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生成AI時代における医師のスタートアップ起業・個人開発の法的留意点

アバター画像 山城 尚嵩

STORIA法律事務所が支援するスタートアップ企業のなかでも、一定の割合を占めるのがバイオ・ヘルスケア領域のスタートアップで、これらのスタートアップには医師が起業した会社が数多くあります。また、近時では生成AIの登場により誰もが容易にプロダクト開発できる環境が整い、医師による、医療DXやヘルスケア領域の個人開発のご相談も増えてきました。

本稿では、医師が生成AIを用いたプロダクトのアイデアを基に、スタートアップ起業・個人開発をする際の法的留意点をコンパクトに整理します。

1 勤務先の就業規則等の問題

第一に、勤務先の就業規則等の問題についてです。医師が勤務先の病院を退職せずに、勤務医の立場のままプロダクトを開発し外販することは、勤務先の医療機関との関係で、副業や兼業に該当し得る行為です。そこで、自身の法律上の地位や、病院の就業規則等において、副業や兼業が禁止されていないかどうかを検討する必要があります。

まず、一部の公務員としての身分を有する医師(地方公共団体が運営責任者となる公立病院や一部の地方独立行政法人に勤務する医師など)は、地方公務員法により、許可のない副業や兼業が原則として禁止されています(地方公務員法38条)1この点については、総務省が、希望する地方公務員が兼業できる環境を整備することを目的とした通知を発出するなどの昨今の動きがあるものの(https://www.soumu.go.jp/main_content/001014253.pdf)、原則として、法律上の制限を受けているという前提を理解する必要があります

次に、民間病院やクリニックの勤務医の場合、公務員医師とは異なり、副業や兼業が法律上で禁止されているわけではありません(国立病院機構や国立大学病院に勤務する医師も、現行法下では非公務員となるためこれと同様です)。副業・兼業の可否は、病院と勤務医との間の労働条件を定めた就業規則や雇用契約書において、副業や兼業が認められているかどうかによります。従前より、医師が主たる勤務先病院と異なる病院でアルバイトをする実態も背景にあり、就業規則上、副業や兼業が認められている病院も多くあります。もっとも、この場合でも、事前許可や届出などの手続きが必要なことも多いため、この場合でも副業・兼業を始める前に就業規則等を確認するようにしましょう。

なお、ここまでの兼業パターンと異なり、所属する病院を退職して起業を行う専業パターンもあります。退職してスタートアップ企業を立ち上げるようなケースが中心となりますが、当然、この場合には病院の就業規則は問題となりません。

2 法人化するかどうか

(1)原則として法人設立すべき

一般に、医師が起業するに際しては、医師個人が無限責任を負うことを回避する観点などから、原則として、法人を設立することをお勧めします。

(2)法人の種類・形態

法人の形態ですが、いわゆるスタートアップ企業のような成長を予定している場合、つまり今後、外部投資家からの資金調達を受けたり、ストックオプションを発行して優秀なエンジニアをメンバーに迎え入れたりする可能性がある場合には、法人の形態は株式会社を選択しましょう。

他方で、急成長を予定せず、あくまで個人開発の延長として事業を実施するような場合には、株式会社のほかに合同会社という機関設計を選択することも考えられます。合同会社は設立が容易で登録免許税も少ないというメリットがありますが、代表者の住所秘匿化措置が受けられないというデメリットもあり、迷った場合には株式会社を選択するのが無難です。

医師に馴染みがある法人として医療法上の医療法人がありますが、医療法人は病院やクリニック等の開設・運営(「本来業務」といいます)を目的とする法人です。そのため、医療法人は、本来業務およびこれと付随する業務(付随業務)の範囲を超え、収益業務を行うことは原則としてできません。そのため、医療法人でプロダクト開発を行うことはできません2厚生労働省「医療法人の業務範囲<令和4年2月 22 日現在>」(https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000901066.pdf

なお、医療法人が行い得ない医療関連サービスを提供する法人として、いわゆるMS法人と呼ばれる会社を立ち上げている医師は、新たに会社を立ち上げずとも、当該MS法人でプロダクト開発を行うというパターンも考えられます。この場合にはプロダクトの開発や提供が、当該既存のMS法人の定款の目的の範囲内の事業である必要があるため、定款の目的の範囲に含まれない場合には、定款の変更手続きを行う必要があります。

3 医療機器とするか、非医療機器とするか

考案しているプロダクトが医療機器に該当する場合には、販売開始前に、薬機法の承認申請を得る必要があるため、プロダクトの外販に際しての難易度が格段に上がります。そこで、まず起業の種となるアイデアをプロダクトとして提供する場合、当該プロダクトが医療機器に該当するかどうかを検討することが重要です。

プログラム医療機器の該当性については、厚生労働省が定める「プログラムの医療機器該当性に関するガイドライン」3厚生労働省「プログラムの医療機器該当性に関するガイドライン(令和5年3月31日一部改正)」(https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001082227.pdf、「プログラムの医療機器該当性判断事例」4厚生労働省「プログラムの医療機器該当性判断事例」(https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001082229.pdf等を元に検討します。

また、厚労省がこれらの資料を公開する原ページ「医療機器プログラムの該当性について」5厚生労働省ウェブサイト「医療機器プログラムの該当性について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000179749_00004.htmlでは、「医療機器プログラムと汎用AIの違いについて」という資料が公開されています。

同資料では、医療用途以外の一般的な目的で提供される汎用AIについては、「疾病の診断や予防、治療の目的を標榜せずに、提供されるプログラム」であり、医療機器としての目的性(疾病の診断、治療等に寄与するなど)を有していないことから、医療機器に非該当と整理されています。

個別具体的に慎重な検討を要する点ですが、本稿の性質から非常にシンプルに整理すると、生成AIの出力を診療その他の形で患者等への医学的判断に用いる場合には、原則的には、医療機器プログラムとして医療機器としての承認を得る必要があります。

反対に、OCRなどのデジタル化技術、データの構造化、システム間連携等の、いわゆる医療DX6厚生労働省「医療DXについて」(https://www.mhlw.go.jp/stf/iryoudx.html)に関連するプログラムは、直接患者等への医学的判断に用いられる性質のものではなく、医療機器に該当しないと整理することも可能です。

これら医療DX領域は、現場の課題を把握する医師がその経験を活かせる領域であり、かつ、生成AIの得意な作業を掛け合わせられることから、近時のご依頼が増えている領域であるように感じています。

他方で、医療機器として薬事承認されることをゴールとする場合、外部投資家から資金調達を受けながらアカデミアや民間企業との共同研究を重ね、薬事承認がされるレベルまでプロダクトの改善を続ける必要があります。このようなご相談も継続して多数取り扱っておりますが、各種規制対応や、契約や研究のデザイン、VCからの資金調達など専門性の高い相談が多いため、非医療機器として開発するパターンにも増してお早めにご相談いただくことをお勧めいたします。

4 医療データ規制

開発するプロダクトが医療機器に該当するか否かを問わず、当該プロダクトを医療機関向けに提供し、ユーザーである医療機関が患者の医療情報を入力する場合、①個人情報保護法や②3省2ガイドラインが問題となるほか、医療情報を用いた研究を実施する場合には、③人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針(以下「倫理指針」)などの対応も必要となります。

(1)個人情報保護法

①個人情報保護法は、医療情報を含む個人情報の取扱いについてのルールを定めた法律です。これに関しては、特にヘルスケアスタートアップ/医療機器メーカー向けに、AI医療機器と個人情報保護法について整理した弊事務所の過去ブログをご参照ください7【AI医療機器開発連載・第2回】AI医療機器開発のための医療データ収集と個人情報保護法(https://storialaw.jp/blog/9744

(2)3省2ガイドライン

②3省2ガイドラインは、医療情報をシステムやサービス上で取り扱うにあたっての、セキュリティに関する事項などが記載されたガイドラインです。

これら2つのガイドラインはセットのような関係で、一方が、厚生労働省が、医療情報をシステム上で取り扱う医療機関に向けた「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」(以下「医療機関向けGL」)8厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000516275_00006.htmlで、他方が、経済産業省と総務省が、医療情報を取り扱うシステム・サービスの提供事業者に向けた「医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン」(以下「事業者向けGL」)9総務省・経済産業省「医療情報を取り扱う情報システム・サービスの 提供事業者における安全管理ガイドライン」(https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/teikyoujigyousyagl.htmlです。

本稿で想定するのは、医療機関に対して提供する外部サービス・プロダクトの開発ですので、後者の事業者向けGLが主として検討対象となります。しかし、医療機関側が負う責任や遵守する内容について理解を深め、医療機関において、より安全な情報システムの管理・運用が果たされるような協働を働きかけることは有用であり、前者の医療機関向けGLも理解することが望ましいとされています(医療機関向けGL概説編QA-110厚生労働省「「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版」に関するQ&A (令和7年5月)」(https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001145860.pdf)。

よく知られているルールとして、医療法等において定められた医療機関等に対する義務や行政手続の履行を確保するために、医療情報及び当該情報に係る医療情報システム等が国内法の執行の及ぶ範囲にあることを確実にすることという要求事項があり(事業者向けGL6.1、医療機関向けGL企画管理編7.⑤)、サービス提供事業者は、国内リージョンのサーバを契約する必要があることなどが指摘されています。

もっとも、本稿で検討する生成AIサービスの選定に関して、OpenAIなどの外国事業者のサービスを利用する場合には、必ずしも日本リージョンを選択できるものではありません。この点については、医療機関向けGLのQAの企Q-2611 前掲注10(https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001145860.pdfにおいて、「生成AIサービスのプロンプトとして医療情報を入力する場合、入力情報が「AI の学習等のために保存されないこと」が、契約等において担保されていれば、生成AIサービスのサーバが国内法の適用を受けている必要はないと考えて良いか?」という質問があり、厚労省は「医療情報が保存されないことが、契約等において担保されている場合は国内法の適用を受けていないサーバを利用可能」と整理しており、設計次第で外国リージョンの生成AIサービス提供事業者のサービスを利用することが直ちに否定されるものではありません。

(3)倫理指針

スタートアップを立ち上げて、医療データをプロダクト開発のための研究に用いる際には、倫理指針の検討も必要です12文部科学省・厚生労働省・経済産業省「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針(令和5年3月27日一部改正)」(https://www.mhlw.go.jp/content/001077424.pdf

とりわけ、AI医療機器の開発に際しては、医療機関からの医療データを収集してAI医療機器の開発を行うことは、原則として倫理指針の適用対象となる研究に該当するため、そのデータ収集スキームを検討する際には、個人情報保護法と併せて検討対象となる重要な指針となります(他方で、医療DXのようなプロダクト開発に際しては、必ずしもこのような研究を伴うものではなく、倫理指針が問題とならないこともあります)。

この点についても、詳しくは過去の弊事務所ブログ13【AI医療機器開発連載・第3回】AI医療機器開発に関する臨床研究・医学系研究関連規制の適用(https://storialaw.jp/blog/10141で紹介しているため、参考にしていただければと思います。

5 法務面で主として必要となるドキュメント類

最後に、プロダクトの開発・提供や、起業に伴い準備すべきドキュメント類を整理します。

(1)プロダクト関連

プロダクトを提供する際には、「利用規約」という、プロダクトの利用にかかる契約内容を整理した約款や、「プライバシーポリシー」という、プロダクトにおいて利用される個人情報の取扱いに関して、個人情報保護法が求める公表事項等を整理したドキュメントを用意する必要があります。

医療機器該当性が問題となりうるような場合の利用規約(非医療機器として設計したい場合の利用規約)の作成は慎重な検討を要しますし、また3省2ガイドライン対応が必要である場合には、事業者が医療機関等との間で合意すべき事項を整理したSLA(サービス・レベル・アグリーメント)というドキュメントも必要となります。

その他、ドキュメント以外にも、生成AIサービスと個人情報保護法の関係で、外国事業者の生成AIサービスを利用する場合には、通常、個人情報保護法の外国第三者提供規制(法28条)の対応が必要となり、同意の取得設計や基準適合体制の検討などを要します。

(2)事業推進

開発業務を外部に依頼する場合には、外注先との間の業務委託契約が必要となり、営業活動を外部に依頼する場合には、外注先との間の営業代行契約や販売代理契約など、事業推進の方向性に照らして合理的な契約を締結する必要があります。

また、外部のアカデミアや民間企業といったパートナーとの研究を行うに際しては、①共同研究契約やデータ提供契約という契約書、②研究計画書、③同意説明文書/同意書などの文書を用意し、相手方との交渉を踏まえて活用をしていく必要があります。

また、プロダクトのプロトタイプ(試作プログラム)が完成したら、まずは勤務先や自身の関与先の医療機関において検証目的で利用してもらうことをスタートとするケースも多いです。この場合に、双方の役割分担や、検証にあたっての費用の取り決め、プロダクトの利用範囲等について定めた導入検証契約(PoC契約)を予め準備しておくとスムーズです。

(3)組織体制

起業に際して組織体制で特に気を付けておくべき事項は、複数名で起業する場合における株式の取り扱いです。とりわけ、スタートアップ企業を起業する場面において、創業者と共同創業者とが各自株式を持ち合うような場合には、創業者株主間契約などを締結し、万が一共同創業者が会社から離れる場合でも株を買い戻すことができるようにするなどの手当をすることが必要です。

創業者株主間契約についても過去のブログで紹介しておりますので、よろしければ参考にしてみてください14【スタートアップ資本政策連載・第4回】 創業株主間契約書(https://storialaw.jp/blog/11269

6 おわりに

生成AIを活用した開発環境の進化によって、生成AIを活用した医療・ヘルスケア領域のプロダクト開発に際して、従来型のスタートアップ起業以外の可能性も出てきています。これは、医師であるからこそ気がつける現場視点の課題を社会実装するためのチャンスが広がったことを意味します。

もっとも、起業してプロダクトを開発・提供するに際しては上記のように検討すべき事項が多岐にわたります。STORIA法律事務所では、従前取り組んできたバイオ・ヘルスケアスタートアップの支援から、近時増加する医師の個人開発支援まで、今後も幅広くリーガル面から支援してまいりますので、気になる方はお気軽にお問い合わせください。

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