利用規約を適当にパクっているベンチャーに贈る、利用規約をきちんと作るべき2つの理由
ベンチャーがWeb上でサービスを提供する場合、
1 利用規約
2 プライバシーポリシー
3 特定商取引法に基づく表示
の3つの文書(いわゆる「三点セット」)を作成してサイト上に掲載することが多いのではないかと思います。
いずれの文書についても「作成するのが手間」「弁護士などに作成を依頼すると費用がかかるがお金がない」「そもそも誰も読んでないだろ」など、作成に後ろ向けになる理由には事欠きません。
その結果「同じようなサービスの利用規約をパクって参考にしておけばいいだろう」と適当に作ろうとするベンチャーがほとんどではないかと思います。
ただ、実は利用規約をきちんと作った方が実は事業者にとってお得なことが多いですよ、というのが今回の記事です。
事業者にとって、きちんとした利用規約を作った方がいい理由は、突き詰めると2つしかありません。
2.事業者のリスクを合理的に減らすため
の2つです。
Contents
1 事業者が設定したルールに従ってもらうため
▼ 利用規約がないとどうなるか
事業者は「ユーザーにこういう体験をして欲しい」と考えてサービスを構築しますが、その際には「サービス利用に際してユーザーにはこのルールを守って欲しい」ということも考えているはずです。「このルールに従ってもらうことで、サービスの魅力を最大限感じてもらえるはずだから」ということですね。
利用規約を作る1つ目の目的は、まさにこの「事業者が設定したルールに従ってもらうため」です。
仮にサービス提供に際して利用規約がないとどうなるでしょうか。
世の中で、人と人の関係を縛るルールとして存在しているものはいろいろありますが、その最大のものが「法律」です。「法律」には世の中の人皆が従わなくてはなりません。
ですので、利用規約がない場合、サービス提供に際して適用されるルールは「法律」だけ、ということになります。
もちろん、法律には最低限のルールは定められています。
逆に言うと、利用規約がなくても、ユーザーは当然「法律」には拘束されることになります。
たとえば、事業者の商標を無断で利用したり、名誉毀損やプライバシー侵害をする書き込みをしたり、他人の著作物を勝手にパクったりすることは、それぞれ商標法や民法、著作権法という「法律」に違反する行為ですから、利用規約があろうとなかろうと「違法行為」であり「やってはいけない行為」です。
▼ 法律があればいいというわけではない
ただ、法律で「守って欲しいルール」が完全にカバーされている訳ではありません。
たとえば
・ クラウドワークスやランサーズのようなマッチングサービスにおける直接取引行為
・ ゲームサービスにおけるRMT行為
・ 投稿サービスにおいて特定の宗教や自社サービスを宣伝する行為
・ 他のユーザーを不愉快にさせる荒らし行為
など、これらは「違法ではないがやって欲しくない行為」です。
これらの「違法ではないがやって欲しくない行為」を禁止するため、言い換えれば「事業者が設定したルールに従ってもらうため」に、利用規約を定める訳です。
利用規約の中に「こういうルールに従って欲しい」という条項をきちんと盛り込み、その利用規約にユーザーから同意をもらえば、原則としてその利用規約に定めたルールに従ってもらうことができます(「原則として」と書いたのは、利用規約に書いても効力を持たないルールがあるためです。詳細は別の機会に)。
それにより、サービスの魅力を最大点にユーザーに感じてもらうことができます。
2 事業者のリスクを減らすため
▼ 利用規約がないとどうなるか
次に利用規約を作成する目的は「事業者のリスクを減らすため」です。
WEBサービスは、低い価格で大量のユーザーにサービスを提供することを前提としています。そのため1つ1つの取引について大きなリスクをとれないことから、事業者のリスクを合理的に制限することは非常に重要となります。
たとえば、レンタルサーバーサービスで、事業者のミスによってデータが消失するというアクシデントが生じたとしましょう。
仮に利用規約がない場合、1で述べたように法律だけが適用されますから、ユーザーが事業者に対して損害賠償請求をする場合の損害については民法などが適用されることになります。
その場合における損害については、民法416条の「損害の範囲」の規定が適用されますから
・ ユーザーがデータ作成に要した費用
・ ユーザーがデータを利用できなかったことによって被った損害
・ データ再構築に要する費用
・ 弁護士費用等々
莫大な金額になる可能性があります。
月々わずかな費用でレンタルサーバーを提供している事業者が、1つ1つの取引についてこのような損害が生じるリスクを到底抱えられるわけではありません。
そこで、利用規約において責任制限を定める条項(たとえば「万が一損害が生じた場合でも、ユーザーがそれまでに事業者に支払った利用金額の総額を超えない」など)を入れるわけです。
このように、事業者の責任を合理的に制限し、そのリスクを限定することで事業者は安い価格でWEBサービスを提供することができるのです。
もちろん、先ほども少し触れましたが、何でもかんでも免責すればよいというものではありません。消費者契約法などの消費者保護ための法律に反する場合には、利用規約の免責規定が無効になることもありますので、注意してください。
その点に気をつけさえすれば、利用規約は万が一のトラブルの際にも事業者を救うことになるはずです。
3 まとめ
・ 利用規約を作成するのには確かに手間とコストがかかる。
・ しかし「事業者が設定したルールに従ってもらうため」「事業者のリスクを減らすため」にはきちんとつくっておいた方がよい。
なお、当事務所もベンチャー向け利用規約の作成業務に数多く携わっています。
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