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平成30年司法試験(商法)から強引に企業法務の勘所を導き出してみた件

菱田昌義 菱田昌義

■ はじめに

平成30年5月20日(日)に今年の司法試験が終了しましたね!
司法試験は、延べ4日間・合計19時間55分の長丁場の試験です。
受験生の皆様、お疲れ様でした。

そして、早速、5月22日に問題文がUPされました(法務省HP)。
さて、本ブログは、知的財産・AI・IT・ベンチャー企業法務に携わる方向けのブログです。
そこで、今回は、本年の司法試験の商法(会社法)の問題を通じて、強引に、実務・企業法務の勘所を導き出したいと思います。
いざ、検討してみると、複雑な事例ではありますが、実際に起こりかねない話でした!

※「本レジュメ」については、弁護士菱田昌義のレジュメ集(こちら)をご参照ください。
※ 受験生の方は、今後、公表される出題の趣旨・採点実感をご参照ください。

■ 設問1(事案の概要)

Aは、関東のP県において、個人でハンバーガーショップを経営していました。
その後、Aは、規模拡大のため、甲株式会社を設立することに。Aは、子B、弟C、使用人Eを取締役にしました。また、株式は、ABCのほか、叔父であるDも200株保有しています。
ところで、Dの子Fは、近畿のQ県でハンバーガーショップ事業を営む乙株式会社を経営していました(なお、甲社は関東の会社であり、近畿に進出する予定はありませんでした)。

ここで、問題が起きます。Aと弟Cとで経営方針が対立してしまうのです。
こうなると、会社支配権をどちらがとるのかが重要ですね。

まず、弟Cが動きます。Cは、叔父Dに接触し、①Aが仕入先からの不正リベートを受け取っていること、②Aを解任したいので株式総会で賛成して欲しいと提案します。しかし、Dは、甲社にすでに見切りをつけていたので、株式の買取りを求めました。Cは手元不如意だったため、話は保留に。

次に、叔父Dは、Aに会いに行きます。不正リベートを知ったDの目的はもちろん……Dは、Aの責任を追及するためとして、直近3期の総勘定元帳とその補助簿の閲覧請求をしました。困ったAは、どうしたらよいかDに尋ねたところ、Dからは「Aの不正リベートなど本当はどうでもいい。実は、株式を買い取って欲しいんだ」との要望が。

怖い話ですね。
ここで最初のクエッション。甲社(A側)は、Dの会計帳簿閲覧請求を拒否できるか?

■ 設問1(解説、実務のポイント)

計算書類とは、貸借対照表(BS)や損益計算書(PL)等を指します(会社法435条)。
しかし、BSやPLをみても、取引先や原価等はわかりません。
これらを知るためには、企業秘密の塊である会計帳簿(計算書類の作成の基礎となる帳簿)の閲覧請求をする必要があります(会社法433条)。
この、会計帳簿については、100分の3以上を有する株主であれば、閲覧する権利があります。

もっとも、会計帳簿を見られると、重要な書類だけあって会社に甚大な損害が生じかねませんので、一定の場合、会社は、その閲覧請求を拒否できるとされています。

【会社法433条2項】 ※抜粋
「株式会社は、次のいずれかに該当すると認められる場合を除き、これを拒むことができない。
①当該請求を行う株主(以下この項において「請求者」という。)がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。
③請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき。

1 Dが実質的に競争関係にある事業を営んでいるとの理由で拒絶
甲社と乙社は、ともにハンバーガーショップ事業をしています。
そこで、433条2項3号(Dが実質的に競争関係にある事業を営んでいる)に該当するとして拒否できるのでしょうか。

ここでの「実質的に競争関係にある」とは、会社が実際に行っている取引と、目的物と市場(地域・流通段階等)が競合する取引きをいいます(433条2項3号=356条1項1号説。神作裕之・ジュリ1068号105頁も参照)。
会社が現に行っていない地域や事業範囲であっても、具体的に準備を進めるなど、近い将来、競争関係に立つ蓋然性が高い場合も本号に該当すると扱う裁判例があります(東京地決平成19年9月20日判時1985号140頁「楽天対TBS事件」。競業取引規制について、東京地判昭和56年3月26日判時1015号27頁「山崎製パン事件」・レジュメ・統合55頁 )。
しかし、本件では、関東中心の甲社は、関西に具体的な進出予定がありませんので、実質的に競争関係にあるとは評価できないと考えるほうが素直でしょう(なお、これがIT企業等であれは、もはや地域性を問題としないとの結論もあり得るでしょう。)。
そのため、本号で拒絶することはできないでしょう(以上につき、レジュメ・統合111頁参照)。

2 請求者がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとの理由で拒絶
433条2項3号(上記1)では、Dの目的(主観面)は問いません(最判平成21年1月15日民集63巻1号1頁)。しかし、1号では「その権利の確保又は行使に関する調査以外の目的」での請求を拒絶できるとしています。
本件では、①D自身「不正リベートなど本当はどうでも良い」との発言していること、②Cから不正リベートを教えられた時点で、Dは既に甲社に見切りをつけてCへ株式の買取りを求めていることからすると、不正リベートを追及するための調査目的はなかったといえるでしょう(制度の目的外利用。なお、大阪地判平成11年3月24日判例時報1741号150頁もご参照)。
そのため、本号で拒絶することができるでしょう。

3 その他
司法試験的には、請求者たるDが、「事業を営み、又はこれに従事する」といえるのか(乙社の株式100%を所有していること)を認定しておく必要があります。
なお、本文の事情からは判断が難しいですが、Dによる請求理由が具体性を欠いているとはいい難い事案でしょう(最判平成16年7月1日民集58巻5号1214頁)。また、会社法433条2項の他の各号(特に2号)は、非訟手続中では主張するかもしれませんが、司法試験の答案レベルでは不要でしょう。

【実務のポイント】

▼会計帳簿は、計算書類に比べ、とても重要な機密情報が記載されている。
▼100分の3以上を有する株主には会計帳簿閲覧請求権がある。
▼突然、親族である株主Dが「会計帳簿閲覧」にやってくる可能性がある。
▼拒否できる場合は限定されている上、会社側が立証しなければならない。
▼司法試験では「不正リベートなど本当はどうでも良い」との発言が前提になっているが、裁判中(非訟手続中)では、そもそもこの発言があったか否かが争われることが多い。

持株比率については、過半数を占めるか否かも重要ですが、100分の3以上等の少数株主権も極めて重要です。

■ おわりに

今年の司法試験では、株主数が4名の非公開会社(株式を自由に譲渡できない会社)の会社支配権を巡って、会計帳簿閲覧請求、株主総会運営、利益供与、議事整理権などが問題となりました。

本記事では文字数・時間の関係で検討をしていませんが、その後、この問題は、取締役Aとその友人Gの責任問題(もちろん金銭的!)に発展していきます(レジュメ・統合39頁以下)。

どこかで聞いたことがあるような問題ばかりです。

それにしても、トップ画像のハンバーガー、カロリーが高そうです。

【余談】
なお、設問2の小問1について若干コメントをしておきます。

1 「C解任決議」(可決)について
Aは、利益供与(レジュメ・統合11頁以下。最判平成18年4月10日民集60巻4号1273頁「蛇の目ミシン事件」)によって委任状を獲得したD分の議決権を行使することによって、「C解任決議」を可決させています。決議の方法の法令違反といえるため(東京地判平成19年12月6日判タ1258号69頁「モリテックス事件」)、株主総会の取消事由に該当するでしょう。

そして、この瑕疵は、そもそも違反する事実が刑事罰に該当しうるほど極めて悪質ですので、決議への影響(票数の問題。仮に200票を除外すると約68%の得票数になる。)を検討するまでもなく、裁量棄却は想定し難い事案です(レジュメ・統合31頁以下)。

なお、司法試験においては、株主総会における特別利害関係人該当性、白紙委任状の効力を検討する必要があるでしょう。

2 「A解任決議」(否決)について
A解任決議は、否決されています。
否決ということは、現状維持ということですので、裁判では争えないと考えられています(最判平成28年3月4日民集70巻3号827頁「HOYA事件」、レジュメ・統合26頁以下)。
なお、最高裁とは異なり、会社法304条但書等との関係から、争えるという見解もあります(本件では、否決決議の取消しによって新たな法律関係が生ずることを、不正リベートの説明が「C解任決議(可決)」と関係すること等から説得的に記載する必要があるでしょう。)。

仮に上記で、否決決議を争えるとの立場に立ちます。
Cが不正リベートを追及しようとしたところ、議長Aが制止したことが問題です。
本件では、会社側に説明義務は生じませんので(株主提案の説明義務につき、レジュメ・統合11頁脚注 )、もっぱら議事整理権(会社法315条)の問題となります。
本文の事情から明らかではありませんが、①解任議案についてその具体的事由は重要であること、②議題数・株主数からみて時間的な制約も考えにくいこと等から、今回のAによる議事整理権の行使は、著しく不公正なものといえるでしょう(最判平成8年11月12日判時1599号139頁「四国電力事件」参照。)。

弁護士菱田昌義

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