ベンチャーを立ち上げた方から「いつ法人化すべきでしょうか」という質問をよく受けます。
この質問に対する私たちなりの答えはこの記事の最後に書いてありますが、そもそもその前提としてベンチャーにとって法人化することのメリットって何なのかがわからないと、この点についての答えは出ません。
そこで、まずはそこから説明をします。

Group Business People Corporate Meeting Concept

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■ ベンチャーにとって、法人化することのメリットって何?

ネットで「法人化 メリット」で検索すると沢山の記事がヒットしますが、だいたい「法人化すると節税できます」「法人化すると対外的な信用が増します」の2点が主要なメリットとして書かれています。
もちろん間違いではないのですが、節税を考えているベンチャーってあまりいないでしょうし、ベンチャーが評価されるのは「事業がイケているかどうか」であって法人か個人事業主かで評価は変わらないような気がします。
私たちが考える、ベンチャーにとっての法人化のメリットはたった2つです。

1 メンバー個々人から独立した別の主体を作ることができる
2 外部からの資金調達がしやすくなる

■ メンバー個々人から独立した別の主体を作ることができる

「メンバー個々人から独立した別の主体を作ることができる」というのが法人化のメリットです、と言われてもピンと来ないかもしれません。
結論から言うと、こういうことです。

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もう少し具体的に考えてみましょう。
前回記事の「チーム立ち上げ時にメンバー間で必ず握っておくべきこと」では、よくあるトラブルとして以下の3つを紹介しました。

1 コアメンバーの1人だったエンジニアが他のメンバーと揉めてチームから離脱、その後「自分が作ったアプリだから使わないでくれ。使うんだったらお金を支払ってくれ」と言ってきた。

2 事業がきわめて順調に進み、かなりの利益が貯まってきたため、コアメンバーの1人が「モチベーションをあげるため利益をメンバーで分配しよう」と言いだしたが、あなたはさらなる成長のために利益分配はしたくない。

3 大学生同士で結成したチームの中の1人が就職を機に離脱、その際に「自分はここで抜けるから、これまでの活動で貯まったもののうち、自分の貢献分について精算してくれ」と言ってきた。

これらのトラブルは、事業活動の結果生じたアウトプットが、メンバーの誰に帰属しているかが曖昧なため生じたものであるということでしたね。
しかし法人化していれば、法人の事業活動の結果生じたアウトプットは、個々のメンバーではなく法人に帰属します。
そのため、これらのトラブルのほとんどを防ぐことができます。
先ほどの各トラブルパターンごとに具体的に見てみましょう。

▼  コアメンバーの1人だったエンジニアが他のメンバーと揉めてチームから離脱、その後「自分が作ったアプリだから使わないでくれ。使うんだったらお金を支払ってくれ」と言ってきた。

法人化している場合、コアメンバーは通常は取締役に就任しているか、すくなくとも従業員であると思われます。そして、取締役や従業員が法人の業務として制作したプログラムは法人に著作権が帰属します(著作権法15条)
したがって、特に何もしなくても、プログラムの著作権は法人に帰属していることになり、エンジニアは「当該プログラムが自分のものだ」とは言えないことになります。
もちろん、コアメンバーですから、抜けるときは、その株式をどう処理するかの問題は残りますが、その点については創業者間契約を締結しておけば良いのです。
したがって法人化することで、システム・デザイン・アプリ等の著作物の帰属に関するトラブルは防げることになります。

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▼ 事業がきわめて順調に進み、かなりの利益が貯まってきたため、コアメンバーの1人が「モチベーションをあげるため利益をメンバーで分配しよう」と言いだしたが、あなたはさらなる成長のために利益分配はしたくない。

法人として事業を行っている場合、利益は全て法人に帰属し、個々のメンバーが利益に対して直接何らかの権利を持っているわけではありません。個々のメンバーが持っているものは法人に対する持ち分(株式)だけです。
メンバー(株主)が利益の分配を受けようと思えば、株主として法人から配当を受けるしかありません。
したがって、このケースでもメンバーが自分の希望だけで自由に利益分配を受けられるわけではなく、分配を受けられるかどうかは株主総会における多数決で決まります。そして、ベンチャーが配当をすることは通常はありませんので、トラブルも生じようがないということになります。
以上、この場合も法人化しておけばトラブルは生じにくいということになります。

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▼ 大学生同士で結成したチームの中の1人が就職を機に離脱、その際に「自分はここで抜けるから、これまでの活動で貯まったもののうち、自分の貢献分について精算してくれ」と言ってきた。

法人として事業を行っている場合、法人名義の資産は全て法人に帰属し、個々のメンバーがその資産に対して直接何らかの権利を持っているわけではありません。
株主が法人資産の分配を受けようと思えば、「会社を解散して法人資産を分配する」「会社に株式を買い取って貰う」などの方法がありますが、いずれも法人の株主総会で決めることですので、自分の希望だけで自由に分配を受けられるわけではありません。
したがって、この場合も、法人化しておけばトラブルは生じにくいということになります。

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▼ まとめ

このように
「メンバー個々人から独立した別の主体を作ることができる」
それによって
「事業によるアウトプットがすべて法人に帰属する」
だから
「個々のメンバーが自分勝手なことを主張するのを押さえて事業を大きくすることが出来る」
というのが法人化の大きなメリットです。
創業当初は一枚岩だったはずのコアメンバーも、事業が継続するにつれ、環境の変化や内心の変化が生じることがあります。それ自体はやむを得ないことですが、その際に簡単に「いち抜けた」され、しかも事業に必要な資産の一部を持って行かれてしまったのでは、いつまでたっても事業は成長しません。
株式の過半数さえ握っておけば、他のメンバー(株主)を拘束することが出来るという点に、法人というシステムの優れた点があるのです。

■ 外部からの投資を受け入れやすい

法人化のもう一つのメリットは、「外部からの投資を受け入れやすい」という点です。
ベンチャーである以上、外部から投資を受ける機会がいずれ来ます(というか、その機会を必死で掴みに行かなければなりません)。
もちろん、投資を受ける方法には色々あるのですが、ベンチャーにとって大事なのは「シンプル」であることです。シンプルであれば、投資家も理解しやすいですし、余計なコスト(時間的コストも含みます)もかかりません。
そして、現時点の日本においては最もシンプルかつ広く普及している投資方法は、株式による投資です。
株式による投資を受けるためには、当然株式会社でなくてはならないので、法人化(株式会社化)することで投資を受け入れやすくなります。
この点も法人化の大きなメリットです。

■ まとめ

このように、ベンチャーにとって法人化のメリットは大きく分けて2つあります。
1つは個々のメンバーが自分勝手なことを主張するのを押さえて事業を大きくすることが出来る」こと、もうう1つは、株式会社であれば投資家は投資しやすい、つまりベンチャーにとっては資金調達がしやすいということです。
この2つを押さえておけば「ベンチャーはいつ法人化すべきか」という点に関する答えは簡単に見えると思います。
答えは
「可能なかぎり早めに法人化したほうがいい」
です。

ただ、複数のコアメンバーで始めた事業を法人化する際に非常に重要な点があります。
それが「創業者間契約」です。
詳細は次回説明します。

弁護士柿沼太一

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