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声とパブリシティ権・肖像権等の整理―法務省検討会を参考に その1

アバター画像 坂田晃祐

はじめに

2026年9月30日、声優の津田健次郎さんが、動画投稿サービス「TikTok」の運営会社に対して、投稿された動画データの削除を求める訴訟の判決が言い渡されました。動画では、生成AIを用いて同氏の声を模倣したナレーションが用いられており、津田さん側は、当該動画の公開が不正競争防止法違反及びパブリシティ権侵害に該当すると主張していました。動画自体が既に削除されていることから削除請求は否定されたものの、声についてパブリシティ権が成立しうる旨を裁判所が初めて述べた判決となりました。

この判決に先んじて、2026年4月に、法務省民事局が「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会」を設置し、同年8月に検討会の議論をまとめた報告書を公表しています。

本記事(全2回)では、上記報告書の内容を紹介して検討することとします。第1回は、声の模倣が行われた場合のパブリシティ権、肖像権、不正競争防止法についての基本的考え方について取り扱います。

声とパブリシティ権

声が保護の対象となるか

パブリシティ権を法的権利として認めたリーディングケースであるピンク・レディー事件判決(最判平成24年2月2日民集66巻2号89頁)は、次のように述べています。

人の氏名、肖像等(以下、併せて「肖像等」という。)は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有すると解される…。そして、肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)は、肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから、上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる。

パブリシティ権が発生する対象となるのは「肖像等」です。「肖像」とは、通常、人の姿形を写した像のことをいいますから、いわゆる見た目に関するもののみが範囲であるようにも読めます。

しかし、同判決の調査官解説1最高裁判所には、最高裁判事とは別に、判決に関する調査業務を担当する裁判官(最高裁調査官)が勤務しています。最高裁判決が出る際には、判決ごとに担当調査官が付されており、実務上重要な最高裁判決については、調査官が執筆した解説が様々な媒体に掲載されることがあり、これを調査官解説といいます。では、「肖像等」とは、本人の人物識別情報をいうものであり、例えばサイン、署名、声、ペンネーム、芸名等を含むものである、とされています2「最高裁判所判例解説 民事編 平成24年度 (上)」(法曹会)41ページ。

この点は、かねてより実務上有力視されていた見解であり、検討会においても、声がパブリシティ権の保護対象に含まれることについては異論がありませんでした。

なお、津田健次郎さんとTikTokの訴訟の判決では、以下のように判断がされ、声がパブリシティ権の対象になりうることが明記されています。

パブリシティ権に基づく削除請求の可否…に関し、人の声は、人の肖像と同様に個人の人格の象徴であるということができるところ、例えば実演家の声等を無断で使用する行為は、その声が商品の販売等を促進する顧客吸引力を有するといえる場合であって、その声を使用する行為が専らその声の有する顧客吸引力の利用を目的とするものといえるときは、パブリシティ権の侵害に当たると解するのが相当であるといえる。

パブリシティ権の法的性質

ピンク・レディー事件判決は、パブリシティ権を「肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから…人格権に由来する権利の一内容を構成する」と説明しており3調査官解説においても、氏名権・肖像権は、氏名・肖像の有する精神的価値に着目してこれを権利として構成するものであるが、パブリシティ権は、肖像等の有する商業的価値に着目した財産的利益を保護するものである、とされています「最高裁判所判例解説 民事編 平成24年度 (上)」(法曹会)28-29ページ、報告書も同じ整理を踏襲しています。

「人格権」とは、人が人である以上当然有している尊厳・人格的価値を保護する権利であり、判例上認められているものとして、名誉権4北方ジャーナル事件(最大判昭和61.6.11民集40巻4号872頁)、氏名権5氏名呼称事件(最三小判昭和63.2.16民集42.2.27)、公表されたくない事実をみだりに公表されないという意味でのプライバシー6近時の判断として、Google検索結果削除請求事件(最決平29.1.31民集71.1.63)及び前歴ツイート削除請求事件(最判令4.6.24民集76.5.1170)。なお、権利ではなく法的利益にすぎないと考える説もありますなどがあります。

声のパブリシティ権侵害の判断基準

ピンク・レディー事件判決は、パブリシティ権侵害が成立する類型を、大きく以下の三類型に分けています。また、同判決は、これらの類型は例示であり、三類型と実質的に同視できるケース(「など」類型)についてもパブリシティ権侵害が成立しうるとも述べています。

これを声についてあてはめると、次のようになります。

第1類型の場合

第1類型は、声それ自体を独立して鑑賞の対象とする類型です。報告書で挙げられている具体例として、ボイスメッセージ、ボイススタンプがあります。

また、動画のナレーション、オーディオブック、カーナビの音声、スマートスピーカーの音声については、第1類型と考えることもできます(第2類型のところで詳しく触れます)。

第2類型の場合

第2類型は、声自体が商品等ではないが、商品等の価値を高めるために付されている類型です。報告書で挙げられている具体例として、有名人の声が収録された目覚まし時計があります。

「付す」とはどのような意味か

第2類型に該当するためには、肖像等を商品等に「付す」ことが必要です。ピンク・レディー事件は、写真が問題となった事件でしたので、この「付す」とは、写真を商品等の表面やパッケージに印刷するなどして付加する行為、として理解されていました。

しかし、声の場合、ナレーションやオーディオブックのように、声が商品等自体に組み込まれている場合があり、これが「付す」といえるのか、という点が議論になりました。
検討会では、①「付す」は、「使用する」とニアリーイコールだと考えていいので、声が商品自体に組み込まれている場合も、「付す」に該当すると考えてよい7この場合、ナレーションやオーディオブックは第2類型に該当することになります。という意見と、②「付す」とは、商品等と肖像等を別個に観念して肖像等をマークとして付加することを指し、声が商品自体に組み込まれている場合、商品と声を別個に観念できないので、「付す」に含まれると考えるべきではない8この場合、ナレーションやオーディオブックは、第1類型または第2類型に準ずるものとして「など」に該当することになります。、という2つの意見がありました。

いずれの意見においても、ナレーションやオーディオブックがパブリシティ権の対象となることは変わりませんが、考え方によって若干位置づけが変わるということでご紹介しました。

第3類型の場合

報告書で挙げられている具体例としては、広告等へのナレーションの利用があります。いわゆるなりすまし広告も、第3類型に該当するとされています。

パブリシティ権侵害の損害賠償・差止請求

パブリシティ権が侵害された場合、権利者がとれる行動は、①パブリシティ権侵害によって生じた損害の賠償請求と、②パブリシティ権侵害行為をストップせよという差止請求の2つです。

損害賠償の範囲

逸失利益

ここでの逸失利益とは、抽象的には、「本来は声の持ち主が得られるはずだった利益であって、侵害行為によって失われた、あるいは侵害者に帰属したもの」ですが、このような逸失利益の立証は一般に非常に困難と言われています。

逸失利益を立証するためには、「侵害がなかったとすれば声の持ち主が得られた利益(声優であれば、声の仕事による売上・利益)」という架空の状態を考える必要がありますが、この売上・利益というのは元々水物ですから、侵害行為以外の事情によっても上下します。その他の事情を排除して侵害行為の影響のみを計算するというのは多くの場合難しく、「侵害と本当に関連のあるといえる売上・利益の減少があった」と証明することは困難である、ということになります。

上記のような事態に対処するため、各種の知的財産法は、損害の額を推定する9反証がなされない限り、ある事実があったと法的に一応考えることをいいます。規定を置いています。
パブリシティ権についても、一定の固有物・情報に独占的権利を与えるという意味で、知的財産権と機能は類似していることから、これらの推定規定(特に著作権法のもの)を類推適用することが、一部の裁判例において認められています。
報告書においては、特に著作権法114条3項10「その著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」(ライセンス料相当額)を損害額とする規定。を明示的に参照する、または参照はしていないもののライセンス料相当額11なお、ここでのライセンス料相当額は、いわゆる出演料とは別のものです。出演料には、肖像等の利用の対価だけではない要素が含まれているためです。報告書88頁・脚注197も参照。を損害額としているものが多いと整理しています12ここからは私見かつパブリシティ権侵害の話から少し外れますが、俳優の演技に対する報酬というのは、元からある財産(肖像等)のライセンスというよりも、その場その場の演技に対する対価という色彩が強いものと考えます。この場合、「AIに勝手に演技された」ことによって生じた損害というのは、(本当は自分が演技をすればもらえるはずだった)演技に対する対価である、と考えると、この被害をパブリシティ権侵害と捉えて、著作権法114条3項に基づいて損害を算定すること自体が、実態とは合っていないかもしれません。その場合に何の権利が侵害されているのか、ということですが、俳優の営業権が侵害されていると捉えるのが一番素直なように思います。。

また、侵害者の利益額を損害賠償額と推定する著作権法114条2項の類推適用も考えられますが、同項は「損害が発生したこと」までは推定しないので、権利者が侵害行為と競合する事業を展開していない場合には類推適用されない(損害が発生していないため)とする裁判例があります。

積極損害(パブリシティ権毀損自体の損害)

逸失利益とは別に、パブリシティ権自体が毀損されたことによって生じた損害を観念する裁判例も少ないながら存在します。しかし、損害額を見積もることが難しいという点、「パブリシティ権の毀損によって生じた損害」は、結局人格的価値の損害であってパブリシティ権ではなく肖像権の侵害ではないのかという点などから、普及はしていません。

精神的損害(慰謝料)

人格権・人格的利益が侵害されたときは、通常慰謝料が発生します。しかし、パブリシティ権は、人格権の財産的価値を評価する権利であり、その侵害に伴って発生する損害も、逸失利益等の財産レベルの損害がメインだと考えられています。このため、裁判例でも慰謝料は通常認められていません。

差止請求

パブリシティ権侵害に加えて差止めの必要性が認められれば、パブリシティ権侵害行為を差止めることができます。すでに侵害が終了しており、将来侵害するおそれが乏しい場合には、差止めの必要性が否定されます。

また、差止請求とともに、侵害によって生じた物品の廃棄を請求することも認められています。Webサイトからのコンテンツの削除やデータの廃棄等が想定されます。

パブリシティ権を誰が行使できるか

声優が事務所に所属している場合、通常、事務所との契約において、パブリシティ権を事務所が行使できるという条項を設けますが、損害賠償・差止請求との関係では、本人・事務所のどちらが請求者になるのでしょうか。

法律上は、請求できるのはあくまで本人というのが原則です。もっとも、損害賠償については、事務所が独占的な利用許諾を受けて現実に市場を独占しており、警告等をしてもなお侵害者が利用を継続しているときは、事務所自身に債権侵害を理由とする損害賠償請求権が認められ得るとされています(報告書44頁)。

差止請求については、債権者代位権13民法423条。自分が持つ債権(被保全債権)を保全するために、当該債権の相手方(債務者)が持っている権利を代わりに(代位して)行使できる制度。という制度を使って、声優が持っている差止請求権を代わりに行使することができないか、という検討がされてきました。

(「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会取りまとめ報告書―生成 AI によるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針―」43ページより引用)

現状の有力説は、本人が「権利侵害者が現れた場合には差止請求権を行使するという義務」(侵害排除義務)を負っている場合に代位行使が認められる、というものですが、実務上、タレント本人が侵害排除義務を負っているケースは想定しがたい14個人的にも契約書に明記されているケースは見たことがありません。という指摘もされています。

パブリシティ権を譲渡・相続できるか

パブリシティ権は人格権に由来する権利ですが、人格権は、その人固有の人格的価値に根ざした権利であるため、譲渡ができず15たとえば、人格権の一つである著作者人格権も、譲渡することができません。このため、作品(著作物)の権利の譲渡に伴って、著作者人格権の行使も今後予定しない場合には、「著作者人格権をこの人に行使しない」(著作者人格権不行使特約)という条項を合意します。、また相続もされない、と説明されるのが一般的です。

ところが、実務上、事務所とタレントの間の契約に、「事務所へパブリシティ権を譲渡する」、あるいは「パブリシティ権は事務所に帰属する」旨の条項が含まれることがあります。
パブリシティ権は人格権に由来する権利であるとはいえ、財産的価値を対象としたものですから、譲渡できた方が都合がいいというのも、ある意味合理的です16もっとも、期間を定めず・永続的に移転するというのは、事務所の移籍等も考慮すると、タレント本人の人格的利益を不当に侵害するものであって許容されない可能性が高いと考えられます。。
裁判例においても、パブリシティ権の譲渡を否定したもの、肯定したもの双方が存在します。

また、相続について、パブリシティ権が相続されない場合、本人の死後は肖像等を自由に利用することができます17Netflix製作のドラマ「地獄に落ちるわよ」の製作時、遺族の許諾はなかった(通知のみ)ことが話題になりましたが、倫理的・ビジネスマナー的にはともかく、法的にはベーシックな取扱いです。が、死後の肖像等によるマネタイズが困難となり、肖像等の利活用が損なわれるのではないか、という指摘もあります18茶園成樹「[講演録]パブリシティ権の現状と課題」コピライト 708 号(2020 年)。

報告書においては、以下のような意見は出たものの、パブリシティ権の譲渡性・相続性について現時点で一致した見解を導き出すことは困難である、という結論となっています。

  • 公序良俗に反しないと認められる範囲でパブリシティ権を譲渡する旨の合意、例えば、永続的に権利を移転するのではなく、期間を限定して、相手方に肖像等に関する利用権を物権的に設定することを内容とするものであれば、譲渡の合意として許容される余地があるのではないか
  • パブリシティ権の譲渡契約が公序良俗に反する可能性が高いとしても、それが無効か否かが確定するのは訴えが提起されて裁判所の判断が示された時であり、確定するまでは本人の不利益が生じ続けるということになるとすると、やはり譲渡性を肯定することには実務上問題がある
  • パブリシティ権の相続を認めるとしても、承継される権利の内容、保護期間や請求権者等について解釈論で導き出すことは困難である

声と肖像権

肖像権の法的性質

ピンク・レディー事件判決は、「人の氏名、肖像等……は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有すると解される」と判示しています。この「肖像等をみだりに利用されない権利」を、一般に「肖像権」と呼称します。

肖像権も、パブリシティ権と同様に人格権に由来する権利ですが、パブリシティ権とは異なり、精神的価値を保護するものです。

また、上記のとおり、「肖像等」には声も含まれます。

肖像権の権利侵害の判断基準

法廷内でカメラマンが被疑者の写真を撮影した事案(最判平成17.11.10民集59.9.2428)で、最高裁は、以下のように判示しています。

ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは、被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである…また、人は、自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益も有すると解するのが相当であり、人の容ぼう等の撮影が違法と評価される場合には、その容ぼう等が撮影された写真を公表する行為は、被撮影者の上記人格的利益を侵害するものとして、違法性を有するものというべきである

すなわち、肖像権侵害が疑われる行為の態様に応じた事情を総合考慮したうえで、人格的利益の侵害が受忍限度を超える場合には、肖像権侵害が成立します。

声の場合についても、上記の基準は基本的に維持されると考えられます。たとえば、ボイススワップによって本人は到底言わないと考えられる内容の発言をしているかのような動画が投稿されたり、なりすましアカウントが運営されたりしたような場合19なりすましアカウントが名誉毀損的言動をしていない場合でも、「なりすまされていること」自体が人格権の侵害と評価できる場合があります。には、受忍限度を超えると判断されるケースが多いと考えられます。
他方で、公務員又は公職選挙の候補者に対する政治的批判等の文脈で本人の肖像を利用する場合や、著名な人物の伝記作品や史実性の高い事件の再現映像等において再現性・迫真性を高めるために関係者の肖像を利用する場合には、受忍限度を超えるとはいえず、肖像権侵害が否定される可能性が高いと考えられます。

肖像権の損害賠償・差止請求

肖像権の損害賠償は、一般的に慰謝料の範囲で認められるとされています。また、差止請求についても、差止めの必要性があるかぎり認められます。

肖像権の譲渡

肖像権の譲渡は一般に否定されています。パブリシティ権と異なり、財産的価値の側面がないため、人格権の原則どおり判断されます。

死後の肖像等の利用

肖像権の相続は否定されていますが、死者の人格権を侵害するような行為によって、遺族本人の名誉・人格権もまた侵害される場合、遺族本人が損害賠償等を請求することができ、「故人に対する遺族の敬愛追慕の情」の侵害として整理されています。

考慮要素は生前と基本的に同様ですが、追加の考慮要素として、死亡後の期間(一般に長くなるほど権利侵害成立の可能性が低くなる)と、遺族と死者との関係(一般に親族関係が遠くなるほど権利侵害成立の可能性が低くなる)が挙げられます。

声と不正競争防止法

不正競争防止法は、一定の行為を「不正競争行為」として規制しており、声の利用が不正競争行為に該当する場合、当該行為は差止請求権(不正競争防止法3条1項)及び損害賠償の対象となります。声特有の論点が生じてくるのは以下の不正競争行為です。

周知表示混同惹起・著名表示冒用

他人の周知な商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用すること等により、自己の商品・営業を他人の商品・営業と混同させる行為(不競法2条1項1号)及び他人の著名な商品等表示と同一又は類似の商品等表示の冒用行為(同項2号)は、不正競争行為となります。

「商品等表示」とは、商品の出所又は営業の主体を示す表示をいいます。声自体が「商品」であり、聞くだけで「この人である」ということがわかるほどの知名度を獲得していれば、声それ自体が「商品等表示」となる可能性があります20この点について、報告書も引用する東京地判令5.12.11判時2616.134(岡田佑里乃事件)は、タレント業だけでなく自身で事務所から独立して営業活動をしていないと「商品等表示」には該当しない(独立していなければ、事業の主体はプロダクションである)、という判断をしていますが、疑問です。芸能人や声優はその演技自体が「商品」であって、まさにそれが本業なわけですから、芸能活動とは別の営業活動を行っていなくとも商品等表示に該当する余地はあります。同判決は、「本来的に商品又は営業の出所表示機能を有するものではない」としていますが、不競法自身が明文で商品等表示の定義に「氏名」を含めています。また、営業の主体論は、「商品等表示」が誰に帰属するか(「他人」該当性)の問題であって、商品等表示に該当するか否かとは無関係の問題のはずです(報告書69頁参照)。。

以上、報告書の内容に沿って、声とパブリシティ権・肖像権・不正競争防止法の一般的な整理をご紹介しました。第2回では報告書に記載された事例を検討します。

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  • 1
    最高裁判所には、最高裁判事とは別に、判決に関する調査業務を担当する裁判官(最高裁調査官)が勤務しています。最高裁判決が出る際には、判決ごとに担当調査官が付されており、実務上重要な最高裁判決については、調査官が執筆した解説が様々な媒体に掲載されることがあり、これを調査官解説といいます。 ↩︎
  • 2
    「最高裁判所判例解説 民事編 平成24年度 (上)」(法曹会)41ページ ↩︎
  • 3
    調査官解説においても、氏名権・肖像権は、氏名・肖像の有する精神的価値に着目してこれを権利として構成するものであるが、パブリシティ権は、肖像等の有する商業的価値に着目した財産的利益を保護するものである、とされています「最高裁判所判例解説 民事編 平成24年度 (上)」(法曹会)28-29ページ ↩︎
  • 4
    北方ジャーナル事件(最大判昭和61.6.11民集40巻4号872頁) ↩︎
  • 5
    氏名呼称事件(最三小判昭和63.2.16民集42.2.27) ↩︎
  • 6
    近時の判断として、Google検索結果削除請求事件(最決平29.1.31民集71.1.63)及び前歴ツイート削除請求事件(最判令4.6.24民集76.5.1170)。なお、権利ではなく法的利益にすぎないと考える説もあります ↩︎
  • 7
    この場合、ナレーションやオーディオブックは第2類型に該当することになります。 ↩︎
  • 8
    この場合、ナレーションやオーディオブックは、第1類型または第2類型に準ずるものとして「など」に該当することになります。 ↩︎
  • 9
    反証がなされない限り、ある事実があったと法的に一応考えることをいいます。 ↩︎
  • 10
    「その著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」(ライセンス料相当額)を損害額とする規定。 ↩︎
  • 11
    なお、ここでのライセンス料相当額は、いわゆる出演料とは別のものです。出演料には、肖像等の利用の対価だけではない要素が含まれているためです。報告書88頁・脚注197も参照。 ↩︎
  • 12
    ここからは私見かつパブリシティ権侵害の話から少し外れますが、俳優の演技に対する報酬というのは、元からある財産(肖像等)のライセンスというよりも、その場その場の演技に対する対価という色彩が強いものと考えます。この場合、「AIに勝手に演技された」ことによって生じた損害というのは、(本当は自分が演技をすればもらえるはずだった)演技に対する対価である、と考えると、この被害をパブリシティ権侵害と捉えて、著作権法114条3項に基づいて損害を算定すること自体が、実態とは合っていないかもしれません。その場合に何の権利が侵害されているのか、ということですが、俳優の営業権が侵害されていると捉えるのが一番素直なように思います。 ↩︎
  • 13
    民法423条。自分が持つ債権(被保全債権)を保全するために、当該債権の相手方(債務者)が持っている権利を代わりに(代位して)行使できる制度。 ↩︎
  • 14
    個人的にも契約書に明記されているケースは見たことがありません。 ↩︎
  • 15
    たとえば、人格権の一つである著作者人格権も、譲渡することができません。このため、作品(著作物)の権利の譲渡に伴って、著作者人格権の行使も今後予定しない場合には、「著作者人格権をこの人に行使しない」(著作者人格権不行使特約)という条項を合意します。 ↩︎
  • 16
    もっとも、期間を定めず・永続的に移転するというのは、事務所の移籍等も考慮すると、タレント本人の人格的利益を不当に侵害するものであって許容されない可能性が高いと考えられます。 ↩︎
  • 17
    Netflix製作のドラマ「地獄に落ちるわよ」の製作時、遺族の許諾はなかった(通知のみ)ことが話題になりましたが、倫理的・ビジネスマナー的にはともかく、法的にはベーシックな取扱いです。 ↩︎
  • 18
    茶園成樹「[講演録]パブリシティ権の現状と課題」コピライト 708 号(2020 年) ↩︎
  • 19
    なりすましアカウントが名誉毀損的言動をしていない場合でも、「なりすまされていること」自体が人格権の侵害と評価できる場合があります。 ↩︎
  • 20
    この点について、報告書も引用する東京地判令5.12.11判時2616.134(岡田佑里乃事件)は、タレント業だけでなく自身で事務所から独立して営業活動をしていないと「商品等表示」には該当しない(独立していなければ、事業の主体はプロダクションである)、という判断をしていますが、疑問です。芸能人や声優はその演技自体が「商品」であって、まさにそれが本業なわけですから、芸能活動とは別の営業活動を行っていなくとも商品等表示に該当する余地はあります。同判決は、「本来的に商品又は営業の出所表示機能を有するものではない」としていますが、不競法自身が明文で商品等表示の定義に「氏名」を含めています。また、営業の主体論は、「商品等表示」が誰に帰属するか(「他人」該当性)の問題であって、商品等表示に該当するか否かとは無関係の問題のはずです(報告書69頁参照)。 ↩︎