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島野製作所、特許訴訟第一審はアップルに敗訴。ここまでの動きと今後の流れを整理する

杉浦健二 杉浦健二

アップルの下請会社だった島野製作所(東京都荒川区)がアップル社を訴えた裁判で、3月17日、東京地裁は島野製作所の請求を棄却する判決を言い渡しました。
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(前回記事)リアル下町ロケット!島野製作所がアップルを訴えた裁判で、なぜ島野は中間判決で勝てたのか

米アップル社に部品を供給していた日本の精密部品メーカー「島野製作所」(東京都)が、特許を侵害されたとしてアップル社に約6億7千万円の損害賠償とノートパソコンなどの販売差し止めを求めた訴訟で、東京地裁(長谷川浩二裁判長)は17日、島野製作所の請求を棄却する判決を言い渡した。
島野製作所は、アップル社のパソコンの電源アダプターに使われている特殊なピンが、特許を侵害したと主張。アップル社は「ピンを共同開発したのに、島野製作所が勝手に特許を取った」と反論していた。
アップル勝訴、下請け会社の特許侵害請求棄却 東京地裁(朝日新聞DISITAL)

敗訴判決を受けての、島野製作所プレスリリースです。

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島野製作所ウェブサイト「アップル社との特許訴訟判決のお知らせ」より

「当社と致しましては、判決を真摯に受け止めたいと思いますが、当社のアイデアが法廷の場で否定された事は、日本の技術の衰退につながることでもあり、真に遺憾であります。今後の対応については当社顧問弁護士と協議して参る所存です。多くの皆様からご声援を賜りましたことを心より感謝し、この場を借りて御礼申し上げます。」

この種のプレスリリースとしては、島野製作所の熱い部分が込められたものになっており、同社のスタンスや本訴訟に賭ける想いが伝わる内容です。

■今回の敗訴判決と島野が勝訴した中間判決は別の裁判

ネット上でやや混乱が見られるので整理すると、今回島野が敗訴した特許訴訟と2月に島野が中間判決で勝訴した独禁法訴訟は、別の裁判です。
島野のプレスリリースによれば、島野はアップルに対して2つの訴訟を提起しています。

(1)特許権侵害を理由とする訴訟(アップル製品の販売差止と損害賠償請求)
原告 島野製作所
被告 アップルインコーポレイテッド(アップル米国法人)とAppleJapan合同会社(アップル日本法人)の2社
→今回島野が第一審で敗訴(東京地裁H28.3.17判決)

(2)独占禁止法違反を理由とする訴訟(約100億円の損害賠償請求)
原告 島野製作所
被告 アップルインコーポレイテッド(アップル米国法人)のみ
→島野が中間判決で勝訴(東京地裁H28.2.15中間判決)現在も訴訟係属中

今回島野が敗訴したのは(1)特許権侵害訴訟の方で、部品の値下げとリベートを強いられたとして約100億円の損害賠償を求めている(2)独禁法違反訴訟とは別の裁判です。

■今回敗訴した特許訴訟で管轄が問題にならなかった理由

(1)特許権侵害訴訟で、島野はアップル米国法人と日本法人の両社を被告としています。被告に日本法人を含めたことで日本の裁判所にも管轄が認められたため(民事訴訟法第3条の6)、アップル側も「米国の裁判所で審理すべき」という主張をせず、東京地裁で裁判すること自体は問題にならなかったものと考えられます。

これに対し(2)独禁法違反の訴訟で、被告はアップル米国法人のみだったため、アップル側は「米国の裁判所で審理すべきだ」と主張。この主張が裁判所に認められず、たとえ米国法人のみが被告であっても本件では日本の裁判所で審理すべき、と判断されたのが先日島野が勝訴した中間判決だったわけですね。

このようにどの裁判所(どの国の裁判所)で審理してもらうかという裁判管轄は極めて重要です。できるだけ自社(または依頼した弁護士の事務所)に近い裁判所で審理してもらうよう、地理的により近い被告を含めて訴えることは、弁護士であれば事前に周到に考えるポイントだったりします。

■中間判決で島野が勝訴した独禁法違反の裁判は、まだこれからである

今回島野が敗訴に終わった(1)特許権侵害訴訟も、2週間以内に島野が東京高裁に控訴すれば、裁判は控訴審で続くこととなります。
またこの訴訟とは別に、部品の値下げとリベートを強いられたとして約100億円の損害賠償を請求している(2)独禁法違反訴訟の方は、まだまだこれからが本格的な審理となる見込みです。(弁護士杉浦健二

(H28.4.1追記)判決文が裁判所ウェブサイトにアップされました。
平成26年(ワ)第20422号 特許権侵害差止等請求事件
原告株式会社島野製作所 被告アップルインコーポレイテッド,Apple Japan合同会社 東京地裁平成28年3月17日判決

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