人工知能(AI)を利用したビジネスモデルを考えてみた

前回の記事「人工知能(AI)が作ったコンテンツの著作権は誰のものになるのか?」の続きです。

前回の記事では、

▼ 人が創作的な関与をしないAI創作物は、現行著作権法を前提とすると誰にも権利が発生しないことになる。
▼ しかしそうするとAI創作物生成のインセンティブが失われる可能性があることから、適切な法的保護は必要。
▼ この際には「AI創作物を利用したビジネスモデルとしてどのようなものがあって、そのビジネスモデルにおいて誰に、どのような権利を与えることが、もっともプレーヤーのインセンティブを増し、それによって豊かなコンテンツが世の中に流通することになるのか」という視点でこの問題を考えなければならない。
というところまで書きました。

では、AI創作物を利用したビジネスモデルとは、どのようなものでしょうか。
具体的に考えてみます。

■ AI創作物を利用したビジネスモデルはどういうものか

 では、AI創作物を利用したビジネスモデルを考えてみましょう。
 AI創作物の生成・利用には様々なプレイヤーが関与しています。
 非常に単純なビジネスモデルで考えてみましょう。
 下の図を見てください。

スライド1

 A:AIプログラムを制作した人
 B:Aが制作したAIプログラムに対してビッグデータによる教育を施した人
 C:学習済みのAIプログラムにAI創作物の創作指示をする人・完成したAI創作物を流通させる人
 です。「学習済みのAIプログラムにAI創作物の創作指示をする人」と「完成したAI創作物を流通させる人」は通常一致すると思うので、いずれもCとしてあります。

 まずAがAIプログラムを制作し、それにBがビッグデータによる教育を施す、この段階で「学習済みAIプログラム」が完成し、誰かがそのプログラムに創作指示をすればAI創作物が創作される状態になります。
 そこでCが「創作指示」、具体的には単に「創作」ボタンを押す行為かもしれないし、あるいは何かの材料を与えたうえでの「創作」ボタンを押す行為かもしれません、そういう行為をするとします。いずれにしても、Cさん自身は何ら創作的な行為を行っていないとします。
 それにより沢山のAI創作物が出来るわけですが、Cとしては当然当該AI創作物を利用して商売をしなければならないということになりますので、AI創作物を世の中で流通させる行為をします。たとえば音楽であれば、レコード会社が著名歌手に歌わせたりプロモーション活動をするでしょうし、文学であれば出版社が出版(リアル・電子書籍双方)活動を行うと思われます。
 そのような経路を経て、最終ユーザー(市場)がAI創作物を利用・消費することになります。

 この非常にシンプルなビジネスモデルを前提としたときに、インセンティブという観点から見ると誰にどのような権利を与える必要があるか、ということです。
 AI創作物に関する権利を与えなくても、別の方法で投資を回収できるのであれば、新しく権利を与える必要は無いのではないかということですね。

■ AI創作物については、関わるプレーヤーごとに権利を与える必要性が違う

 A、B、Cに分けて考えてみましょう。
 先ほどの図に「対価の流れ」、つまり投下資本の回収を付け加えてみます。

スライド2

 ・ AはAIプログラムをBないしCに販売・ライセンスして対価を取得
 ・ Bも同じように学習済みAIプログラムをCに販売・ライセンスして対価を取得
 ・ Cは最終的にAI創作物をユーザー(市場)に販売・ライセンスして対価を取得
 ということですね。

▼ AIプログラム制作者には権利付与不要

 まず、AIプログラムの制作者であるAは、AIプログラムをBなりCに提供する際にライセンス契約を結んで適切な対価を得ることが可能です。しかも、AIプログラムの制作者には、元々AIプログラムそのものの著作権・特許権が帰属していますから、万が一AIプログラムが不正にコピーや利用をされたとしても、著作権・特許権を行使することが出来ます。
 このように、AIプログラム制作者には投資回収の機会は確保されていますので、特段AI創作物に関する権利を付与する必要は無いということになります。
報告書も同じ結論です。

▼ AIプログラムを教育した人は?

 次に、AIプログラムにビッグデータを与えて「教育」したBはどうでしょうか。具体的にどのように「教育」するかよくわからないのですが、委員会の議事録なんかを見ると 「現状、ディープラーニングを動かせるプレーヤーというのは、よほどお金持ちでないと無理」「画像認識などでも半年くらいプログラムを動かしているのが当たり前になってきている」ということのようです。
 そうなるとBは「教育」についても相当の投資をしているということになります。
 ただ、BについてもAと同様、投資の回収の機会は保証されています。
 たとえば
 1 Cに対して学習済みAIプログラムを販売やライセンスしたり
 2 あるいはプログラム利用を有償サービス化して、最終ユーザーがそれらのプログラムをWEB上で利用できるようなサービスを提供する
 などの方法です。
 1つ目の方法はBtoBサービス、2つ目の方法はBtoCサービスと言い換えてもいいかもしれません。
 となると、BにもAI創作物に関する権利を付与する必要性に乏しいように思います。
 さらに、教育済みのAIプログラム自体が勝手にコピーされるということは普通は考えられませんよね(プログラムが生成したAI創作物が勝手にコピーされるということは容易に考えられますが)。
 ということで、AIプログラムを教育した人にもAI創作物に関して何かの権利を与える必要は無いのでは無いかと思います。
 報告書ではこの点については明記されていませんが、議事録を見る限りおそらく同じような結論と思われます。

▼ AI創作物の創作指示をして、流通させた人には何らかの権利を与える必要あり。

 最後に、学習済みのAIプログラムにAI創作物の創作指示をし、生成されたAI創作物を流通させるCです。
 たとえば、映像制作会社やレコード会社や出版社など従来のいわゆるコンテンツ産業のプレーヤーが多いかもしれませんが、全く異業種のプレーヤーが参入してくるかもしれません。
 このCは、生成したAI創作物を世の中に流通させてユーザーに販売・ライセンスするというビジネスを行うことになります。
 ですので、基本的には当該ユーザーからの対価獲得の機会は存在する、ということになります。
 しかし、AやBと違うのは、「AI創作物は簡単にコピーできる」という点です。
 なので、もしAI創作物に何の知的財産権も発生しないということになると、Cが世の中に出して、プロモーションのために多大な投資をして人気になったAI創作物についても、誰かがそれを利用して別の商売をすることが自由、ということになってしまいます。
 そうすると、Cとしては投下資本を回収できませんから、AI創作物を使ったビジネスをするインセンティブが生じにくい、ということになります。
 なので、このCに対しては、何らかの権利を付与する必要性がありそうです。
 では、具体的にどのような権利を付与すべきなのでしょうか。
 いよいよ最後です。

■ AI創作物の創作指示をして、流通させた人にはどんな権利を与えるべきなのか?

 この点については委員会でも熱心に議論が交わされています。
 その結果、まずCに、全てのAI創作物に関する「著作権」を付与するのは、保護のしすぎという点については意見が一致しています。
 著作権というのは、何の登録手続きもなしに権利が発生しますし(無方式主義)、著作者人格権もあるし、保護期間も長く、かつほぼあらゆる利用方法についてノーといえる権利だからです。
 AI創作物は爆発的に増加する可能性が高いですから、それら全てのAI創作物に著作権が発生するということになると、Cに強すぎる権利を与えるのではないか、インセンティブ付与という観点からも保護過剰ではないか、というのが委員会の結論です。
 ではどうするか。
 この点については知財計画2016に重要な記載があるので、そのまま引用します。

(略)あらゆるAI創作物(著作物に該当するような情報)を知財保護の対象とすることは保護過剰になる可能性がある一方で、フリーライド抑制等の観点から、市場に提供されることで一定の価値(ブランド価値など)が生じたAI創作物については、新たに知的財産として保護が必要となる可能性があり、知財保護の在り方について具体的な検討が必要である【知財計画2016・8頁より】。

 つまり、「AI創作物を生成したこと」ではなく、「AI創作物を世に広めて一定の価値(ブランド価値など)を生じさせたこと」に対して権利を付与しよう、ということです。
 知財計画2016では「知財保護の在り方について具体的な検討が必要」と抽象的に書いてあるのですが、報告書ではこの点について「商標、または不正競争防止法の商品等表示の保護に類するような仕組みが想定される」と明記されています
 
 つまり、Cが生成したAI創作物すべてに権利が付与されるということではなく、
 ・ 登録されたAI創作物(商標類似)
 ・ 流通の結果、周知性や著名性を獲得したAI創作物(不正競争防止法上の商品等表示類似)
 のみが保護される、ということになります。

スライド4

 報告書でこのような方向性が打ち出されたことから、おそらく今後もこの流れに沿った議論になるのではないでしょうか。

■ まとめ

以上述べたことをまとめます。
▼ 人が創作的な関与をしないAI創作物は、現行著作権法を前提とすると誰にも権利が発生しないことになる。
▼ しかしそうするとAI創作物生成のインセンティブが失われる可能性があることから、適切な法的保護は必要。
▼ ただし、AIプログラムの制作者、AIプログラムにビッグデータによる教育を施した者には権利付与不要。
▼ AI創作物を流通させた者には一定の権利を与えるべきだが、全てのAI創作物に著作権を付与するのは保護過剰。
▼ 生成されたAI創作物すべてに権利が付与されるということではなく、「登録されたAI創作物(商標類似)」「流通の結果、周知性や著名性を獲得したAI創作物(不正競争防止法上の商品等表示類似)」のみが保護されることになるのではないか。

弁護士柿沼太一

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