著作物ではないデータベースをコピーした場合、著作権法に違反しないが、一定の要件のもとでは不法行為が成立するとして損害賠償を認めた事例です。

東京地裁平成13年5月25日中間判決(判例タイムズ第1081号267頁,判例時報第1774号132頁)
P1150047

■事案の概要

 原告はソフトウェア会社で、自動車整備業者向けのシステムを開発し販売していました。当該システムの中には、日本国内において実在する四輪自動車に関するデータベース(原告データベース)が組み込まれていました。

 原告データベースを作成するためには、実在の自動車のデータの収集及び管理に多大な費用や労力をかける必要があり、原告は,当該データベースの開発に5億円以上,維持管理に年間4000万円もの費用を支出していました。

 一方、被告も原告と同様自動車整備業者向けのシステムを開発し販売していました。

 原告は、被告の販売しているシステムの中に含まれているデータベース(被告データベース)は原告データベースを模倣したものだとして訴えを起こしました。


【主たる争点】

1 原告データベースは「著作物」として保護されるか

2 1が否定された場合(著作物と認められなかった場合)、原告は被告に何も請求できないのか

 なお、被告データベースが原告データベースを模倣したものかどうかも争われたのですが、いろいろな理由(データ数の大部分が一致、ダミーデータも一致など)から、裁判所は模倣を認めました。また被告が模倣データベースを顧客に納入していることを原告が証拠化した過程なども結構面白いのですが、ここでは触れません。


■裁判所の判断(要旨)

1 原告データベースは「データベースの著作物」として保護されるか

 「データベースの著作物」として保護されるためには、「その情報の選択又は体系的な構成によつて創作性を有するもの」と認められなければなりません。

 本件で原告は、対象となる自動車の選択,自動車に関する情報の選択及び体系的構成に創作性があると主張しましたが、いずれもありふれた選択であり、ありふれた構成であるとして「データベースの著作物」とは認められませんでした。

 しかし構築と維持に多大な費用と人手をかけたデータベースについて、一切保護されない、模倣し放題、というのではあまりに不自然ですよね。ちなみに本件のような場合、事情によってはデーターベースが不正競争防止法上の「営業秘密」として保護される可能性もありますが、本件では問題とされていません。

2 1が否定された場合(著作物と認められなかった場合)、原告は被告に何も請求できないのか

裁判所は

・ 被告の行為が仮に著作権侵害にあたらなくとも、それ以外の法的保護に値する利益の侵害があった場合には不法行為に該当する。

・ 人が多大な費用や労力をかけてデータベースを作成して販売している場合に、ライバル業者がそのデータベースのデータを複製し、競合地域において販売する行為は,著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業活動上の利益を侵害するものとして,不法行為を構成する場合がある。

 要するに、仮に著作権侵害でないとしても他の権利を侵害している一定の場合には不法行為が成立する余地があるよ、としたのですね。そしてデータベースの複製の場合にどのようなケースが不法行為に当たるかの基準をまず立てたわけです。

 さらに、本件について

 (1) 原告は,データベースの開発に5億円以上,維持管理に年間4000万円もの費用を支出していること

 (2) 原告と被告は自動車整備業用システムの販売につき競業関係にあること

 (3) 実際に,富士モータースにおいて,従前は原告システムを導入していたものの,その後,被告システムに変更したこと

 (4) 被告は,原告データベースの相当多数のデータをそのまま複製し,これを被告データベースに組み込み,顧客に販売していたこと

を理由として、被告が本件データベースのデータを被告データベースに組み込んだ上,販売した行為は,取引における公正かつ自由な競争として許される範囲を甚だしく逸脱し,法的保護に値する原告の営業活動を侵害するものとして不法行為を構成する、としました。

このように、著作権法で保護されないデータベースであっても、一定の条件の下では保護される道が開かれたのです。