並んで多い形態かもしれません。
「スタジオ型」とありますが、もちろんスタジオで授業を行わなければならないということではなく、空き教室で授業をすることも含まれます。配信者側の教室に生徒がいない状態を「スタジオ型」と評しているだけです。
エ オンデマンド型遠隔授業
ア~ウとの最大の相違点は、教授と受講が同時ではなく異時であるという点です。
イやウのように「場所」が拡張されたのではなく「時点」が拡張された授業というイメージです。
典型的には授業動画を大学のサーバにアップロードしておき、生徒が好きな時に受講するという形式です。
オンデマンド型遠隔授業においては、配信者側の教室に生徒がいるか否かは問いませんし、受信者側に教員がいるかいないかも問いません。
簡単にまとめると、対面授業は「そのとき・その場所での授業」、遠隔合同授業とスタジオ型遠隔授業は「そのとき・その場所以外での授業」(場所の拡張)、オンデマンド側遠隔授業は「そのとき以外・その場所以外での授業」(場所と時間の拡張)と言ってよいと思います。
(2) 法が想定している著作物の利用行為
著作権法35条において、法が想定している著作物の利用行為は「複製(法2条1項15号)」「公衆送信(法2条1項7号の2)」「公衆伝達(法23条2項)」の3種類です。
したがって、(1)で説明した4種類の授業形態×3種類の利用行為という4×3のマトリクスを考えることになります。
まず、この「複製」「公衆送信」「公の伝達」という利用行為の具体的内容を簡単に説明します。
▼ 「複製(法2条1項15号)」
「複製」というのは、「既存の著作物を、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製する(つまりコピーする)こと」をいいます。紙に印刷した写真や文章をコピーすることや、WEB上のファイルを自分のパソコンにダウンロードすることなどが典型例です。
▼ 「公衆送信(法2条1項7号の2)」
「公衆送信」というのは、「既存の著作物を不特定の者または特定多数の者(「公衆」)に送信すること」をいいます。送信の手段は問いません。
たとえば、「多数の者に著作物をファックス送信すること」「多数の者に著作物をメール送信すること」や「著作物をWEBサイトにアップすること」などが該当します。
「著作物をWEBサイトにアップすること」は、積極的に送信をしているわけではありませんが、アクセスしてくる人がいればその人に自動的にデータを送信することになりますのでこれも「公衆送信」(公衆送信の中でも「自動公衆送信」といいます)に該当します。
では「著作物をWEBサイトにアップしたが実際には誰もアクセスしなかった」だと、まだ「送信」が行われていないので「公衆送信(自動公衆送信)」に該当しないのでしょうか。
実はそのような場合であっても、著作物の利用行為に該当し、著作権者の許諾を得る必要があります。これは「著作物をWEBサイトにアップすること」(つまり「自動公衆送信ができる状態にすること」)自体が著作物の利用行為(「送信可能化」といいます)に該当するとされているためです(法23条1項)。
なお、「複製」と「公衆送信」は、重なり合うことがあります。たとえば、「既存の著作物をサーバにアップロードする行為」は「著作物をサーバ内に複製する行為」と「著作物を公衆送信する(送信可能化する)」行為の両方を行っていることになります。
▼ 「公衆伝達(法23条2項)」
「公衆伝達」というのは「公衆送信された著作物をそのまま公衆に視聴させること」をいいます。たとえば、「授業内容に関係するネット上の動画を授業中に受信し、教室に設置されたディスプレイ等で履修者等に視聴させること」や「テレビ放送を店舗内のテレビで店舗内のお客さんに視聴させること」が該当します。
それぞれの行為を簡単に図示すると以下の通りとなります。
(3) 授業形態×利用行為のうち、どの行為が「許諾必要」「無許諾・有償」「無許諾・無償」なのか
では、授業形態×利用行為のうち、どの行為が「許諾必要」「無許諾・有償」「無許諾・無償」なのでしょうか。
授業の形態×利用の形態で分類したのがこの表です。それぞれの授業の形態において考えられる著作物の利用形態を記載しました。
では、この授業形態×利用行為のうち、どの行為が「許諾必要」「無許諾・有償」「無許諾・無償」なのでしょうか。
もう一度、平成30年改正前後の状況を振り返ってみましょう。
以下のような経緯でしたね。
ア 平成30年改正前
まず、改正前の35条の下ではこちら。
複製行為と、遠隔合同授業のために対面授業で使用している資料や講義映像を他の会場に同時送信することは無許諾・無償で可能(図の緑の部分)でしたが、それ以外の行為については著作権者の許諾なくできませんでした(図の赤の部分)。
イ 平成30年改正後
改正後の35条の下ではこちら。
これまで著作権者の許諾なくできなかったことが、無許諾・有償でできるようになりました(図の青の部分。公の伝達行為については無許諾・無償)。
なお、誤解してはならないのは、これまで「無許諾・無償」で行えていた行為(図の緑の部分)は、改正後も変わらず「無許諾・無償」で行えるということです。改正によって、当該行為について「無許諾・有償」(図青の部分)になったということではありませんので、注意してください(実は、将来的にこの部分がずっと「無許諾・無償」のままとなるかちょっとわからないのですが)。
ウ 令和2年度に限った補償金額の特例
さらに、令和2年度に限った補償金額の特例はこちら。
本来「無許諾・有償」の行為が「無許諾・無償」となっています(図の紫の部分)。
(5) その他35条の前提条件
ここまでは「授業形態」×「著作物の利用態様」の切り口で説明してきましたが、著作権法35条はそもそも、「学校その他の教育機関における複製等」に関する規定ですので、適用されるためには一定の要件があります。
簡単に説明すると以下の通りです。
▼ 対象施設
学校その他の教育機関(営利を目的としないもの)
したがって、私人・私企業の経営する塾、予備校やカルチャーセンター、会社等に設置されている職員研修施設は対象外となります。
▼ 複製等を行うことができる主体
教育を担任する者(教員等) + 授業を受ける者(児童・生徒・学生等)
▼ 利用の目的・限度
「授業の過程」における利用に必要と認められる限度に限られます。
したがって、以下のような例は35条が適用されません。
・ 職員会議
・ クラス単位や授業単位(大学の大講義室での講義をはじめ、クラスの枠を超えて行われる授業においては、当該授業の受講者数)を超えた利用
・ 当該授業と関係のない教員・教育機関の間での共有
・ MOOCのような、インターネットを通じて世界中どこからでも誰でも無料で利用できる講義形態における利用
なお、教育・教育移管の教育目的での教材の共有については、文化審議会報告書において権利制限の必要性については認めつつ「引き続き検討を行うこととする」とされています。
▼ 著作権者の利益を不当に害しないこと
改正後の著作権法35条には「ただし,当該著作物の種類及び用途並びに当該複製の部数及び当該複製,公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は,この限りでない。」という但し書きが存在しています(改正前35条もほぼ同様)。
具体的には以下のような行為は但し書きに該当し、著作権法35条が適用されないことになります。
・ 小説全部を複製する行為(同一の教員等がある授業の中で回ごとに同じ著作物の異なる部分を利用することで、結果としてその授業で全部を利用することになることも含む)
・ 市販の参考書・ドリル・ワークブックなど、生徒各人の購入を想定した著作物のコピー・送信
・ 製本するなどして市販の商品に代替するような形式での複製
・ 授業を受ける者に限らず誰もが見られるようにインターネット上に公開する行為
これらの但し書きが適用されるか否かは、抽象的にいうと、「当該利用行為によって既存の著作物の売上が下がってしまうか(パイを食ってしまうか)どうか」です。たとえば、市販の参考書・ドリル・ワークブックなど、学生各人の購入を想定した著作物のコピー・送信がなされてしまうと、それらの参考書の売り上げが減少することは明らかですので、但書が適用され無許諾で複製等を行うことはできません。
2 フローチャート
以上を踏まえて、大学などの遠隔授業において著作権の権利処理をするためのフローチャートを作ってみました。
【STEP1 著作物の「利用(複製や公衆送信)」に該当するか】
まず、遠隔授業での著作物の利用が、著作権法上の「利用(複製や公衆送信)」に該当しなければ自由に行うことができ、許諾や権利制限規定について検討する必要がありません。
たとえば、授業用教材に埋め込み方式のリンク(インラインリンク)で公式動画などを貼り付け、ネットを通じて学生に提供する場合、当該行為は、著作物の複製でも公衆送信でもありませんので、原則として許諾なく利用することができます(ただし、先ほど「公衆伝達」のところで説明したように、教室内で当該動画を再生してその場にいる学生に視聴させることは「公衆伝達」に該当します)。
【STEP2 著作権者の許諾はないか】
遠隔授業での著作物の利用が、著作権法上の「利用(複製や公衆送信)」に該当するとしても、著作権者の許諾が得られればもちろん適法に利用することができます。
個々の著作権者と交渉して個別に許諾をとることはあまり現実的ではありませんが、CCライセンス(クリエイティブコモンズ)などを付して著作権者が自由利用を許諾している著作物については、問題なく利用することができます。
また、新型コロナウィルスの蔓延を受けて、文化庁は、権利者団体の「ご配慮」を求める事務連絡を公表しており権利団体によっては著作物の無償許諾をしているケースがあります。
例えば、JASRACや日本ビジュアル著作権協会などです。
日本ビジュアル著作権協会は、「現在の状況を鑑み、本件につきましては小・中・高等学校のみならず、学習塾・予備校等での利用も含みます。」としており許諾の範囲がかなり広くなっています。
【STEP3 35条以外の権利制限規定に該当するか】
また、権利制限規定は35条に限られないため、35条以外の権利制限規定(例えば引用など)の適用があれば、35条の適用がなくとも無許諾・無償で利用することができます。
大学などの遠隔事業で既存著作物の一部を利用する場合には、特に「引用」(著作権法32条)に該当する例が多いのではないかと思われます。
引用を適法に行うための要件については、これまでの最高裁判例(パロディモンタージュ事件・最判S55.3.28)を含む多くの裁判例を踏まえて、一般的に以下の要件が必要と考えられています(詳細は弊所のこの記事(「著作権法上の引用要件を満たしているのに、かさねて許諾を得る必要はあるのか」)を参照してください。)
1 本文と引用部分を明瞭に区分する(ブログの場合はblockquoteタグで囲む等)
2 本文(自分の記事)がメインで、引用部分がサブ(主従)の関係にある(質的にも量的にも)
3 引用する必然性がある
4 改変しない
5 出典を明記する(出所明示)
講義資料の中で既存著作物を利用する場合、当該既存著作物が引用対象であることを明確に区分して表示し、かつ当該既存著作物の相対的な分量が多くならないように工夫をし、その他の要件も満たすことで、「引用」の要件を満たす場合が多いのではないかと思われます。
【STEP4 35条の要件を満たすか】
このステップにおいては、これまで説明をしてきたように、以下の手順で、著作権法35条が適用されるかの検討をすることになります。
4-1 行おうとしている授業は、対面授業、遠隔合同授業、遠隔スタジオ授業、オンデマンドのいずれか
4-2 どの利用行為に該当するか
4-3 当該利用行為が「許諾必要」「無許諾・有償」「無許諾・無償」のいずれのカテゴリに属するか
4-4 35条のその他の要件満たすか
■ 補償金を免除してもらうために何らかの手続きは必要なのか
これまで説明したとおり、令和2年度に限って、本来「無許諾・有償」の行為が「無許諾・無償」となっているのですが、そのために教育機関は、指定管理団体である「授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)」に対して、何らかの届出等の手続を行う必要があるのでしょうか。
この点について、「著作物の教育利用に関する関係者フォーラム」は、「「授業目的公衆送信補償金制度」の今後の運用について」というタイトルの文書を令和2年4月16日に公表しています。そこには「令和2年度の緊急的かつ特例的な運用について」として、以下の記載があります。
新型コロナウィルス感染症の流行に伴うオンラインでの遠隔授業等のニーズに緊急的に対応するため、令和2年4月28日から、新制度の緊急的かつ特例的な運用を開始すること。その際、以下のとおり運用を行うこと。
(1)(2)略
(3)①新制度を利用する教育機関の設置者は、事前に(事前が難しい場合は、利用開始後速やかに)協会に対してその教育機関名の届出を行うとともに、②協会は、教育機関に過度な負担がかからない範囲で著作物の利用実績を把握するため、教育機関の協力を得てサンプル調査を行う(②の実施方法については、教育機関に過度な負担をかけないよう十分に留意しつつ、今後、協会において教育機関と相談しつつ整理する)。
既に改正著作権法の施行が1週間後に迫っているため、事前の届出は不可能でしょうから、「授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)」に対して利用開始後の届出を速やかに行うことになると思われます。
■ まとめ
以上、前倒しで施行されることになった改正著作権法の内容を前提として、大学等の教育機関における遠隔授業等において、どのように著作権処理を行うべきかをできるだけわかりやすく解説してきました。
著作権法35条はややわかりにくい条文ですが、「授業の形態」と「著作物の利用形態」を組み合わせて理解すれば、それほど複雑な話ではないのではないかと思います。
なお、この記事を執筆するために各種資料(その一部は「参考になるサイト・資料」に掲載しています)を調査したのですが、改正法の施行を前倒しにして、補償金を1年に限って無償にするなどの大きな意思決定や、新制度のスムーズな導入のためのガイドラインが急ピッチで作成されるなど、関係者の皆様の多大な努力に本当に頭が下がる思いです。
■ 参考になるサイト・資料
最近の議論
▼ 新型コロナウイルス感染症対策に伴うICTを活用したオンライン教育等の取り組みについて(国立情報学研究所)
このページに掲載されている「授業目的公衆送信補償金制度に関する最新の状況」(岸本 織江 文化庁著作権課長)は必読です。
▼ 改正著作権法第35条運用指針(令和 2(2020)年度版)
「著作物の教育利用に関する関係者フォーラム」が作成した改正著作権法35条の運用に関する最新のガイドラインです。
掲載ページはこちら。
▼ 「授業目的公衆送信補償金制度」の今後の運用について
こちらも同じく「著作物の教育利用に関する関係者フォーラム」が保証金制度について説明した文書です。
平成30年著作権法改正当時の議論
▼ 教育の情報化の推進のための著作権法改正の概要(2018年12月・文化庁著作権課)
改正内容をざっくりつかむのであれば最適な資料です。
▼ 文化審議会著作権分科会報告書(平成29年4月・文化審議会著作権分科会)
平成30年著作権法改正の大元となった報告書です。
▼ 著作権法の一部を改正する法律(平成30年改正)について(解説)(文化庁)
35条の改正趣旨について端的にまとまっている資料です。
▼ 文化審議会著作権分科会(第48回)(第17期第3回)資料及び議事録
当時の規制改革会議と分科会とのバトルが赤裸々に議事録と資料に表れています。。。。このサイトに掲載されている資料1「高等学校の遠隔教育を推進するための著作権制度上の課題への対応の在り方について」は当時の議論の整理としてわかりやすい資料です。