創業株主間契約書
ここでは、「【連載】ストーリーを通じて学ぶスタートアップのための資本政策と資金調達手法」の第4回目の記事で解説した「創業株主間契約書」のひな型を紹介します。
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創業株主間契約
●●(以下「甲」という。)及び●●(以下「乙」という。)は、各自が保有する●●株式会社(本店所在地:●●、以下「本会社」という。)の株式に関し、末尾記載の日付で、創業株主間契約書(以下「本契約」という。)を締結する。
【注釈】
契約当事者がいずれも取締役であり、「当事者のいずれかが取締役を退任すること」をトリガーとしたシンプルな創業株主間契約です。
今回は、どちらか一方が退任した場合に適用できる契約として作成していますが、場合によっては、甲及び乙という契約当事者のうち、「乙が取締役を退任すること」のみをトリガーにする(甲の退任はトリガーにならない)という方針で契約を作成することも考えられます。
Contents
第1条(定義)
(1)「退任」とは、本会社の役員、顧問及び従業員の地位をいずれも失うことをいう。
(2)「退任当事者」とは、退任した本契約当事者をいう。
(3)「存続当事者」とは、退任当事者以外の本契約当事者をいう。
(4)「本件株式」とは、本会社が発行する株式をいう。
【注釈】
本契約において必要な定義を記載しています。
第2条(目的)
本契約は、本契約当事者が退任した場合に、本件株式を譲渡することを定めるものである。
【注釈】
なぜ創業者間契約を締結するかをシンプルにまとめた部分です。
第3条(株式譲渡)
1.退任当事者は、退任の理由を問わず、存続当事者からの請求に基づき、存続当事者又は存続当事者の指定する第三者に対し、本件株式から、以下の各号に定める時点に応じた以下の各号に定める株式数のうち、存続当事者が指定する株式数を譲渡するものとする。
(1)本契約締結から1年間経過するまでの間に退任等をした場合
本件株式の100%
(2)本契約締結から1年間経過後、2年が経過するまでの間に退任等をした場合
本件株式の80%
(3)本契約締結から2年間経過後、3年が経過するまでの間に退任等をした場合
本件株式の60%
(4)本契約締結から3年間経過後、4年が経過するまでの間に退任等をした場合
本件株式の40%
(5)本契約締結から4年間経過後、5年が経過するまでの間に退任等をした場合
本件株式の20%
(6)本契約締結から5年間経過後
本件株式の0%
2.前項に定める本件株式の譲渡は、存続当事者の退任当事者に対する前項に定める本件株式の譲渡請求の意思表示が退任当事者に到達した時点でその効力を生ずるものとする。
3.第1項に定める株式譲渡について、本件株式1株あたりの譲渡価額は、退任当事者による本件株式の1株あたりの取得の価額(以下「本件取得単価」という。)と同額、又は存続当事者が定める本件取得単価以上の価額とする。但し、会社が退任当事者に対して本件株式を発行した後に、会社において株式分割、株式併合、又は株式の無償割当てが行われた場合には、存続当事者は、第1項に定める株式譲渡の対象となる本件株式の数及び本件取得単価を合理的な範囲で調整できるものとする。
【注釈】
第3条では、「退任」をトリガーとしつつ、株式の譲渡数については解説部分で言及した「べスティング」の方法で記載しています。
また株式の譲渡対価の定めについては、「時価」と記載するのではなく、「取得価格」をベースに、存続当事者の判断による増額や、株式分割・株式併合に応じた調整が可能な内容としています。
第4条(強制売却権)
1.前条の規定にかかわらず、本会社が以下の各号の取引(以下「支配権移転取引」という。)を行う場合には、存続当事者は退任当事者に対し、当該支配権移転取引に応じるよう請求する権利(以下「強制売却権」という。)を行使することができる。
(1)本会社の株式等の発行又は譲渡(存続当事者が、当該発行又は譲渡の直後の時点で、合計で本会社の全株主の完全希釈化ベース株式数合計の過半数を保有する場合及び、当該発行又は譲渡が資金調達目的でなされる場合を除く)
(2)本会社が消滅会社となる合併(存続当事者が、当該合併の効力発生日直後の時点で、合計で当該合併の存続会社又はその親会社の全株主の完全希釈化ベース株式数合計の過半数を保有する場合を除く)
(3)発行会社が完全子会社となる株式交換又は株式移転(存続当事者が、当該株式交換又は株式移転の効力発生日直後の時点で、合計で当該株式交換若しくは株式移転の完全親会社又はその親会社の全株主の完全希釈化ベース株式数合計の過半数を保有する場合を除く)
2.本条に基づき強制売却権が行使された場合、退任当事者はこれに応じるものとし、当該請求に係る支配権移転取引の実現のために必要となる一切の手続きに協力しなければならない。
【注釈】
M&Aによるエグジットの機会を阻害されることを防ぐため、ドラッグ・アロング条項(退任メンバーが株式を保有したままである場合に、残留創業メンバーの意向で、株式の売却やその他のM&Aへの参加を強制することができる権利)を定めています。
第5条(相続)
退任当事者が死亡を理由に退任した場合には、存続当事者は退任当事者の相続人に対して前条第1項に基づく本件株式の譲渡請求を行うことができ、その限度で本契約は本件株式を退任当事者から相続した相続人に承継されるものとする。この場合、本契約における「退任当事者」は「退任当事者の相続人」に読み替えて本契約の規定が適用されるものとする。
【注釈】
株式を保有する創業者が取締役を退任するケースとしては、会社を退社する以外にも、在任期間中に逝去されるケースも想定されます。その場合に、原則的には当該退任当事者の相続人が株式を相続によって承継することになりますが、当該相続人に対しても存続当事者から買取請求を行うことができる内容としています。
第6条(譲渡手続等)
1.存続当事者が退任当事者に対し第3条第1項に定める本件株式の譲渡請求(以下本条において「譲渡請求」という。)を行った場合には、退任当事者は存続当事者の指示に従い、会社に対する譲渡承認請求等、本件株式の有効な譲渡に必要なあらゆる手続を行うものとする。
2.存続当事者は前項に基づく本件株式の存続当事者に対する名義書換手続の完了後14日以内に第3条第3項に定める譲渡価額を退任当事者に対して支払うものとする。
【注釈】
上場前のベンチャー企業の場合、その発行株式には定款によって譲渡制限が付けられている場合がほとんどです。その場合、その譲渡制限付株式を存続当事者に対して譲渡してもらう場合には、会社の承認が必要となり(会社法136条)、また株式の有効な譲渡には名義書換手続が必要になりますので、第1項はその手続を行うように求めるものです。
第2項については、株式譲渡の対価の支払期日を定めています。
第7条(効力)
本契約は、本契約末尾記載の締結日に効力を生ずる。
【注釈】
具体的に「◯年◯月◯日から」と記載することも考えられます。
第8条(通知)
1. 本契約に基づく全ての意思表示その他重要な連絡(以下「意思表示等」という。)は、メール等の電磁的方法又は文書の手交若しくは書留郵便により末尾署名欄記載の相手方の住所(以下「通知先」という。)に対して行うものとする。
2. 通知先に宛てて発送した意思表示等が、相手方の所在不明等相手方の責に帰すべき事由により到達しなかった場合には、その発送の日から2週間を経過した日に、当該意思表示等が到達したものとみなす。
3. 本契約の当事者は、第1項に定める方法に従って相手方に対して変更後の通知先を通知することにより、通知先を変更することができる。
【注釈】
例えば第3条1項に定める存続当事者の請求やその他の意思表示について、具体的にどのような方法で行うかを記載しています。
上記文案ではメールによる意思表示も可能としていますが、文書による意思表示に限定することも可能です。
第9条(譲渡禁止)
本契約の当事者は、相手方の書面による事前の同意なくして、本契約の契約上の地位又は本契約に基づく権利若しくは義務の全部又は一部を、第三者に対して譲渡、移転、担保権の設定、その他の処分をしてはならないものとする。
【注釈】
どのような契約書にも登場するような一般的な規定ですが、この創業株主間契約においても、契約上の地位を第三者に譲渡することは想定されていませんので、原則禁止としています。
第10条(秘密保持)
甲及び乙は、相手方の書面による事前の承諾なくして、本契約の存在及び内容につき第三者に対して開示してはならないものとする。
【注釈】
具体的なべスティングの内容や、株式の譲渡対価等の情報は、会社や当事者にとってセンシティブ内容ですので、秘密情報としています。
第11条(準拠法及び合意管轄)
本契約の準拠法は日本法とし、本契約に関連して生じた紛争については、会社の本店所在地を管轄する地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
【注釈】
双方公平の観点から、当事者の住所地ではなく、「会社」の本店所在地を管轄する地方裁判所を合意管轄裁判所としています。
本契約成立の証として、本書2通を作成し、各当事者署名又は記名捺印の上、各1通を保有する。ただし電磁的記録をもって本書を作成する場合は、本書の電磁的記録を作成し、甲及び乙は合意の後電子署名を施し、各自その電磁的記録を保管するものとする。
【注釈】
紙媒体での締結だけでなく、クラウドサイン等の電子署名での締結ももちろん可能ですので、その前提で後文を記載しています。
●●年●●月●●日
甲:住所
氏名 ㊞
乙:住所
氏名 ㊞